魔法科高校の劣等生と幻術士   作:孤藤海

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スティープルチェース編 将輝の戦い

八月十五日、九校戦十一日目。一条将輝はスティープルチェース・クロスカントリーの準備運動を入念に行っていた。

 

午前九時半から行われた女子のレースでは障碍物は一般的なものの範囲に留まっており、懸念された事故もおきなかった。ただし、レース結果においては第一高校の司波深雪に一位、千代田花音に二位を奪われたのみならず、五位と六位まで許してしまった。第三高校は三位を確保できたものの、スティープルチェースだけで七十点差をつけられるという大惨敗を喫した。

 

もはや第三高校の優勝は不可能。けれど、このままやられっぱなしというのは、我慢がならない。せめて一矢報いてみせる。

 

『男子スティープルチェース出場選手はスタート位置に集合してください』

 

アナウンスが流れ、将輝はスタート位置に向かった。そこには、すでに吉祥寺真紅郎を始めとした第三高校の生徒が集まっていた。

 

「ジョージ、このまま終わると思うか?」

 

「女子のレースが終わった後、何やら運営委員が動いていた気がする。男子のレースは女子のものより苛酷になるのかもしれないね」

 

「ありえそうだな」

 

ここは悲観的に、男子は女子よりも過酷になると考えた方がよさそうだ。話しているうちに他の八校の選手も集まってくる。九校各十二名、計百八名の選手がスタートラインに勢揃いする。そして、その後方には各校二名の水色の服を着た魔法師たちがいる。

 

『皆さんと並走する魔法師は大会運営委員が委託した、皆さんの安全を守るための魔法師です。攻撃は学校ごと失格となるのでご注意ください』

 

「なるほど、一応は選手の安全に配慮しているということか」

 

「そう単純なものではないかもしれないけどね」

 

将輝の感想に、吉祥寺から返ってきたのは否定的な言葉だった。

 

「どういうことだ?」

 

「近くで指示を出せば、より的確な妨害が可能になるだろう?」

 

「そういうことか」

 

「とはいえ、将輝が言うように選手の保護も兼ねているはずだから、悪いことばかりではないけどね」

 

どちらにせよ、妨害を排除しながら前に進むしかないということだ。だったら、完走できなそうな状態になった同級生たちを気にせず進めるようになったと考えよう。

 

午後二時、スタートライン上、百メートルごとに設けられた高さ二メートルの足場の上で、四十一のピストルがスティープルチェース・クロスカントリーの開始を告げた。

 

スティープルチェース・クロスカントリーのルールは大まかに言って三つある。一つは他の選手を妨害しないこと。故意の妨害は失格となる。視界は悪いが、運営委員から委託されたのは森林戦に長けた魔法師たちだろう。発覚の可能性は高い。

 

逆に言うと、他校からの妨害もあまり考えなくていいということだ。他校と泥沼の戦いに突入して、その間に漁夫の利を攫われるのは避けたいので、これは正直、ありがたい。

 

ルールの二つ目は四キロメートル四方のコースから逸脱しないこと。各選手は富士演習場独自の測位システムに連動した発信機を持たされており、誰が何処を走っているか、一人一人を大会本部で確認できる。

 

そして三つ目は木の高さより上に飛び上がらないこと。そもそも樹上を飛んでは障碍物競走にならない。

 

そのため将輝を先頭にした第三高校の生徒は一丸となって木々の間を駆け抜けていた。小刻みに跳躍の魔法を使って木の根を飛び越え、落とし穴を避け、泥沼の上を飛び越えて、更にそれを見越して空中に張られていた網を切り裂いた。

 

そうして前に進む一団の前に一体の機械兵が姿を現した。その身体は森林迷彩の野戦服に包まれており、その姿を隠すように大型の盾を持っている。

 

「これは……女性型機械兵の改良型か?」

 

「ジョージ、それは何だ?」

 

「歩兵を代替する戦闘機械として設計されたヒューマノイド型ロボットだよ。装備を歩兵と共用できるという触れ込みで、危険度の高い地域における警戒任務などの目的で研究が進められていたけど、わざわざ人型にするより素直に非ヒューマノイド型の自立走行自動銃座を配備した方が費用対効果が高いという結論になり開発がストップしたと聞いている。これは、それを男性型として改良したモデルみたいだね」

 

機械兵が攻撃態勢に入る。相手が機械兵なら、手加減する必要はない。

 

将輝の操る一条の秘術「爆裂」は対象物の内部の液体を瞬時に気化させる魔法だ。人体に行使した場合、血漿が気化し、その圧力で筋肉と皮膚が弾け飛び、血液内の固形成分である赤血球が真紅と深紅の花を咲かせることになる。将輝の異名である「クリムゾン」はそのときの光景に由来するものだ。

 

爆裂は対象が機械であろうと、その効力は衰えない。内部に液体が存在する限り、爆裂から逃れることはできない。

 

けれど、その機械兵には爆裂を発動させられなかった。機械兵の内部には燃料や潤滑油を含めて一切の液体が存在しなかったのだ。それにも関わらず、機械兵は高速で将輝へと突進をしてくる。

 

「将輝!」

 

爆裂が発動できないという予想外の事態に、将輝の対応は僅かに遅れた。相手は突進力に任せたシールドバッシュを狙っているようだ。それを見た吉祥寺が自身の開発した魔法であるインビジブル・ブリットで援護しようとしていた。

 

しかし、インビジブル・ブリットには対象を視認しなければならないという弱点がある。この機械兵は大盾に身体を隠している。インビジブル・ブリットには厚めの盾を貫通させるほどの威力はない。

 

「一条!」

 

金属の塊の衝突を覚悟した将輝だったが、次の瞬間、その身体は横に転がっていた。後ろにいた三年生が魔法で将輝を突き飛ばしたらしい。

 

「悪い、手荒になった」

 

「いえ、あの敵を魔法で止められたか分かりません。正しい判断だったと思います」

 

しかし、何の動力も搭載せずに、あの機械兵はどうやってあれだけの高機動性を獲得しているというのだろうか。それに、まるで吉祥寺の魔法を封じるかのような大盾。

 

「どうやら、僕たち対三高仕様のカスタム機のようだね」

 

「厄介なことを……」

 

呟いた将輝たちが見つめる先で、機械兵は八本の短刀を空中に投じていた。八本の短刀は空中で一瞬だけ停止した後、将輝たちに向けて飛来してきた。

 

「全員、俺の後ろへ入れ!」

 

将輝は対物障壁を展開して短刀を受け止めた。爆裂を封じられたとはいえ、将輝は十師族。通常魔法でも他を抜きん出ている。

 

「これは、念動力か?」

 

そのとき、しばし戦況を見ていた吉祥寺が呟いた。

 

「機械が超能力を使っているっていうのか?」

 

「そうとしか考えられない」

 

「……分かった、そういうものとして考えよう」

 

機械が超能力を使っている原理は分からない。けれど、使えると仮定すれば、何の燃料も用いずに高機動性を実現できた理由も分かる。自らに超能力を用いればいいのだ。そして、機械でなく超能力を使えて爆裂が通用しない人間だと考えれば、少し厳しくとも対処法はある。何せ、こちらは十二人もいるのだ。撃ち合いになれば負けない。

 

「高崎さん、砂永さん、牽制攻撃をお願いします」

 

「分かった」

 

二人が威力は低いが手数の多い魔法で、機械兵の行動を縛る。

 

「ジョージ、右から敵を狙ってくれ!」

 

起動式の構築を急ぎながら、将輝は吉祥寺に言いつつ敵の左に向かって走る。超能力による攻撃は発動が分かりづらい。だから、いざとなれば防御魔法を発動できるように攻撃は発動時間が短いものがよいだろう。

 

いつでも対物障壁を展開できるように注意しながら、圧縮空気弾による牽制を行う。相手は知性も高いようで、将輝の動きに合わせて後退をし、盾以外の場所を露出しない。これを仕留めるのは時間を食われそうだ。

 

「ここは俺とジョージが受け持つ! 他の皆は先に進んでくれ!」

 

敵は明らかに遅滞戦闘を心掛けている。必要以上に人数がいても、連携攻撃の訓練を積んでいない将輝たちでは有効な攻撃はできない。

 

「分かった、頼む」

 

戦闘中の将輝と吉祥寺を迂回して他の十人の選手たちが奥へと駆け抜けていく。敵の機械兵がその背に向けて、またしても短刀を投擲してきたが、それは吉祥寺と二人がかりで叩き落した。

 

「さて、どうする、ジョージ」

 

「超能力で動いている機械となれば、動力部の破壊でも止まらないだろうね」

 

「となると、なんとか撒くしかないか」

 

先程から、何発か攻撃は命中している。しかし、魔法の効きが妙に悪いのだ。

 

なまじ使い勝手がよいこともあり、爆裂とそれ以外の魔法では、将輝の技能は歴然とした差がある。他の魔法では、この敵を完全に破壊するのは難しい。そもそも頭部を破壊しても、胴体を破壊しても止まるとは限らないのだ。

 

とはいえ、完全に破壊する必要はない。この機械兵が追ってくることができなくなれば、それでよいのだ。

 

ひとまず敵の攻撃は、突進にさえ気を付ければ対物障壁で防げる。将輝は相手のバランスを崩すために破城槌の魔法をぶつける。さすがに衝撃が大きかったか、盾で受けた機械兵がたたらを踏んだ。

 

すかさず跳躍で飛び上がった将輝は、今度は上から破城槌を叩きつけた。受けるために敵機械兵が盾を頭上にかざす。

 

「今だ、ジョージ!」

 

その隙を逃さず、空いた胴体に吉祥寺がインビジブル・ブリットを放つ。さすがに無傷ではいられなかったようで、機械兵が身体を折り曲げるようにして吹き飛んだ。

 

「おまけだ!」

 

そこに更に一発、破城槌を叩きこんでおく。今度の一撃は綺麗に決まり、敵は木々の奥へと消えていった。

 

「今のうちに進むぞ!」

 

敵機械兵は、まだ戦闘能力を喪失していない様子だった。だが、これ以上、あんなものに時間を取られるわけにはいかない。

 

そこからは全力で先に進んだ将輝だったが、時間のロスは思った以上に大きく、将輝の成績は三位という振るわないものになってしまった。




本作、どうにも将輝が活躍してくれません。
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