魔法科高校の劣等生と幻術士   作:孤藤海

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古都内乱編 京都観光(後)

午後三時、宮芝和泉守治夏は十文字克人と密かに随行する十三名の護衛とともに嵐山公園亀山地区、小倉山南東部丘陵地を登っていた。公園の坂を登り切り「竹林の道」という案内板が指し示す方角へと向かう。

 

「当てはあるようだな」

 

「当然でしょ。私が克人との貴重な時間を割くんだよ」

 

進み始めて少し、治夏たちに向けて鬼火が降り注いできた。

 

「克人!」

 

「見えている!」

 

克人が即座に発動させた防壁魔法が鬼火を完全に消し去る。

 

「右京、図書、掃部、敵を捕らえよ!」

 

「承知いたしました。十文字殿は和泉守様の守りをお願いいたします」

 

代表して右京が答え、鬼火が飛んできた方向へと向かっていく。その姿を見送りながら、治夏は克人が守りやすいように、そっと身を寄せる。ちなみに、これはあくまで守りやすいようにしただけで、けして他意はない。

 

次に襲い掛かってきたのは風の刃だった。しかし、三流の術者に克人の守りが破れるはずがない。綺麗に霧散し、治夏にはそよ風も届かない。

 

続いて左右の竹林から細い紐が伸びてきた。青、赤、白、黒、黄の五色で編まれた組紐からはキャスト・ジャミングに似たノイズが感じられる。この紐の正体は、密教系の古式魔法師が使う羂索であろう。

 

克人のファランクスは多重防御魔法。この程度では破れない。壁を一枚破ったところで何の意味もない。しかし、このままでは治夏は本当に何もしないままとなってしまう。宮芝の当主としては、守られてばかりというのも気分が悪い。

 

「身代われ!」

 

命じながら、治夏は懐から人型の呪符を取り出して投げつけた。組紐は身替わりの呪符に絡みついてただの紙に変える。しかし、代償として自らも魔法力を失い、ただの紐となって地面に落ちた。

 

それにしても、予想以上に敵の数が多いように感じる。敵戦力を探るべく結界破壊の術を乗せて、探査の術式を放った。返ってきた反応は十三。対する治夏の側近が三人と通常の護衛が十人。治夏と克人を入れて一応の数的優位は保てているが、宮芝が理想とする一人当たりに二人には遠い。

 

ここは一度、後退をして四十人程度を率いて出直すか。考えているうちに治夏の前に六人の密教系の古式魔法師が姿を現した。それを見て治夏のみならず十文字も怪訝な顔つきとなったのが見えた。

 

古式魔法は現代魔法にスピードで劣る。これは治夏であっても覆せない古式と現代魔法の歴然とした差だ。古式魔法全体を傍系に落としてしまったその差について、古式魔法師が知らないはずがない。

 

同じ古式系の宮芝家の術士たちだけならば密教系魔法に存在する高速化技術を頼みに、直接の対峙に臨むという考えもありえないわけではない。しかし、ここには明らかに現代魔法を使っていた克人もいるのだ。正面に姿を晒すのは愚策というよりない。

 

「カン!」

 

警戒する治夏たちを嘲笑うように古式魔法師が一言だけ叫んだ。その直後、術者の右手が一斉に燃え上がった。

 

「俱利伽羅剣か」

 

この術は敵にとっては切り札だったのだろう。しかし、治夏にとっては、酷く詰まらない魔法でしかない。だが、この敵失、逃す手はない。

 

敵の術士の燃え続ける右手からは、渦巻く炎が竜のように纏わり付く両刃の直剣の形を模した炎が作られている。右手の肘から先は早くも黒く炭化し、タンパクの焼ける嫌な臭いが漂いだしている。

 

「封呪」

 

治夏が術式を放った瞬間、男たちの右手にあった俱利伽羅剣が消え失せた。後に残ったのは右手を失った古式魔法師たちだけ。古式魔法師たちの俱利伽羅剣は単に自らの戦闘能力を大幅に低下させただけに終わる。

 

「これならば我らの勝利は固かろう。皆、落ち着いて片付けよ」

 

相手は右腕を焼かれた状態なのだ。焦って攻めずとも、じっくりと時間をかければ自然と天秤はこちらへと傾く。

 

「返呪」

 

そうして敵が半数ほど倒された段階で、古式魔法師の死体に手を触れ、治夏は呟く。次の瞬間、竹林の中から絶叫が上がった。全身を炎に包まれた高齢の方術士が、茂みの中から転がり出てくる。

 

治夏の魔法は単に呪術による炎を消しただけではない。一度、封じた上で増幅して術者に返すための布石だった。

 

その結果が、炎に全身を焼かれている現在の方術士だ。もはや逃れる術はない。

 

もがくように動かされていた腕が大地に伏せる。なおも炎は勢いを緩めず、その身体を完全に焼き尽くし、灰へと変えて空に消えるまで火が消えることはなかった。

 

「この魔法は何だ?」

 

「元は不動明王の持っている降魔の力を借りる俱利伽羅剣という正当な魔法だよ。けれど、今回の魔法は他人の腕を、剣を構成する材料にしてしまうという呪術でしかない」

 

吐き捨てるように言った治夏の口調で不快に思っているのは伝わったのか、克人はそれ以上の質問をしてこなかった。

 

「さて、克人。このまま敵の本拠に乗り込むというのでいい?」

 

「これだけの騒ぎを起こしたのだ。急がなければ逃げられてしまうのだろう?」

 

「うん。じゃあ、お言葉に甘えて」

 

今は時間が惜しいので捕らえた敵集団は殺して竹林の中に埋め、治夏たちは道から外れて竹林の中を進んでいく。なお、術者たちは殺害したことを克人に気づかれないように一旦は縛り上げた後に、離れた場所で始末させた。

 

後始末のために護衛二人を欠いた状態で治夏たちは進む。敵はどうやら自分たちの痕跡を辿られると思っていなかったらしく、敵の本拠は比較的容易に見つけられた。

 

そこにあったのは一見すると、地方によってはまだ残っている、町村の集会所のような建物だった。中では敵が待ち伏せをしているかもしれない。

 

手早く合図を送ると同行している十一名が建物を中心に円を作るように立つ。部下たちが配置についたところで治夏は探査術式を放った。精霊を使ったものなので古式魔法師であれば何らかの反応があるはず。

 

治夏の予想通り、探査を行っていた精霊の一体が消される気配がした。これで確定。相手は古式魔法師だ。

 

「仕掛けよ!」

 

治夏の声を合図に十一名の術士たちが一斉に魔法を発動させ始める。十一人がかりで生成しているのは可燃性のガスだ。それを中にいる古式魔法師たちに気づかれないように建物の屋根付近に充満させていく。

 

「全員、伏せよ!」

 

命じながら治夏は建物の真上に充満しているガスに向けて種火の魔法を放つ。宮芝の術士たちの魔法を見て何をしようとしているか察していた克人はすぐに治夏の前に障壁を展開してくれた。

 

種火がガスに到達した。次の瞬間、轟音とともに建物の屋根が崩落する。

 

「斉射!」

 

無論、これで終わりではない。古式魔法師でも防御魔法を使えば、あれくらいの爆発なら乗り切れるはずだからだ。

 

魔法同士が干渉しあうことを防ぐため、可燃物を作っては中に放り込むという方法で対象への直接攻撃を避ける。そうして護衛たちが牽制攻撃を行う中、右京、図書、掃部の三人は強力な魔法の準備を続けていた。

 

「豪炎雷火」

 

右京が種火を作り、図書が育てて大きくし、掃部が標的の座標を指定して落とす。工程の分担により必要魔法力を低下させたことで実現可能となった炎の雷が燃え上がる建物へと降り注いだ。さすがにこれには耐えることができなかったのか、建物の中から火に包まれた人影が続けざまに三人、転がり出てくる。

 

けれど、それは飛んで火にいる夏の虫というやつだ。包囲していた宮芝の術士たち雷撃の魔法が古式魔法師を撃ち抜いていく。

 

火勢がいくらか収まったところで探査を飛ばしてみる。もはや中に生存者はいない。

 

「掃部、中の調査を頼む」

 

命じられた掃部が護衛役三人を引き連れて中の調査に入っていく。

 

「深夏、少しやりすぎではないか?」

 

それを見送っていると、克人から小声で窘められた。

 

「そうは言っても、私たちは十文字のような強者ではないので。待ち伏せされた屋内に突入なんて危険な手は取れないよ」

 

「それはそうかもしれないが……」

 

克人の歯切れが悪いのは、今回の戦いの内容が調査ではなく殲滅だったこともあるのだろう。この部分ばかりは根は民間人の克人と汚れ仕事をこなす宮芝とでは、なかなか考え方を合わせるのは難しい。

 

考えているうちに掃部が建物の焼け跡から出てきた。その手には密教系の古式魔法師が使う法輪や独鈷杵などの法具がある。

 

「確かにこの地は密教系の古式魔法師の拠点であったようです」

 

「分かった。敵の殲滅は完了した。皆、帰投するぞ」

 

掃部の報告を聞いた治夏は部下に向けて命じる。こうして後半部は戦闘面が強くなった、治夏の克人との京都旅行は終わりを迎えた。




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