魔法科高校の劣等生と幻術士   作:孤藤海

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古都内乱編 宇治の撫で斬り

十月二十七日、土曜日。論文コンペを翌日に控えたこの日、宮芝和泉守治夏は四台の大型トラックを引き連れて国防陸軍宇治第二補給基地の付近にいた。

 

この基地の指揮官の一人である波多江大尉は対大亜連合宥和論者であると同時に、大陸の古式魔法に傾倒し現代魔法師を「百年足らずの歴史しか持たない成り上がり」と考えている墨守傾向がある軍人だと聞いている。

 

この傾向は大なり小なり京都の人間にあるように見える。もっと言うなら、そもそも京都は魔法師嫌いが多いのだ。

 

そのような地ゆえ、すでに周公瑾が接触を果たしている以上、精神汚染がされている可能性が極めて高い。ゆえに未だ大亜連合との戦火の消えきっていない現状では極めて危険な対象として殲滅が完了した伝統派に続く標的としたのである。

 

宮芝が重装甲の敵と相性が悪いことは横浜で十分に学習した。そして、この基地内には相性最悪の戦車が配備されている。ゆえに本作戦は万全の体制を整えている。

 

まず参加人員から治夏自身に村山右京、山中図書、皆川掃部といった側近に呂剛虎、森崎、小早川といった新参の現代魔法師、郷田飛騨守、一柳兵庫、松下隠岐守といった宮芝の有力者までが揃い踏みである。これに後方支援に加わる人員を含めて、総勢は八十名。

 

加えて、関本勲に六体のパラサイト関本、四十八機の量産型関本もいる。オリジナルの関本は本陣に残し、六体のパラサイト関本にそれぞれ八機の量産型関本を付けて苦手な敵を任せてしまおうというわけである。なお、そのために各パラサイト関本には二体の予備機も用意されており、バックアップ要因として平河姉妹も待機している。

 

「総員、配置に付いたようだな。隠岐守!」

 

治夏が命じると高位の結界術士である松下隠岐守が封鎖結界を展開する。これで結界内から外には出られなくなる。続けて隠岐守配下の術者が幻影結界、遮音結界と展開していく。これらは中が平穏ないつもの基地であるように見せるためのものだ。

 

「関本全機、攻撃開始!」

 

オリジナル関本からパラサイト関本へ、パラサイト関本から量産型関本へと命令が伝えられる。この連絡はパラサイト同士の特殊な念話で実行される。一部の古式魔法師には傍受されうることは課題だが、今回は傍受されたところで問題ない。トラックから飛び出した量産型関本たちは、すでにミサイルランチャーを発射している。

 

四十八機の関本たちが肩上の装弾数四発のミサイルを一斉発射する。さすがに古式魔法師である宮芝の改修品というべきか、数機の関本で不発があり、二機の関本が爆発事故で戦闘前から戦線離脱することになっている。

 

「これは、とても人には持たせられぬな」

 

「和泉守様、普通、人がミサイルランチャーを肩に担いで発射することはございません」

 

「……それもそうだな」

 

ともかく、基地内には百八十発ものミサイルが降り注いだ。緊急警報が鳴り響くが、もはや着弾まで幾秒もない。なにもできることはないはずだ。

 

関本たちはすでに跳躍の魔法を用いて基地内に踊り入っている。慌てて出てきた敵兵は上空から侵入していた小早川の機関砲を受けて吹き飛ばされた。

 

こちらが最初から全力攻撃を行っているのだ。当然ながら敵も遠慮はしてくれない。

 

対魔法師用に威力を高めた銃器が使われ、量産型の関本に損傷を与えている。量産型関本は全機、培養されたものとはいえパラサイトを定着させている。念動力を用いて被害を最小に収めつつ前へと進み続ける。

 

同時に敵が量産型関本に目を奪われているうちに幻影魔法で身を隠した宮芝の術士たちの狙撃が敵兵を削っていく。横浜では頼りになる前衛がいなかったため苦戦したようだが、本戦では敵の目がどうしても迫りくる量産機に向かうため、存分に威力を発揮した。

 

「和泉守様、戦車です」

 

治夏が目を向けると、建物の陰から轟音と共に戦車が現れるところだった。戦車は四両で、戦列を組んでいる。

 

「関本たちを退かせろ」

 

市街戦用に分類される小型の車種だが、それでも戦車に正面から挑むというのは馬鹿のやることだ。宮芝が現代魔法師として優秀ならば四人くらいでも対処できるのかもしれないが、残念ながらパラサイト関本も高火力というわけではないのだ。

 

量産型関本の攻撃で戦車の装甲を抜けるのは、至近距離からの高周波ブレードのみ。一方で戦車砲を受けられるような防御魔法を持っていない。それゆえに幻影魔法で関本たちの姿を消し、じっと懐に入るのを待つ。

 

戦車には魔法師は乗り込んでいないようで、搭乗員は関本たちの姿を見失っている。やむなく未だ戦闘音の続いている方向へと車両を向けた。姿を消している量産型関本たちに気づくことなく、戦車が通過しようとする。

 

その瞬間、幻影魔法を解除して量産型関本たちが襲い掛かった。比較的装甲の薄い側面を狙って高周波ブレードを差し込み、空いた穴の中に手榴弾を放り込む。爆発音が響き、戦車が次々と沈黙していく。それを遠目に見ながら治夏は右京に尋ねる。

 

「戦車はこれで全部か?」

 

「そのようにございます」

 

「歩兵の掃討は?」

 

「屋外は完了。これより建物内の掃討に移ります」

 

「分かった。量産型関本を先頭に突入せよ」

 

右京からオリジナル関本へ、オリジナルからパラサイト関本へと命令が伝達されていく。事前情報通り、どうやら魔法師の配備はないようだ。或いは伝統派の一部が合流している可能性を懸念していたのだが、さすがにそこまで腐敗してはいなかったらしい。

 

「第一区画、制圧完了。第二区画も八割がた掃討完了」

 

順調な報告を聞きながら、少しばかり陰鬱な気持ちとなる。この基地は指令部が危険だが、だからといって末端まで敵性分子というわけではない。

 

しかし、ある日突然、同僚たちが敵に内通の疑いありとして次々と殺されていって、お前は対象外だからこれからも励めと言われたとして、これまで通りの働きを見せてくれるか。間違いなく、答えは否であろう。

 

例えそれまで忠誠心に溢れていた者でも、周囲の者が何人も殺されれば、不信感を募らせることになる。そして、不信感を抱いたまま他所で不満を吐き、いずれは次なる不穏分子になっていく。

 

だから、敵に通じていようといまいと、この基地は一旦、撫で斬りにすると決めている。中には治夏たちと同じく国を守るという思いを持ち続けている者もいよう。けれど、それを確かめることは難しい。

 

結局は宮芝の安全と効率のため、今日、この基地の者たちを私は殺す。

 

思うことがないわけではないが、ここは戦場だ。感傷に浸っていて狙撃でもされては目も当てられない。

 

同じ思いの者を殺すのなら、せめてその思いを継いで必ず国のためとする。勝手と罵られても仕方のない考え方だが、そのくらいしか治夏にできることはないのだ。だから、せめてできることを。

 

さすがに軍事基地であるため、内部の詳細な図面は手に入らなかった。波多江を捕らえるには今少し時間がかかるだろう。

 

断続的に聞こえてくる発砲音、傷ついた兵たちの呻き声、漂ってくる血の匂い。若い女性兵士の亡骸の懐から見えた幼い子供の写真。これが侵略者であれば、殺された味方のことを考えて非情になることは難しくない。

 

けれども、この場所は……。

 

今日のことは克人にも言えない。これは胸に秘めておかなくてはいけないことだ。私の保身のために。

 

……ああ、本当に嫌だ。

 

「司令部を発見、波多江大尉の殺害を確認いたしました」

 

「分かった。このまま掃討を続け、撤収するぞ」

 

苦い思いを呑み込んで、治夏は報告をしてきた右京にそう命じた。




古都内乱編終了。
後の方は単なる粛清の嵐。
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