魔法科高校の劣等生と幻術士   作:孤藤海

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継承編 治夏と克人の未来

正月の喧騒が少し遠くなり始めた一月五日、宮芝和泉守治夏は十文字克人とともに昭和記念公園を訪れていた。前世紀から変わらず広大な敷地を誇り、数々の植物が植えられた庭園を持つ公園は、冬の時期であっても十分に見ごたえのある風景を作り出していた。

 

今日の治夏は、真冬らしい少し厚手のハーフコートに膝丈のスカートという服装だ。きちんと厚手のストッキングは履いているが、それでも少しでも女の子らしい可愛い仕上がりにと選んだものだ。

 

というのに、今日の克人は治夏の服装に何の感想も言ってくれなかった。饒舌に容姿や衣服を褒め称える克人というのも想像はできないものの、軽く一言くらいはあってもいいのではないか。

 

そんな小さな不満を抱えながらも園内を巡り、人の少ない園内の端の方へと進む。今日の治夏の目的は、克人との婚約の打診だ。自然と緊張感は高まってしまい、いつもに比べて会話もぎこちなくなってしまう。

 

治夏の様子が普段とは異なることには克人も気づいたようで、どことなく緊張した面持ちをしている。ちょうど無人の小さな休憩所を見つけ、治夏は中に克人を誘った。

 

できれば、婚約を望む言葉は克人の方から言ってほしい。けれど、克人もそこまで治夏の心の中を読めるわけではないだろう。腰を落ち着けても未練がましく、しばらく治夏は何も言わずに克人のことを見つめる。正解が分からなかったのか、克人はひとまず治夏を急かすことなく、じっと待っている。

 

「ねえ、克人って十師族じゃない? やっぱり、結婚とかって考えてたり、周囲から急かされたりしているの?」

 

我ながら、あまりにも下手な切り出し方だった。何かの話題から派生するならともかく、いきなり聞くような内容ではない。

 

「そうだな、多少は相手を勧められたりとかなら、ないこともない」

 

「……まさか、受けてたりとかはしてないよね」

 

「そんな不義理はしない」

 

他の女性との婚姻の話題を受けることを不義理と表現するということは、少しは期待をしてもよいのだろうか。

 

「まさか、深夏にもそういう話が出ているのか?」

 

治夏の唐突な話題を、克人は周囲に婚姻を勧めてくる者がいるからと解釈したらしい。

 

「ううん、私は逆。誰からも婚姻することは望まれていない」

 

「どういうことだ?」

 

誰からも婚姻を望まれていない、という表現に不穏なものを感じたのか克人の目が真剣さを増した。

 

「私が宮芝家の出身じゃないってことは克人にも話した通りだよ。だから、私の次の宮芝の当主には宮芝家の出身者が選ばれることが望まれている。そういう事情だから、私には実子がいない方が、面倒が少ないと思われているんだよ」

 

婚姻も出産も好ましく思われない。それが克人には、どの程度の重さで認識されているのかは分からない。けれど、治夏にとっては間違いなく重大なことだ。今すぐと言われると少し困ってしまうが、将来的には治夏は結婚も出産もしたいと思っている。

 

「前提としてそんな状態なのに、私は関本の量産化という、自前の戦力を持つようなことをしてしまった。加えて、大亜や第一高校の現代魔法師も戦力化している。周りの皆は私にこれ以上、力を持ってほしくないんだよ」

 

治夏が今、宮芝から疎まれようとしている所だということが分かったのだろう。克人の治夏を見る眼が労わるようなものになった。

 

「深夏は、それで大丈夫なのか?」

 

「私は出自のせいで、一部の人からはずっと良くは思われてなかったから、多少、疎まれるくらいは平気。けれど、今後は色々と作戦を練って慎重に動く必要があると思う」

 

どうしようもなく悪化していることはないが、難しい状況にはある。そう匂わせたことで克人の眉間に皺が寄った。

 

「それでは、今日、深夏が話したかったことは何だ?」

 

「あのね……十文字家は克人が婚約することを認めてくれそう?」

 

聞くと、克人は目を見張った。

 

「認めさせることはできると思うが……先程、深夏自身が慎重に動く必要があると言わなかったか?」

 

「うん、慎重に動かなければならないのは間違いない。けれど、打開するためには動かなければいけない。そのときに打てる手を事前に検討するためにも、十文字家がどの私ならば婚約してもいいと思ってくれるのか確認しときたいの」

 

仮に婚約が許されるとして、相手は宮芝家の当主でなければならないのか、それとも宮芝家と繋がりが持てる程度に有力であればよいのか、それとも一介の術士でも資質さえあればよいのか、それすら不要で克人が望めば許されるのか。どこまでの範囲なら許容されるのかにより、治夏の方針も変わってくる。

 

「さすがに非魔法師であれば強硬に反対されるだろうが、高い魔法力さえあれば、それほど強い反対はないと思う」

 

「その基準だと私は合格?」

 

問うと、克人は黙り込んだ。けれど、これは想像の範囲内だ。治夏の魔法力は現代魔法師としては二科生でも下位の方。それは、変えられない現実だ。

 

克人は治夏との交際自体に反対はされていなかったと思う。それは治夏が宮芝家の当主だったということもあるだろう。それでも、婚姻となると十文字家としては歓迎できないらしい。

 

「じゃあ、克人は私とのことは諦めるの?」

 

「いや、多少の反対で諦めるくらいなら、始めから深夏の告白に頷いたりしない」

 

その言葉は嬉しくもあり、同時に少し複雑な心境にもさせられた。

 

「どうした?」

 

「改めて言われてみると、告白も婚約の申し込みも私からなんだなって。私も女の子だから、できれば男の人の方から情熱的に愛を告白されてみたいなって」

 

「……それは俺がするのか?」

 

「分かってる。克人がそういうタイプじゃないってことは」

 

けれど、少しくらいは夢を見たっていいと思う。

 

「それで、克人の思いは?」

 

「深夏がそこまで本気で俺たちの関係を先に進めようとするなら、俺もできる限りのことはするつもりだ」

 

「ありがとう、その気持ちは嬉しい。けれど、対象が多ければ多いほど、どれだけ努力をしたとしても伝わらないものだから、だから私は十文字家が許容してくれるのがどこまでなのかが知りたいの」

 

基本的には高い魔法力が第一条件。それは分かった。けれど、望みはしないが断れない、ということなら宮芝の当主は対象に入るか否か。それが大事だ。

 

「宮芝の力は十文字でも認識されている。そういう意味では、宮芝家から申し込まれた婚姻であれば、十文字に拒むのは難しいと思う」

 

逆に言うと、治夏が個人の深夏に戻ってしまえば、十文字家にとっては何の魅力もない婚姻ということになってしまう。それでも、克人は精一杯のことはしてくれると思う。しかし、十師族の後継者となれば婚姻ですら個人の自由とはいかないものだ。

 

まず大問題として、克人の次の十文字家の当主はどうするのかということになる。後継者がいなければ、十文字家が抱えている魔法師たち、そして十文字家が担ってきた役割を継ぐ者がいなくなってしまう。

 

治夏にしても克人にしても、それさえも捨て去って個人で勝手なことをする、ということはできない。仮に治夏個人としてはどんなに望ましいことでも、それが国にとって重大な不利益になるとすれば、まずもって治夏がその結果を許容できない。

 

例え役目を離れようと、宮芝家はおろか魔法師ですらなくなるときが来たとしても、治夏が宮芝和泉守として担った役割も、行ったこともなくならない。それは、どのようなことがあっても治夏が背負っていかなければならないことだ。捨てるつもりはない。

 

克人もきっと同じであろう。だから、例えどんなに治夏と克人が望んだことでも、宮芝と十文字にとって不利益となると確定した瞬間から、治夏も克人も進んでその道を閉ざす。

 

「ありがと、克人。心が決まったよ」

 

克人への婚約申し込みが宮芝家として行わなければならない。それがはっきりしたこともあり、治夏はすっきりとした気持ちで克人に笑いかけた。

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