魔法科高校の劣等生と幻術士   作:孤藤海

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継承編 克人からの連絡

宮芝和泉守治夏の元に十文字克人からの電話があったのは、事件のあった二月五日の午後九時になろうかという頃だった。

 

「遅いよ、克人」

 

「すまん、色々とあったんだ」

 

「分かってる。連絡ありがとう」

 

十師族の当主たちが揃って警察の事情聴取を受けていたことも、その後に対策会議を開いていたことも密偵の情報によって得ている。

 

「それで、決まったことを教えてくれる?」

 

移動の様子までは捉えていても、その後に話した内容までは分からない。

 

「まず今回のテロの首謀者の名は顧傑。英語名はシード・ヘイグ。公的な身分はかつて大亜連合と争っていた大漢出身の無国籍難民だ。大漢で魔法研究を行っていた崑崙方院出身の魔法師のようだ」

 

「まあ、やっぱりというところだね」

 

「まさか、すでに情報を掴んでいたのか?」

 

「崑崙方院出身で、現在は大亜連合に属していないというのは魔法の残滓からこちらでも掴んでいたからね。名前までは分からなかったが、まあ、それは大した問題じゃない」

 

今回の魔法は、随分と古臭い大漢の術式を元にしていた。そこから考えて、かつて崑崙方院で研究をし、その後は最新研究の成果を吸収することができなかった立場の者、もしくは昔の術に固執している者ということは予想ができた。

 

そこまで特定ができれば、個人の特定ができなくても問題ない。その時点でも対象は少数だし、日本で魔法師として働いていない大漢の古式術士という時点で不穏分子なのだ。人違いであろうとなんだろうと、条件に当てはまる者なのであれば、禍根を断つためにも、この機に殺してしまえばいい。

 

「それで、その顧傑の捜索についてだが、俺が責任者になった」

 

「えっ、本当に? すごいじゃない、克人」

 

「だが、主力となる実働部隊は七草家が出すことになっている」

 

「それでも、すごいよ」

 

更に言うが、克人はどうにも困惑しているように思える。そういえば、当主モードがどこかに行ってしまっている。

 

「えーと、こほん。それで?」

 

「それで俺の下に司波達也と一条将輝が入ることになった」

 

「一条? 何で一条が?」

 

「一条殿からの申し出だ」

 

そういえば、一条は深雪に対して婚姻の申し入れをしていたな。この機に少しでも近づきたいということだろうか。

 

「一条家の跡取りは高校生だけど、授業はどうするつもりなのかな?」

 

「それは我々が考えることではないのではないか?」

 

「私が言っているのは、捜索にかこつけて深雪の傍に行きたいだけではないのか、ということなんだけど?」

 

「それは……さすがにそんなことはないと思うぞ」

 

治夏こそ今が大変な時期なのだ。この忙しい時に近くで色ボケなんてかまそうものなら、治夏の手で物理的に男でなくしてやろう。

 

「ところで実動部隊は七草が取り仕切るということについてだけど、責任者と実行者が異なることで問題は起きないの?」

 

「それについては俺も少しは懸念したところだが、四葉殿が七草が責任者となるべきでないと主張され、七草殿もそれに反論をしなかったのだ」

 

大陸系の古式魔法師というと、思い出されるのが横浜の周公瑾だ。七草はその周公瑾と通じていた。そのことは九島の開発したパラサイドールに関する実験の情報を流す際に、四葉へと伝えてあった。おそらくテロが起こって移動する途中にでも、今回は七草家は引くようにと四葉から指示がされたのだろう。

 

「その他には?」

 

「魔法協会を通じてテロを非難する声明を出すことになった。それだけで収まるとは思えないが、何もしないよりは良いだろう、とな」

 

「まあ、妥当な線だね」

 

わざわざ魔法師が多く集まる場所で民間人を狙った攻撃を仕掛けたのだ。反魔法師活動こそが本線といえるだろう。

 

「そういえば、深夏に聞いておきたいことがあった」

 

「何だい?」

 

「今回の首謀者は死体を遠隔操作する類の魔法を使ったようだ。我々は使用した人体の数から考えて最大で半径十キロ以内と仮定したが、深夏の見解も聞きたい」

 

「さすがに十師族と言うべきかな。妥当な線だね」

 

治夏と全く同じ結論を現代魔法師たる十師族が出したことを、内心で驚きながら声色は変えない。治夏個人の感情と宮芝として十文字に情報を出さないということは別問題だ。

 

「では、ここらで宮芝からも情報を提供しておくとしようか」

 

「頼む」

 

「まず今回の首謀者だが、大井は超えておらぬゆえ駿河、伊豆、相模、武蔵のいずれかに潜伏していると思われる」

 

現在、宮芝はすでに静岡東部、神奈川、東京まで縛りをかけている。明後日には静岡を調べ終えることができるはずだ。

 

「特定の魔法師が川を渡ったかどうかが分かるのか?」

 

「特定の魔法師となると難しいが、大漢の術士が渡河した者の中にいたか否かは調べることが可能だよ」

 

「分かった。七草殿にも連絡して捜索の効率化を図ろう」

 

そう言った後、克人は少しの時間、口ごもった。

 

「どうしたの?」

 

「今回の件で生まれる魔法師を敵視する風潮は長期的なものになると予想される。残念ながら、十文字家ではそれに対して適切な手を打つことができない。古くから日本の陰にいたという宮芝は何か打てる手を持っているのか?」

 

「反魔法師活動が確認されるようになって以来、宮芝は対処法を考えてきた。今回の件も全くの想定外というわけではないよ。だから、克人は自分の任務に全力を尽くすことだけを考えてくれればいい」

 

確かに、克人が言った通り、一度は反魔法師活動が盛り上がることだろう。ただし、克人がその後に対して悲観的なのに対して、治夏はやや楽観的に考えている。

 

反魔法師活動は、どうしようもない矛盾を抱えている。それは扇動しているのが外国人であること、そして多くの魔法師が関わっていることだ。外国の魔法師が日本の国内で反魔法師を叫んでテロ活動を行う。最初から、反魔法師活動は論理が破綻している。

 

今回の首謀者も元大漢の魔法師だ。それが反魔法師活動を祖国でなく日本で行う時点で活動の正当性は皆無になる。あとは事実を淡々と知らしめてやればよいだけだ。魔法師を敵と考える者がいるから反魔法師活動などというものが起きるのだ。だったら、別の敵を用意すればいい。

 

幸いにして幾度かの諍いの際に大亜連合の術者は複数人を確保してある。その者たちの人形を使って、敵と同じ主張をしながら街中で魔法を乱射させる。自分たちに直接的に危害を加える者と、単なる感情的な不信感を持っているに過ぎない者。どちらと手を組み、どちらと戦うべきなのかは、余程の馬鹿でなければ間違えまい。

 

「克人が指揮する捜索には私もできるだけ参加させてもらうね」

 

頭の中の黒い考えが顔に出ないようにしながら、治夏は克人に笑いかける。

 

「ああ、捜索という面では俺や一条はあまり力になれそうにないから、頼りにしている」

 

「おや、達也は?」

 

「司波は……普通に考えると苦手なはずなのだが、妙に勘が鋭いというか、何か俺たちの知らない手段で情報を得ている節がある」

 

ブランシュ事件のときも、九校戦のときも宮芝の情報網をもってしても掴み切れていない情報を知っていたことがあった。四葉と国防軍の伝手ということで納得ができた案件もあるが、それでも納得ができないほどの案件もある。個人でも何らかの方法で秘匿情報を得ていると考えた方がいい。

 

「頑張ろうね、克人」

 

「ああ」

 

とてもではないが、今の時点では来週の新年会で克人との婚約話を持ち出すかどうかの相談はできそうにない。まずは数日間、様子を見て世論の動向を見極める必要がある。

 

まったく、面倒をかけてくれるものだ。頭の中で文句を並べながら、治夏は克人との通話を終えた。

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