魔法科高校の劣等生と幻術士   作:孤藤海

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継承編 公私混同対策会議

二月八日金曜日、十八時前。宮芝和泉守治夏は克人と共に小さなレストランの中で達也と七草真由美の来訪を待っていた。

 

この場所は魔法大学から歩いて十分強の場所にある、一見ちょっとお洒落なだけの、普通の戸建て住宅。しかし、中に入ると一階はレストランになっている。元より紹介が無いと入れないこの店を、克人はしばらく貸し切りにしている。

 

ちなみに昨日も治夏は克人とこのレストランを訪れている。目的は下見という名目での、単なる克人と二人きりのディナーだ。今日からお邪魔虫二人が加わる前のささやかな楽しみというわけだ。

 

「十文字くん、お待たせ」

 

しばらく克人と雑談をしていると達也を連れた真由美が入ってきた。

 

「いや」

 

三十分前に治夏がこの店に入って同じようなことを言ったときの克人の言葉は、今来たところだ、というものだった。しかし、今は治夏も克人も先に楽しんでいた紅茶のカップが随分と減ってしまっている。この状態で同じことを言うのは、あまりに白々しすぎて、皮肉に聞こえてしまいそうだ。

 

「掛けてくれ」

 

克人の勧めに真由美が若干、嫌そうな表情を見せたのを見て治夏は慌ててテーブルの下で握っていた克人の手を放した。それにしても、真由美は意外と鋭い。それとも、こんなくだらないことを見破るために、かの高名なマルチスコープを使ったのだろうか。だとしたら、魔法技能の無駄遣いもいいところだ。

 

「早速だが、何か分かったことはないか」

 

「残念だけど、今のところめぼしい手がかりは無いわね。テロリストはアメリカから海路で日本にやって来て、横須賀に上陸したらしい、というところまでは見当がついたんだけど。これも憶測にすぎないわ」

 

「俺の方は、USNAから情報を入手しました」

 

続く達也のセリフに、真由美が驚きを示した。

 

「アメリカから? 一体どんな伝手があったの?」

 

「それはまあ、色々です」

 

「……聞いちゃいけないことだったわね。ごめんなさい」

 

「その情報によれば、テロの首謀者である顧傑の外見年齢は五十代、肌の色は黒、髪の色は白だそうです。信憑性は残念ながら不明ですが」

 

顧傑の外見情報を調べられたというのは治夏にとっても驚きだった。さすが四葉、油断がならない。

 

「確証がなくとも、その特徴的な容姿は有力な情報だ。七草」

 

「ええ。過去二週間以内に入国した外国人から、今の情報に当てはまる人物をピックアップさせるわ」

 

克人の視線を受けて真由美が頷く。

 

「密入国している可能性が高いと思うが」

 

「ええ、そうでしょうね。でも人が動けば必ず痕跡が残るわ」

 

「だが、それすら隠すのが古式の上位術士だ。痕跡があるという先入観にとらわれすぎないように気をつけろ」

 

「けれど、私たちには痕跡があると信じて調べることしかできないわ。まずは、痕跡があると信じて警察の手も借りて徹底的に調査させるわ」

 

警察に対して最大の影響力を持っている魔法師一族は、機動隊を中心に魔法師警官の約半数が一度はその門を叩くと言われている千葉家だが、関東の、捜査部門に限って言えば七草家がむしろ優越していると言われている。

 

そうでなくとも、あれだけの大事件だ。外野から何も言われなくても警察は必死に犯人を捜しているはずだ。どんな些細な手掛かりにも食い付いてくるに違いない。

 

「しかし、それだけに心配でもあるな」

 

「どういうこと?」

 

「今回の敵は死体を操る術を使う」

 

聞いてきた真由美を見ながら治夏が伝えると、真由美が息を飲んだ。

 

「それは警察官を殺害して、その遺体を利用する可能性があるということですか?」

 

「効果的であろう」

 

現代においても警察官の信用度は大きい。新鮮な警察官の死体を操れば、逃亡するにせよ次のテロを行うにせよ、取りうる選択肢の幅は広がるだろう。

 

「なら、あまり大々的に警察を使うべきではないのかしら」

 

「いや、我々が警察を使わずとも、相手が警察官を狙うことは難しくない。まさか警察署から出さないというわけにもいかぬだろう?」

 

「じゃあ、どうすれば?」

 

「普通の警察官は、残念だが普通に捜査をしてもらうしかないだろうな。我らが警戒をすべきは魔法師警官を利用されることだ」

 

魔法師の警察官を使われるのは二重の意味で拙い。一つは単純に戦力面で、もう一つは、魔法師の警察官にわざと市民に被害の出る魔法を使わせるという手段が生じるためだ。

 

魔法を使えぬ者に、魔法師警官が魔法を使ったのか、魔法師警官の死体が魔法を使ったのかを判別する術はない。最悪の場合、魔法師警官は非魔法師の被害など、どうでもいいと考えている、という風説の流布に利用されかねない。

 

「魔法師の警官が動くときには必ず宮芝の術士か、七草の魔法師二名以上と組んで動くようにすべきだ」

 

「それでは、我らの手が足りなくならないか?」

 

「一般市民の死体だけでは、たいしたことはできない。克人、ここは大きな被害を出さないことを第一とすべきだと思う」

 

一般市民の死体を操ったところで、今回のような高性能な爆弾でも用いなければ、魔法師を殺傷することは難しい。非魔法師の殺害ならば可能だろうが、それは魔法師からの解放を謳った自らの大義を己の手で放棄するに等しい。それでは単に対テロで日本を団結に導く効果しかもたらさない。

 

「分かったわ。魔法師警官は特に気をつけて行動させるように連絡しておく」

 

「そうだな。だが、ただ行動を自制させても跳ねっ返りが出てしまうだろう。達也、千葉家にも協力を仰げないか?」

 

「どうして俺なんだ?」

 

「私は千葉家と深く接触しない方がいい」

 

単に魔法師が非魔法師を傷つけないというだけでは足りない。できれば、魔法師に非魔法師を守るために血を流してほしい。それが治夏の望みだ。そして、それを実行に移した場合に流れる血は、先の千葉家の影響力を考えると、千葉家の門を叩いたことがある者となる可能性が高いのだ。

 

「まさか、魔法師警官に血を流させるつもりなのか?」

 

そして、それなりに付き合いの長い達也は、治夏の考えそうなことなどお見通しらしい。

 

「私が答えると思うか?」

 

治夏は達也の問いに肯定も否定もしなかった。しかし、それで十分に通じたはずだ。

 

「分かった。エリカを通して話をしておく」

 

魔法師警官の血が流れたところで達也の不利益にはならない。それならば心情的には賛同はできなくとも、強硬な反対はしないはず。その考えに誤りはなかったようだ。

 

「私は宮芝さんの考えには賛成できない」

 

「だったら、早く首謀者を捕らえるよりないな。私とて無意味に血を流すことは好まない。私が強硬手段を取るときは、それをせねば損になると考えたときだけだ。犯人がなかなか捕まらないことで焦れた世論が暴走する前に、是非とも成果をあげてくれ」

 

「言われなくとも」

 

真由美が治夏を見つめる目は、いつになく挑戦的だ。

 

「ともなく、やる気になってくれたのは良いことだな、では私からも情報を与えておこう。今回の首謀者、顧傑の居場所の絞り込みが進み、対象範囲から駿河と伊豆が除外された。また北武蔵も対象から除外できた。これで残るは相模と南武蔵だ」

 

「つまりは東京と神奈川にまで絞れたということだな」

 

克人の確認に、治夏は頷きで返す。

 

「このくらいの範囲ならば、七草の魔法師をある程度の人数で纏めて行動させたとしても捜索は可能なのではないか?」

 

「ええ、そうね」

 

「では、我らは引き続き相模へと探査を進めていく。七草はそれを念頭に重点的に捜索する地を決められるがよかろう」

 

「ええ、そうさせてもらうわね」

 

真由美のこの返答をもって、本日の相談はひとまず終了となった。

 

「二人とも、食事はどうする予定だ? もし食べていけるのならすぐに用意させるが」

 

克人が二人に尋ねるも、二人は今日の夕食への同席を辞退した。

 

「分かった。では明日もこの時間で構わないだろうか」

 

「ええ、良いわよ」

 

「分かりました。もし都合が悪くなればご連絡します」

 

そう言って二人がレストランを出ていく。

 

「今日の夕食も二人きりだね、克人」

 

「深夏は、あれだけ重い話をした後に、よく簡単に切り替えられるな」

 

「重い話をした後だからこそ、しっかり気分転換しないといけないんじゃない」

 

「そういうものなのか?」

 

「そういうものなの」

 

そう言って克人を強引に納得させ、治夏は今日も克人との晩餐を楽しんだ。




公私混同の激しい治夏ですが、仕事はしっかりやってます。
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