魔法科高校の劣等生と幻術士   作:孤藤海

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継承編 波乱の時代へ

二月十二日は、朝から小雪がちらついていた。

 

そんな布団が恋しい日の朝、宮芝和泉守治夏は四葉家からもたらされた情報を見て眉を顰めていた。四葉家から届けられた書簡に記されていたのは、顧傑の逃亡に国防軍が関与している可能性だった。

 

適性外国人の浸食を受けている可能性があるのは、座間基地の特殊戦術兵訓練所。特殊戦術兵訓練所とは、魔法力強化を含めた後天的強化措置を受けた実験体を軟禁する施設。その中でも日米の共同利用基地である座間基地の特殊戦術兵訓練所はUSNAとの共同研究の名の下に日本人を外国の人体実験に提供した忌むべき施設だった。

 

四葉は鎌倉での顧傑追跡の折に座間基地で基地内待機となっているはずの強化兵と交戦したらしい。基地内のどの程度まで浸食がされているのかは明らかになっていない。

 

四葉が宮芝に情報を流したのは、宮芝家が十月末に国防陸軍宇治第二補給基地の粛清を行ったという成果を評価してのものだろう。しかし、今回は宇治とは違って基地の人員を殲滅することまではできない。基地の規模も違えば人員の数も違いすぎるためだ。せっかく粛清を行っても、それで国防が弱体化したのでは意味がない。

 

宮芝は同胞が相手でも、いや同胞が相手だからこそ、絶対に容赦しない。その評価自体は光栄といえる。だが、それ以上に下手に国防軍に手を出して余計な面倒を抱え込みたくないというのが本音だろう。

 

そして、四葉からもたらされた情報はこれだけではなかった。四葉は顧傑の隠れ家も把握しているらしい。これで四葉には宮芝をも凌ぐほどの諜報能力を持つ者がいることが確定的になったが、重要なのはそこではない。

 

四葉が特定した顧傑の隠れ家は座間基地のすぐ隣。国からのお尋ね者が随分と大胆だが、座間基地に裏切り者がいるのなら、むしろ都合が良いのかもしれない。いずれにせよ、そんな場所に滞在している以上、無策のまま顧傑を捕らえに行けば、座間基地の特戦兵との戦闘は避けられないものと考えていたほうがいい。

 

要するに期待されているのは四葉が顧傑に対して襲撃を仕掛ける裏で、座間基地を抑えておくことだ。顧傑にしても宮芝は何が何でも自分たちの手で、などということは考えない。結果が得られればそれでいい。

 

四葉の襲撃予定は午後八時。顧傑に察知されることを避けるために、宮芝は事前に座間基地の基地司令部を抑える。それが今回の宮芝の目的だ。同行するのは村山右京、山中図書、皆川掃部、郷田飛騨守、松下隠岐守、矢島修理の六名だ。

 

治夏たちは幻術と精神干渉魔法を駆使し、十一時前に物品の納入業者に紛れて基地内に潜入すると昼食時に基地司令と接触を果たした。指令はさすがに驚いていたが、宮芝を名乗ると納得の表情を見せた。その後は司令室に移動しての作戦会議となる。

 

「まさか当基地に箱根のテロの首謀者を援助する者がいようとは……」

 

「現実を見つめろ。実際に脱走した強化魔法師がいるのだろう?」

 

「しかし……」

 

「貴様と問答を続けるつもりはない」

 

そう言うと同時に抜刀し、切っ先を指令の喉に突き付ける。

 

「な……何を……」

 

「貴様はなぜ、強化魔法師の脱走を上層部に報告できなかった? 基地司令という重責にありながら、なぜ不穏分子に気を配っていなかった?」

 

「それは……」

 

「此度の件、貴様に任せておけないということは、先の事実で十分だ。後は我らで行う故、貴様はここで謹慎しておれ」

 

そう言い捨てて指令室に基地司令を軟禁すると、指令権限を用いて実際の調査を行う部隊を中に呼び入れる。矢島修理に命じて特殊戦術兵訓練所を中心に調査を進めさせながら、治夏自身は司令部の人員の取り調べを行う。

 

特殊戦術兵訓練所の強化魔法師は絶対に外に出さないように厳重な監視下に置き、治夏たちは調査を進めていく。すると唐突にUSNAの垂直離着陸大型輸送機が着陸の許可を求めているという連絡が入ってきた。

 

「そのような予定が入っていたのか?」

 

「いえ、予定にはなかったはずです」

 

大型輸送機が予定もなしに飛来をする。タイミングがタイミングだ。顧傑との関連がないと考える方が難しい。

 

「用向きを尋ねよ」

 

大型輸送機から返ってきた答えは、着陸後に面談してお伝えしたい、というもの。共同利用基地ゆえ拒否は難しい。やむなく治夏は着陸の許可を出した。

 

着陸した輸送機から降りてきたUSNAの隊長は、基地司令にベンジャミン・ロウズ少佐と名乗った。ちなみに応対をしているのは基地司令をはじめ全て座間基地の人員だ。ただし治夏たちも術で姿を消した上で同じ室内に待機している。

 

一通り外交儀礼的な遣り取りを交わした後、ロウズ少佐は品の良い口調でとんでもないことを言い出した。

 

「まことにお恥ずかしい限りながら、小官は脱走兵捕縛の任を受け派遣されて参りました」

 

「脱走兵ですと?」

 

「司令官殿はご存知ないかもしれませんが、一昨年の十二月に我が軍を脱走した兵士が貴国に潜伏致しました。そのほとんどは死亡したことが確認されましたが、全員ではありませんでした」

 

基地司令が軽く頷いて先を促す。ちなみに治夏が基地司令に命じたのは、外国の将校が来たので適当に相手をしつつ来訪の目的を聞きだしておけ、という簡単なものだ。現状の基地司令の態度は、同盟国の所属であっても軍人に対するものだ。

 

「何の目的があってかは分かりませんが、逃亡を続けていた脱走兵がこの基地に所属する魔法師の治療に当たっている医師の拉致を企てていることが判明しました」

 

「魔法師の治療に当たっている医師の拉致ですか?」

 

さすがに基地司令も困惑の声を出していた。はっきり言って意味が分からない。

 

「はい、我が軍でも真の目的は掴めていません。ですが、緊急ですので究明より先に阻止に動くことになったのです」

 

「緊急とは?」

 

「我々が掴んだ情報によりますと、襲撃は今夜です」

 

ああ、そういうことか。治夏は小さく嘆息すると、右手を軽く振った。

 

「司令官殿、小官が御願いしたいことは……」

 

言い終わらぬうちに、ロウズ少佐の首が落ちる。それは室内に潜ませていた皆川掃部による抜刀術によるものだった。

 

ロウズ少佐はハイレベルな魔法師だった。無論、皆川掃部の腕も優れているが、戦場であれば、これほど上手くいかなかったはずだ。だが、ロウズ少佐は策を仕掛けるために、ここを訪れていた。そういうときは、えてして敵の策への対応はおろそかになるもの。加えて言えば、さすがに国防軍の基地司令室に高位の古式魔法師が何人も伏せているとは考えていなかったのだろう。

 

「み、宮芝殿、これはどういう……」

 

切断された首から鮮血が噴き出す中、基地司令が慌てて治夏に尋ねてくる。

 

「指令には話していなかったが、箱根のテロの首謀者は直前までUSNAにいた。それだけならば構わない。国民の一人一人にまで思想調査をするなど、不可能だからな。だが、今日の夜、その首謀者の抹殺作戦が行われる予定だとしたら」

 

「それは!」

 

「そうだ、こやつは我らと座間基地の兵とで同士討ちを狙おうとしていた。となれば、首謀者がUSNAからの密航者であるという前提が崩れる」

 

「箱根のテロは、USNAが裏を引いていた」

 

「そういうことだ! おのれ、馬鹿にしてくれる!」

 

苛立ちのまま頭を失ったロウズ少佐の身体を蹴り飛ばす。ロウズ少佐の身体は自らが流した血だまりの中に横たわる。

 

「右京、USNAの輸送機の中の兵は皆殺しにしろ! 一人も生きて外に出すな! ただし、すでにUSNA側の施設に入っている場合は放置して構わん」

 

「はっ!」

 

右京が兵たちを率いて指令室の外に出ていく。室内にいるのは座間基地の者を除けば治夏と護衛役の皆川掃部のみだ。

 

「さて、USNAの我が国への敵対の意志は明らかだ。とはいえ、こちらから宣戦布告の口実を与えてやるわけにもいかん。指令、腹をくくってもらうぞ」

 

USNAとの戦争となれば、日本はただでは済まない。無能ではあっても腐敗してはいなかった指令は、少しの時間で覚悟を決めたようだ。

 

「具体的には、どうすればよいのですか」

 

「まず此度のUSNA軍人の殺害事件の犯人を強化魔法師たちとする」

 

「……それしか、ありませんな」

 

元から不安定な強化魔法師たちの犯行とすることが、最も日本にダメージが少ない。それが分かっていても、指令が口籠ったのはそれが自らの責任に直結するからだ。

 

「そういうことだ。即刻、辞表を用意しろ。軍は辞してもらうことになるが、其方の今後については宮芝が保証する」

 

「ありがとうございます」

 

元々、顧傑に強化魔法師を盗まれた時点で処分は避けられないのだ。先の人生の保証がされただけ幸運だと思ってもらうよりない。

 

「さて、そうなるとUSNAが片付いたら次は強化魔法師たちだな」

 

さすがに少数の脱走兵がUSNAの精鋭を全滅させたというストーリーには無理がある。在庫はあるだけ放出せねばなるまい。座間特殊戦術兵訓練所は今日で閉鎖だ。

 

それにしても敵がUSNAとは厄介だ。その戦力についてもだが、一番はこれまでの敵である新ソ連と大亜連合とは距離が全く異なることだ。万が一、開戦となった場合に、広大な太平洋の先にいる敵に対して、どうすれば有効打を与えることができるのか。治夏は指令室で頭を悩ませた。




原作で生存中のキャラの初死亡。
治夏は最初からUSNAの関与を疑っていました。その勘違いからカノープスを殺害。
次話から治夏の暴走が始まる。
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