魔法科高校の劣等生と幻術士   作:孤藤海

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継承編 引き起こされたテロ

二月十五日、金曜日。一昨々日、司波達也は箱根のテロの首謀者である顧傑を座間基地に隣接する病院で討ち果たした。しかし、なぜか四葉家より、顧傑の死は秘匿しておくように伝えられていた。

 

そして今、達也は学校の食堂で深雪たちと緊急ニュースを見つめていた。事件が起きたのは魔法大学の正門前だった。時刻は午前十一時。始まりは、反魔法師団体により組織されたデモ隊が、魔法大学構内へ押し入ろうとしたことによる警官との揉み合いだった。

 

国防上の機密に当たる情報が大量にストックされ利用されている魔法大学は、ただでさえ部外者の立ち入りを厳しく制限している。警官がデモ隊の侵入を阻止したのは魔法師に与したからではなく、政府の方針としてそうなっているからだった。

 

だが魔法師に反感を持つ者たちは、そう受け取らなかった。あるいは、分かっていて故意に曲解した。デモ隊の一部が実力行使、否、暴力行使の挙に出た。

 

最初は徒党を組んでの体当たり。警官に押し返されればわざと倒れて自分たちが権力の被害者であることをアピール。そこから、大惨事の幕が開いた。

 

倒れた者の一人が、自爆したのだ。多くのデモ隊と、最前列の警官数人が吹き飛ばされる。悲鳴が響く中、後方から一人の男が声を張り上げた。

 

「進め、進まねば、撃つぞ!」

 

叫んだのは、今回のデモの主催者の男だった。いつの間にか、男はアジア系の外国人に囲まれており、その外国人たちはデモ隊に銃を突き付けている。

 

「さっさと進め、魔法師を殺せ!」

 

言いながら、戸惑うデモ隊に男たちは無差別の銃撃を加える。

 

「悪魔を殺せ! でなければ、お前たちも悪魔に与する者たちとみなす!」

 

言いながら、男たちは更にデモ隊に向けて発砲をする。無論、警官隊も黙って見ていたわけではない。多くの警官は奥にいる主催者たちまで届く火器を有してはいなかったが、少数ながら配備されていた魔法師警官が魔法を使用したのだ。

 

けれど、それは主催者たちを止めるには至らなかった。主催者の周囲を固める外国人たちは魔法師だったのだ。

 

「死にたくなければ前に進め!」

 

自分たちは防御魔法を使って警官側からの魔法を防ぎつつ、デモ隊に人間の盾となるために前に進めと叫ぶ。容赦なく降り注ぐ銃弾に、身を守る術のないデモ隊は次々と倒れる。一方、デモ隊の中からの銃撃と魔法攻撃により、警官隊も甚大な被害を受けていた。

 

このまま状況を見ていれば、警官隊が全滅するのは一目瞭然。ここにきて、魔法大学側も参戦を決意した。このまま警官隊が壊滅すれば、その後は自分たちでデモ隊と、それを操る者たちと戦わなければならないのだ。魔法大学に通う実戦用の魔法を得意とする者たちが、銃撃や魔法攻撃を行われている地点に対して魔法攻撃を行う。

 

「視よ! 奴らは自分たちを守るためなら、民間人に向けて平気で魔法を使う! 奴らを許すな! 日本の魔法師は皆殺しにしろ!」

 

叫ぶ主催者と防衛側の間では、両者の魔法に巻き込まれて次々と屍の山が積みあがっていく。なんとか危険地帯から逃れようと左右に向かう者たちは、主催者たちの銃撃によって命を奪われていく。彼らにできるのは、ただ幸運を祈って前に進むことだけだった。

 

激しい魔法と銃撃の応酬の結果、主催者と外国人風の魔法師たち全員が死亡したときには道には血肉が飛散し、周囲の建物は炎を上げていた。それはデモという言葉とはかけ離れた戦場跡の光景だった。

 

死者は民間人とみられるデモ隊が三百四十名。警察官が私服警察官も含め三十九名。工作員と思われる外国人が二十五名。応戦に出た魔法大学生が一名。

 

あまりに凄惨な現場であったためか、映像はほとんど公開されなかった。報道で流されたのは日本の魔法師を殺せという怒号と、デモ参加者たちの悲鳴。だが、それでもデモ参加者のほとんどがテロリストによって殺されたものだということは伝えられた。

 

けれど、その内容が明らかになったのは、ついさっきのことだ。第一報は警察官がデモ隊に向けて、無差別に魔法攻撃を行ったというものだった。続報でその情報は否定されたが、当初はそれで食堂内が大騒ぎになったのだ。

 

「和泉、ちょっといいか?」

 

四葉にも情報収集を依頼し、ある程度の情報が得られたところで達也は和泉を食堂の外へと連れ出した。

 

「和泉、今回の件は全てお前が仕組んだものだな」

 

「ちょっと、痛いよ、達也」

 

「いいから答えろ」

 

達也は深雪に関すること以外では、激しい怒りは覚えない。けれど、激昂はせずとも怒りを覚えない訳ではないのだ。

 

「全て、とは?」

 

「主催者の周囲にいたという外国人テロリストたち。彼らは宮芝によって操られた者たちなのだろう?」

 

「その通りだよ」

 

「なぜ、あんなことをさせた?」

 

テロの首謀者である顧傑は死んだ。これから時間をかければ反魔法師活動を下火にさせることもできたはずだ。けれど、その考えに和泉は首を横に振った。

 

「一度、心の奥に宿った反魔法師の感情は、簡単に消えることはない。何かのきっかけで、また噴出し、そのときの大きさは今の比ではなくなる。達也、私は確かにデモの主催者までは操った。けれど、デモの参加者たちを操ったわけではないのだよ。彼らは自主的に集まり、権力に抗うという革命気分に酔いしれ、国に損害を与えようとした」

 

「だから、殺したというのか? それで解決するとでも?」

 

「完全な解決はしないだろうね。けれど、次にデモを行うと誰かが呼び掛けたとして、それに応じる者が果たしてどれだけいるかな?」

 

今回のデモは、大亜連合の工作員が魔法大学に存在する機密情報を奪うため、呼び掛けたものとみられると報じられた。外国人工作員にいいように使われた挙句、大半が捨て駒として命を散らしたと知ってなお、デモに参加しようという者は少ないだろう。

 

「それでも魔法師たちの争いに巻き込まれたと考える者は多いはずだ」

 

「少なくとも、今回の件で大規模なデモが起こる可能性を減らすことができた。次の手は既に考えている」

 

「まさか、まだ事件を起こすつもりか?」

 

「今回の件で犠牲になった警察官の多くは、たまたま魔法大学の警備に回されたために命を落とした者たちだ。私が言えた立場ではないが、勝手に殺した以上、それに報いるだけの結果を国にもたらす。間違っても犬死にだなどとは呼ばせない」

 

それは和泉なりの流儀なのだろう。けれども、それはあくまで和泉の流儀だ。

 

「独善だな」

 

「独善だよ」

 

それが分かっていて止まらない。だから、宮芝は性質が悪い。

 

けれど、それを達也が責めることができるのだろうか。今回の件は確かに宮芝の勝手で起きたことだ。けれど、達也は間違いなく、それの恩恵を受ける側だ。

 

明日以降、反魔法師のデモは下火になるだろう。参加する者が激減することは勿論のこと、今の状態でデモを行うことを呼び掛ければ、主催者は政府側のみならず周囲からも素性を疑われて、探られることは確定的だ。それでもなお、デモを呼び掛けようとする者が、また、参加しようとする者がどれだけいるか。

 

「そんなことをせずとも、顧傑の死亡の情報を流せば鎮静化はできるのではないか?」

 

「鎮静化では駄目なんだよ。反魔法師活動は日本の国力を弱めようとする謀略であり、それを目的とした団体は全てが国賊である思わせるくらいにはしないと駄目だ。今回の犠牲の代償は、今後は二度と日本で反魔法師を叫ばせない。それくらいでなくてはならない」

 

「どこまでやるつもりだ」

 

「全部だよ。反魔法師を叫んでいた者たちは政界・財界・知識人ぶる専門馬鹿たちを含めて日の本から一掃させる」

 

それは、あまりにも規模の大きな話だった。

 

「下手をしたら、日本を分断することになるぞ」

 

「それでもやらねばならないんだ」

 

「なぜ、そこまでする?」

 

「USNAが日本の敵に回る可能性がある。だから日本は一刻も早く、より強く、より一枚岩にならなければならない」

 

それは達也も初耳の情報だった。だとしたら、一大事だ。

 

「だから、そんなに焦っていたのか……」

 

その言葉に、和泉は反応を返さない。けれど、その無反応こそが雄弁な肯定だった。

 

「ともかく、俺の方でも伝手を使って探ってみる。あまり早まるな!」

 

まずは当主の真夜に確認を取らなければ。和泉の前を離れた達也は深雪の元に向かって、ともに帰宅の準備を始めた。

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