魔法科高校の劣等生と幻術士   作:孤藤海

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継承編 第二の事件

二月十六日、土曜日。昨日に続いて事件が起きた。場所は、西宮の第二高校。下校途中で一報を聞いた司波達也は、急ぎ第一高校に引き返すと生徒会室に入った。

 

「お兄様!」

 

「達也さん!」

 

生徒会室の中には、深雪とほのかが悲痛な表情で待っていた。

 

「二高の事件を聞いて戻って来た。詳しい状況は?」

 

「下校中の女子生徒が数名の暴漢によって拉致されたようです。犯人たちの行方は、まだ分かっていません。今は水波ちゃんが二高と音声会議の回線をつないでいるところです」

 

深雪が達也にそう説明し終えるのと、水波から「会長、回線がつながりました」と報告があがったのは、ほぼ同時だった。

 

「第一高校生徒会長、司波深雪です。第二高校さん、聞こえますか?」

 

『第二高校生徒会副会長、九島光宣です。音声はクリアに聞こえています』

 

「早速ですけど、九島副会長、御校の生徒が連れ去られたという事件について詳細を教えていただけませんか?」

 

『今から約一時間前、当校から駅へ向かう途中の道で、一年生女子の前に一台のワゴン車が現れました。ワゴン車の中には複数の男と一人の子供が乗っていて、その子供は女子生徒の弟だったようです。子供の首に刃物を突き付ける男の要求に従う形で女子生徒は自ら車に乗り込み、そのまま行方不明となっています』

 

家族を人質に取って魔法を封じる。その悪辣な遣り方は達也にとっても他人事ではない。

 

「一時間もあって、警察は犯人の動きを掴めていないんですか?」

 

『警察からの連絡に、その女子生徒は、今は話し合いをしているところだから、心配はしなくていいと返答したようなのです』

 

「そんなの、脅して言わされているに決まっているじゃないですか!」

 

ほのかが悲鳴のような声で叫んだ。

 

『僕もそう思います。ですけど、警察の方が取り合ってくれないのです』

 

魔法師嫌いの警察にでも当たったか。いや、それにしても昨日、多くの死者を出した事件があった後にしては動きが鈍すぎる。どこかの圧力か。達也が深雪と光宣の話を聞きながら考えていると、不意に水波が声を上げた。

 

「会長、誘拐犯からの犯行声明がネットに上がっているようです」

 

水波が端末を操作し、大型スクリーンに映し出す。

 

『我々は魔法という悪魔の力をこの大地から一掃する為、聖戦を行う者である。我々は本日、一体の悪魔と悪魔の一族の討伐を果たした。日本人よ、目を覚ませ。魔法師は人間ではない。悪魔である。絶対に生存を許してはならない。我々は今後も魔法師と名乗るミュータントから人類を開放する為、戦い続ける』

 

そう主張する男の足元には、一人の女子生徒らしき人影がいる。らしき、と表現せざるを得ないのは、その人影の悲惨な状況によるものだ。

 

着ていた衣服は凄惨な暴行を受け、ぼろ布のようになっている。顔も腫れ上がり、原型を留めていない。唯一、長い髪だけがおそらく女性であるのだろうと想像させる程度だ。そしてそれは、画面の奥に倒れている子供も同じだった。

 

「悪魔の処刑というタイトルの動画も同時にあげられたようですが、どうしますか?」

 

そのとき、水波が恐る恐るという様子で切り出してきた。

 

「深雪たちは退出してくれ。動画を見るのは俺だけでいい」

 

おそらく動画の内容は第二高校の女子生徒に対する凄惨な暴行の内容だろう。過保護だと言われようと、同年代の少女が瀕死となるまで暴行に晒される映像を、深雪たちに見せたくはなかった。

 

「分かりました」

 

その気持ちを理解してくれた深雪が、ほのかを促して生徒会室から出て行ってくれる。

 

「光宣はどうする?」

 

『僕の方もこちらで確認します。一度、通信を切りますね』

 

第二高校との通信が切れたのを見て、達也は水波が言っていた動画を再生してみる。そこには、弟の命だけは助けてくれと懇願する少女に憎悪を露わにして暴行を加える男たちの姿があった。

 

お前たちのせいで、日本がおかしくなった。お前たちのせいで、自分の家族は大亜連合に殺された。

 

言っていることは無茶苦茶であり、何の筋も通っていない。けれど、その理不尽な言い分に少女はただひたすらに謝罪し、許しを求めていた。だが、その悲痛な謝罪は受け入れられることはなかった。暴行を続けた男たちは、体を動かすこともできなくなるほど少女を痛めつけると、歓喜の叫びをあげ、同時に次の獲物として少女の弟を選んだ。

 

この者は悪魔の一族である。そう言って男たちは少女が命を捧げて守ろうとした少年に少女と同じように暴行を加えていく。

 

悪魔の一族は、次の悪魔を生み出す温床である。だから、殺さなければならない。

 

何がそこまで駆り立てるのか、自分よりも幼く弱い者に憎悪を露わにし、暴力を振るう。そして十分に痛めつけると、皆で肩を叩き合って笑い声を上げるのだ。

 

椅子の背もたれに体重を預け、達也は天井を見上げる。あまりにも凄まじい憎悪は、達也をしても精神的な疲労は避けられないものだった。けれど、これでもまだ終わりではない。視界の端には次の動画もあることを示す表示がある。

 

ここまでくれば、見ないわけにはいかない。次の動画のタイトルは、悪魔の浄化。嫌な予感しかしないが、達也は動画を再生する。

 

動画の始まりは女子生徒から、衣服を剥ぎ取っていくところだった。もはや微かに悲鳴をあげることしかできない少女から着ているものを全て剥ぎ取ると、十字架を模した木材に手足を括りつけていく。少女が終わると、次は彼女の弟の番だ。続いて、十字架に磔にされた姉弟の足元に薪がくべられていく。

 

生きたまま焼かれる少女と少年の最後の悲鳴を、男たちは笑って見ていた。男たちは二人の命を奪うことを心の底から正しいことだと信じている。動画を見終わるとすぐ、達也は和泉に電話をかけた。

 

「今、どこだ?」

 

「風紀委員室にいるよ」

 

「待っていろ!」

 

通話を終えると、すぐに風紀委員室に向かう。部屋に入ると、和泉は一人で待っていた。

 

「昨日、言っていたのはこのことか?」

 

和泉は昨日、反魔法師を叫ぶ者たちを一掃すると言っていた。ならば、今日の事件は和泉が裏で手を引いたと考えるのが自然だ。

 

「そうだよ」

 

その考えを、和泉はあっさりと認めた。

 

「なぜだ?」

 

「決まっているだろう。反魔法師派、そのなかでも特に人間主義者は異常者であると一般人に分かり易く伝えてあげるためだよ」

 

二日連続で反魔法師を掲げる者たちが異常な事件を引き起こした。そうなれば、もはや自分は魔法師に反感を持っていると公言することすら憚られそうだ。

 

「犯人たちは和泉が操っていたな?」

 

「完全に操作はしていないよ。ただ、思考の誘導は行ったけどね」

 

「殺された二人は、どういう基準で選ばれた?」

 

「性格が善良であること、友人が多いこと、容姿が親しみをもたれるものであること、両親の地位が高くないこと、そして、失っても惜しくない魔法力しか持たないこと」

 

要するに、失っても惜しくない能力で、悲惨な事件の被害者となったことに同情を寄せられやすい者を選んだということだ。今回の被害者は、何の落ち度もない。むしろ人から愛されやすいという美点を狙って殺された。

 

「まだ、続けるつもりか?」

 

「いや、もう種は蒔かれている」

 

「種とは?」

 

「今回の主犯は、反魔法師派の国会議員である神田の選挙事務所の手伝いをしていた男だ。女子生徒を誘拐する際に使った車両も神田の政治団体が所有しているものだ。そして、神田の事務所から警察に、事件性はないと連絡をさせた」

 

神田は今日も元気に、魔法大学で起きたテロで多くの人が亡くなったのは、警察の不適切な対応にも原因があるのではないかと批判していた。その神田に近い人物が、事務所に関わるものを利用してこれだけの事件を起こしたのだ。神田の政治生命はこれで終わりだ。

 

「無論、これで終わりではない。男の父親は資産家で、反魔法師派の政治家に対して献金を続けている」

 

「そういう環境を持つ人間を選んで、思考誘導したのだろう?」

 

素養のある人間を探し出し、自らの意思のように思わせて操る。大亜連合が人間であった頃の関本に行ったことだ。

 

「エリカは今日、学校を休んでいる。それでも思いとどまれなかったのか?」

 

昨日の魔法大学のテロで亡くなった稲垣という警察官が、千葉家の門下生だった。他にも四人の門下生が亡くなり、エリカは葬儀等の手伝いのために今日は学校を休んでいる。

 

「私が、そのくらいで止まると思うかい?」

 

簡単に考えを翻すようなら、このような荒療治は取るはずがない。何を置いても一刻も早く反魔法師活動を収束させる。和泉はそう決意している。

 

今回の和泉の謀略は十師族にとっては利が多い。おそらく当主である真夜も真相を知らせたとしても宮芝の動きを追認するだろう。

 

本当に、そろそろ満足してくれればいいのだが。達也は心中の不安を押し込め、和泉の考えを非難も肯定もせずに風紀委員室を後にした。

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