魔法科高校の劣等生と幻術士   作:孤藤海

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南海騒擾編
南海騒擾編 テロの兆候と卒業旅行


二〇九七年、三月十五日。第一高校だけでなく、魔法科高校九校で一斉に卒業式が執り行われた。

 

例年であれば卒業生送別パーティーが行われているところだが、今年は先月に起こった第二高校生の惨殺事件を受けて自粛されることになった。小柄で非力な少女と、幼い弟が殺されるという事件は非難を浴び、以降は反魔法師活動は下火になっているが、それでも安全と判断するには時が足りていない。

 

卒業生たちの顔に見えるのは、将来への期待よりも不安の色。そんな少し寂しい卒業式を終えた一学年上の少年少女を宮芝淡路守治夏は複雑な思いで見送った。

 

それから場所を移しての生徒会室には、現在の生徒会室の主である深雪と達也、ほのかや雫たちの他に、中条、五十里、千代田、服部、桐原、壬生の卒業生組が集まっている。彼ら卒業生組が話しているのは卒業旅行についてだった。

 

「全員、予定どおりで大丈夫ですね?」

 

中条の念押しのセリフに、否定の言葉はない。

 

「このメンバーで卒業旅行なんて、一年生の時は思ってもみなかったわ」

 

「壬生、今更そんなことは気にするな」

 

「服部の言う通りだぜ、壬生」

 

中条たちは卒業旅行として沖縄に行くようだ。彼らが向かうのは、五十里家が技術協力をしている人工島で、そこでの竣工記念パーティーに皆で参加すると聞いている。海底資源の採掘基地として用いる人工島でしかも竣工記念の段階なら、反魔法師団体が押し掛けることもない。それが後押ししての目的地決定なのだろう。

 

「和泉はやっぱり来られないの?」

 

治夏にそう聞いてきたのは、ほのかだ。

 

「すまない、やはり都合がつきそうにないんだ」

 

「仕方ないよ。十文字先輩との婚約も発表されたし、忙しいんだよね」

 

人工島に関係しているのは五十里家だけではない。雫の家も出資という形で関係していたようで、ほのかと二人で竣工記念パーティーにも参加するとも聞いている。そこに治夏は十文字と一緒にどうかと参加の打診をされていたのだ。

 

雫としては婚約の発表を受けての、ささやかな贈り物のつもりだったのだろう。けれど、残念ながら治夏は参加できない理由がある。その理由を思い浮かべながら、楽しそうに計画を立てる卒業生組をちらりと見る。

 

卒業生送別パーティーが中止になったのは、治夏の工作が原因だ。そのことを申し訳なく思う気持ちは当然にある。だから、本来ならば皆に楽しんでくるように声をかけているところだ。けれど、それはできない。

 

治夏は彼らの目的地である、久米島沖の人工島『西果新島』の竣工記念パーティーに合わせて破壊工作が行われるという情報を掴んでいる。工作を企む者は、大亜連合の反講和派。狙いは日本の敵意を煽っての講和条約の破棄。

 

横浜に攻撃を仕掛けてきた大亜連合に対しての、腰の引けた講和には治夏も思うところがないではない。それでもUSNAとの間で不穏な空気の流れ始めた現状で、大亜連合と再開戦というのは得策ではない。ゆえに此度は大亜連合の工作は断固として阻止する。

 

敵は軍内の過激派というべき者たちで多数派ではない。国の意向に背く形での攻撃であるため、必然的に少数となるだろう。少数の工作員を葬るのは宮芝の御家芸であり、今回も無論のこと、未然に阻止するつもりである。

 

けれど、戦場になってしまう可能性を消しきることはできない。場合によっては巻き込まれることもないとは言えないのだ。

 

それでも治夏が選択したのは、沈黙だった。五十里にその可能性を伝えてしまえば、彼らは旅行を中止してしまうだろう。それが何かの疑念を招き、そこから大亜連合側に破壊工作の計画漏洩を悟らせる結果になるかもしれないのだ。

 

敵には油断をしてもらっていた方が望ましいに決まっている。だから治夏は、今回も魔法科高校生が危険に晒されることに目をつぶる。それは、相手が多少なりとも知った者たちであったとしてもだ。

 

もっとも、今回は少しばかり気持ちが軽い。それは隣にいる男のおかげだ。

 

「なぁ、達也」

 

「何がなぁ、なんだ?」

 

「お互い秘密があると大変だという話だ」

 

そう言うと、達也が苦い顔になった。達也は国防軍経由で今回の破壊工作の話を知っていると聞いている。いわば、今回は治夏の共犯者のようなものだ。

 

「今回は深雪も知っているのだろう?」

 

「随分と嬉しそうだな」

 

小声で聞いた治夏の言を否定しなかった。それが答えだ。

 

確認するまでもなく、ほのかと雫は深雪の一番の友人だ。達也も深雪も、その大事な友人よりも自らの都合を取ったのだ。

 

「言っておくが、俺たちがどうであろうと、和泉のやっていることが正当化されるわけではないからな」

 

「そのくらい分かっているよ。けれど、私だけが責められるのでないということは、それだけで気持ちが楽になるんだよ」

 

「なんだか随分と気弱なことだな」

 

「まあ、色々とあってね」

 

治夏と克人の婚約は広く公表された。一方で治夏が和泉守から淡路守へと官位を改めたことは全く知らされていない。基本的に宮芝家の当主は、代替わりをしても、それを知らせることはない。

 

当主は全員が宮芝和泉守を名乗るので、相手が代替わりを知らなくとも問題なく話が通じる。よって特別に不具合は生じない。

 

逆に官位の使用は秘密の隠匿には効果を発揮する。和泉守にしても図書にしても飛騨守にしても代替わりをしながら用いてきた官位だ。例えば図書にしても先代の図書と今代の山中図書では得意としていることも役割も全く異なる。治夏が通常は官位でしか呼ばないのも、仮に漏洩しても、誰のことを指しているのか分からないようにするためだ。

 

「ところで、国防軍からも人員を出すのだろう。誰を出すのだ?」

 

「こんなところで急に……なるほど、見事だな」

 

問いかけると同時に、他の皆との間に遮音壁を作ったことに気づいたのだろう。

 

「詳細な人員は俺も知らない。けれど、指揮は風間中佐が執ると聞いている」

 

「それは安心できる材料だな」

 

風間は主義主張の面では治夏とは相容れないが、能力面では指揮官としても一人の魔法師としても一定の信頼を置いている。

 

「日程等に関してはどうなっている?」

 

「独立魔法大隊は先行して沖縄入りするらしい。俺たちは二十四日の彼岸供養式典で合流することになっている」

 

「それは、なかなかの強行軍だな」

 

魔法科高校の終業式は二十三日だ。真面目な達也と深雪のことだ、早めに休暇に入るということはないだろう。つまりは終業式直後に沖縄に飛ぶくらいでなければ、二十四日の式典には参加できないということだ。

 

ちなみに竣工記念パーティーは三月二十八日だ。治夏は余裕を持って三月二十一日には沖縄に入る予定だ。無論、その間の学校は休みである。さすがに術者の治夏が遠方となっては替え玉は使えないので、やむをえない。

 

「ところで、そういう和泉の方の人員はどうなんだ?」

 

「私か? 主力は連れていくつもりだよ」

 

治夏の側近の右京、図書、掃部に、郷田飛騨、一柳兵庫、松下隠岐などの宮芝の精鋭部隊、森崎駿に量産型の関本たち、総勢二十名ばかり。今回は極秘任務であることも考慮して少数精鋭とする予定だ。

 

ちなみに戦力的には頼もしい呂剛虎は今回は留守番だ。今回の作戦では大亜連合側も兵も出すことになっており、相手を刺激しかねない呂はさすがに出すことができない。関本やパラサイト関本を出さないのも、大亜連合側も兵を出すことに伴う機密保持のためだ。今回は自爆機能を仕込んだ量産型のみで対応する。

 

「森崎さんに学校を休ませるつもりですね」

 

治夏が早めに現地入りするのは、いつものことだ。そして、同行するメンバーの中に森崎が入っていることも予想できたのだろう。深雪は若干の非難を込めた声音で言ってくる。

 

「今の森崎は戦力的にも、置いていくと言ったときの面倒臭さを考えても、同行メンバーから外すという選択肢はないな」

 

そう言うと、二人はよく似た複雑な表情を浮かべた。

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