魔法科高校の劣等生と幻術士   作:孤藤海

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南海騒擾編 気弱な元生徒会長の受難

三月二十四日、私、中条あずさは五年前の沖縄侵攻事件の被害者の彼岸供養式典に参加しました。私たち自身は事件の際に亡くなった親族はいません。けれど、一昨年には横浜事変が勃発し、その折には私たちも大亜連合の部隊と戦闘を行いましたし、そこでは多くの人々が亡くなりました。他人事と考えることはできません。

 

一緒に沖縄に来ている千代田さんと五十里くん、壬生さんと桐原くん、沢木くん、服部くんも同じ気持ちだったと思います。卒業旅行中に彼岸供養式典に参加するという私の案を快く受け入れてくれました。

 

「なぁ、俺が来て本当に良かったのか?」

 

それは彼岸供養式典の後、那覇のショッピングモールを歩いていたときに沢木くんが急に言い出したことでした。

 

「何だ、沢木。今更だぞ?」

 

呆れ声を返したのは服部くんです。

 

「俺が加わらなければ三対三だろ? 空気が読めていなかったかと思ったんだ」

 

「沢木くん、何を言っているんですか!? 私と、は、服部くんは、別にそんな仲じゃありませんよ!」

 

沢木くんがどうしてそんなことを言い出したのか、私には全く分かりません。私と服部くんの間に、実際に恋愛感情はないのですから。

 

「中条の言うとおりだ。俺としては、カップル二組に男一人と女一人なんて気まずい状態にならずに助かったと思っている」

 

服部くんがそう言って私の言い方に同意した後、カップル二組に「少し控えろ」と言いたげな目を向けました。その二組はしっかりとペアルックで存在から互いに恋仲であることをアピールしています。

 

今日の私はパーカーとハーフパンツというラフなスタイルです。もっと色気のある服装にしようかと迷いましたが、私にそういう格好が似合わないということと、相手もいないのに妙なアピールをしても虚しいだけだと見合わせました。

 

「沢木君はさっきの司波君たちを見てそう思ったのかな?」

 

振り返って、そう訊ねたのは五十里くんです。

 

「自分では気がつかなかったが、言われてみればそうだな」

 

「でも、沢木君の気持ちも何となく分かる気がするよ。ご供養の式典でこんなことを感じるのは不謹慎かもしれないけど、司波君と深雪さん、本当にお似合いだったもの」

 

壬生さんの言葉に私も心の中で大きく頷きました。深雪さんと達也くんも式典に参加していましたが、深雪さんは相変わらず本当に美しく、達也くんも存在感では全く負けていませんでした。

 

「二人とも、とても高校生には見えなかったけどな」

 

そこに入れられた桐原くんの茶々は、ある意味では的を射ており、私たちは失笑を漏らすしかありませんでした。

 

「どうしたんだ、壬生?」

 

それから少し歩いた頃、不意に立ち止まった壬生さんに声を掛けた桐原くんが彼女の視線をたどり、訝しげに眉を顰めました。

 

「……今時、白人の子供なんて珍しくないだろ?」

 

壬生さんが見ていたのは、十二、三歳くらいの栗色の髪の女の子でした。肌の色と顔立ちから桐原くんの言った通り、白人種だと分かります。

 

「違うわ。分からない?」

 

「んっ?」

 

「どうした、桐原」

 

「……穏やかじゃないな。この雰囲気は」

 

服部くんが桐原くんに声を掛け、その直後に沢木くんも声を潜めました。

 

おそらく両親を待っている少女を盗み見る大の男が四人。しかも、取り囲むように少しずつ近づいているのが分かりました。

 

以前の私であれば、そんなことは気づかなかったでしょう。けれど、私は横浜事変の際の第一高校の生徒会長です。そのときに、たいして役に立てなかった私と、真由美元会長や深雪さんの姿を比べれば、これまで通りでよいとは思えませんでした。

 

生徒会長として、他の生徒を守れるように。自分が戦うことは無理でも、危険にいち早く気づいて、他の生徒に警告を発することができるようにと、私なりに努力したのです。

 

「誘拐か?」

 

服部くんが軽蔑のこもった声でそう言って、誘拐なり猥褻行為なりを止めるために歩き出そうとします。

 

「待て、服部。ここは俺と桐原が行く」

 

それを沢木くんが肩を掴んで止めました。

 

「俺と桐原は白兵戦タイプで遠距離は苦手だ。五十里は対人戦向きじゃない。女子をガードしつつ、いざという時に援護の魔法を撃てるのはお前だけだ」

 

「桐原君、あたしも行く」

 

服部くんが納得しかけたところに今度は壬生さんが声を掛けました。

 

「いやっ、けどよ……どう見てもあいつら、平和な目的じゃなさそうだぜ?」

 

「桐原君と沢木君だけで近づいては、あの子だけじゃなくて他の人からも変な目で見られちゃうわよ」

 

桐原くんは嫌そうに顔を顰めますが、壬生さんの言っていることも事実です。私でも二人の人柄を知らないときに急に至近距離に来られたら、硬直してしまうかもしれません。

 

「……分かった。だが、俺の側を離れるなよ」

 

「分かってる」

 

今度こそ、三人が女の子の元に歩き出そうとしました。けれど、その前に思いもかけない人物が立ちはだかりました。

 

「やめておきなよ、平和な旅行を楽しんでいる元高校生諸君」

 

そこにいたのは、私の天敵とも言える宮芝さんでした。

 

「宮芝さん、一体どうして……」

 

「余計な手出しは無用だ、壬生。この言葉の意味が分かるな」

 

最初、私は女の子を狙っているのは宮芝さんの関係者ではないかと考えました。けれど、それはすぐに自分で否定しました。宮芝さんの関係者ならば、所詮は素人の私たちに気づかれるはずがありません。ただ、宮芝さんにとっては、女の子に何かがあった方が都合がいいということなのでしょう。

 

そして、実際に事態は動き始めました。辺りの人通りが何時の間にか無くなっています。

 

サングラスを掛けた男の人が四人、女の子を取り囲むように近づいていきます。

 

四人は服装も、掛けているサングラスのデザインもまちまちですが、雰囲気が似通っています。それは同じような動作によるものと思えました。

 

女の子も四人の男たちに気づいたようです。けれど、慌てた様子はありません。静かに臨戦態勢を整えているように見えます。

 

「さて、茶番はここまで。逃げられては詰まらないからな」

 

宮芝さんが、そう言った瞬間、女の子の身体が大きく揺れました。彼女の胸の中心から、じわりと血が滲んでいくのが分かります。

 

「狙撃か……宮芝のお家芸の一つだったか。徐々に包囲を狭めてくる明らかに近接戦型の魔法師に目を引き付けておいて、というわけか。相変わらず嫌らしい手段を使うな」

 

そう言ったのは桐原くんで、おそらく横浜事変の折に戦術を目撃していたのでしょう。

 

「お褒めに与り、光栄だな」

 

対する宮芝さんは、目の前で人が死にゆこうとしているというのに、笑みすら浮かべています。やっぱり宮芝さんは普通ではありませんが、同じ状況を見ているはずの桐原くんも特別に動揺しているように見えないのは、悪影響を受けすぎだと思います。

 

血で染まる胸を右手で抑えながら、女の子は対物障壁を展開しました。その障壁に第二射と第三射が弾かれるのが見えました。

 

女の子の近くには四人の男の人もいました。その状況下で、狙撃を受けてすぐ、狙撃手が一人だけではないと考えて対物障壁を展開するなんて、私にはできません。その事実だけで、女の子が見た目通りの庇護しなければならない対象ではないと分かりました。女の子はおそらく軍事訓練を受けた工作員なのでしょう。

 

「なかなか見事。しかし、まだ未熟」

 

宮芝さんがそう言った意味は、すぐに分かりました。女の子の背後に、影から出てきたかのように森崎くんが現れています。

 

「疾ッ!」

 

森崎くんの気合の乗った声と、高周波ブレードが障壁を破る音が響きました。その次の瞬間には、女の子の頭が首から離れていました。

 

「そら、身体を片付ける間、少しの時間だけ持っていてくれ」

 

宮芝さんが言った瞬間、森崎くんが女の子の髪を掴んで私の方に投げます。どうして私の方に向かってくるのでしょう。心情的には今すぐにも背を向けてどこかに走り去ってしまいたいです。けれど、宮芝さんが持っていろと言ったのに、逃げ出すなんてできません。

 

森崎くんはコントロールも鍛えたのでしょうか。女の子であったものは、私がお腹の前に差し出した腕の中に綺麗に収まっている気がします。気がするというのは、怖すぎて確認をすることができないためです。

 

もしも目が合ってしまったりしたら、私はどうなってしまうか分かりません。私にできることは、ただ正面を見続けることだけです。宮芝さんは、そんな私を気にすることなく女の子の身体を森崎くんに運ばせています。

 

ところで、新鮮な生首を持っているせいで、主に私の下半身が大変なことになっている感触がするのですが、宮芝さんは私の後始末のことは、考えてくれているのでしょうか。




南海編のボス、名乗る間もなく死亡。
基本、初撃で確実に仕留めにかかる宮芝相手では物語は生まれにくいのです。
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