図書とか掃部と一緒に出てきて紛らわしいので念のため。
三月二十六日、宮芝淡路守治夏は沖縄本島の空港にいた。久米島行きの便を待つ空港の出発ロビーには治夏の他に達也と深雪、桜井水波、沖縄旅行中のほのかと雫に加えて、第一高校の卒業旅行組七名もいる。
「和泉、これはお前が仕組んだのか?」
その状況を見て開口一番、達也が発した。
「失礼だな。少なくとも、ほのかと雫は違う。それに詰問の前に言っておく言葉があるのではないかな?」
今日の治夏はバカンスに合わせてスカートが膝丈だ。普段の治夏に比べて露出度の高い服装でいるのだから、何か一言くらいあってしかるべきだろう。
「それは中条先輩たちに関しては、仕組んだと言っていると同じだと思うが」
けれど、達也はそんな治夏のアピールをすっぱり無視した。治夏も達也に機微など期待していないが、それにしても酷い。
酷いと言えば、達也の勘違いにしてもそうだ。達也は治夏が中条たちを久米島に向かわせようとしていると考えたようだが、それは事実とは異なる。治夏がさせたのは、元から予定にあった久米島行きを中止させなかったというだけで、その理由もこれ以上、楽しい旅行に水を差すのを不憫に思っただけだ。
一昨日の、生首事件は中条の心にかなりのトラウマを与えてしまったようだ。治夏は心の傷を癒すために精神制御の力も借りて、中条を旅に復帰させた。
ちなみに他の六人が治夏を見る目は冷たかったが、あれは中条たちも悪い。ただの高校生のくせに外国人が絡む国家の作戦にしゃしゃり出てこようとするから、あんなことになる。多少、腹が立ったからといって大人げなかったのは確かだが、いい薬にしてもらうよりない。
「光井さんたちともお話していたんですけど、深雪さんたちもご一緒しませんか?」
一昨日のことは、きちんと記憶から薄れているようで今日の中条はいつもの中条だ。
「よろしくお願いします」
それもあってか、深雪は特に疑う様子もなく達也の許可を取って、中条たちへの同行を了承してくれた。
久米島に到着した後は雫が手配したグラスボートで島の周りを一周することになった。船に同乗するのは治夏と護衛三名、達也たち三人、ほのかと雫、卒業生組七名の計十六名。それと船尾には量産型関本の水中型三機がくっついている。
雫のために北山家がチャーターしたグラスボートは、喫水下の側面が船首・船尾を除いてほぼ透明になっている。床もほんの一部を除いて透けていて、船室から見る景色はまさしく海中パノラマだった。
それ自体は本来なら歓迎すべきことだ。けれども船尾には量産型関本がいる。一応、中から見つからない位置に陣取っているはずだが、乗船前に治夏は海底を含めて警戒をするように伝えてしまっていた。更に拙いことには量産機にはカメラが搭載されている。つまり関本たちの動きによっては治夏のスカートの中が危険なことになる。
元となった機械にしても、培養されたパラサイトにしても人の機微など期待するほうが無理というものだ。治夏の何がカメラで撮影されようと、きっと気にもしないだろう。けれどカメラの先には監視している人間がいるのだ。それでは困る。
拙いことは更に続く。グラスボートの喫水が深いため、久米島への上陸にはゴムボートを使うようだった。ゴムボートに乗り込むときも降りるときも、スカート丈はかなり際どいことになりそうだった。
他の女子たちは、このことを折り込み済なのかパンツスタイルだった。これは他の皆の予定に無理に合わせたために、ろくに下調べをしていないことの弊害だった。
「なんだか、今日は宮芝さんが可愛らしく見えますね」
恥じらいまくる治夏を、中条が微笑ましく見つめてくる。もう一度、その辺で生首を調達して投げつけてやりたい気持ちになったが、さすがにそれは自重した。
上陸後の久米島では、ほのかがいきなり上着を脱いで大胆な水着姿を披露して同行者だけでなく他の観光客の目も惹いていた。ほのかは顔に似合わず立派な胸を持っている。なんとなくだが、気に食わない。
「大丈夫ですよ、治夏様も水着を着れば、ちゃんと女性と分かりますから」
右京、その言い方では水着でなければ女と認識されないというように聞こえるんだけど。さすがに、そこまで低レベルな心配はしていない。古式の宿命として色々と隠し持つために大きめのサイズの服を身に着けているために胸が目立たないだけで、垂直に切り立っているわけではない。憤慨しながらもコーラルサンドが堆積してできた白い砂州を楽しんで治夏はグラスボートへと戻った。
グラスボートに戻っても、ほのかの積極アピールは続いている。チュニックのボタンを上三つまで外して水着のブラを達也へと見せつけていた。
「ほのか、少し良いか」
そんな中、達也の声の質が急に変わった。ほのかの言葉にならない問い掛けには答えず、達也は操舵室に向かう。
達也の様子に普通でない兆候を感じ、治夏と護衛三人。そして服部、沢木、桐原が続く。
「船長、前方五百メートルの海底付近に艦影が探知できるはずです」
達也の驚くべき言葉を聞いた船長が、操舵室内のクルーにソナーを前方海底へ向けるように命じる。
「いました! 推定全長八十メートル、通常型潜水艦と思われます!」
「進路反転! 面舵一杯!」
国防軍の物ならば何の問題も無い。今は違う場合を想定して対応すべき。船長は的確にそう判断し、対応を始めている。
「注水音を確認! 不審艦が魚雷発射体勢に入った模様!」
「こちらも魚雷戦用意!」
治夏の命令に、その場の皆が驚いて顔を向ける。
「宮芝、この船に魚雷は搭載されていないと思うぞ」
「刑部、魚雷が搭載されてなくとも魚雷戦は可能だ。それを見せてやろう。掃部、関本全機を甲板に上げろ」
「和泉、何をする気だ?」
「知れたこと。魚雷がないなら、関本を発射すればいい」
この船には魔法師が大勢いる。加速魔法はかなりの力を発揮できる。そして量産型関本も水中用に装着したスクリューにより自らの力によって加速が可能だ。ならば関本を敵潜水艦に突撃させて自爆させれば簡易魚雷となるはずだ。
「とりあえず、水波。対物障壁用意。設置場所はボートから三十メートル。サイズは魚雷前方に半径十メートル。ボートの進路を塞ぐのは厳禁だ。できるな?」
「お任せください」
「魚雷、来ます!」
白い航跡が二本、速度を増しながらたちまち迫る。
「水波」
「はい」
桜井によって水中に作られた対物障壁が魚雷を受け止め、水柱が上がる。
「発泡魚雷。足止めが狙いか」
達也の解説で、治夏も敵の攻撃が船の破壊を目的としたものでないことを知った。治夏は近代兵器にも精通していると自負しているが、さすがに魚雷は専門外だ。
「次はおそらく、魚雷型有人艇による襲撃」
「こちらも反撃だ。関本魚雷、発射!」
右京、図書、掃部の他に深雪、ほのか、雫の力も借りて三機の量産型関本を魚雷代わりに敵艦へと撃ち込む。一機はそのまま敵艦への体当たりと自爆を敢行させるが、残る二機は敵艦付近で停止させて水中用の特殊攻撃をさせる。
「第二波、接近!」
それと同時に、ソナー員が叫ぶ。
「では敵艦は関本に任せるとして、我らは敵の強襲部隊を迎撃するとしようか」
「分かっている」
治夏の言葉に応え、四条の航跡を刻む魚雷型有人艇を迎撃したのは服部だった。海中に気泡を作り出して艇を立ち往生させる。
それを受けて、魚雷型有人艇の背面中程が大きく開く。中から飛び出してきたのは各艇から一人ずつのドライスーツのような戦闘服を着た男だった。
「任せろ!」
海面から跳び上がった男へ向かって沢木が甲板を蹴った。
男より高くジャンプした沢木が、鋭角に軌道を変えて急降下し、キックで敵を叩き落す。
「一条閃雷」
沢木の攻撃を胸に受けて海面に落ちる直前、男は更に皆川掃部の魔法を受けていた。これで男は痺れて動けぬはず。結末は溺死だ。
沢木は空気を足場に再び跳び上がり、もう一人撃墜していた。これで二人。
残る二人の敵は、グラスボートに着地をしようとして海中に落ちた。
「残念、幻術だよ」
二人が着地に失敗したのは、船の位置を治夏が偽装したためだ。そして、水面に落ちた敵に向けては、桐原が釣り竿を振り上げていた。
「爆釣だぁ!」
高周波ブレードと併用される自壊防止術式を纏った釣り竿で雨霰と剣戟を繰り出す桐原の前に、敵は防戦一方となっていた。そこに対物障壁では防げぬ山中図書の音波攻撃を受け、その敵も海の底に沈んでいった。
最後の一人を倒したのは服部だった。海水から作り出した無数の礫で単独で敵を沈めていた。援護をするはずだった村山右京は少し不満げだ。
「さて、残るは敵の本艦だけだが、あちらも終わったようだね」
治夏が見つめる先には巨大な水柱が上がっている。量産型関本の一体が高周波ブレードで内部に突入した後で自爆したものだ。それでも魔法師であれば、障壁魔法を使って耐えた上で、艦からの脱出も可能だろう。しかし、水中にはまだ二体の量産型関本がいる。
その二体の関本がアンティナイトを使用した。これが奥の手だ。水中で魔法の使用を封じられれば、待っているのは溺死のみ。アンティナイトに耐えて浮上しようとしたとしても、艦の傍で待機する関本はスクリューを装備した水中型。両者が泳ぎで戦えば、呼吸を要しない機械の方が上に決まっている。
ほどなく、二体の関本が串刺しにした遺体を抱えて水面に上がってきた。思いがけない遭遇ではあったが、得られた戦果は満足のいくものだ。治夏は上機嫌でグラスボートの船長に帰投を命じた。
「和泉、船長はお前の部下ではないぞ」
が、それは達也の冷静な一言で水を差されることになった。
ちなみにオーストラリアのジェームズ・ジャクソンは原作通り、潜水艦の中におり、戦死しています。
こちらは存在すら明かされぬまま殉職。
オーストラリアの工作員はいなくなりました。