魔法科高校の劣等生と幻術士   作:孤藤海

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動乱の序章編 広がる騒乱

四月二日、宮芝淡路守治夏はUSNAに吸収された旧メキシコで叛乱が起きたという報告を山中図書から受けていた。

 

「こうも早く結果が出るとはな」

 

USNAの敵対姿勢が明らかになってすぐ、宮芝は調略を仕掛けるために専門部隊を新設して送り込んだ。それからまだ、一週間しか経っていない。

 

「それだけ、USNA内で反魔法師活動が活発になっていたということでしょう」

 

たったの一週間ではいくら調略に長けていても、いかほどのこともできない。おそらくは宮芝が何もしなくても叛乱は起こった。今回、宮芝がやったことといえば、ほんの少しだけ風を送り込んだという程度のことだろう。

 

叛乱の原因となったのは、昨日ブラジル軍が使用した戦略級魔法だろう。現時点で死者がおよそ九千人、負傷者およそ三千人にまで膨れ上がったいた。たった一発の魔法による多大な被害は、魔法を使えない人々に恐怖心を与えるには十分すぎた。

 

今のところ日本では自国の魔法師に対する恐怖心を訴える声は大きくない。それは、先日の箱根のテロと魔法大学前での事件の効果だった。いずれも外国人の魔法師による攻撃であると喧伝することで、他国の魔法攻撃に対抗するためには魔法師が必要だという認識に導けたのだ。加えて言えば、第二高校生と弟の惨殺事件により、反魔法師集団は危険な思想の持ち主たちであるという印象を与えられたことも大きい。

 

けれど元から人間主義の観点から反魔法師を叫ぶ者が多かった上に、国内ではそれほど凶悪な事件は起きていなかったUSNAの民はそうではなかった。結果として、反魔法師団体による大規模な暴動が勃発した。

 

ただし、いくら大規模といっても、鎮圧ができないものではない。本来なら州軍に鎮圧されて、それで終わりのはずだった。しかし、USNAはそこで大きな失態を犯した。よりにもよって反魔法師団体の鎮圧に魔法師で構成された部隊も派遣したのだ。

 

中央から派遣された魔法師部隊に対して、元より州軍は反感を持っていた。その魔法師部隊が反魔法師団体に対して強硬手段に出たことで、地元の市民が暴動に加わるに至り、州軍の中にも叛乱に加わる者が続出することになった。

 

それにより北メキシコ州のモンテレイの主要行政機関は叛徒の手に落ちることになった。叛徒が行政機関を占拠するのに要した時間は一時間前後。この迅速な攻撃は言うまでもなく宮芝の工作員が攻撃目標の指示を行ったためである。

 

現在、中央の魔法師部隊は叛徒たちの包囲下に置かれている。さすがに全面対決までは望んでいないようで、攻撃は避けているようだが、それがどこまで持つか。

 

本来ならば、彼らの救出に当たるのは精鋭部隊であるスターズが最有力候補だった。だが、スターズは宮芝により上位の指揮官二名を失っている。これまでのような迅速な対応はできないだろう。

 

今のうちだ。今のうちに中央の魔法師部隊と州軍を衝突させる。そうなれば、USNAの魔法師と非魔法師の対立は深刻なものになる。

 

「USNAに日本に目を向ける暇を与えぬためにも、日本に対して行ったことの報復を行うためにも、絶対に魔法師部隊と州軍の衝突を実現させよ」

 

「そのためには地元の市民に犠牲を出すのが有効ですな」

 

「潜入している者たちには死体を操れる術者はいなかったな?」

 

「はっ、その通りでございます」

 

魔法師の死体に市民を攻撃させられれば話は早かったが、そうはいかないようだ。

 

「ならば、幻術を使って魔法攻撃を受けたと錯覚させるか」

 

「しかし、それでは双方の話の食い違いから我らの存在が明るみにでませぬか?」

 

宮芝の術士たちが工作を行っているとUSNAに知られるのは好ましくない。元を断つためにと日本への攻撃を招く可能性もないとはいえないためだ。

 

「ならばガス爆発でも起こさせるか。それならば事故であるし、市民の中には攻撃を受けたと錯覚する者も出よう」

 

「そのあたりが妥当と思われます」

 

「ならば、それで前線に指示せよ。あと、和泉守様に報告を行うことも忘れるな」

 

正式には現在の宮芝の当主は宮芝治孝なのだ。治夏が独断で作戦の指示をしたと思われることは避けねばならない。

 

「他に気になる情報はあるか?」

 

「どうやら、ドイツ連邦の首都にあるベルリン大学でも魔法師排斥派の学生と魔法師共存派の学生がそれぞれデモ隊を結成し、構内で小競り合いを起こしたようです。今のところは武力闘争には至っていないようですが、拡大する可能性も否定できないようです」

 

「それは、あまり良い情報ではないな」

 

目下、USNA内であれば大国を疲弊させるために魔法師の排斥活動は望ましいことだ。だが、それが世界的になってくると、それは望ましいことではない。その余波は必ず日本にも再び到達するからだ。

 

「落ち着いているのは欧州ではイギリスくらいか?」

 

「かの国は過激な反魔法主義思想を早い段階から取り締まっておりましたからな」

 

イギリスにしても、新ソ連や大亜連合にしても、現在、国内での対立が深刻でない国はある意味では強権的な国ばかり。結局は人は自由にしすぎると争いを生み出すだけということだ。だからこそ、日本も気を引き締めて国内を纏めなければならない。

 

「そういえば、こちらは未確認の情報ではありますが、新ソビエト連邦の黒海基地で何か変事が起こったようです」

 

「何か、とは?」

 

「詳細は分かりませんが、戦略級魔法師ベゾブラゾフが黒海基地を訪ねたようです」

 

「ベゾブラゾフか」

 

黒海基地に近いルーマニアには暗殺・破壊工作を得意とする『ドラキュラ』と呼ばれる魔法師がいるという。ベゾブラゾフの行動は、それを疑ったものだろう。

 

逆に言うと、黒海基地でドラキュラの暗躍を疑う何かがあったということ。それが図書が未確認と言いつつ報告をあげてきた理由だろう。果たして国防大臣に匹敵する発言力を有すると言われているベゾブラゾフの動きはどれほどの意味があることなのか。

 

「できれば新ソ連に派遣している諜報員たちも増員したいところだがな……」

 

「新たにUSNAにかなりの人数を割いてしまいましたからな。手すきの人員はほとんどいないでしょうな」

 

ただでさえ、各国に潜入する工作員というものは、その土地の特性に合わせた技能を学ぶために長期の訓練が必要になる。現在、大亜連合との緊張関係は深刻ではないが、昨日まで大亜連合にいた者を明日から新ソ連に、とはいかなないものだ。

 

しかし、社会格差に対する不平と不満をエネルギー源とする反魔法主義は新ソ連では力を得ていなかったはず。一体、何を源にして、何が起きたのか。

 

「純粋な国内問題に留まるのであれば、警戒はさほど必要ない。ひとまずは極東方面の部隊が動き出さないかだけでも監視を強めることはできるか?」

 

国内の不満を国外に対してぶつけることでガス抜きにするという手段は古今を問わず行われていることだ。それこそ、直近では日本に対してUSNAが仕掛けてきたように。同じことを新ソ連が行わないという保証はない。

 

「できるだけのことは行えるよう有力な各家に声をかけてみます」

 

図書の返答を聞きながら、治夏は頭の中で猛烈な勢いで算盤を弾いていた。いかんせん国外で工作員が活動するには資金が必要だ。すでに多数の人員を国外に派遣している宮芝家においては、目下のところ赤字財政である。ひとまず諜報機関として優秀なところを示すために得られている情報を国に渡して機密費による補填を受けるとして、他にも何か収入源が必要だ。

 

「懐が暖かそうな四葉に頼んでみるか」

 

七草も財政は豊かそうだが、七草に借りは作りたくない。

 

「こんな依頼を元同級生にすることになるとはね」

 

言いながら、治夏は取次の依頼をするため達也の番号を呼び出した。

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