魔法科高校の劣等生と幻術士   作:孤藤海

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動乱の序章編 十山つかさ

国防軍の曹長である遠山つかさはこの日、司波達也に対する情報部による襲撃作戦の指揮を執るはずだった。婚約者である深雪を習い事に送り出し、稽古が終わるまでの時間を潰す司波達也に対して、捕らえたUSNA軍の兵士を使っての襲撃。その予定だった。

 

しかし今、その予定は大きく狂おうとしていた。古式魔法『傀儡法』により自由意思を奪われ、つかさの作戦の駒となったUSNA軍統合参謀本部直属魔法師部隊『スターダスト』の隊員を元にした『人形』たちが、あろうことか民間人に襲い掛かっていたのだ。

 

「駄目です! 制御魔法を受け付けません!」

 

現場からの情報を分析していたスタッフが悲鳴に似た声を上げる。早く暴走の原因を探れと名目上の指揮官である少尉が叫ぶが、その間にも被害が拡大する。

 

「三人目の犠牲者です!」

 

現場では図らずも襲撃対象であった達也とスターダストを元にしたパペットたちとの戦闘が行われている。けれど、それに注意を払っている暇はない。パペットたちはその間にも、更なる民間人の屍を築こうとしている。

 

「させませんぞ!」

 

しかし、そこに一人の男性が踊り入ってきた。男性はすでに初老と呼べる年齢に見えるが若々しい動きで、驚くことにUSNAの軍人と接近戦を繰り広げる。そして、激闘の末に見事にパペットを倒していた。

 

その腕は明らかに素人のものではない。実戦経験を持つ優れた魔法師のものだった。そのような人物が、たまたま通りかかるものだろうか。そう考えたところで、つかさの頭に閃くものがあった。

 

つかさたちが用いた傀儡法を破って意のままに操れる可能性を持つ者。都合よく優れた魔法師を派遣することができる者。或いは四葉にも可能かもしれない。しかし、それよりも余程、この行動が似合う者たちがいた。

 

「まさか、宮芝か!」

 

宮芝は司波達也をやたらと擁護していた。つかさはそれを無視して今回、行動を起こした。だが、まさかこのような手で来るのか。

 

すでに民間人に三人の被害が出ている。いずれも怪我は重度で、一人でも助かれば幸運と思えるほどだった。最低でも二人の死者が出たとして、それを有耶無耶にできるだろうか。影響を考慮して真相は世間には隠されるにしても、情報部、それ以上に作戦を立案して実行に移した、つかさがただでは済まない。いかに国防軍と十山家の密約があるといえど、弱みがある中で宮芝の攻勢を受けきれるとは思えない。

 

権力者を使って横槍を入れてくるのでも、直接的に危害を与えてくるのでもなく、取り返しのつかない失態を演出して追い落としにかかってくる。そのためならば民間人が犠牲になろうとも構わないというのか。

 

司波達也以上に、宮芝は危険だ。宮芝は自分たちの正義のためなら、何をも犠牲にする。そんな者たちを国家の中枢でのさばらせるわけにはいかない。

 

つかさが改めて宮芝に敵意を募らせる一方で、達也はパペットを格闘戦で圧倒していた。体格では、パペットたちの方が上。けれど、技能には大きな差があった。

 

パペットがナイフを繰り出す動作は、魔法で加速されていた。しかし、達也は第三者の視点である街路カメラの映像でも分からない動きでパペットの背後に回りみ、首筋を手刀で打つだけで戦闘不能に追い込んでいた。

 

街路カメラに併設された想子センサーのモニターに目を走らせるが、魔法の使用は検出されない。それをつかさは、高度な隠蔽技術によるものと判断した。だが、その隠蔽技術は誰のものなのかが分からない。司波達也以外にも、ここには宮芝の手の者が潜伏している可能性が高い。宮芝の術士なら、そのくらいの欺罔は行える。

 

つかさはこの点での評価を保留とする。少なくとも現時点で判明したこと。それは達也の格闘戦能力が、つかさの事前予想より二ランクくらいは上なことだ。

 

「遠山曹長、このまま作戦を実行するのか?」

 

聞いてきた少尉は作戦の打ち切りを望んでいるようだった。

 

「ええ、続けましょう」

 

けれど、つかさは少尉の期待と異なる答えを返した。今回の失態はそう簡単には取り繕えない。そうなると、次の機会はない可能性が高い。だからこそ、つかさは何としても今回の作戦で司波達也の情報を集めることに固執した。

 

次なる作戦は、司波深雪の通っているマナースクールへの襲撃だった。スクールへの襲撃には米軍のスターダストを改造したパペットたちに加えて、つかさの私的な部下も送り込む予定だった。

 

しかし、パペットたちにはすでに暴走という実績がある。深雪の通うスクールに通うのは、高額の月謝を負担できる良家の子女ばかりだ。それは、暴走したパペットたちが標的以外を殺害をしたときに影響が大きいということでもある。そのようなところにパペットを突入させることはできない。

 

やむなく、つかさは自らの手勢だけでの襲撃を決行することになった。しかし、そちらの方も早々に躓くことになる。つかさの部下はスクールへの突入前に複数人の狙撃を受けて元から少ない人数を、更に減らしてしまったのだ。銃弾の方角から、おおよその居場所は掴むことができている。しかし、そちらに人を割くことができるほどの余裕がない。狙撃手は無視して突入を行うよりなかった。

 

スクールの警備員たちは、民間の犯罪組織では手を出せないレベルの腕利きだ。けれどもつかさの部下はそれを上回る腕を持っている。上手く死者を出さないように警備を突破し、生徒たちの護衛を制圧できる。そう考えていた。

 

けれど、どうやらこちらにも宮芝の手が回っていたようだ。最初の誤算は、生徒たちに混じって潜入させていた部下が、早々に襲撃者によって殺害されてしまったのだ。当然ながら、その襲撃者たちは、つかさの部下ではない。つかさの部下に見せかけた、おそらくは宮芝の刺客だろう。実際、優れた魔法師である司波深雪は、襲撃を妨害しなかった。

 

潜入させていた者たちは、情報部が抱える訓練を受けた工作員だ。そう簡単に身元が発覚するわけはない。それなのに、なぜ工作員だということが発覚したのか。そこまで考えて、つかさはようやく自らの失策に思い当たった。

 

そういえば、つかさが克人の元を訪れたとき、宮芝和泉守がどこからともなく現れて同道することになった。あのとき、なぜ自分は偶然に会ったものと思ってしまったのか。

 

婚約者という間柄であることもあり、つかさは宮芝和泉守が頻繁に克人の元を訪れているのだろうと何となく考えてしまった。だが婚約者であるなら、なおさら克人の帰宅時間くらい把握していそうなものだ。あの時間に行き合うというのはおかしい。

 

「まさか、ずっと前から私は監視されている?」

 

一体、どのようにしてなのか、方法は分からない。だが、そうとしか思えない。

 

その間にも、つかさの部下たちは次々と倒されていく。同じスクールの生徒が殺害された以上、生徒の護衛たちも投降という手は取らない。全力で抵抗をしてきている。中でも深雪とその護衛の力は想像以上だった。

 

深雪は侵入した部下が使用したアンティナイトによるキャスト・ジャミングまで無効化してみせた。キャスト・ジャミングは現在実用化している中で、最も有効な魔法妨害手段。魔法師でない人間が、魔法師に対抗する最強の武器。そのキャスト・ジャミングを無効化して見せたのだ。これは脅威というレベルではない。

 

「……この国に人を超えたものの居場所はありません。もしも貴方たちが人外の怪物だとすれば、いなくなってもらうしかない」

 

つかさがそう呟いたのと、鋭い衝撃が背から胸に突き抜けたのは同時だった。

 

「違うな、曹長。この国に必要ないのは、無能だよ」

 

発言者は、名目上の指揮官であるはずの少尉だった。そして、つかさは今、自らの胸を貫いている刃を呆然と見下ろしていた。

 

「さらばだ、日本の害悪」

 

つかさの胸を貫いていた刃が引き抜かれ、鋭い風切り音が聞こえた。それが、つかさの耳にした最後の音だった。

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