魔法科高校の劣等生と幻術士   作:孤藤海

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入学編 風紀委員出動初日・闘技場

「どうだ壬生、これが真剣だ!」

 

小体育館「闘技場」にて、剣術部の桐原武明からの『高周波ブレード』での攻撃を辛うじて躱した壬生紗耶香は、懸命にその剣筋を見極めようとしていた。

 

『高周波ブレード』は振動系の近接戦闘用魔法で、使用すれば竹刀に真剣の鋭さを与えることができる。実際、竹刀が掠った紗耶香の防具には細い線が入っている。防具を裂ける剣を竹刀で防ぐことはできない。

 

紗耶香に向けて再び竹刀が振り下ろされる。

 

躱すしかない紗耶香が見つめていた桐原の剣先が、不意に誰かの背中によって遮られる。背中から分かったのは、相手が男子生徒であるということのみ。

 

危ない、そう声を出す前に強烈なサイオンの波動が紗耶香の頭を揺らした。同時に高周波ブレードから発せられていた不快な音が消えた。

 

次に聞こえてきたのは、板張りの床を鳴らす落下音。紗耶香が目を向けた先にあったのは、俯せにひっくり返された桐原と、その桐原の左手首を掴み、肩口を膝で抑え込んだ男子生徒の姿だった。状況から、男子生徒が桐原を投げたのだと分かった。

 

腕章から、その男子生徒が風紀委員であることは分かる。一方、ちらりと見えた制服から、新入生が二科生であることも明らかだった。

 

剣術部を中心としたざわめきが広がる中、男子生徒は桐原を組み伏せたまま通信ユニットを取り出した。

 

「こちら第二小体育館。逮捕者一名、負傷していますので、念のため担架をお願いします」

 

「おい、どういうことだ?」

 

その発言を聞いた剣術部員が男子生徒を怒鳴りつける。

 

「魔法の不適切使用により、桐原先輩には同行を願います」

 

風紀委員の男子生徒の発言に、剣術部員が激昂した。

 

「おいっ、貴様っ! ふざけんなよ、ウィードの分際で!」

 

怒鳴りながら、風紀委員の男子生徒に向けて手を伸ばす。

 

「やめろっ!」

 

風紀委員が急に慌てた様子で叫んだが、それで剣術部員が止めるとは思えなかった。けれど、剣術部員は動きを止めた。腹から刀を生やして。

 

「えっ」

 

剣術部員の口から呆然とした声が漏れる。

 

「禁止用語の使用により、風紀委員の権限により、処刑する」

 

その直後、聞こえてきたのは女子の声であった。

 

「和泉、風紀委員に処刑の権限はない」

 

男子生徒が呆れきった様子で言う。

 

「大丈夫だ、私は死人を操る術を修めている。死体を動かして、対外的には生きていることにしてしまえばいい」

 

剣術部員の体から刀が抜かれる。ゆっくりと前へと倒れる剣術部員の背後から現れたのは小柄な女子生徒の姿だった。

 

第一高校の一科生の制服に付けられているのは、左胸に八枚花弁のエンブレム。しかし、その女子生徒は両胸に水色桔梗があしらわれていた。

 

突然の流血に誰もが動きを止めていた。しかし、仲間が重傷を負わされたと気づいて他の剣術部員たちも動き出そうとする。しかし、それよりも和泉と呼ばれた女子生徒が動くほうが早かった。

 

「全員、動くな。動けば、こいつを殺す」

 

腹を押さえて蹲る男子生徒の首に刀の切っ先が添えられる。脅しでないことは躊躇わず刺した先の一件と、容赦なく首筋から流れる血の雫が雄弁に語っていた。

 

「和泉、とりあえず止血をするぞ」

 

「うむ、許可しよう」

 

男子生徒は剣術部員に背を向けさせると、背面の傷の止血にかかる。

 

「誰か、治療魔法を使える者はいないか?」

 

「達也くん、私が」

 

「エリカか。そうだな、エリカなら応急処置の心得がありそうだ」

 

達也と呼ばれた男子生徒を中心に剣術部員の治療が開始される。彼らの落ち着いた様子から、おそらく剣術部員はすぐに命に障る傷ではないのだろう。

 

「ふむ、こうなれば君たちに危害を加えようとする馬鹿もおるまい。ならば、私はそこに転がっているゴミを連れて先に帰るとしよう」

 

女子生徒はそう言って血払いをして納刀すると、桐原の元へと進む。

 

「おい、立て、愚図」

 

言うなり、女子生徒は桐原の顎を蹴り上げる。

 

「やめろ、和泉」

 

「おや、君はこの馬鹿を庇うのだな」

 

「俺には嗜虐趣味はない」

 

「そうか。まあ、ここは従おう」

 

言葉通り、女子生徒はそれ以上の暴行は行わずに桐原を立たせると、体育館から連行しようとする。が、あと一歩で体育館を出るという所で急に立ち止まり、振り返った。

 

「情けない弱者どもだな。自らの仲間が連れ去られようとしているのに、私に立ち向かおうという者は誰もいないのか?」

 

そう問いかけた女子生徒の顔は、ぱっと見の可愛らしさとは似ても似つかない獰猛な獣の雰囲気を漂わせていた。その挑発に剣術部員たちが顔を見合わせる。

 

あの女子生徒は危険だ。任せてしまえば、桐原がどうなるか分からない。けれど、あの女子生徒に立ち向かった場合、命の保証はされないだろう。たった一人の小柄な女子を相手に、剣術部員たちは誰一人として動けずにいた。

 

「おい、やめろ!」

 

今度の声は体育館の外からだった。

 

「全員、動くな」

 

そう言いながら入ってきたのは、風紀委員長の渡辺摩利だ。

 

「おや、風紀長殿の到着か。ならば、私の役割はここまでだな」

 

「おい、待て、宮芝! 宮芝! ええいっ」

 

女子生徒は桐原を放置し、摩利の制止を無視して歩き去っていく。無視された摩利はというと、第二小体育館内の状態を目にしてしまったために追うに追えないようだった。

 

「お前たち、話はしっかりと聞かせてもらうからな!」

 

やや八つ当たり気味に紗耶香たちと剣術部員の双方に言うと、摩利も刺された剣術部員の治療に参加する。

 

「とんでもないことになってしまいまして、すみません」

 

自分と桐原との諍いが何やらとんでもない事態に発展してしまった。紗耶香が謝罪したのは男子剣道部主将の司甲だ。

 

「いや、壬生の責任ではない。気にしなくていい」

 

そう答えた司は、最初に飛び込んできた風紀委員の男子を見つめているようだった。二科の風紀委員というのは初めて見る。珍しさがあるのは確かだが、司が見ている理由はそれだけではない気がする。

 

しかし、その考えはすぐに霧散した。きっと司は高周波ブレードを振るう桐原の前に飛び込んだ勇気を評価しているのだ。そうに違いない。

 

紗耶香の疑問は形にならず、乱暴な一科生に対する反感だけが残った。

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