魔法科高校の劣等生と幻術士   作:孤藤海

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動乱の序章編 襲撃の後始末

四月二十三日。十文字克人は十文字邸の応接室にて、十山家当主である十山信夫の訪問を受けていた。軽い挨拶を行い、飲み物に口を付けた後、克人は切り出した。

 

「して、十山殿、本日の訪問はいかなる用向きでございますか?」

 

つかさの父である十山信夫の年齢は克人の父よりも上だ。そして、今日の話題も難しい内容になるのは決定的。克人は深夏に倣って厳しい口調で訊ねる。

 

「率直にお聞かせいただきたい。十文字家はなぜ、これほど四葉に肩入れなさるのか?」

 

同じ研究所を出自として持つ者として、似たような役割を持つ者として、これまで十文字家は十山家と協調路線を継続してきた。しかし、今回は四葉家が十山つかさを殺害することを黙認した。十山はそう考えているようだ。

 

「一つ勘違いをされているようだが、我々は四葉に与したつもりはない」

 

「では、娘のことは?」

 

「つかささんには、司波達也に関与しないよう宮芝家とともに警告を行っていた。それにも拘わらず勝手な行動に出た結果です。娘さんを亡くしたばかりの十山殿に言うのは酷かもしれないが、国家権力の後ろ盾があれば何をしても許される等という呆れた勘違いをしなければ、娘さんは命を落とすことはなかった」

 

「全ては娘の自業自得だと?」

 

十山の問いに、克人は答えを返さなかった。それくらいは自分で考えろと、十山を突き放したのだ。

 

「ならば質問を変えましょう。克人殿は随分と宮芝に肩入れをしているようですが、それはどのような理由からですか? 克人殿に限ってまさか婚約者からの色仕掛けに屈したということはないでしょう?」

 

「他家の判断にあれこれと申されるより、まずは自分たちの現状認識を改められてはいかがですか? 四葉家の次期殿と婚約者との仲睦まじさは第一高校に通っていた者ならば誰もが知っています。もしも次期殿に何かあれば、婚約者は例え国を灰にしてでも復讐を果たすでしょうし、それは逆の場合でも同じです。そもそも四葉自体が身内の復讐のためならばどのような犠牲でも払うこと、十山殿が知らぬわけはないでしょう」

 

かつて一つの国をも滅亡に追いやった壮大な復讐劇は、克人ですら聞き及んでいる。十山の年代で知らぬはずがない。

 

「十山殿は日本という国と四葉の一族との間に争いを引き起こしかねない、危険な火遊びに手を出した。申し訳ないが、いかに当家と十山家との仲とはいえ、そこまでの愚か者に手を貸すような真似はいたしかねる」

 

厳しい口調で告げると、十山は初めて俯いて唇を噛んだ。ようやく自分の娘の取った行動が考えなしであったことを理解したらしい。

 

実の所、宮芝家と十山家は、その考え方も行動も近しいところはある。ただ、宮芝家は相手が獅子であるのか兎であるのかを見極める眼を持っている。一方で十山は相手を理解する頭が欠けている。それは僅かであっても、とてつもなく大きな差だ。

 

「ちなみに、これは十山家に対してのみ行われることではない。先日の二十八家会議で四葉の次期殿を担ぎ上げようとした七草が、どのような目に遭ったかはご存知であろう?」

 

十山家は二十八家の会議に欠席している。とはいえ経過は入手しているはずだ。

 

「十文字家の考えは、これまでお伝えした通りである。さて、それを踏まえて十山殿、貴方は決断をせねばならない」

 

「決断?」

 

「十山家自体が危険な思想を持っているのか、あくまで持っていたのは十山つかさという個人であるのか、証を立てねばならない」

 

「どういうことだ?」

 

「宮芝はすでに十山家の取り潰しについても視野に入れているように見える」

 

克人が言うと、十山が息を呑んだ。

 

「十山殿、一族の存続を考えられるなら、まずは宮芝に申し開きをなさった方がよい」

 

「我々に宮芝に屈せよと仰られるのか?」

 

「矜持を守って名を惜しむなら、それも一つの道でしょう」

 

克人の言葉は、屈しないなら滅ぼされる覚悟もせよという意味だ。

 

「少しだけ考えさせてください」

 

そう言った十山の顔色は、蒼白だった。そのまま十山は俯いて部屋を出て行く。十山つかさは間違いなく愚かだった。だが、それでも十山信夫にとっては大切な娘だったのだろう。克人としても、悪し様に言うことに胸が痛まないわけではない。

 

「さて、十山の当主は帰ったようだな」

 

頃合いを見計らって克人がいる応接室の扉が開き、隣の部屋から深夏がやってくる。

 

「ああ、最後は少し気の毒だったな」

 

「それでも、これから先には十山の力が必要だ。それに、国防軍と四葉の関係が悪くなることにも不利益しかないからな」

 

それは克人も分かっている。だから、敢えて国の危機であったような言い方をしたのだ。権力者の魔法師としての側面を持つ十山家は、日本あっての十山家である、という考えは強く持っている。それゆえに国を危機に陥れるところだったという言葉に弱い。

 

「それはそうと、七草たちの方はどうなってる?」

 

「それが、面白いことになっているよ。見るか?」

 

そう言うと、深夏は自らの端末で一本の動画を再生し始めた。それは、二十八家の会議の中でも話題だけは出た歌って踊るというものだった。出演者は勿論、七草香澄と泉美の姉妹。二人は適度に可愛らしい服と、持ち前の容姿を生かして画面の中で楽しそうに歌っている。ただし、少しばかり普通と違うところがあった。

 

それは、自ら演出を行いつつ、歌って踊ると題されていることだ。そして、その意味は少し見たところで分かった。香澄と泉美は踊りの途中でCADを操作して魔法によって煌めく七色の光を作り出していた。

 

どうやら魔法による舞台演出を行うことで、軍事面とは違った魔法の使い方を示しているようだ。はっきり言って魔法力の無駄遣いという内容だが、一般受けという意味では悪くないように思われた。

 

しかし、その楽し気な歌と踊りは、唐突に終わる。魔法の制御に失敗して、派手過ぎる水の噴出で二人がずぶ濡れになってしまったのだ。二人は悲鳴を上げた後、前髪からぽたぽたと水滴を垂らしながら慌てて録画を止めていた。

 

「七草の妹なら、あの程度の魔法を失敗はしないだろう。あれは宮芝の指示か?」

 

そこまでの動画の内容を見た率直な感想を、克人は深夏に尋ねる。

 

「その通りだよ。最初から完璧な歌と踊りと演出を見せても感心されると同時に、反発も招きかねないからな。何度も失敗しつつ、試行錯誤の上で成功するのでないと、応援してやろうという気は起きないだろう?」

 

「そんな八百長みたいな真似、よく二人が了承したな」

 

「二人には何も知らせずに、装置に細工をしたからな」

 

どうやら二人にも予想外の事故だったようだ。それで、あんなに慌てた様子が撮れていたのか。てっきり演技が上手いのだと思った。

 

「それで、これが第二回目の投稿だ」

 

そう言って深夏が再生した動画は曲自体は一回目と同じものだった。二人は練習によるものか、双子ならではのなせる業か息のあった踊りを見せている。今回は水の演出も無事にクリアしてクライマックスへと近づいていく。

 

しかし、サビに入ろうかというところで、またしてもアクシデントが起きる。二人はどうやらスモークによる演出を試みたようだが、今度はこれが濃すぎたのだ。放送される画像は一面の白で、中からは咳き込むような声が聞こえてくる。ようやく中から姿を見せた香澄が涙目で撮影を打ち切り、二回目の放送も失敗に終わった。

 

「よくもまあ、こんな茶番をさせたものだな」

 

「けれど、放送としては面白いだろう?」

 

ずぶ濡れになるにしても、咳き込んむにしても、二人とも美少女なので、それなりに様になっている。いや、むしろ美少女だからこそ、面白みが増していると言えなくもない。

 

「それで、次は何をやらかしたんだ?」

 

「いや、次は普通に成功だよ」

 

そう言って深夏は、三本目の動画を前半部を飛ばして克人に見せた。その動画の中では二人は全ての演出に成功し、二人で手を叩いて喜び合っていた。これも二人が美少女であるゆえに、見栄えのよい動画になっている。

 

「しかし、七草たちなら、このくらいの魔法は難しくないだろう。どうして宮芝が細工をしたと気づかない?」

 

「それは、始めから扱いにくいCADを渡しているからだな」

 

「扱いにくいCAD?」

 

「ああ、難易度を上げるためとして、ものすごく使いにくい宮芝の倉庫に眠っていた骨董品を使わせているからな」

 

それで、二人は自分が魔法の制御に失敗したと思い込んでいたのか。宮芝は単なる動画の配信にしても、相変わらずのようだ。

 

ひとしきり成功を喜んだ二人は、次の動画の配信に向けて演出などのリクエストを受け付けると発信していた。これで双方向の交流を意識づけるつもりなのだろう。そして、今度はリクエストされた演出を成功させるために四苦八苦するのかもしれない。それは魔法がけして簡単なものではないと印象付けることにも繋がるだろう。

 

それにしても二人が楽しんで出演しているようでよかった。克人にとっては、それが何よりの安心材料だった。

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