四月二十四日。宮芝淡路守治夏は達也を郊外の民家に呼び出し、相談をしていた。
同席しているのは治夏の側近三名の他、相談の関係者として早川小春。そして、ある意味では当事者である関本勲だ。
相談の内容は関本の強化についてだ。先の情報部の拠点を攻めたときの戦いで、量産型の関本たちは敵の防衛線を突破することができなかった。元より力不足の感はあったものの、それがはっきりとしてきた以上、対策は必要だ。
「というわけで、何とかならないだろうか」
「何とかと言われても、俺は機械の改良など専門外だぞ」
「それは何となくだけど、分かっている。だから、私が頼みたいのは魔法式の改良だ」
達也の専門に近づけたはずだが、なぜか達也は嫌そうな顔をした。
「なぜ、そこで嫌そうな顔をされなければならないんだ?」
「兵器の改良をしろと言われ、嬉しそうな顔はできないな」
「そうは言っても、味方があの体たらくでは君にとっても不安なのではないか?」
「達也様、私たちにもっと、達也様のために戦う力をください」
自分の分身というか、劣化コピーというかの量産型の戦いには思うところがあったのか、関本が懇願の声をあげる。しかし、自らを心の底から慕ってくれる関本に対して向ける達也の視線は、非常に醒めたものだった。
「味方と思わせたいなら、まず思考を何とかしてくれないか」
挙句、思想調整をしろと言うも同然のことを言ってきた。
「量産型の思考はオリジナルを元にしているからな。無理な相談だ」
そんなに機械男に愛を叫ばれるのは嫌なものだろうか。まあ、治夏とて機械女に言い寄られても少しも嬉しくなどないのだが。
「それはともかくとして大国との戦いが避けられそうにない現状、関本の強化は喫緊の課題だ。あれが使い物になるのとならないのでは、魔法師の犠牲者に大幅な差が出る。君としても、多くの魔法師が犠牲になる事態は許容できないのではないか?」
「まあ、俺も魔法師の被害はできる限り抑えたいとは思っている。それで具体的にどの魔法を改良したいんだ?」
「今の関本は近接型だ。中距離戦を行えるようにフォノンメーザーを使わせたい」
有効な中距離武器がないから防衛線を構築する相手に対して懐に飛び込むことができず、徒に被害を増やしてしまったのだ。
「フォノンメーザーはかなり高い魔法力が必要な魔法だ。もう少し使いやすい魔法がいいと思うが?」
「フォノンメーザーなら見た目にも魔法が使われていることが分かり易いだろう。見た目で分からない念動力による攻撃に奇襲効果を持たせられるし、何より人間との混成軍を形成したときに魔法の相克を起こしにくくなる。何よりも有効な対抗魔法が存在しないので、安定した戦いが期待できる」
「そうは言っても、関本の魔法力では厳しいと思うがな」
関本の魔法力が高ければ、もっと強度な障壁魔法を展開して接近戦に持ち込むことも可能となる。それができない程度の魔法力しかないから中距離戦の能力を高めようとするはずなのに、強い魔法を使えるようにしたいという要望が理解できないのだろう。
「撃てるのは二発くらいでも構わないと思っている。数発だけでも有効な攻撃ができるのなら、その間に接近戦に持ち込むことも可能となるからな」
達也はどうしても個の能力を主眼に置いてしまうようだが、関本の最大の利点は数を揃えられる点だ。仮に一体につき撃てるのが二発だとしても、後衛の射撃の間に他機が接近という手段も使えるし、撃ってしまった機体から前衛に回ることもできる。要は均質化しがちな関本たちに手段を与えられれば、それでよいのだ。
「それに何より、フォノンメーザーは見た目が派手です」
そう言い添えてきたのは平河小春だが、その発言は完全に逆効果ではないだろうか。
「魔法を選択する際に見た目は、あまり考慮すべきではないと思うが」
思った通り、達也も完全に懐疑的な目になっている。だが、それでも平河はめげない。
「高周波ブレードだけではこれからの戦いでは不十分です。関本には何としても中距離での武器が必要なんです。それが完成して初めて、関本さんは戦士に生まれ変わることができるんです」
ちょっと意味が分からない。戦士に生まれ変わるって何?
「ゆくゆくは中距離支援用の関本キャノンも開発しなければなりません。両肩に背負った重砲型のCADからフォノンメーザーを放つ関本キャノン。彼らが数十体、肩を並べて一斉射撃を行うんです。それはもう最高の光景ではありませんか。早く実現……あ、でもその前に射撃指揮システムを開発しなければなりませんね!」
え、何でこんなに平河はテンション高いの?
「まあ、一応はやってみるが、期待外れでも文句は言うなよ」
そう言った達也は、そっと平河から視線を逸らしていた。あ、これ以上、関わり合いになりたくないのね。分かります。
「ま、まあ余談はさておき、新ソ連、USNA共に何やら不穏な空気が漂っている気がしてならない。我々もできる限り戦力を高めておかねば、来たるべき大きな戦いを生き延びることはできないだろう」
「せっかくのところ悪いが、そのような国と国との大きな戦いとなれば四葉は関りを持たないと思うぞ」
「ちょっと、それは冷たいんじゃないのか」
「一民間人としての、当然の判断だ」
達也は軍人でもあるはずだが、達也自身も周囲もお手伝いくらいにしか考えていない様子が見えたので、これは言っても無駄だろう。純粋な民間人でありながら情勢が不穏とみれば真っ先に駆けつける一条を少しは見習ってもらいたいものだ。
「君の気持ちは、ひとまず分かった。それならそれで四葉が表に出なくともよくなるように、少しでも助言をくれないか」
「そうだな……助言と言えるものではないかもしれないが、量産機に付けている隠し腕の機能は本当にいるのか?」
隠し腕とは関本の胴体に内蔵されている二本の腕のことだろう。それは分かるが、有効性を問われても、治夏はあまり正確なことは言えない。なので平河を見て発言を促す。
「いるいらないの問題ではありません。格好良さの問題なのです」
「ちょっと待て! 本当にそんなことのために付けた機能なのか?」
「そのためだけではありません。少しは戦闘力も上がります」
「少しか、少しだけなのか!」
「その少しの差が勝敗を分けることも、ないとは言えません」
うん、だいたい分かった。概ね無駄な機能なのだな。
「あの隠し腕はどのくらい役に立つのか、一方どれくらいコストがかかっているのか。正直に言え、平河」
「隠し腕が役に立つ場面は接近戦ですが、現状は接近戦に持ち込むことが難しいので、役に立つとしたら中距離戦能力を向上させた後になると思います。一方のコストですが、二割ほどは割高になっているかと……」
「なんで、そんな無駄な機能を付けた!」
ほとんど使われない装備のために二割のコスト増など馬鹿げている。それなら、あと二割、製造量を増やした方がいいに決まっている。
「いいか、平河。隠し腕の機能はすぐに廃止だ」
「ううっ、分かりました。第二世代関本からは隠し腕の機能を廃止します」
そう言う平河は非常に無念そうだ。それにしても、いつから平河はこんなふうになってしまったのだろうか。謎だ。
「ぱっと見た限りでは、それくらいだ。だが、戦闘力の前に、やはり唐突に俺の名を叫ぶことがあるのは……」
「そればかりは、どうしようもありません」
きっぱりと言った平河に達也が肩を落とした。まあ、こればかりはオリジナルの強い希望でもあるのでやむを得ない。
ともかく、こうして第二世代関本の開発は急ピッチで進められることになった。
ところで、第二世代関本って何?