魔法科高校の劣等生と幻術士   作:孤藤海

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動乱の序章編 帰国後の報告

四月二十六日、USNA軍統合参謀本部直属魔法師部隊『スターズ』の惑星級魔法師であるシルヴィア・マーキュリー准尉は無事にスターズの本部に帰還した。

 

「シルヴィ、よく無事で」

 

本部でシルヴィアを出迎えたのはスターズの総隊長であるリーナだった。

 

「いえ……」

 

無事に帰国できたことは嬉しくないはずがない。しかし、シルヴィアたちは日本で多くの兵を失ってしまった。そして、今も宮芝に連れていかれて戻ってきていない者も多い。その多くは遠くない未来の死が約束されたスターダストとはいえ、それでも自分たちだけでの帰国を喜ぶ気分にはなれなかった。

 

「リーナの方は無事に任務を終えられたようですね」

 

今回のシルヴィアの任務はスターズに下されたものでなく、情報部が作戦に適していると判断した魔法師に個別に下したものだ。シルヴィアが日本に向かっている間、本隊は別に旧メキシコの暴動の鎮圧に向かっていた。

 

「ええ、あまり気分のよい結果にはならなかったけどね」

 

初動に若干の遅れが出たスターズが現地に到着したときには、すでに現地で包囲されていた魔法師部隊、ウィズガードと暴徒との最初の衝突の後だったと聞いている。けれども、リーナたちは暴徒とウィズガードの双方に死者が出ないように、実に二週間近くを費やして暴動を鎮圧させた。

 

「ねえ、シルヴィ、今回の任務はタツヤの捕縛だったと聞いたけど、本当なの?」

 

「シバタツヤの捕縛というのは正確ではありません。作戦はあくまで『グレート・ボム』の戦略級魔法師確保作戦のための事前の情報収集でした」

 

シルヴィアはリーナの日本潜入の際に同行した魔法師の一人だ。それゆえ日本の事情に通じていると評価されたのだろう。

 

「けれど、私は何もできませんでした」

 

まずは日本に潜入して早々に、秘密の工作拠点として建設された工場を日本の魔法師部隊に急襲された。シルヴィアは直接戦闘に長けていないながら『音声伝達』、『遠隔聴』などの得意魔法を駆使して管制で味方を支援した。けれども、USNAが派遣していたのは後方支援要員が多かったのに対して、日本軍は近接対人戦闘に優れた奇襲部隊だった。

 

何よりの脅威はハイパワーライフルを完全に受け止める驚異の防御力だ。結果、日本の魔法師の想像以上の練度によりシルヴィアたちは完敗したのだ。

 

「リーナはかねて言ってましたね。日本の魔法師の戦闘能力は異常だと」

 

「まあ、ミユキとタツヤに関しては、あの四葉の魔法師だったみたいだから戦闘能力が高いのは当然かもしれない。けれど、それ以外にもミヤシバの魔法師も実戦では非常に手強い相手だし、それ以外も恒星級の魔法師がゴロゴロいました」

 

恒星級とは、一等星級と二等星級の魔法師のことだ。シルヴィアは恒星級の下の星座級の更に下の惑星級にすぎない。それでは日本の魔法師相手に歯が立たなかったのも道理だ。

 

「ところで、シルヴィを助けたのがタツヤだというのは、本当なの?」

 

「ええ」

 

「なぜタツヤがシルヴィのことを?」

 

「それは分かりませんが、タツヤは私のことを認識していませんでした。おそらく上が手を回してくれたのだと思いますが……」

 

なぜタツヤが自国の組織と敵対してまでシルヴィアのことを助けてくれたのかは全く分からない。更に言うならミヤシバまでが手を貸していたのは、もっと不可解だ。

 

ミヤシバについては、スターズの副長であったベンジャミン・カノープス殺害の犯人として警戒するよう伝えられていた。カノープスが殺害されたのは、テロを起こした犯人を自分たちの手で始末するために日本の魔法師の活動を妨害を試みたためと言われている。或いは平時は違うのかもしれないが、その可能性は低いだろう。

 

ミヤシバはUSNA統合参謀本部情報部内部監察第一副局長であるバランス大佐の暗殺にも関与していると言われているのだ。はっきり言って、今回は助けられる結果になったとはいえ、ミヤシバに対する印象は今でも悪い。

 

「今後、上層部はどのように動くと思いますか?」

 

今回の作戦の失敗で痛感した。生半可は戦力では日本には通用しない。

 

「どのような取引があったのかは分からないけど、シルヴィたちを解放したのだから、当面の敵対は避けられると思う。それにしばらくは我が国の工作員が日本に潜入することは難しいでしょうから」

 

日本によって連れ去られたスターダストの一部が、なぜか街中で民間人を殺害するという暴挙に出た。日本の発表では彼らの身体から薬物が検出されたという。そして、それに対して大使館に厳重な抗議がされたと聞いている。

 

彼らは紛れもなくUSNAの兵士たちだ。事実としては薬物は日本によって投与されたのであろうが、それを証明することは難しい。正確に言えば、日本に極秘で潜入していたことを明らかにせずに、証明することが難しい。

 

そして、極秘に潜入したことを明らかにすることは、今のUSNAにはできない。箱根で引き起こされたテロの首謀者はUSNAの国民だったためだ。あのテロの首謀者は、間違いなく国家の思惑とは関係なく勝手に日本に密入国した。けれど、今回の潜入を明らかにしてしまえば、あれもUSNAの工作だったとの疑いを招くことは避けられない。

 

「しばらくは手を引くとして、その後は、どうなるのでしょうか?」

 

「シンクロライナー・フュージョンの使用でペンタゴンは日本の秘匿された戦略級魔法師に対する警戒感を強めているようです。このままとはならないでしょう」

 

「それが、果たして国益に適う行為なのでしょうか?」

 

四葉はかつて私怨で大漢に攻撃を仕掛け、崩壊にまで追い込んだ。直接的に滅亡させたのは大亜連合とはいえ、あれは四葉の攻撃での疲弊が原因だった。四葉は損得勘定ではなく、一族の仇という極めて感情的な理由で執拗な攻撃を続けたという。

 

四葉達也を害することは戦略級魔法への対策としては有効かもしれない。けれど、それによって激しい報復戦に巻き込まれては意味がないのではないか。日本での戦いを経験してシルヴィアはそう考え始めていた。

 

「私もその点は憂慮しています」

 

シルヴィアの思いは口にせずとも伝わったのだろう。リーナが深刻な顔で頷く。

 

「四葉の魔法師にミヤシバが手を貸したとき、果たしてどれくらいの脅威度になるかは私も全く想像ができません」

 

戦闘能力も決して低くはないものの、ミヤシバの本分は隠密術にあるという。戦闘能力の面でも隊内屈指のカノープス大佐が友軍に何の兆候も知らせることなく消息を絶ったのも、その隠密術による奇襲ではないかと見られている。そのミヤシバが高い戦闘能力を持つ四葉と手を結んだら、その脅威度は跳ね上がる。

 

USNAとかつての大漢では実力が全く異なる。仮に四葉がミヤシバの力も借りて全力で攻撃を仕掛けてきたとしても、大漢のようにはならないだろう。けれど、少ない被害で収められるとも思えない。

 

「けれど、おそらくそう遠くない未来に、USNAが日本と戦火を交えることは避けられないような気がします」

 

「リーナには、何かそうなると考えている根拠があるのですか?」

 

「それは……」

 

そう言ったリーナは逡巡する様子を見せてから、声を潜めてシルヴィアに伝えてくる。

 

「まだ誰にも言ってないのですけど、私が出動した旧メキシコでの暴動には、ミヤシバが関わっている気がしてならないのです」

 

「それは本当ですか?」

 

「本当も何も、気がしているというだけだから明確な証拠は何もないのよ。けれど、獲物をじわじわと弱らせていくような、そんな狙いをあの暴動からは感じ取りました」

 

リーナの表情は確信を持っているわけではないようだ。けれど、無視できる違和感でもなかったのだろう。

 

あるいは、すでに日本との戦いは水面下で始まっているのかもしれない。シルヴィアはそんな思いを抱いた。

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