魔法科高校の劣等生と幻術士   作:孤藤海

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入学編 風紀委員出動初日・部活連本部

閉門時間間際の部活連本部。

 

「以上が剣道部の新歓演武に剣術部が乱入した事件の顛末です」

 

達也が目撃し体験した事件の一部始終、壬生紗耶香と桐原武明の口論から二人の私闘を経て、宮芝和泉の乱入と剣術部員の傷害までの顛末を聞き、渡辺摩利は大きく息を吐いた、

 

「大きな乱闘にならずに収めたと評価すべきか、あれだけ騒ぎを大きくしたことを呆れるべきか、何とも評価に困るな」

 

和泉が傷つけた剣術部員は軽傷だった。怪我の程度で言えば鎖骨を骨折した桐原武明の方が重傷だったほどだ。

 

「しかし、壬生紗耶香の証言では剣術部員は随分な重傷に見えたという話だったが、あれはどういうことだ?」

 

質問をしたのは部活連会頭である十文字克人。苗字に「十」を冠するナンバーズの名門、十文字家の総領だ。

 

「和泉が行ったのは、持っていた刀で剣術部員を浅く刺すということ。幻術を使用して、刃先が剣術部員の体を貫通したように見せたこと。そして、剣術部員に重傷を負ったと思い込ませる精神干渉系の魔法を使ったこと。最後の精神干渉系の魔法は弱いものでしたが、実際に刺されていたことと、幻影の刃を見たことで、かけられた本人が暗示を受け入れてしまったのでしょう。そして、壬生先輩は剣術部員の反応で、重傷だと思い込んでしまったのではないでしょうか」

 

「相変わらず、といったところか。あいつは詐欺師になれば大成するんじゃないか?」

 

「摩利、それ、笑えないから」

 

そういった反応をする時点で、真由美も摩利と同じようなことを思っていたことが伺えた。

 

「司波の話を聞く限り、随分と魔法の使用法に長けているようだな」

 

「これまでのところ、私は宮芝が強力な魔法を使っているところは見たことがない。だが、魔法の隠密性が恐ろしく高く、相手の隙を突くことに長けている。あと、これは単なる推測になるが、おそらく人を傷つけることを何とも感じない」

 

十文字に同意しつつ、摩利は和泉の危険性を伝えた。

 

「七草も同じ考えか?」

 

「ええ、残念だけど。彼女、風紀委員になる前に、自分が一科に上がるためなら一科生全員を殺すことも厭わないって言ってたみたいだから」

 

「それを実際に実行する可能性はあったか?」

 

「可能性ではなく、実際に行おうとした。そのときは達也くんたちの働きもあって未遂に終わったが、下手をすれば二人の退学者が出ていた」

 

摩利が言ったことで、十文字は質問の相手を達也に変えた。

 

「本当なのか、司波?」

 

「ええ、そうなっていたかと」

 

「なんだ、私は随分と信用がないんだな」

 

「渡辺を信用していないわけではない。なるべく多くの者の認識を問おうとしたまでだ」

 

「冗談だよ」

 

無論、摩利とて本気で克人のことを疑ったわけではない。深刻な様子の話が続いていたことに対する、箸休めみたいなものだ。

 

「ところで、取り押さえた桐原はどうした?」

 

「桐原先輩は保健室で非を認めておられたので、それ以上の措置は必要無いと判断し、保健委員に引き渡しました」

 

「ふむ……いいだろう。訴追は、摘発した者の判断に委ねられているのだからな」

 

達也の言葉に頷き、摩利は十文字に目を向けた。

 

「聞いてのとおりだ、十文字。風紀委員会としては、今回の事件を懲罰委員会に持ち込むつもりはない」

 

「寛大な決定に感謝する。今回のことを教訓とするよう、本人にもよく言い聞かせておく」

 

「頼んだぞ」

 

これで桐原のことは決着がついた。となると、残る問題は……。

 

「宮芝をどうするか、だな」

 

「野崎くんの怪我の程度は桐原くんより軽いものだったんでしょ。だったら、今回は不問でもいいんじゃないの?」

 

「しかし、首筋に刀を当てて殺すと宣言したんだ。手っ取り早く乱闘を収めるためとはいえ、人質を取っての脅迫は拙いだろう」

 

風紀委員には、警察と検察を兼ねた大きな権限が与えられている。けれど、そこまでだ。本来なら差別用語を使用したからといって、軽傷とはいえ刀で刺すという行為だけでも違反だ。今回は達也が襲われそうになっていたという状況を鑑みて、それは大目に見ることもできる。けれど、その後の発言まで加えれば明らかに許容範囲外だ。

 

「風紀委員のCADの不正使用が判明した場合には、委員会除名の上、一般生徒より厳重な罰が課されるということは説明していたはずだがな」

 

「お言葉ですが、委員長」

 

「何だ、達也くん」

 

「和泉はCADを使用していないようでした」

 

部屋の中にしばしの沈黙が流れる。そういう問題ではない気もするが、実際にCADを使用していないとなると、残るは傷害か刀剣類の不正使用だ。

 

「真由美、校則に刀剣類の扱いに関するものはあったか?」

 

「刃物で人を傷つけてはいけません、なんて校則あるわけないでしょ。校則以前に、傷害で普通に犯罪なんだから」

 

「まあ、当たり前だな」

 

刃物を振り回してはならない、という校則も同様に存在しないはずだ。窃盗や暴行など犯罪行為の禁止が校則に含まれていたら、逆にどれだけ治安が悪いのかと不安になりそうだ。

 

そうなると傷の程度が浅いことを、どう評価するか、だが。

 

「それを踏まえて、真由美、十文字、宮芝のことはどうすべきだと思う?」

 

「さっきも言った通り、私としては、今回は厳重注意くらいに留めた方がいいんじゃないかと思うけど。それ以上は変な報復がありそうだし」

 

「報復はともかくとして、今回に限れば重い処分は難しいだろうな。真剣は確かに危険だが、桐原の高周波ブレードを超えるものではない」

 

「やはり、そうなるか……」

 

真剣と高周波ブレードを比べてしまうと、殺傷力という面では高周波ブレードに軍配が上がる。すでに桐原を不問としてしまった以上、和泉を処分するとなると均衡を欠くことになってしまう。

 

「分かった。宮芝は厳重注意としよう」

 

とはいえ、あの和泉が注意をまともに聞き入れてくれるとは思えない。ほぼ時間の無駄になると思うと、厳しく叱る気も失せてしまう。かといって軽い注意で済ませて和泉が再び問題を起こせば、摩利がどのように注意をしたのか責められることになる訳だ。まったくもって、割に合わない。

 

「委員長、自分は失礼してよろしいでしょうか」

 

「ああ、いいぞ」

 

精神的な疲れにより、摩利の達也への対応は大変になおざりなものになった。

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