魔法科高校の劣等生と幻術士   作:孤藤海

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戦雲編 ミサイル攻撃

六月十日、早朝。宮芝淡路守治夏は北海道の余市を出港した国防軍のミサイル護衛艦の指揮所にいた。周囲には他に二隻の同型艦と、九隻の高速艦が展開されている。

 

治夏の座乗するミサイル護衛艦は同型艦三隻が並ぶ中の左翼に位置する。本艦隊の旗艦は中央の艦だが、反撃をされた場合に艦隊から離れていち早く離脱するために治夏は旗艦への座乗を避けていた。

 

治夏の艦に同乗するのは側近三名、松下隠岐守、結界術士二名とパラサイト金剛と量産型の関本が一機のみ。宮芝系の術士が極めて少ないのは、今回はミサイルの応酬となることが予想されるため近接戦の強い者や精神干渉系魔法の使い手は活躍の場がないためだ。

 

代わりに今回は十文字克人と十山家当主である十山信夫がいる。克人は今回の戦いの防御の要。そして十山信夫は攻撃成功のための要である。

 

各艦にはそれぞれ宮芝家の術士三名と十文字の魔法師二名、十山家の魔法師二名が乗り込み、攻撃と防御の補助を行う。宮芝の術士は、九隻の護衛の高速艦にも一名ずつが乗り込んでいる。彼らは全員、電波に対抗する魔法を修めた者たちだ。

 

最後まで、治夏たちの艦隊の出港は気取られたくない。そのため各艦に電波を逸らせる魔法を使用できる者を配置しておいたのだ。そして、各ミサイル護衛艦には衛星カメラからの画像を欺罔するための光学術式を得意とした術士も配置した。

 

未だ漆黒の闇に沈む海の中、静かに進む艦隊が沖へと進んでいく。もうじき攻撃予定地点に到達する。そうすれば、函館から出港した別のミサイル護衛艦二隻がウラジオストクに向けてミサイルを発射する。

 

今回の攻撃で用いるのは、対地攻撃用ミサイルの最新型であるブリューナクを二隻計十六発。治夏たちの艦隊は直接的には攻撃に関わらない。任務を果たして、さっさと帰投すれば危険は少ないはずだ。

 

それでも緊張は抑えられない。もしも敵がこちらの動向を掴んでいれば、ベゾブラゾフにトゥマーン・ボンバによる先制攻撃を受ける可能性もあるのだ。治夏には、その攻撃を防ぐ手段はない。

 

もっとも、その為に克人に付いてもらっているのだが、トゥマーン・ボンバは克人にも相当に負担になるはずだ。できれば、そのような場面にはなってほしくない。

 

治夏が内心の不安を解消できぬうちに、艦隊は攻撃予定地点に到達した。旗艦に配置した宮芝の術士から、攻撃準備が完了したかを問う式神が飛ばされてきた。この式神に返答を返せば、ほどなく攻撃開始の合図が下るだろう。

 

「心配ない。今回の攻撃はきっと上手くいく」

 

治夏の内心の不安を読み取ったのか、克人が先んじて声をかけてくれる。

 

「今回の攻撃の成功はすでに確信している。私が気にしているのは、これでベゾブラゾフを確実に葬れるか否かということだ」

 

今の治夏は宮芝家当主の代理だ。弱気になっていたなどとは言えない。口では強気なことを言いつつ、そっと指先だけを克人に触れさせる。

 

「さて、十山。今回の攻撃で負荷が大きいのは其方ら、十山の術者たちだが、全員、防御を施す対象は認識できているな」

 

「はい、すでに全員の情報を記憶しています」

 

「よかろう、では参ろうか」

 

旗艦にいる部下に向けて準備完了の式神を飛ばす。これで賽は投げられた。後は事態の推移を見て、臨機応変に対処をするのみだ。すぐに旗艦から式神が返ってきて、攻撃開始の指示がでたことを伝えてくる。

 

「函館を出港した護衛艦和賀と久慈がブリューナクを発射しました」

 

少しすると、量産型関本からの通信を傍受したパラサイト金剛が、治夏に報告してきた。今頃は夜闇を切り裂き、ブリューナクがウラジオストクへと向かっているのだろう。

 

「あと五分ほどで着弾予定」

 

聞こえてきた声に十山が緊張を高めるのが見て取れた。

 

「着弾まで三分」

 

もしも、この攻撃が全て迎撃されてしまったら、作戦の立案に関わった宮芝にも厳しい目が向けられることになる。加えて、この戦法が今後は用いれなくなってしまう。

 

緊張に強張る治夏の肩に、そっと何かが触れたのが分かった。軽く目を向けても何も見えない。けれど、微かに感じる想子の状態から、克人が魔法を使ったのだと理解した。おそらくは極薄、極小のファランクス。治夏を勇気づけてくれる克人のとっておきの魔法だ。

 

そうだ。この日のために平河千春は連日、徹夜で調整を続けた。松下隠岐たちも艦隊の隠蔽術式を幾度もの相談で決定し、少しでも精度を上げようと修練に励んだ。森崎も今回の作戦では役に立てない分を、と治夏が余計なことに手を取られないようにと自分の本分で力を尽くしてくれた。

 

その者たちの努力を自分が信じずしてどうするというのか。

 

「着弾まで一分」

 

「金剛、通信を傍受した際には即座に十山に展開せよ。他のミサイル護衛艦の関本たちにも同様の指示を再度、与えておけ」

 

「了解しました」

 

パラサイト金剛が、ほどなく聞こえてくるはずのパラサイト間の通信に集中する。

 

「一号機から通信、迎撃ミサイルが発射されたようです」

 

その声を受けて十山信夫が遠距離の味方へと障壁魔法を展開した。十山家の魔法は情報次元の座標を元に離れた相手にも障壁魔法を展開することができる。その障壁魔法を、飛行するミサイルの先端に括り付けられた量産型関本に使用したのだ。

 

今回の障壁魔法は、距離が五百キロ近く離れていること、飛行するミサイルが高速であることから、極めて難易度が高い。それを補助するためにUSNAのスターダストから脳を取り出して作成した補助演算機を十山の術者に配備してある。各艦に量産型関本を乗艦させたのも術者のイメージを補強することで、より魔法の行使を円滑にするためだ。

 

とはいえ、十山の障壁魔法は迎撃ミサイルを受け止めきれるほどではない。まず最初は量産型関本たちが念動力も用いて展開する兵器による迎撃となる。それでも止められないときは関本自身が飛びついての撃破だ。

 

はっきり言って、この迎撃の有効性は未知数だ。訓練の為にブリューナクを発射するわけにもいかなければ、迎撃ミサイルの発射も簡単ではない。ある程度の情報共有が可能な量産型関本の学習能力を期待した、ぶっつけ本番の戦法である。

 

その結果は、一機目の関本は武装での迎撃に失敗して迎撃ミサイルに飛び掛かるも、その手は空を切り、落下する途中で自爆という最悪のものだった。括られていたミサイルも迎撃ミサイルで破壊されてしまった。

 

二機目の関本は武器での迎撃、迎撃ミサイルへの飛び掛かりには失敗したものの、空中で高周波ブレードを纏った刀を投擲して、ミサイルの防衛には成功した。もっとも、後に続く別のミサイルで結局はブリューナクも破壊されたのだが、二発を使わせただけ最初よりは良い結果と言えるだろう。

 

三機目は迎撃ミサイル一発の撃墜に成功。十山家の魔法により攻撃ミサイルへの破片での被害を逸らしたが、後続の迎撃ミサイルに障壁ごと打ち破られた。

 

結論から言うと、量産型関本関本たちによる迎撃ミサイルへの対処は、あまり良い結果とはならなかった。いないよりは多くのブリューナクを着弾に導けたとは思うが、そのために関本十六機を使い潰す意味はあったのかと問われると、自信を持って価値があったと言えるほどではない。

 

ともかくウラジオストクには十六発中、九発のブリューナクが着弾した。重点的に破壊したのはベゾブラゾフがいる科学アカデミーだ。量産型関本による着弾直前までの誘導も功を奏し、実に八発を集中的にぶつけることができた。

 

「金剛、最後の関本が送った時点でのアカデミーの状態はどうだったか?」

 

「被害は軽いものではありません。おそらくはそれなりの犠牲者も出せたでしょう。ですが、優れた魔法師を殺害しえるかは……」

 

「分かった。もうよい」

 

おそらくベゾブラゾフは仕留め損なった。それでも、一度でも攻撃すれば相応の反撃は行うという姿勢は見せることができた。それをもって今回は良しとしよう。

 

任務を終えた艦隊が反転して余市基地へと帰投を始める。もう一つの収穫は、現段階では治夏たちの欺罔に敵は気づけなかったということだ。おそらく次の機会はある。そのときまでに、ベゾブラゾフを殺す策を練り直さなければならない。

 

治夏は未だ明けぬ夜の中を走る艦の中で一人考え込んだ。

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