魔法科高校の劣等生と幻術士   作:孤藤海

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戦雲編 巳焼島

二〇九七年六月二十四日、月曜日の早朝。宮芝淡路守治夏は達也とリーナとともに巳焼島に向かう小型VTOLの中にいた。ちなみに深雪も同行を希望したのだが、達也が登校を強く勧めたこともあり、今日は不在である。

 

「達也様、宮芝様、シールズ様、まもなく着陸致します」

 

小型VTORを操縦している花菱兵庫という四葉の関係者が、声を掛けてきた。

 

「達也、四葉家は良い部下を多く抱えているのだな。羨ましい限りだ」

 

「和泉は単に兵庫という名乗りが気に入っただけじゃないのか」

 

「そんな訳はないだろう。兵庫が戦闘の心得があることは見れば分かる。それに桜井にしても魔法師と使用人、両者を高いレベルで両立しているだろう。それも踏まえてだよ」

 

達也とそんな他愛のない話をしているうちに小型VTOLがヘリポートに着陸した。そこから先は自走車に乗って島内を走る。

 

巳焼島の中は元刑務所として使用されていた囚人用の施設は改装が必要なものの、監督者用の建物はすぐにでも居住可能に見えた。また刑務所として使われていなかった島の東側には、魔法実験施設の建設計画が進められていた。この地は達也の提唱した魔法核融合炉エネルギープラントの建設予定地でもあるようだった。

 

自走車が向かったのは刑務所管理用のスタッフ用の居住棟だった。居住棟の中は、すぐに入居できる状態に維持されている。

 

「フーン……。ホテルと言うよりコンドミニアムね」

 

案内された部屋を一通り見て回ったリーナは、特に不満を感じていない様子だ。もっとも、これだけの設備で文句を言うようなら、宮芝として黙っていない。何と言っても、宮芝にはこれほど大きな施設を贅沢に使える余力はないのだ。

 

「管理施設には住居だけでなく日用品店舗や訓練室、レクリエーション室も備わっております。それらもご覧になっては如何でしょうか?」

 

何と、更に至れり尽くせりだったようだ。宮芝の術士たちの保養所として空き部屋を貸してくれないものだろうか、と思ったが、さすがにそれは口には出さない。

 

達也たちは居住用施設を一回りした後、刑務所のヘリを使って島の東側にある工場群へと治夏たちを案内した。そこでは企業機密ぎりぎり、というか若干アウトらしいものまで見せられた。もっとも、それはリーナに対する無闇に近づくなという牽制と治夏が見た所で、どうせ理解できないという読みがあるようだった。

 

ともかく施設を一巡りして部屋に戻ってきたリーナは、むしろ驚き疲れているような様子を見せていた。当然、ここに住むことも二つ返事で了承していた。

 

「リーナ、この部屋の鍵だ」

 

リーナに渡されたのは金色のICカード一枚だ。

 

「そのカードで、食事やショッピングを含めて、島内の全施設を自由に使える。紛失しても再発行は可能だが、少し面倒な本人確認が必要になる。それから、和泉に何か言われても、安易に奢らないように」

 

「ちょっと達也、最後の注意はどういうことだ?」

 

「リーナにカードの説明をしているとき、目つきが怪しかったからな」

 

「そんな分別のないことはしない」

 

ほんの少し、誘惑に駆られたことは否定できないが、実行しようとは思っていなかった。……つい、先程までは。人間、やるなと言われると、やりたくなってしまうのだ。

 

「だが、リーナは今、手持ちの服が少ないだろう。リーナは衣服のセンスに重大な欠陥を抱えているようだし、私がいるうちに買い物をした方がいいのではないか?」

 

「ちょっと、それはどういう意味?」

 

「言ったままの意味だ。まさか君の周りの者は誰も君の服装に否定的なことを言ってはくれなかったのか?」

 

そう問うと、リーナがそっと目を逸らした。どうやら、経験ありだったようだ。

 

「悪いことは言わない。今のうちに買い物をしておけ」

 

「そうして、和泉もついでに買い物をして、支払いをリーナにさせるつもりだろう。心配しなくても、こんな場所だ。服装を気にする者はいない」

 

「達也、どんな場所でもおしゃれをするという気持ちを忘れたら駄目なんだよ。センスの有無は別としてリーナだって女の子なんだから、服装なんてどうでもいいみたいに言われると気分が悪いでしょ」

 

「分かった。俺が悪かったから、本気で怒るのはやめてくれ」

 

達也が白旗を上げてくれたので、治夏はリーナを連れて簡単に買い物を済ませた。その際、達也を待たせるのは悪いので、かなり手早く済ませたのだが、達也はうんざりとした表情を見せていた。達也は深雪が加わっていれば何時間でも平気で待つ。それは沖縄に出かけた時の美容院で確認済だ。それなのに、妹が絡まないというだけで、途端に興味がなくなるのは、なんとかならないものか。

 

ともかく買い物も終わったのでリーナを部屋に残して、治夏たちは帰ることにする。けれども、その前に見てもらいたい物があると花菱兵庫が言ってきた。

 

兵庫が治夏たちを連れて行った先は、滑走路の脇にあるガレージだった。そこには淡い青色の塗装の四輪車が一台だけ駐まっていた。

 

「この車は『エアカー』でございます」

 

「……飛行魔法車両、という意味ですか?」

 

花菱兵庫の言葉に達也も軽くではあるが、目を見張っていた。だが、治夏の驚きはそれ以上だった。

 

「然様でございます。開発自体は飛行機能付きバイク『ウイングレス』と並行して二年前に着手された物ですが、先々月、達也様から頂戴したアイデアでようやく完成にこぎ着けた、とうかがっております」

 

「そ、そんなことより、このエアカーは普通の魔法師レベルなら十分に操縦可能になっていると考えていいのか?」

 

興奮を抑えきれず、若干どもりながらも治夏は花菱兵庫に問う。

 

「そうですが……」

 

「これの最高速度はどのくらいだ?」

 

「最大時速は九百キロになります」

 

「もっと詳しい説明を聞かせてくれ」

 

治夏の勢いに押されて、花菱兵庫は若干、引き気味になりながらも、一通りの性能を説明してくれた。

 

「素晴らしいじゃないか! 達也、宮芝はこれを注文する。すぐに量産体制を作ってくれ。台数は……そうだな、差し当たって、オープンカー仕様で五十台ほど頼めるか?」

 

「そんなにか!? どうするつもりだ?」

 

「これがあれば、関本の陸戦兵器という弱点が解消される。最前線に投入するのは不安のある魔法師を操縦士に変え、後部座席に関本を……いや、座席などいらないな、平らにして足を固定できるようベルトだけ取り付けてくれ」

 

ここにあるエアカーは窓ガラスもはめ殺しにして気密性を高め、潜水も可能としているようだ。潜水艦から出撃可能という点は確かに魅力的だ。けれども、その為に被弾面積を上げてしまえば肝心の空戦性能に影響が出る可能性が高い。

 

本機の導入を決めたのは、関本のサブフライトシステムとして。あれもこれもと欲張るべきではない。

 

「本当に、何でも兵器にしようとするのはやめてくれないか」

 

「こんな優れた乗り物を軍事に使用しないという手はないだろう。君はそのくらい想定をしておくべきだ」

 

「ともかく四葉は自動車開発のメーカーじゃない。急に五十台も作れと言われても対応できないぞ」

 

「その辺は、他の十師族の手を借りてでも早急に生産してくれ。自動車の大きさしかないこの兵器なら、どんな船舶にでも搭載して出撃が可能だろう? それに、頑張るのは四葉だけではない。宮芝もエアカー上での戦闘が期待できる第二世代関本を二百機あまり生産しなければならないのだからな」

 

達也の協力を得て開発されたフォノンメーザー専用の特化型小銃形態デバイスは何度かの要求性能の引き下げを経て三日前にようやく、試作機が試験をクリアしたところだ。それに合わせた調整を施した第二世代関本を生産していくのはこれからになるので宮芝も大変なのだ。

 

「それは完全に宮芝の都合なのだが、やるだけはやってみよう。兵庫さん、当主様への報告をお願いできますか?」

 

何だかんだ言いながら、達也はエアカーの量産をしてくれるつもりになっているようだ。思わぬ手土産ができて、治夏は大変に喜ばしい気持ちで巳焼島を後にした。

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