魔法科高校の劣等生と幻術士   作:孤藤海

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戦雲編 パラサイトスターズ

七月一日、月曜日の夕刻。宮芝淡路守治夏は山中図書から大亜連合と新ソビエト連邦の間に勃発した戦争の戦況の報告を受けていた。大亜連合と新ソ連が戦争状態に突入したのは一昨日の先月の二十八日のことだ。

 

戦争は大亜連合軍がハンカ湖西の国境を突破したことにより開戦となった。大亜連合軍はその後は南下してウスリースク方面へ進軍している。対する新ソ連はウラジオストクに駐留する極東軍が治夏の魔法で大打撃を受けており、動きが鈍い。緒戦は大亜連合軍が有利の戦況で進展していた。

 

今回の大亜連合軍の侵攻には宮芝が大きく関与している。いよいよUSNAとの開戦の気配が高まるなか背後の敵は非常に邪魔な存在だった。そこで治夏は大亜連合が新ソ連を攻めたくなるような噂を流したのだ。

 

それは、新ソ連の国家公認戦略級魔法師であるベゾブラゾフが、死亡、または人事不省に陥っているという噂だ。両国の軍事力は質を加味すれば新ソ連が勝っているが、単純な数で言えば大亜連合が上。また、新ソ連の兵力は東アジア、中央アジア、東ヨーロッパに広く分散している。そこに極東軍の消耗と戦略級魔法師の空白という好機が訪れたのだ。勝機は今しかないと考えても無理なからぬことだろう。

 

今後の戦局は、新ソ連の東アジア方面軍の主力であるシベリアの部隊が参戦してくる前に大亜連合が決定的な勝利を得られるかにかかっている。持久戦となれば有利なのは地力に勝る新ソ連だ。

 

それを理解しているから、大亜連合も初日から戦略級魔法『霹靂塔』を投入したようだ。だが『霹靂塔』は全戦場をカバーできるような魔法ではない。当然ながら、それだけで決着を付けることなどできない。

 

すでに大亜連合の短期決戦の狙いは半ば失敗している。そのうちに実際は生存しているはずのベゾブラゾフも参戦してくるだろう。

 

さて、こうなると問題となるのは日本は参戦するか否かだ。今のままでは短期決戦に成功すれば大亜連合。失敗すれば新ソ連が勝つという単純なもの。だが、それではつまらない。日本として望むことは両国の争いが互角のまま長く続くこと。そのためには長期戦になりそうな場合に新ソ連を攻撃、または大亜連合を支援することが必要だ。

 

だが、沖縄、横浜と日本に対して非道な真似をした大亜連合を表立って支援するような行為は誰の理解も得られない。理解を得られるとすればUSNAで再発生したパラサイトのことを知っていて、かつ、そのことに危機感を持つ者だけ。

 

USNAのパラサイトだけでも頭が痛いのに、更に拙いのが二十六日に沖縄を最後に消息を絶った九島光宣だ。同日に短時間だがパラサイト同士の通信波を捉えていたことから考えて、九島光宣はUSNAのパラサイトと合流したと考えておいた方がいい。

 

すでに日本に侵入したパラサイトたちが目指すと思われる、リーナ周辺の警備は強化してある。同時に、侵入口となりうる横須賀や座間といったUSNAとの共同利用基地に対しても厳重な警戒を指示させている。

 

パラサイトたちがリーナを狙ってくれるのなら問題はない。そこには宮芝の退魔士たちが網を張っているからだ。

 

治夏が懸念しているのは、光宣がUSNA内でじっくりと力を蓄えることを選択した場合のことだ。病弱であったことが災いして、多くの者は光宣が持つ魔法力を過小評価している。だが、光宣の力は宮芝以外には最大級の脅威となりうる。ゆえに、大亜連合と新ソ連の戦はどちらが勝っても日本にとっては面白くない。だから難しい。

 

そう思いながらも大亜連合を焚き付けたのは、偏に今は時間がないからだ。第二世代関本たちが予定数が揃うまで、今少し時間が掛かる。達也に発注したUSNA攻撃の切り札となるはずのエアカーも、まだ一台も納品されていない。この状況で新ソ連にも大亜連合にも邪魔をされるわけにはいかなかったのだ。

 

すでに治夏にとっての最優先事項はUSNAだ。新ソ連も大亜連合もパラサイトに比べれば話せる相手になる。とはいえ、そんな希望を胸に交渉はできない。交渉とは相手に取引を成立させる意思がなければ成り立たないのだから。

 

「右京にございます」

 

そこに外から声をかけられた。入室を促すと右京は治夏の前で平伏して告げる。

 

「出陣の準備、整いましてございます」

 

「よし、行くぞ!」

 

治夏達の目的地はベンジャミン・カノープスを始末した座間基地。ここに今夜、USNAの輸送機が到着すると国防軍から連絡があったのだ。乗っているのは、おそらくパラサイトたちだろう。それゆえの治夏たちの出動だ。

 

弦打ちの魔法は相手が人間であったならば、何の効果もない。だが、パラサイトであれば即死の魔法に早変わりする。誤射なく敵のみ倒せるという意味で、弦打ちは今回のような事態には絶好の魔法なのだ。

 

座間基地に入り、強化魔法師たちの脱走の責めを負って退任した前司令と交代で着任した士官に部屋を空けさせて、治夏は指令室に詰める。同じ部屋に詰めるのは側近三名に加えて森崎雅樂、名倉三郎、呂剛虎、郷田飛騨守、松下隠岐守、矢島修理。補助役の隠岐守と修理以外は基本的に対人戦に優れた者を選抜した。相手がパラサイトであれば、治夏一人でも十分。今回の布陣は敵がパラサイトではない場合に備えてのものだ。

 

しばらくして、予定時刻通りにUSNAの輸送機が滑走路に入ってくる。それを確認して治夏たちは格納庫の中に陣取った。治夏たちが仕掛けるのは、敵が輸送機から降りてきた直後となる。そこで射程ぎりぎりから弦打ちを仕掛けるのだ。

 

九島光宣には弦打ちに耐えられ、逃げられた。だが、今回の魔法師たちは光宣と同格ということはないはずだ。また光宣同様に強い自我を持ったままとも考えにくい。今回の襲撃で大事なことは、まずはパラサイト兵以外の反撃を受けないことなのだ。

 

輸送機が滑走路上に停止した。輸送機の扉が開き、中から人影が出てくる。だが、一人目はパラサイトではない。二人目、三人目も同様だった。

 

そして四人目、ついに治夏の目はパラサイトの姿を捉えた。どれだけ外見を取り繕おうとも禍々しい妖気は見間違えようがない。すぐに祓いたい衝動に駆られるが、まだ早い。輸送機の中からは別のパラサイトの気配が漏れ出ている。ここで先頭の一人を祓って警戒されてしまえば、後が面倒だ。

 

中にいるパラサイトは全部で四体。それが治夏の捉えた敵の数だ。残り三人が出て来るのを治夏はじっと待つ。二人目のパラサイトが降りてくる。それから少しして三人目。

 

「あの大柄の男は、突出して高い魔法力を持っているようです」

 

外の映像を格納庫の中に映している矢島修理が言った。突出して魔法力が高いと聞いて思い浮かべるのはスターズの正規隊員だ。あの相手がそうだとすれば、あれに弦打ちが効くのなら大半のパラサイトには通用するということだ。つまり今回の弦打ちは今後の作戦に向けての重要な試金石となるということだ。

 

四人目のパラサイトが輸送機から姿を見せた。攻撃の時間だ。

 

格納庫の隅にある扉を森崎が開ける。それと同時に治夏は弓弦を強く引き、破魔の力を込めて打ち鳴らした。

 

弦打ちの音に乗って破魔の波動がUSNAの兵士たちの間を通り抜ける。その瞬間、三人のパラサイトが崩れ落ちた。唯一、膝をついたが死んでいないのは警戒をしていた一体だ。魔法抵抗力の高さが破魔の波動を幾らか中和したものと思われた。

 

やはり、スターズともなると、一筋縄ではいかないか。パラサイト化していない敵との戦闘を思い、少しだけ溜息をつきながら治夏は再び弓弦を引く。

 

二度目の弦打ちの音が響く。それで、生き残ったパラサイトは動かなくなった。これで今回の討伐は成功だ。仮にもっと距離が近ければ、一撃で倒せていたはずだ。そう考えると、パラサイト化したスターズの隊員の強さも、誤差の範囲内と言えるだろう。

 

「さて、騒ぎが大きくなる前に帰投するとしようか」

 

突然の仲間の死に周囲を警戒するパラサイト化していないUSNA兵を置いて、治夏たちは帰還の途についた。

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