魔法科高校の劣等生と幻術士   作:孤藤海

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戦雲編 USNA空母への対策

七月七日は七夕であり、日曜日であり、国立魔法大学付属高校各校の生徒にとっては定期試験が終わった直後の休日である。とはいえ、宮芝淡路守治夏は最近とくに忙しく。試験どころか登校すらしていない。

 

達也は校長直々に出席の免除を受けているようだが、治夏に関しては無論、そのような配慮など貰えていない。つまりは治夏は今、留年の危機にある。しかし、今は国の危機であるので高校などに構っていられる余裕はなく、治夏自身が魔法科高校の卒業になど何の興味もないので、はっきり言ってそのまま放置のつもりだ。

 

そういうわけで、今は達也、深雪、桜井水波と共にエアカーで巳焼島へと向かっている。目的は新ソ連戦では出番がないと思われる宮芝の人員を、巳焼島に配置するための下見だ。USNAと新ソ連は今は協力関係にある。新ソ連が軍を動かすとき、必ずUSNAも動きを見せる。今回はそれに備えて防備を万全にするつもりだった。しかし、その車内で治夏は危機的な状況に陥ることになっていた。

 

最高時速四百キロ、平均速度三百キロの海上ドライブに深雪はご満悦だった。一方で海面すれすれを飛行するエアカーのスピード感は数倍増しであり、緊張からか微妙な揺れに治夏はすっかり酔ってしまったのだ。

 

「気持ち悪い……」

 

「和泉、このエアカーは気密性を高めるために窓は開かない仕様だ。耐えてくれ」

 

そう言えば、そんなことを言っていた気がする。新鮮な空気を吸えれば少しは気分も良くなる気がするのだが、それもできない。

 

「宮芝様……少しは落ち着かれましたか?」

 

達也がスピードを落とし、桜井水波が心配そうな視線を向けてくるが、残念ながら具合は悪化の一途をたどっていた。

 

「気持ち悪い……」

 

拙い。このままだと、とんでもない事態に陥る。けれど、頭に靄がかかったかのように、対処方法が全く思い浮かばない。

 

「うくっ……」

 

こみ上げてくる嘔吐感を抑えきれない。このままだと、本当に拙いことになる。しかし、焦れば焦るほど、考えは纏まらなくなっていく。

 

「うぐっ!」

 

「和泉!」

 

ついに治夏が自らの不調に負け、車内に惨劇を引き起こしかけたその時、不意に達也が運転席で振り返り、CADの銃口を向けてきた。達也の魔法が発動し、治夏が口元を押さえた手から零れ落ちる嘔吐物が中空に消えていく。

 

車内に惨劇を引き起こすことは避けられたが、手は大いに汚れてしまい、同時に治夏は異性に嘔吐している所を見られるという屈辱を味わった。そして、なぜか達也も何が気に喰わなかったのか、またつまらぬものを消してしまった、などと呟いていた。

 

ともかく、そのようなトラブルはありつつも巳焼島に到着。治夏はリーナも加えたお茶の席に参加していた。

 

「早速だが、悪いニュースだ」

 

その席で、達也が切り出してきた。

 

「新ソ連の極東艦隊は明日にでも日本海を南下するだろう。我が国も今回は迎撃準備を完了し、艦隊はいつでも出撃できる態勢だ」

 

達也の言ったことは控え目に過ぎる内容だ。日本は横須賀の艦隊も舞鶴に回して万全の戦闘態勢を整えている。

 

「日本は新ソ連と正面からぶつかるつもりなの?」

 

リーナが疑わしげに問い返した。

 

「総力戦にはならないだろうが、衝突は避けられない」

 

「新ソ連の要求は、劉麗蕾の引き渡しだったわよね?」

 

「そうだ。日本としては、亡命してきた十四歳の少女を、処刑されると分かっていて引き渡せるはずがない」

 

「開戦の口実作りのための詭弁というやつだな」

 

治夏の発言はアメリカのニュースなどでも流されている内容なので、リーナもすんなりと受け入れていた。もっとも、それが命取りになるとはベゾブラゾフも思っていまい。

 

「新ソ連が本気で日本の領土を占領しようとしているとは、俺は考えていない。真の目的は別にある。それが何かは、断定できないが」

 

「ここに建設中のプラントじゃないの?」

 

「その通りだ。新ソ連が我が国と戦火を交えている間にUSNAはこちらを襲撃してくるだろう。我々はその期先を制するために空母、インディペンデンスを沈めたいと考えている。リーナ、君は自国の空母に戦略級魔法を撃つ覚悟はあるか?」

 

思いがけない言葉であったのか、リーナの喉が息を呑む音を立てた。

 

「今回、極東艦隊を撃退しても、新ソ連との間に緊張が続く。日本がUSNAとの関係を損なう行動を取ることは難しくなる」

 

「ちょっと待って、それなのに、そんな強硬手段に出ていいの?」

 

「いかにこちらが妥協をしようとも、USNAが日本に対する攻撃の手を緩めることはない。ならば、もはや誰の目にも後戻りはできないという所まで進めるしかない。我々は国の存亡をかけた戦を行う」

 

さすがに治夏も、本気で日本をそれ程までに危険な戦いに引き込もうとは考えていない。今の発言は、リーナに自国の空母を沈めることを決断させるためのものだ。

 

USNAの大型空母の艦載機は七十機以上あるのに対して、日本が有する空母の艦載機は僅かに十二機。航空戦では勝負にならない。一応、周辺に多数のミサイル護衛艦と小型艦艇を展開することで対抗も可能だが、相手も護衛の艦艇を展開しているはずなので、結局のところ不利を覆すのは難しい。

 

「はっきり言ってインディペンデンスの艦載機に攻められれば、我々がいかに防備を固めたとて防ぎきることはできない。君はまだUSNAに帰国する道を閉ざすわけにはいかないだろうから、君の魔法を偽装するための手段は尽くそう。それをもって空母への攻撃を了承してもらえないだろうか?」

 

「けれど、それだと日本は新ソ連だけじゃなくUSNAとも同時に全面戦争に突入することになるわよ。そんなことをして耐えられるの?」

 

疑問形ではあるが、リーナはそうなれば日本は一瞬で敗北すると考えているようだ。その考えは正しい。ただし、日本が無策であったならば、の話だが。

 

「そうならないために、インディペンデンスはパラサイトたちによって汚染されていたと公表する。幸いなことに、おそらく証拠は向こうからやってきてくれる」

 

「待ってよ! そんなことを発表されたらステイツが……」

 

軍内でパラサイトが増殖するのを防げなかったとなれば、USNAの信用は地に落ちる。最悪の場合は国家分裂もありうるかもしれない。

 

「君の懸念は分かるが、事実としてUSNAは最精鋭たるスターズ内に大量のパラサイトを発生させてしまっている。それに魔法力至上主義とも言える思想を持っている可能性が高い九島光宣も、おそらくUSNAに潜伏している。九島は身体が弱いという劣等感の中で、魔法力が高いということだけを支えに生きてきた男だ。奴は必ずやUSNAに魔法師のための王国を作ろうとするぞ」

 

「そんな危険な人間を日本は解き放ったの?」

 

「言っておくが、我々はあと少しという所まで追い詰めていた。奴を解き放ったのは君たちが呼び込んだパラサイトたちだ」

 

そう告げると、さすがに決まりが悪いのかリーナが目を逸らした。

 

「話を戻すぞ。九島光宣は九島の直系。つまりはパレードを最も上手く使える一族の者だ。そんな者がスターズを率いて本気で動いたら、君たちの政府は抗しきれるか?」

 

「パレードは非常に厄介ね。使い方によっては変装の効果も期待できるから……」

 

「そうだな。高官が知らぬ間に中身が入れ替わったり、或いはそれを駆使して政治的な痛手となる情報を得て傀儡にしたり、或いは単純にスターズの武力で脅すか。いずれにしても、奴らが政府や軍を掌握しきるのは避けねばならない。そして、それはもはや一刻の猶予もないことを理解してほしい。実際、君の国はパラサイトたちを座間に輸送した。彼らはすでにパラサイトを受け入れるための素地を作ってしまった」

 

「それは……」

 

「パラサイトを放置していたことでUSNAは大きな非難を浴びるだろう。だが、それをしなければ、いずれUSNAは非魔法師が魔法師の奴隷として生きる国へと変わる。君は祖国をそのような国にしたいのか? 君が守るのは国の存在のみで、そこに暮らす者たちは保護の対象外なのか?」

 

そこまで言うと、リーナもついに覚悟を決めたようだ。

 

「分かったわ。パラサイトの件の公表には反対しない」

 

「すまない。君の決断に応えるためにも、我々は戦いの相手をUSNAという国家ではなくパラサイトとすることを約束しよう」

 

もっとも、パラサイトを庇う者については戦いの相手から除外しないが。という言葉は胸の中にしまい、治夏はリーナの協力を取り付けた。




また、つまらぬものを消してしまった。
達也が絶対に言わないであろう言葉を言わせてしまいました。
達也はそんなこと言わない。という突っ込みはご容赦ください。
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