魔法科高校の劣等生と幻術士   作:孤藤海

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戦雲編 巳焼島防衛戦

日本軍と新ソ連軍が激しい戦闘を繰り広げていた頃、巳焼島でも戦闘が始まろうとしていた。ステルス魔法で姿を隠した輸送艦が島に接近してきているのだ。もっともステルス魔法の精度は宮芝に比べれば随分と劣ったもので、島の守備隊は早々にその存在を察知していた。敵の進行方向は魔法研究施設群がある島の北東部だ。森崎雅樂駿は、その報を聞いてすぐに沿岸部に急行した。

 

本来、宮芝の術士たちは陣地防衛戦に向いていない。宮芝として最善の選択は、施設群の中でのゲリラ戦だ。けれど、その戦い方では当然、司波達也の恒星炉プラントに被害が生じてしまう。それを達也は嫌ったのだ。

 

この戦場は司波達也の意向を最大限に尊重するように淡路守から言われている。そのため現代魔法師を中心に沿岸部に配することにしている。ただし、本来の主力である封印術を得意とする者たちは内陸部に配置している。彼ら主力は、沿岸部の部隊が敵を戦闘不能にしてからが出番になる。

 

巳焼島へと接近しているのはUSNAの大型空母インディペンデンスに随伴していた輸送船ミッドウェイから発信したウェーブ・ピアサー型双胴船だ。その過程を考えれば、もしも接近中の船にパラサイトが乗っていた場合、空母も汚染されているのは確定的。リーナにはパラサイトが確認でき次第、空母を沈めるよう攻撃要請をすることになっている。その説得を最終的に担うのも、森崎の役目だ。

 

沖合四キロまで近づいた不審船から、突如爆弾が撃ち出された。

 

フレミングランチャーやグレネードランチャーによる射撃ではない。移動魔法による射出による攻撃だ。

 

爆弾自体は小型だが、数が多い。まるで多弾頭榴弾を使ったような炸裂弾の雨に対して、四葉配下の守備隊が一斉に魔法障壁を展開する。

 

障壁から降り注いだのは、爆発に伴う閃光だった。降り注いだ飛散物の中には閃光弾が混じっていたらしい。

 

「暗幕」

 

現代魔法師ばかりより対応力が増すと、森崎たちに付けられていた一柳兵庫が光を遮断する魔法を使う。閃光を警戒をする必要がなくなった守備隊の魔法障壁が安定する。しかし、その間に不審船の陰から二隻の上陸用ボートが姿を現した。

 

「各銃座、攻撃を開始せよ」

 

宮芝家が島に到着して、まず行ったのは四十ミリ機関砲を沿岸部に設置することだった。海上を侵攻してくるUSNA軍に対して、宮芝家が魔法戦で戦うことは難しい。その解決策が兵器による防衛力の向上だった。

 

接近するボートに対し、島からは四十ミリ機関砲と四葉配下の魔法師による攻撃が仕掛けられる。しかし、ボートに乗るパラサイトたちの魔法力は高く、強力なシールドに守られて有効打を与えられない。そればかりか上陸用ボートからは銃弾、擲弾による反撃を受けてしまう。幸い四葉の魔法師によるシールドに守られたが、ボートは更に接近した。

 

「リーナ殿、この状況で援軍を出されたら我らは壊滅だ。母艦を潰してくれ」

 

はっきり言って宮芝にとって恒星炉プラントは絶対に防衛をしなければならない施設ではない。USNAと交戦状態になれば、自動的に司波達也のディオーネー計画への参加の道はなくなるのだ。

 

「でも……」

 

「パラサイトを探知するレーダーが返してきたボートと輸送船の反応を見ろ。二隻で合計二十五体の反応。その中にはスターズの一等星級に匹敵する魔法力も観測されている。あの空母はもう駄目だ。救えない」

 

渋るリーナに更に迫れば、ようやく首を縦に振った。リーナがUSNA時代に使っていたという専用デバイスはなくても、他を巻き込まない洋上への攻撃なら十分に可能だ。

 

リーナが達也が用意したCADを用いて魔法の準備を始める。そのリーナの前を守るのは呂剛虎だ。呂は肉体の頑強さに加えて、淡路守が第一高校で始末した十三束を元にした補助具を使って接触型術式解体を使用できるようになっている。

 

接近してくるボートからは尚も激しい攻撃が仕掛けられている。しかし、その攻撃が唐突に弱まった。見ると、接近していたボートの一隻が消えている。その少し後には、残るもう一隻のボートも海上から姿を消していた。これは司波達也の魔法だろう。

 

パラサイトたちは海上に立っているが、武器類は海中に没したようだ。加えて個々が魔法で海上に立った影響で、僅かながら防御に回す力が弱まっている。そこに四十ミリ機関砲の射撃が集中する。

 

いかにパラサイト化しようとも魔法能力は有限だ。それに対して機関砲は換えの銃身と銃弾が続く限り撃つことができる。魔法を補うために惜しみなく金銭で代替できるものを投入するのは宮芝のお家芸だ。

 

パラサイトたちを足止めしている間にリーナが自身の戦略級魔法を発動させる。それは宮芝の術士たちの偽装魔法により巨大な雷の砲弾に変えられて、太平洋に浮かぶ敵空母に向けて突き進んでいく。少しして衛星写真が轟沈する巨大空母の姿を映し出した。

 

「シリウスの名を汚す裏切り者め!」

 

その直後、激昂する声が海上から聞こえた。おそらくインディペンデンスがリーナにより撃沈されたのを知ったのだろう。同時に長期戦となれば、ますます自分たちにとって不利になっていくことも。

 

ここでパラサイトたちが決断した。防御を最小限に二十二体のパラサイトが全員で一斉に島へと向けて突っ込んでくる。四十ミリ機関砲と四葉の魔法師たちの攻撃によって防御魔法を突破されたパラサイトたちが次々に肉体を破壊され、本体が付近を漂い始める。

 

「浄流」

 

その直後、島の周囲に沈められていた瓶の中の浄化の水を媒介としたパラサイトの消失魔法が発動される。パラサイトたちの本体は水に包まれた少し後には、元から何も存在していなかったかのように綺麗に消え失せていた。

 

戦略級魔法で敵の帰るべき母艦を沈めたリーナが防衛戦に参加する。リーナが持っているのはグレネードランチャーに似た銃身を持つ特殊な武装デバイスだ。そのデバイスの引き金をリーナが引いた。中性粒子のビームが迫るパラサイトの一体に直撃し、敵を吹き飛ばした。しかし、それで終わりではなかった。次の瞬間には拡散して海面に散ったかに見えたプラズマが高熱を帯びて輝き始める。リーナの得意魔法『ムスペルスヘイム』だ。

 

灼熱の領域に捕らわれた周囲のパラサイト二体が攻撃には耐え切るも魔法障壁を崩壊させた。そこに容赦なく弾雨が降り注ぎ、肉体を吹き飛ばす。

 

その直後、リーナに向けて高エネルギー赤外線レーザー弾が発射された。敵パラサイトの一体が放った『レーザースナイピング』という魔法だ。リーナはそれをミラーシールドという魔法で防ぐ。この辺りの防御はさすがに手の内を知った相手ということだろう。

 

攻撃を行った敵は海岸から約一キロ。輸送艦ミッドウェイの舳先にいる。この船に銃撃に加えて迫撃砲による攻撃も加えているが、よほど強力な魔法師が乗船しているのか耐えられている。ならば直接攻撃で仕留めるのみ。

 

「呂剛虎を射出せよ」

 

それは大砲の中に呂剛虎を入れて、砲弾の代わりに飛ばすという正しく人間大砲だ。呂剛虎の防御力を頼みにとにかく飛ばし、その後は名倉三郎の気流操作魔法で制御するという宮芝ならではの装置だ。原始的であろうと何であろうと、ともかく敵艦に呂剛虎を送り込めればいいという、手段を選ばなさが宮芝らしい兵器だ。

 

大砲が火を噴き、中に入っていた呂剛虎が宙を飛ぶ。慌てたように敵艦から迎撃魔法が飛んでくるが呂剛虎の防御を抜くのは容易ではない。それに気流操作の魔法による制御時間が終われば背嚢の中の十三束の脳を用いた接触型術式解体を使える。降下体勢に入った呂剛虎がレーザースナイピングを接触型術式解体で無効化しながら敵艦に突っ込む。

 

だが、その前に狙撃手の隣のパラサイトが『分子ディバイダー・ジャベリン』の魔法で呂を迎撃してくる。呂剛虎の剛腕とパラサイトの魔法が空中でぶつかった。両者の魔法力が拮抗していたのは、ほんの一瞬。だが、その一瞬のうちで勝負は決した。

 

森崎は指揮に専念していたわけではない。障壁の弱った敵を討つための魔法を待機状態にしていたのだ。そして今、敵は全ての魔法力を呂に向けている。今ならば出力不足の森崎の魔法でも敵に有効打を与えられる。

 

森崎の狙撃魔法、長射水撃の魔法が呂と交戦中だった敵の胸を穿つ。その程度の傷ならばパラサイトならば致命傷ではない。だが、傷を癒すよりは拮抗状態を抜け出した呂の剛腕がパラサイトの肉体を両断する方が早い。

 

「ガアアアッ」

 

その勢いのまま迎撃してきた敵を、続いて遠距離攻撃を行っていたパラサイトを引き抜いたレイピアごと身体を引き裂き、呂は艦内の敵を掃討に向かう。元から呂は近接戦闘なら世界で五指に入ると言われていた。そこに更なる肉体強化と接触型術式解体を得た今、狭い艦内で負ける道理はない。輸送艦のことは任せて森崎は海岸線の戦いに意識を戻す。

 

敵はリーナを集中的に狙っているようだ。今もリーナは加重系攻撃魔法の『ハンマー』を使う敵と大型ナイフを使う敵に攻撃を受けていた。けれど、それは好機だ。

 

「リーナ、少し後退せよ」

 

リーナはその意味を正確に理解して、森崎の言の通り後退してくれた。

 

「逃げるか!」

 

それを離脱と取ったのか、二体のパラサイトが追い掛ける。その直後、地面に複雑な文様が浮かび上がった。文様からは無数の光の蔦が飛び出し、二体のパラサイトを拘束する。

 

「これは宮芝家の封印術、魔封檻。魔に属する者のみ有効な檻だ。貴様らには生きていてもらわねばならぬのでな」

 

リーナとの会話から二体がスターズの一等星級隊員であることは分かっている。この二体は軍の中心部までパラサイトに汚染されていることの格好の証拠だ。

 

すでに達也と四葉家の魔法師、そして全力射撃を続けた四十ミリ機関砲の働きにより島に襲来したパラサイトは二十体が殲滅、もしくは無力化されている。残り五体の仕上げに入るため森崎は再び海岸線に歩き出した。

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