パラサイト戦争編 戦力徴発
七月十二日、金曜日。宮芝淡路守治夏は十文字克人の協力を得て、師補十八家の一色家、五頭家、七夕家、八朔家の当主を十文字邸に招いていた。
「さて、本日来ていただいた理由は、皆様も分かっておられるでしょう?」
治夏が微笑みを浮かべて言うと、四家の当主は緊張した面持ちを見せた。
「次なる戦はUSNAのパラサイトと雌雄を決するものになるでしょう。我が国の魔法師の中心たる十師族は、最前線で戦ってもらわねばなりません。特に、本日、来ていただいた四家はいずれも防衛大と軍に関係のある方々です。今の所、お返事をいただけておりませんでしたが、心の内では当然に務めを果たされるつもりだったのでしょう?」
笑顔は曇らぬように、けれども、しっかりと威圧する。四家の当主は一瞬、互いの顔を見合う。そうして口を開いたのは四人の中では最年長の一色義広だった。
「確かに私の三男は防衛大に在籍しています。しかし、それだけに勝手に他国との争いに手を出すことが難しいのです」
「これは驚いたな。本作戦には、すでに複数の防衛大の学生が志願している。百家の千葉修次や渡辺摩利は参加できて、其方らの子息は参加できぬと言うのか?」
「百家と十師族では役割も意味も異なります。我々は目立つからこそ、迂闊な行動はできないのです」
「ほう、それはつまり、しかるべき者から、しかるべき要請があれば軍役を負うことは厭わないということだな」
念を押すと、一瞬、一色はたじろいだ様子を見せた。けれど、すぐに表情を戻して治夏に向けて頷いてきた。
「はい、状況が許すのなら我が家も務めを果たします」
「さて、一色殿は斯様に申されているが、其方らは如何する?」
「我々も同様に考えています」
八朔家当主の八朔義光が他の三家を代表して答える。
「そうか、それは、これでいいのかな?」
治夏が取り出したのは防衛大臣と防衛大学校長からの協力要請状だ。そこには、個人名こそ挙げられていないが、国の為に対パラサイト戦に力を貸すように書かれている。
「部隊の編成は我らに任されているのだが……改めて問うぞ、其方らは我らにどのように協力をしてくれるつもりだ?」
これ以上、非協力的な態度を取るなら子息を死地に送り込む。そう暗に言ったのは無事に四家の当主たちにも伝わったようだ。一様に狼狽を顔に表した。
「分かりました、当家からは一色義和、一色俊義の二名を志願させましょう」
一色が挙げた二人は一色の次男と分家の実力者だったはず。有力な魔法師二人を出す代わりに、次期当主やまだ学生の三男を戦場に送ることは勘弁してもらいたいということだろう。また、一人でなく二人を出してきたのは激戦地に送るのは許してほしいという意図だろうか。ともかく、申し出自体は全面降伏と言っていい内容だ。
一色の様子を見て、他の三家も次々と実力者たちを志願させると約束してきた。そのうち七夕家のみは治夏たちが伝えた者と一緒だったが、ここで志願させるのと後での徴発では送られる戦地が異なることを敏感に感じ取った結果だろう。
「皆様のご協力を感謝いたします。ちなみにこの後は他の十師族および師補十八家の皆様方にもご協力を要請するつもりです。わたくし、まどろこしいのは嫌いなので、他の家の方々とは手短に話がしたいものです」
交流のある家にしっかり伝えて、こちらが呼び出す前にとっとと志願してこさせろ。その裏の声は理解したようで、一様に顔色悪く頷いていた。
「皆様方と良き相互理解ができたようで、嬉しい限りです。では、次に会うときは出陣の前ですね」
「和泉守様、どうか、我が息子のこと、よろしくお願いします」
一色家当主がそう言い、他の三家も同様のことを口々に言いながら、十文字邸を後にしていく。扉が閉まり、屋敷内に静けさが戻ってくる。
「さて克人、上で少し話をしようか」
治夏はそう言って克人の部屋へと上がり込む。克人の部屋はいつも質実剛健。余計な飾りなどや趣味のなにがしかが並べられているわけでなく、ただシンプルに使いやすい部屋が維持されている。
「それで、話とは何だ?」
「一高の卒業生たちが好戦的すぎるのは、どうしてだと思う?」
言った治夏に克人は怪訝そうな顔をした。
「多くの者が志願するというのは、治夏にとっては望ましいことではないのか?」
「それはそうだよ。けれど、在学中の者だけで十四名、ここ二年間の卒業生だけで十六名というのは少し多すぎると思うんだけど。あ、ちなみに宮芝家の人間として参戦する森崎や平河千秋はこの中から除外しているからね」
そう言われると、多すぎると思ったのか、克人も考え込む仕草を見せた。
「魔法師を積極的に軍役に付けるべきというのは私の主張でもあるよ。けれど、こうも多いとさすがに心配になってくるよ」
そこまで言うと、克人の視線が少し変わった。どの口が言っているのか、という言葉が伝わってきて、さすがに治夏も居心地が悪くなる。
「まあ、これまでの経緯は置いておくとして、次点である第三高校の二倍近い人数というのは今後、第一高校が異端視されることに繋がるのではないかと少しばかり心配になっても不思議ではないだろう?」
「三年生や、ここ数年の卒業生の志願者が多いのは横浜事変を経験しているのが大きいだろう。だが、それ以上に校内で異常な事件が日常的に起こっているという環境が大きいと思うのだが。この間も注目されていた生徒が一人、忽然と姿を消したのに、大きな騒ぎにならなかったと聞いたぞ」
そう言われると、反論することはできない。しかし、あれは素材としては有能というのに、頭が残念だったために起きた事故だ。馬鹿なら馬鹿らしく何もしなければ命を失うこともなかったのだ。
「まあ、とりあえず第一高校のことは置いておこうか」
「いや、深夏が言い始めたことだと思うのだが……」
その通りだ。けど、相手から仕掛けてきたわけでない戦争に、こんなに続々と志願をされると、不安になっても仕方ないと思う。そして、それが治夏の責任だと言われると、否定できないだけに話を逸らすしかないのだ。
「で、続いての話になるんだけど、軍との関係が薄い他の二十八家についても戦力を徴発したいと考えているんだけど、協力してもらえる?」
「その前に四葉のことを聞いていいか? 今回の件で達也は当事者の一人と言っていい。その四葉が戦力を出さないとなると、他が納得をしないと思うのだが」
「ああ、その件なら問題ない。四葉家は司波達也、黒羽亜夜子、黒羽文弥の三名を参戦させるという返事をすでに貰ってある」
「よく達也が、それを了承したな」
「今の情勢で達也を隠すような真似は四葉としてもできないよ。それに四葉は意外と乗り気だぞ。正式には先の三名だが、他に津久葉夕歌、新発田勝成という者も一般の魔法師として志願させると言っていた」
今回の戦争の相手は人類の敵であるパラサイトだ。その戦争において自分勝手な行動を取れば、四葉は日本に居場所を失うことになる。それに、達也としてもディオーネー計画を潰しておくのは、むしろ望ましいことのはずだ。
「すでに志願者を出している十師族は四葉、七草、一条、六塚、八代、九島、そして十文字。得意魔法が海戦向きの五輪家はともかく、二木と三矢は程なく志願してくるだろう。そうすれば二十八家も志願者を出してくるのではないか?」
「そうかもしれない。けれど、私としては十師族には複数人の志願者を出して欲しい」
「一体、どれくらいの人数が必要なんだ?」
「必要な魔法師は八百名前後を想定している」
「八百……」
通常の兵員ならば八百名というのは、それほど大きな人数ではない。けれど、優秀な実戦魔法師を八百名というのはかなりの大人数だ。克人が息を飲むのも当然と言えた。
「今回の敵はパラサイトだ。生半可な魔法師では厳しいし、優秀な魔法師でも数的不利な状況下での戦闘は避けさせるべきだと思っている。そうなると、これくらいの必要になってしまうんだ」
あくまで犠牲を減らすための戦力投入だ。その思いが伝わったのか、克人は二十八家への働きかけを了承してくれた。
おさらい
原作生存→本作死亡
十三束鋼
九島真言
十三つかさ
イーゴリ・アンドレイビッチ・ベゾブラゾフ
ヴァージニア・バランス
ベンジャミン・カノープス
レイモンド・クラーク
原作死亡→本作生存
呂剛虎
名倉三郎
九島烈
千葉寿和(生きているけど空気)
別人化
森崎駿(雅樂)
小早川桂花
七宝琢磨
矢車侍郎