七月十四日、USNAで動きがあった。反魔法師活動の激化に嫌気がさした魔法師と、魔法師が非魔法師の上に立つという九島光宣の甘言に踊らされた者たちがパラサイト側に合流。非魔法師が中心とした部隊を敗走させたという。さらに、その圧倒的な戦闘力を目の当たりにした一部の非魔法師部隊が投降したということだ。
宮芝淡路守治夏が山中図書から話を受けた限りではパラサイトが勢力を広げているように見える。早く介入をしなかれば、人間の被害が増えてしまう。とはいえ、今すぐに動くというのも得策ではない。
日本が新ソ連に対して行った戦略級魔法の連発は、端緒が新ソ連側であったことから日本の非難にまでは至らなかった。しかし、間違いなく警戒心は抱かれている。それを緩和させるためにはパラサイトの勢力拡大に危機感を持った各国から協力を依頼されるくらいの方がいい。
かといって、時間のかけ過ぎは大悪手だ。質と量が共に日本に数倍するUSNAの通常戦力との戦いは日本の破滅を意味する。よって、光宣が非魔法師に影響力を行使できるようになる前に戦を仕掛けなければならないのだ。
だが、未だ戦争に対する日本の準備は完了していない。エアカーについては、ようやく半数が揃ったばかり。何より多数の義勇兵が参加することになる次の戦闘は部隊編成から難問となってしまう。
魔法師は個としては強力な戦力だ。だが、群としてみると、古式魔法師に比べれば緩和されているとはいえ、個人の有する技能の差が激しく、戦闘力が平準化されていないという弱点があるのだ。
正規軍は繰り返しの訓練により連携を高めることで、そのバラツキという差を克服している。しかし、今回の作戦に参加する者たちは顔と名前すら知らない者たちが背中を預け合うことになるのだ。
互いの特性すら知らなのは問題であるため、さすがに短期訓練で最低限の連携はできるようになってもらうつもりだが、その短期訓練で相性が悪いと判明した場合、編成の再考をせねばならない。そうなると、最終的に確定できるのはいつになるだろうか。本当に頭の痛い問題だが、この件は十師族に丸投げする以外にない。
よく知った者たちだけでしか集団戦を行ったことのない宮芝家と違い、一条家は危機と見て志願してきた有象無象を束ねて一大戦力として新ソ連軍を撃退した実績がある。今回は素直に彼らの知恵を借りるしかないだろう。
その肝心の志願兵たちは二木家、三矢家、五輪家が志願者を出したことを見て、更に数を増やしている。どうやら自分たちの地域を管轄する十師族が志願者を出す前に勝手に参戦することを憚っていた者たちが、それなりにいたらしい。
国家を超えて人類の危機に対応するための戦争だというのに、何とも主体性のないことで情けなくなってくる。だが、人間とはそういうものなのかもしれない。何せ、その危機は今の所は眼に見える形で自分たちには迫っていないのだから。
ともかく志願者のうちパラサイトには太刀打ちできないと考える者を不合格としても、必要な魔法師の半分を充足することができた。残りは国防軍から集めることができるので、人員的な手当てはついたことになる。
そして宮芝家の方も同時に出陣する人員の選抜を終えていた。今回の宮芝家からの参戦人員は全部で二百名。参戦する義勇兵たちの四分の一もの人数を一家のみで手当てしたことになる。そして、これは宮芝が出せる最大兵力だ。
もしも、今回の作戦が失敗に終わり、治夏たちが全滅をしようものなら、その瞬間に宮芝家は終焉を迎える。現実にそういった事態が避けられなくなるほど、一定以上の力を持つ術士は全員を投入する。おそらく、次の戦に勝ったとしても宮芝はこれまでと同じではいられないだろう。
それでも、やるしかないのだ。或いはUSNAと協調路線がどこかで取れていれば、今回のようにパラサイトがのさばる前に宮芝が直接排除に向かえたはず。その可能性を潰した責任の一端は治夏にもある。ちなみに最大の責任者は達也だ。だから、今回は非公式ながら四葉は克人に伝えた以外に十名前後を派遣してくれることになっている。
ともかく今日は国防軍との打ち合わせがあるので治夏は側近三名と克人と共にUSNAの軍人を追い出して閑散とした横須賀基地に入った。そこでは艦隊司令として海将、国防軍部隊の前線指揮官として風間に加え達也が待っていた。
「わが手の者が調べたところによると、九島光宣は現在、サンディエゴの海軍基地に滞在している。おそらくは我らの動きを警戒してのものと思われる」
治夏は早速、調査済みの情報を開示していく。パラサイトたちは強力だが、宮芝家に対しては無力だ。その宮芝家に対抗するのに最も有効なのが現代魔法だ。しかし、日本軍が兵器と宮芝と現代魔法を組み合わせた攻撃を仕掛けてくることは、新ソ連との戦いで予想ができているはず。
パラサイトと現代魔法師だけでは兵器での多重攻撃で消耗した後に襲来する宮芝と現代魔法師に抗しきれない。パラサイトと現代魔法師に加えて兵器の力も借りなければ日本軍には勝てないことは、よほどの馬鹿でない限り気づく。
しかし、基本的に近接戦は行わない海軍には、所属する魔法師は少ない。非魔法師の支持を得ていないというのは光宣にとって大きな弱点だ。パラサイトを近くに配置させて脅したとして、果たしてどれだけ真剣に戦ってくれるのかは疑問だろう。
両者の連携の乱れを突く。それ以外に日本に勝利の道はない。
「第一波はミサイルと航空戦力として、第二波の上陸部隊の先鋒は我らが受け持とう」
海将も風間も関本たちのことは知っている。それだけ言えば先鋒が誰なのかは理解してもらえたようだ。それを踏まえて海将が質問してくる。
「彼らは、どの程度の戦果をもたらしてくれそうですか?」
「敵の通常戦力を、最初にどれだけ叩けるかが鍵だな。盾も持たせたとはいえ、大口径の機関砲は防げない」
呼吸を必要とせず、鋼鉄製のフレームを有する関本は対人用の魔法に対して高い耐性を有している。その関本が苦手とするのが強力な物理兵器による攻撃なのだ。対空機関砲は関本の投入前に絶対に葬っておかなければいけない装備なのだ。
「仮に機関砲を全て潰せたとすれば?」
「通常の魔法師であれば同数、スターダストを元にしたパラサイトなら五十、スターズが元なら二十といったところだな」
もっとも全ての対空砲を首尾よく破壊できるとは思えない。
「達也、エアカーに幻影魔法を遠隔で発動させられる何かを搭載できないだろうか?」
「急に言われても難しい」
「では、増加装甲を用いた空飛ぶ戦車などは……」
「それも急に用意できるものではない。俺は魔法兵器の開発者じゃないんだぞ」
さすがに視線が冷たくなってきたので、戯れはこのくらいにした方がよさそうだ。
「ともかく関本たちが国防軍の操縦士が操るエアカーで切り込みをかける。その後を上陸艇に乗った魔法師たちが受け持つことになるが、上陸艇に十文字家の魔法師は何人まで置ける?」
「上陸を阻止しようとする魔法攻撃に耐えられる魔法師となると二十人が限界だ。元より十文字は少数精鋭だしな」
「では上陸艇の数は二十としようか。各艇につき四十名というのは少し多すぎるが、いずれも高い技量を持つ魔法師だから、無防備というわけではないしな」
「だが、高い技量を持つ者ばかりだからからこそ、起きる問題もあるだろう」
達也が言っているのは、それぞれが勝手に魔法を使うことで相克が発生することだろう。それは治夏も危惧していたことだ。
「誰が魔法を使うかは指揮官に指名させるよりないだろうな。それ以外は、勝手な魔法の使用は禁じるようにしよう。風間、それでどうだ?」
「いくつか、修正案があります」
義勇兵を含む部隊だけに運用が難しくなるのは、やむを得ない。治夏たちはそれから随分と長い間、作戦以外の内容を話し合うことになった。