魔法科高校の劣等生と幻術士   作:孤藤海

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パラサイト戦争編 リーナの帰国

七月十六日の早朝、宮芝淡路守治夏は晴れやかな気持ちで山中図書からの報告を聞いていた。報告の内容はイギリスを中心にUSNAのパラサイトに対抗するための連合軍が結成されたというものだった。同時に、ハワイのオアフ島に本拠を置くUSNAの太平洋艦隊も対パラサイト連合に加勢すると宣言した。

 

イギリスはパラサイトたちに命名を行った国でもあり、古式魔法もそれなりの勢力を維持している。そういった経緯もあり、対パラサイト戦に向けて立ち上がること自体は不思議ではない。

 

しかし、一方でイギリスは大変にきな臭い国でもある。そもそもイギリスの戦略級魔法師であるウィリアム・マクロードはエドワード・クラークやベゾブラゾフと手を組んで達也を葬る為にディオーネー計画を主導していた節がある。マクロードの狙いは魔法師たちが九島光宣に協力したことをもって、本来の意味……魔法師追放のためのディオーネー計画を再発動させることにある気もするのだ。

 

けれど、今の日本に対パラサイト同盟に参加しないという手はない。対パラサイト戦に全戦力を投入する以上、その直後に側面や背後を突かれるような危険性は許容できないのだ。加えて重要なのが、USNAのハワイの太平洋艦隊だ。

 

ハワイの太平洋艦隊と同じ陣営に属していれば、ハワイを通過するのが容易になる。それにオアフ島に駐留する艦隊の戦力はサンディエゴの艦隊を凌駕している。日本が正面戦闘で破ることが難しい強大な海軍戦力を、太平洋艦隊同士で潰し合ってくれれば、上陸作戦は随分と楽になるだろう。

 

無論、その際にも気になることはある。今回の一連の流れは九島光宣とパラサイトの台頭を抑えられなかったエドワード・クラークなりの対抗策のような気もするのだ。その場合、宮芝はエドワード・クラークにまんまと利用されたことになる。

 

疑心暗鬼に駆られて他国との連携を乱すのは愚策だ。けれど、エドワード・クラークだけは殺しておかねば、結局は今回と類似した問題が発生するだけだろう。

 

エドワード・クラークは現在、ワシントンにいる。日本とUSNA政府は対パラサイト戦のため、事実上の和睦を結んだが、未だに人の行き来は再開されていない。そんな中、密かに暗殺者を西海岸に上陸させ、広大なアメリカ大陸を横断してワシントンを目指すというのは、現実的とはいえない。

 

それに暗殺が発覚した場合も痛手になる。先にも考えた通り、未だ世界の日本に対する警戒は強いものがある。暗殺に戦略級魔法を使われたら、というのは誰しもが考えてしまう悪夢で、そしてベゾブラゾフが示してしまった現実でもある。そのような懸念を抱かせる行動は避けるべきだ。そうなると、諦めるしかないのだろうか。今の所はそれも視野に入れておくしかないように思える。

 

ともかく、今後のことは再度、話し合わないといけない。治夏は達也に連絡を取り巳焼島に運んでもらうことにした。そうしてエアカーが苦手な治夏は花菱兵庫に出してもらった小型VTOLで巳焼島に降り立った。

 

「それで、今日は何の話だ?」

 

通された応接室で、達也が若干だが不満げな様子を見せていた。未だ暗殺の懸念が残る達也は、防御の堅い巳焼島への滞在を基本にしている。それに不満を抱いているなら分かる。だが、達也は治夏を厄介に思っているような気がしてならないのは何故だろうか。ここしばらく治夏は達也の利益になることしかしていないというのに。

 

「今日の話はリーナの処遇についてだ」

 

そう言うと、達也の隣で他人事のように座っていたリーナが目を見開いた。

 

「君たちも聞いていると思うが、USNAの太平洋艦隊が対パラサイト同盟への参加を表明した。それに伴い、リーナが本国を離れている理由であるパラサイトに対抗するためという理由が使えなくなった」

 

「それで、和泉はリーナをどうするつもりだ?」

 

どうやら達也の態度が剣呑だったのは、リーナを思ってのことだったようだ。相変わらず醒めているくせにお人好しな男だ。

 

「無論、USNAに返還するしかないと思っている」

 

「その場合にリーナの安全は保障されるのか?」

 

「正直に答えるとすれば、分からないと言うよりないな。少なくとも対パラサイト戦が片付くまでは貴重な戦力として無下に扱われることはないだろう。だが、戦いが終結した後については、全く予想がつかない」

 

「和泉はそれを承知で、リーナを返還すると言っているということだな」

 

「そういうことだとも言えるし、そうでないとも言える。私はわざわざ今後はリーナを引き渡さざるを得ないと伝えたんだ。嫌なら脱走でも何でもすればいい」

 

リーナが第三国に逃れたとしても宮芝はそれを追わないと暗に伝える。

 

「ワタシは……ステイツに帰るわ」

 

「そうかい。君の未来の幸福を祈っているよ」

 

治夏はリーナに選択肢を与えたようで、与えていない。第三国と言えば聞こえはいいが、リーナにとっては見知らぬ異国だ。関係の深い日本ならまだしも、自分をどう扱うか全く分からない異国に向かうくらいなら、普通は祖国を選ぶ。

 

「リーナ、虫のいい願いだと思うかもしれないが、戦後の安寧を守るため、一つお願いがあるのだが、聞いてくれるか?」

 

「改めて言われると胡散臭く感じてしまうのだけど……とりあえず聞いてみるわ」

 

達也にしてもリーナにしても治夏は最大限の便宜を図ってきたはずだ。それなのに、どうしてこんなにも信用が薄いのだろう。全くもって解せない。

 

「心配しなくとも、本当にこれから両国が再び友好関係を築くために必要なことだ。そしてリーナにとっても損にはならない話だ」

 

そう前置きして話し始めた計画には、達也もリーナも驚きの表情を見せていた。しかし、計画の意義は理解してもらえたらしく、協力は約束してもらえた。

 

「リーナの協力に感謝する。もしも宮芝で力になれることがあれば、可能な限り力になると約束しよう」

 

治夏の言った、可能な限り、というのは宮芝の不利益にならない範囲で、という留保がついたものだ。今回の恩で最も利益を受けるのは達也だ。それに対して宮芝が過剰な便宜を図ることはできない。

 

「ありがと、気持ちは受け取っておくわ」

 

リーナにもそれは通じたのか、返ってきたのは至極あっさりとした礼だった。

 

「ではリーナ、いつでも出発できるよう荷物は纏めておいた方がいいぞ」

 

「安心して。荷物は増やしていないから」

 

元よりリーナも、ここが永住の地とは思っていなかったということだろう。リーナとは当面の間は友好関係を築けるはずだ。けれど、戦後は宮芝もリーナも今よりは不安定な立場に置かれるのは間違いがないだろう。だから、互いに多くの言葉は不要。

 

守るべき約束は一つで十分。明確な別れの言葉を残さず、治夏はリーナに背を向ける。

 

「あれでよかったのか?」

 

治夏を小型機まで送る達也が、リーナの姿が見えなくなったところで聞いてくる。

 

「あれくらいで、ちょうどいいんだよ」

 

奇跡的に事が上手く運び、リーナが以前と同じ地位に残れたとしても、一度は祖国から脱走したリーナが今後、異国の土を踏むことはないだろう。つまり治夏とリーナが今後、会うことはないということだ。

 

逆に再びリーナと出会うことがあれば、それは治夏が頭に描いた最悪のシナリオが実現したということになる。日本にとっては、その方が悪夢だ。

 

「それより君も準備を進めておいてくれよ。でないと、せっかくのリーナの協力が無意味になってしまうからな」

 

「分かってる。この機を逃しはしない」

 

今回の案は達也にとっても、けして望ましいことではない。それでも、こうして受け入れてくれたのは、少なくない血が流れるのを見たためだろう。

 

さすがに、これ以上の戦火の拡大は必要ない。その思いが治夏と達也とリーナの気持ちを一致させた。

 

本当に、次の一戦で全てが終わってほしいものだ。治夏はそう切に願った。

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