魔法科高校の劣等生と幻術士   作:孤藤海

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パラサイト戦争編 九島光宣の協力者

七月十八日、北アメリカ大陸合衆国ニューメキシコ州ロズウェル郊外にあるスターズの本部基地で、九島光宣は苛立ちを隠せずにいた。先日、太平洋艦隊の本隊がUSNAから離反して光宣たちの敵に回った。そして昨日にはノーフォークにある艦隊総軍もイギリスを中心とした対パラサイト同盟に参加を表明した。

 

これまで政府の意向には反しないという姿勢を示すことで、大統領にパラサイトを半ば黙認させてきたというのに、これでは何の意味もない。だが、これは自分の責任だ。元から魔法力もない劣等種に過度な期待をする方が間違っていたのだ。この教訓は次回に活かせばいい。

 

ひとまず神から選ばれた存在である魔法師に噛みついた、神に選ばれなかった動物たちには罰を与えなければならない。人と動物が共に生活をするには適切な躾が不可欠となるのだから。

 

もっとも、そのためにも対パラサイト同盟への対処が先決となる。対パラサイト同盟には多くの国が参加を表明しているが、当の発案者であるイギリスからして積極的に戦争がしたいという意思は感じられない。戦争に積極的なのは、むしろ日本の方だ。掌握した衛星からの断片的な情報からでも、多くの艦船を動かそうとしているのが読み取れる。

 

本来の日本は、これほど好戦的な国ではなかったはずだ。それなのに、こうも大々的に他国を侵略するための軍を動かそうとしている。そのような変質を遂げた裏には宮芝の存在があるはずだ。

 

宮芝さえいなければ。その考えの元に光宣はすでに一度、日本に対して宮芝和泉守の引き渡しを要求した。我々が望むのは生存のみで、宮芝家を引き渡すのであれば日本に危害は加えないと約束をして。けれど、それは日本政府に一蹴されてしまった。

 

ならばと日本の世論に向けて、日本を歪める元凶たる宮芝を差し出すのであれば、戦争を避けられると訴えてみたが、これも効果がなかった。光宣が人の価値を魔法力で決めようとしていることへの反発が賛同の声を大きく上回ったためだ。

 

一応、日本とUSNAは違うと強弁してみたが、さすがに騙される者は少数だった。劣等種は劣等種らしく馬鹿でいればいいものを、下手に知恵を付けた動物は人間のような振りをするのだから困る。

 

ともかく光宣たちに対して最も敵対的なのが日本と、USNAから離反した軍人たちだ。そのうち宮芝がいる日本軍にパラサイトは当てられない。となれば西から攻めてくる日本と太平洋艦隊には魔法師部隊と光宣たちが掌握済のサンディエゴの艦隊を、東側から攻めてくるイギリスと艦隊総軍にはパラサイトを当てるのが得策だろう。

 

とりあえずパラサイトを当てる東側は問題なく勝利できるはず。問題は西側だ。ハワイの駐留艦隊とサンディエゴの艦隊では敵方のハワイの艦隊の方が強力だ。そして、日本の魔法師とUSNAの魔法師との比較でも、優秀な魔法師であるスターズの隊員がパラサイト化して東側に向かっているという点で劣勢だろう。そうなると基本方針としては東側が短期決戦で、西側が長期戦となる。

 

光宣は早速、部下たちに向けて戦の基本方針を説明する。説明といってもパラサイト同士なら光宣の考えも把握しているし、決定事項として強い意志を持って命じれば反対意見が返ってくることはない。

 

パラサイトは個別の身体を持ちながら、全員で一つの生き物。パラサイトたちの意思は、一つでなければならないのだから。

 

それにしても、この意思決定と伝達の方法は本当に便利だ。ちょっとした言葉の選択で認識の齟齬が起こることはないし、無能なくせに強硬に反対する者も出ない。優れた個体による指示により統一的な行動ができる。

 

光宣は誰よりも高い魔法力を持っている優れた個体だ。だから、光宣の指示に従うのが最も正しい在り方なのだ。それを説明せずとも理解できるのだから、本当にパラサイトとは素晴らしい存在だ。

 

当初は望む者だけをパラサイトにしようと考えていた。しかし、それは誤りだったのかもしれない。全ての人間をパラサイトにすれば、無駄な手間は必要なくなる。無駄なく全ての人間を思う通りに動かすことができる。

 

それは、なんと素晴らしい世の中なのだろうか。全ての人が優れた人間である光宣の考えの恩恵に預かることができるのだ。そうすれば愚かな人間が発言をすることも行動を起こすこともなくなる。それによって全ての争いがなくなり、皆が幸せになれるのだ。

 

素晴らしい。本当に素晴らしい世の中だ。そんな世界が作れれば、きっと香澄と泉美も幸せになれる。

 

光宣が高揚感に浸っていると、どこかからか通信が入ってきた。ここはスターズの本部基地だ。部外者が通信を入れられる場所ではない。訝しみながら光宣が通信に応じると、相手は七賢人を名乗ってきた。

 

「七賢人とは随分な名乗りですね、エドワード・クラーク」

 

光宣が相手の名を言うと、少しだけ息を呑んだ気配があった。

 

「僕が何も知らないと思いましたか?」

 

「分かりました。私は確かにエドワード・クラークです」

 

言い逃れできないと諦めたのかエドワード・クラークは、あっさりと認めた。

 

「それでUSNAの国家科学局のエドワード・クラークが僕に何の用ですか?」

 

「君に太平洋艦隊の真の狙いについて話をしておきたい」

 

「……真の狙い?」

 

「太平洋艦隊の真の狙いは日本艦隊です」

 

思わず息を飲んだ。それは間接的にだが光宣に味方をすると言っているも同然だ。

 

「どうして、そのようなことを?」

 

「息子の敵討ちという理由では不足ですか?」

 

レイモンド・クラークは巳焼島への襲撃で宮芝の手勢に敗れて戦死している。話としては成立はしうる。けれど、信じるに足りないのも確かだ。

 

「それだけで日本を攻撃するとは思えませんね」

 

「私は何も私怨だけで、そのような行動を取ろうとしているわけではありません。日本艦隊を殲滅することは、長期的には我が国の利益になると信じてのことです」

 

「それは、どういうことですか?」

 

「司波達也は我が国にとって災いとなる。だから、どのような犠牲を払おうとも彼は殺してしまわなければならない」

 

レイモンド・クラークもそのようなことを言っていたが、どうやらクラーク親子は随分と達也のことを高く評価しているらしい。確かに達也は強敵だろう。だが、USNAほどの大国がそこまで警戒をすべき相手とも思えない。最強の戦略級魔法師であるシリウス少佐には脱走されてしまったらしいが、それでもUSNAには、まだ二人の戦略級魔法師がいる。

 

「分かりました。お話を伺いましょう」

 

けれども、この申し出は光宣にとって好都合だ。太平洋艦隊を味方にすることができたとしても、達也に大きな痛手とはならないはず。けれど、宮芝家の打倒には大きな一歩になる。ならば、利用できるものは利用すべきだ。

 

「太平洋艦隊は十日後の二十八日にハワイを出港する予定と聞いています」

 

では日本軍の艦隊はそろそろ日本を出港する頃だろうか。二十八日にハワイを出港した太平洋艦隊がサンディエゴに到着するまでは、おおよそ一週間。半月あれば、それなりに迎撃のための準備も可能となる。

 

「達也さんを殺してほしいということは、太平洋艦隊はサンディエゴで僕の指揮下の艦隊とは戦わず、日本艦隊を攻撃するということでよろしいですね?」

 

「無論、そのつもりです」

 

「僕たちが動くのは太平洋艦隊が日本艦隊に十分に攻撃してからでよいですか?」

 

「私の言葉だけでは信用できないでしょうからね。当然の行動だと思います」

 

衛星での監視が当てにならないのは、新ソ連が日本艦隊の動向を全く掴めなかったことからも想像できたことだ。けれど、その問題も内通者がいれば解決が可能だ。そして、太平洋艦隊と協力すれば、日本艦隊を壊滅させることが可能だ。

 

勝てる。宮芝に勝つことができる。

 

憎き宮芝が血に染まる姿が脳裏に浮かび、光宣は暗い笑い声をあげた。




最新刊とは類似点も矛盾点もありますが、もう戻れないので、このままいきます。
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