横須賀を出港した空母の艦内で森崎雅樂駿は静かに時を過ごしていた。
七月十九日に横須賀を出港した艦隊は太平洋を東に進み、七月二十七日にハワイ沖で呉と佐世保から出港した艦隊と合流した。日本艦隊は空母三、ミサイル護衛艦二十一、小型艦三十九の計六十三隻の大艦隊である。
同時に、少し遅れて日本を飛び立った輸送機から最後の人員補充を受け、九島光宣討伐作戦の全戦闘員が揃った。それを受けて翌二十八日には太平洋艦隊とともにUSNA本土に向けて出港した。
しばらくは太平洋艦隊の後方を日本艦隊が進んでいた。しかし、昨日の八月三日の時点で太平洋艦隊とは別れて今はやや北を進んでいる。
最初、淡路守は太平洋艦隊の司令に八月五日に太平洋艦隊が先鋒としてサンディエゴに攻撃を仕掛け、日本艦隊はその後詰めに当たると伝えていた。しかし、今日になって森崎は別の作戦を知らされていた。
今日、八月四日に日本艦隊はロサンゼルスに攻撃を仕掛ける。それから少しして太平洋艦隊にサンディエゴへの攻撃命令を下す。それが淡路守の作戦だった。淡路守はUSNAのことを信用してはいなかったということだ。
先鋒として空母から十機の複座式戦闘機、天牙が飛び立っていく。隠蔽魔法で存在を隠した天牙が対地攻撃を行うと同時に、ミサイル護衛艦二十一隻が一斉にミサイル攻撃を実行する。加えて空母から二十機の通常の戦闘機が海岸線を攻撃する。その後が森崎の率いる隊の出番だ。
森崎はエアカーに搭乗して攻撃を仕掛ける第二世代関本を中心とした飛行車両隊の大隊長に任命されていた。他に郷田飛騨、一柳兵庫、矢島修理、名倉三郎が大隊長に任命されており、各大隊にはパラサイト関本が副隊長として付けられている。ちなみに連隊長は第一飛行大隊長でもある郷田飛騨が務め、森崎は第四飛行大隊長だ。
天牙から攻撃成功の通信が届き、ミサイル護衛艦と空母からミサイルと艦載機が敵基地を破壊するために飛び立っていく。今頃は太平洋艦隊にもサンディエゴへの攻撃の依頼がされているはずだ。そして、森崎たちの出番だ。
空母の飛行甲板上に並べられたエアカーが一斉に空へと上がっていく。その一瞬後には急加速をし、USNAの本土へと一直線に翔ぶ。
元より奇襲であったためか、海岸の防衛線は手薄だった。最も怖い敵戦闘機は事前の天牙とミサイル攻撃で打撃を与えられたのか、姿は見えない。代わりに攻撃が素通りした内陸から飛行魔法を使った魔法師たちが飛び上がってくる。
「第四飛行大隊、第五飛行大隊、敵魔法師を迎撃せよ」
飛騨守からの指示に了解を返し、森崎は隷下のエアカー十機を敵魔法師隊の左に向けさせる。一方の名倉の第五飛行大隊は敵魔法師の右に回っていく。
敵魔法師の数は約四十名。一方の森崎たちの飛行大隊は、各四十機の関本を有している。要するに数の上では二倍というわけだ。
問題は、第二世代関本たちがUSNAの魔法師相手にどれだけ戦えるかだ。ここで苦戦するようでは、この後の戦いも厳しいものとなるだろう。敵は左右に分かれた森崎たちに対し、同じく部隊を二つに分けて対抗するようだ。
「何だ、こいつらは!? 何て速さだ!」
その別れた二十人のうちの一人が、驚愕の声を上げた。自己加速魔法による加速などとは次元が違う時速九百キロで飛行する敵に初見で対処するには、さしものUSNAの魔法師にも厳しいようだ。狙いがつかないのか、放たれた魔法は明後日の方向に飛んでいく。
「攻撃開始!」
対する森崎の隷下の第二世代関本たちは、時速九百キロで飛行する板の上で同速で飛行する存在に対して射撃を命中させられるよう最大限の訓練を積んできた。それより遅い速度でしか飛行できないUSNAの魔法師たちに次々と命中弾を与えていく。威力も十分で、無事に敵の魔法抵抗力を超えて、地上に叩き落している。
「敵魔法師、全機撃墜!」
結果として森崎たちには被害なし、名倉の隊も関本一機が被弾して落下中に自爆という軽微な被害で敵を退けることができた。
「よくやった。ただし、今回の敵はスターズではない。今後も油断せぬように」
「了解です」
飛騨守に答えて、敵海軍基地があるサンディエゴ方面へとエアカーを向けさせる。それから少し、前方の空に百近くの魔法師の集団の姿が見えてきた。
「連隊長から各大隊へ! 今度の敵は海軍基地に所属する魔法師隊と思われる。全大隊で挑む。今回の敵を先と同じと思うて油断するな!」
「応! 第四飛行大隊、各機散開、戦闘態勢を取れ!」
叫んだ森崎の声に応え、隷下の飛行大隊が相互に距離を取る。応じるように敵も散開して戦闘態勢を取るのが分かった。
「高度下げ! 八時方向より四十五度の角度で上昇しつつ攻撃を仕掛ける!」
エアカーは構造上、真下への攻撃ができない。一応、反転して逆さまに飛行することで対応することは可能だが、関本はともかく生身の操縦者の操作精度は影響を受けてしまうため望ましくないとされている。下方からの攻撃に弱いという点は、今は敵に気づかれたくない事実だ。そのため第五飛行大隊はわざと敵の上に回って、こちらの狙いを敵の包囲と誤認させようとしている。
「連隊長より各大隊へ! 敵の射撃魔法の発動を観測! 各大隊は、回避行動を取りつつ接敵せよ!」
「第四飛行大隊長、了解! 二番機から五番機まで、前衛として敵の攻撃を引き付けろ! 敵の第一射を確認後、六番機から十番機は敵魔法師隊に突撃を敢行せよ!」
森崎が指示をする間にも敵魔法師集団の中で魔法発動の気配が高まっていく。
「来るぞ! 散開!」
叫んだ直後、敵魔法師からの攻撃魔法が森崎の大隊を襲った。膨大な数の氷の礫が隷下のエアカーに降り注ぐ。
「二番機、爆散。四〇五号機から四〇八号機までの反応、消失」
第四飛行大隊の副隊長であるパラサイト明王がパラサイトの通信で状況を把握し、森崎に報告をしてくる。他隊も魔法攻撃を受けて他に二機のエアカーが撃墜。二機が大破して、関本計十機を失ったようだ。しかし、その間隙を縫って森崎隷下の六番機から十番機が敵に突っ込んでいく。
幾筋もの光が空に軌跡を残し、敵魔法師隊へと伸びていく。関本たちのデバイスから放たれた専用射撃魔法によるものだ。何人かの敵魔法師が地上へと落ちていくのが見える。そこに更に、敵からの初撃を回避した三機も後に続く。
たちまち、敵味方が入り乱れる大乱戦になった。高速で飛行するエアカー部隊に同じく飛び回っての迎撃は不利と見たか、敵は回避を最小限にした精密射撃で応戦してきた。それは包囲攻撃を甘んじて受け入れる必死の対抗策だ。人間である敵の魔法師たちが、まさか必死の策を取るとは思っていなかったが、足の速さが決定的に違うのだ。逃げても逃げきれないと判断してのものだろう。
「七番機、接近しすぎだ、離れよ! 八番機、九番機、七番機を援護!」
「三番機、被弾。四一〇号機、戦闘不能」
森崎が指示をする間にもパラサイト明王が被害報告をしてくる。
「第五飛行大隊、これより急降下攻撃を敢行する。各大隊は援護を」
「第四飛行大隊、了解。四番機、五番機、敵の目が上に向かぬよう全力射撃! 当たらなくとも構わん!」
第五飛行大隊からの通信に応えつつ、隷下の飛行隊に指示を飛ばす。
「三番機、後退せよ。二番機、安全圏まで援護せよ」
被弾して速度の低下した三番機に後退を指示し、未だ正面空域で続いている激しい戦闘に目を向ける。気持ちとしては森崎の搭乗する一番機も敵中へと飛び込ませ、共に戦いたい。だが、今の所、全体的には日本軍の優位に戦況は進んでいる。そんな中で数少ない指揮官を務められる人材を失う危険性を冒すべきでない。
「十番機、狙われているぞ! ブレイク!」
実際、自身が戦闘に参加していては、今のように指示を与えることは難しいだろう。何といっても森崎自身も生粋の戦闘機乗りではないのだから。目の前の敵に対処しつつ僚機への指示を的確に行うなど、欲張りすぎもいいところだ。
長い戦いを経て、敵の魔法師が空から駆逐された。落とされた振りをして逃れた敵魔法師からの奇襲を避けるために傷ついた僚機を援護させながら、この場を離れる。そうして被害を纏めてみると、エアカーの喪失は七機、大破が四機、中破が七機。関本の喪失は五十九機にもなっていた。緒戦と合わせると戦闘に支障のないエアカーは三十四機、関本が百四十機。はっきり言って想像以外の被害だった。
「関本の被害が大きいな。さすがはUSNAの精鋭部隊といったところか」
関本を三割を失ったのを見た飛騨守の言葉には森崎も苦い笑みを返すことしかできない。全体の戦力低下を補うためにも、おそらく次の空戦では森崎自身も戦場へと突入して戦わねばならないだろう。
いずれにせよ、本日は関本たちが魔法力をほとんど使い果たしていて戦えない。飛騨守の指示に従い、森崎たちは出立した揚陸艦への引き上げを始めた。