魔法科高校の劣等生と幻術士   作:孤藤海

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入学編 魔法実技が苦手な面々

「九四〇ミリ秒。達也さん、クリアです」

 

「やれやれ、三回目でようやくクリアか」

 

我が事のように目を輝かせて喜ぶ美月に、司波達也は疲れ気味の笑顔で答えた。

 

現在、達也たちのクラスは、魔法実技の真っ最中。

 

今日の実技は、基礎単一系統の魔法式を一〇〇〇ミリ秒以内にコンパイルして発動する、というものだった。

 

「でも意外でした。達也さん、本当に実技が苦手だったんですね……」

 

「意外って、結構何度も自己申告したと思うけど?」

 

「確かにお聞きしましたけど……謙遜だとばかり。だって達也さんみたいに何でもできる人が、実技が苦手なんて」

 

「そうだな。まさか私より下だとは思わなかったよ」

 

話に入ってきた和泉は二回目に九七〇ミリ秒で合格していた。まあ達也との差は団栗の背比べというやつだ。

 

ちなみに、エリカとレオも同様の課題に苦しんでおり、時折、エリカがレオをからかう声が聞こえてきている。が、エリカとレオの差も団栗の背比べでる。

 

今日の達也たちは正しく劣等生たちの集まりとなっていた。

 

「……自分で言うのも何だけど、実技が人並みにできていたら、このクラスにはいなかっただろうね」

 

「まあ、ないものねだりというやつだがね」

 

「和泉に言われるのは心外だけどな」

 

「おや、私だからこそ、言う資格があるのではないかな?」

 

確か和泉も理論は得意だったはず。そして、実践的な技能は多く有していることも。似ている部分が多いからこそ、単純に他人を評するのとは違うということだろう。しかし、何となく同意しかねるのは、和泉の性格面が特殊すぎるためだ。

 

「でも、達也さん……口惜しくは、ないんですか?」

 

「何が?」

 

「本当は実力があるのに、実力がないみたいに評価されていることです」

 

非常に答えにくい質問だった。達也が少し考えている間に先に和泉が口を挟んできた。

 

「おや、私には聞いてくれないのかい?」

 

「和泉ちゃんは口惜しいと思ったら、その通り行動するじゃない」

 

美月にしては、ばっさりと切り捨てたのは毎度の和泉の過激な行動には、彼女としても思うところがあるためだろう。

 

その間に、達也は自身が抱えている個人的事情を秘匿するため、美月の質問から建前論で逃れることを決定していた。

 

「処理速度も実力だよ。それも、重要なファクターだ」

 

「実践を想定するなら、達也さん、本当はもっと発動できるんでしょう?」

 

「……何故、そう思う?」

 

「さっきの実技ですけど、達也さん、三回ともすごくやりにくそうでした。最初の試技を見て思ったんですけど、達也さんって、この程度の魔法なら、起動式を使わずに直接魔法式を構築できるんじゃないかって」

 

起動式を使わずに、使用するのと同等のスピードで魔法を行使する技術は、厳に秘匿を義務付けられているものだ。

 

達也が咄嗟に視線を向けたのは和泉の方だった。美月にならば核心部分以外は見破られたとしても問題ない。逆に、和泉には僅かな情報でも与えたくはない。

 

和泉の視線は美月に向けられたまま。達也の方には気を向けていないように見える。だが、それは演技であろう。和泉が希少技術に対して興味を向けないという方が不自然だ。

 

ともかく、達也はこれ以上、和泉に情報を与えないため美月への口止めを試みる。

 

「そこまで見られていたとは思わなかった。さすがに良い目をしている」

 

美月の顔がサッと蒼褪めた。美月が自分の目のことを隠しておきたいと考えていることを予測していての意地の悪い言い方であったが、効果はてきめんだったようだ。

 

「確かに、基礎単一系程度なら、直接魔法式を組むことでもう少し速く発動できるよ。でもその手が使えるのは工程の少ない魔法だけだ。俺には五工程が限界だな」

 

「五工程でも十分であろう。それだけあれば、十分に人を壊せる」

 

やはり和泉は達也の技術に興味を持っていたようだ。しかし、まだ純粋に属人的なスキルであると誤認しているはず。ならば、誤認させたまま、この話を終える。

 

「俺は、戦闘用に魔法を学んでいるわけじゃないからね」

 

そう言って、戦闘用魔法よりも多段階の工程を必要とする民生用魔法では通用しないことを匂わせ、処理速度が劣ることに対して相応の評価を受けるのは仕方の無いことと納得していると伝える。しかし、これは失敗だった。

 

「戦闘用に魔法を学んでいるわけじゃない……ね。ならば、どうして対人戦闘の技術を磨いているのか教えてもらいたいものだね」

 

和泉は小声であったが、内容は達也の矛盾を的確に突いたものだった。達也は自分に計算ミスがあったことを悟り、リカバリの方法を考えていた。しかし、計算ミスは一つだけではなかった。

 

「すごいです、達也さん……尊敬します」

 

うっとりとした口調で言った美月は、胸の前で指を組み、目を潤ませて達也のことを見上げている。言葉通りの、同級生に向けるには不適当なまでの憧憬の念が、そこにはあった。

 

「魔法が使えるから魔法師になる……それが普通なのに、達也さんはちゃんと自分の目的を持って、その為に魔法を学んでいるんですね……」

 

「いや、まあ、確かにそのとおりだけど……」

 

「私、心を入れ換えます!」

 

そうして美月は目をコントロールする為に魔法を勉強していただけだったが、これからしっかりと将来のことを考えてみると宣言を始めた。

 

「もしもし、美月さん?」

 

「そうですよね。目的をしっかりと持っていたら、少し中傷されたくらいで挫けたりしませんよね」

 

美月の独演会は、更にヒートアップしていき、人にとって大切なことは、自分だけの生き甲斐を求めることだ、という域までスケールアップしていた。

 

達也はあくまで自分の学習の到達点を語っただけであり、それ自体を人生の目的としているなど、一言も発していないはずだが、どうしてこうなったのだろうか。

 

「達也、この責任、どう取るつもりだい?」

 

挙句の果てに、和泉までが達也の側に問題があるかのような言い方である。

 

「俺の責任なのか?」

 

「君が責任を取らねば、美月の立場はどうなる?」

 

「それなら、俺の立場はどうなるんだ?」

 

「君は元々が変人として認められているではないか。今更、立場は変わらんさ」

 

反論したいところだが、一方で確かにそうかもと思ってしまった。

 

ちなみに一人で盛り上がり続けた美月は、エリカによって止められた。しかし、時すでに遅く、達也たちの中では圧倒的に常識人と見られていた美月は、晴れて達也たちの正式な仲間と認知されることになった。

 

「よかったな、達也。今日から君は変人グループのリーダーだぞ」

 

そして達也は、更に悪化した自らの評判に苦笑いを浮かべることしかできなかった。

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