本作のエアカーはステルス性能は一切ありません。
そのため地上軍が先に対空砲を潰しに向かっています。
西城レオンハルト、通称レオは森の木々の間に身を隠しながら前進を続けていた。レオが配属された隊は第三十四分隊。構成員はレオの二学年先輩である小早川桂花、レオの後輩である桜井水波と元後輩である七宝琢磨、呂剛虎という大男、そしてレオの五名だ。分隊長は小早川で今は彼女の指揮の元、敵の対空砲の破壊作戦に従事中だ。
この対空砲も飛行魔法の開発により復活した前時代の兵器である。低空で侵入してくることが多い小型の目標を狙うために艦船に搭載されていた近接防御用の砲塔を転用した、自走式の機関砲塔として復活したのだ。
高速で空を飛んで敵と空戦を行っていたエアカーという乗り物は、元は民生品だったらしく、装甲はさほどでもないらしい。加えて、いくら高速とはいえ対空砲を相手にするには分が悪いということだ。そのため、レオたちが地上から迫っているというわけである。
対空砲陣地が地上からの攻撃に対して無防備であるはずがない。おそらく相当数の銃火器が待ち構えているはずだ。それを硬化魔法と障壁魔法で強引に突破するのが、第三十四分隊の役割であり、そのためのレオの配属だと聞いている。
聞いたときは正直、耳を疑った。レオは確かに硬化魔法が得意だが、拳銃ならともかく機関銃座に突っ込んでいけるほどの強度は出せない。けれど、それを補うために障壁魔法が得意な桜井がいて、更に先頭をいくのは呂剛虎という大男であり、レオはその背に隠れるようにして接近すればよいと言われたのだ。
はっきり言って機関銃の攻撃に耐えられるか、なんてことは試したこともないし、試すこともできない。不安がない訳ではないが、二年前から宮芝で実戦を重ねてきた小早川、世界屈指の近接魔法師と聞いている呂剛虎、師補二十八家の七宝琢磨、それに四葉の関係者である桜井まで付けてくれたのだ。和泉なりに最大限の優遇してくれたのだろう。これで嫌だなどと言えるわけがない。
「見えてきましたね」
分隊長の小早川が双眼鏡を覗きながら言った。機関砲塔は水平射撃も可能と聞いている。ここから先は油断は禁物ということだ。
「西城、君は機関砲塔が健在の内は盾を構えて防御に徹していろ」
レオは現在、チタン合金製の大楯を渡されており、この盾の内側に桜井を入れて守りつつ、同時に桜井の魔法により守られろと言われていた。小早川が言った防御に徹していろという指示は、残りの三人だけで機関砲塔を制圧すると言っているも同じだ。
「三人だけで大丈夫なのか?」
「数を相手にする場面ならまだしも、強力な個を相手にするときは君にウロウロとされる方が邪魔だ。それに一つ訂正しておこう。私は機関砲塔を相手にするのは苦手だ。ゆえに今回の制圧作戦を行うのは二人だ」
酷い言われようではあるが、実際にバルカン・ファランクスに耐えられると言えない以上、下手に戦場に出ても足手纏いが増えるだけだ。幸いというか、小早川も留守番役らしいので、今回は一緒に後方待機しておくしかない。
「では、作戦を開始するぞ、行け、呂剛虎」
「ガアアッ」
とても理性が存在するとは思えない返事をし、呂剛虎は真っ直ぐに機関砲塔に向けて突進を始める。当然、機関砲塔と周囲の機関銃の攻撃が呂剛虎に集中する。
「ゴオガアァアア」
体の前面に強力な剛気功なる防御術を展開し、呂剛虎は攻撃に耐える。そして敵の攻撃が呂剛虎に集中するのを見計らい、七宝が攻勢に出た。
「群体制御魔法、発動」
七宝が言った瞬間、身に纏っていた服が吹き飛んだ。七宝は廻しだけの姿となっており、その周囲には無数の服の破片が渦を巻いている。
「ミリオンダイブ」
そして七宝は自分の着ていた服の破片に乗って機関砲塔に向けて飛んでいった。機関銃座は対応できなかったようだが、敵機関砲塔が急速接近する七宝の魔法反応を捉えたのか、即座に射撃を開始する。それを七宝は自分が乗って飛んでいる服の破片の一部を盾とすることで防いでいた。
「ミリオンストライク」
機関砲塔からの銃撃をものともせずに急接近した七宝は、服の破片を纏ったまま敵機関砲塔に突っ込んでいった。さすがにそれだけで破壊はできなかったようだが、とりあえず機関砲の内側に入った。これで機関砲塔からの攻撃は受けない。
さあ、そこからどうするのか。盾の陰から遠く見つめていると、七宝は意外な方法で機関砲塔を破壊しようとし始めた。その方法は相撲の稽古でも行われる鉄砲である。まわし一つで突っ込んできた力士が、機関砲に対して突っ張りを行う姿を敵は一体、どんな気持ちで見ているのだろうか。
「どすこーい!」
一回目の右の突っ張りで砲塔に亀裂が走った。二度目の左の突っ張りで亀裂は砲塔全体に広がった。そして、三度目の右の突っ張りで機関砲塔は崩壊した。
「七宝さんって、あんなに強かったんですか?」
恐るべき威力の突っ張りを見て桜井が驚愕の言葉を漏らす。
「いや、そもそも七宝が体術……突っ張りは体術なのか? まあ、ともかく七宝が体術が得意なんて話自体、聞いたことがないんだが……けど、あれだけ体格が変われば得意なことも変わるのかも?」
体重が百二十キロを超えるまでに成長した七宝は、もはや別人としか思えない。達也が言うには顔のパーツは同じだという話だが、レオはそこまで七宝を覚えていない。
「む……これはパラサイトの反応ですね」
桜井と暢気な会話をしていると、急に小早川がそんなことを呟いた。レオは一年のときにパラサイトと戦って、その脅威の能力の一端を知っている。
「パラサイトの反応はどこからですか?」
「おそらく、飛行魔法でこちらに向かって来ているのでしょう。さて、我々の中には封印術の使い手はいませんが、どうしたものですかね」
パラサイトの厄介な所は憑りつかれている者を倒しても、本体のパラサイトを消滅させることはできないという点だ。
「何か手はないんですか?」
「無論、用意しています。パラサイトを封印できる護符があります。けれど、二枚しかないのです」
「ちなみにパラサイトの数は?」
「三体です」
つまりは、どれか一体は取り逃してしまうということだ。それなら、いっそのこと後退した方がいいのかもしれない。
「まあ、貴方が飛行魔法を使えない以上、逃げきるのは不可能なので迎撃するしかないのですがね」
なら、選択肢があるような言い方をしないでほしい。そして、さらりと嫌味を言わないでほしい。
「呂剛虎と七宝が一体ずつ相手をします。我々は三人で一体を足止めします」
「足止めですか? 倒すのではなく?」
「倒せるようなら、どうぞ」
そう言われたら倒すしかないだろう。元々、レオは小細工は苦手だ。全力で倒しにいき、結果的に倒せなければ、そのときだ。
少しすると、低空を高速で飛行してくる三人のUSNA軍人の姿が見えた。事前に聞いていた人数と同じ。あの三人はいずれもパラサイト化しているということだ。
先手を取ったのは七宝だった。砲塔に突っ込んだときも使用したミリオンダイブという技で先頭の一体に組み付き、地上に落とす。続いて呂剛虎も地上から飛び上がって、剛腕を振るって一体を叩き落す。残る一体は味方の援護には向かわず、レオたちの方ににそのまま向かってくる。おそらく、七宝と呂剛虎より、こちらを潰すことを優先したのだろう。
急降下しながら、敵パラサイトが両手に持ったナイフを投擲してくる。正面からレオに向かってきたナイフは桜井の障壁魔法で防いだが、もう一本のナイフはそれを見越していたかのように大きく左から迂回してくる。
「ジークフリート!」
レオは肉体不懐化魔法を使うと、飛来してきたナイフを殴りつけた。ナイフは一瞬だけ押し込んでくるような動きを見せた後、地面に落ちる。その直後、レオに突っ込んでこようとしていたパラサイトの前に閃光が奔り、敵が大きく後退する。
閃光の正体は、小早川が放った四十ミリ機関砲の曳光弾だ。パラサイト化した魔法師でも近距離からの四十ミリ機関砲は厳しいということだろう。
空中に逃れて距離を取った敵魔法師に対してレオは有効な攻撃手段を持たない。念のためと渡されて、簡易訓練を受けたアサルトライフルを撃っても同じことだろう。一科生である桜井は攻撃系の魔法も使えるのだろうが、レオと小早川の安全を優先しているのか、攻撃を行う様子はない。そして小早川は初めから時間稼ぎ目的の牽制に専念している。
図らずも事前に小早川が言っていたような足止めに近い状況になっている。もどかしさは感じるが、どうしようもない。そして、援軍は予想より早くやってきた。服の欠片で飛んできた七宝がパラサイトに急速接近し、レオたちを背に庇うように前に立つ。
「ミリオン張り手!」
そして、一瞬でパラサイトを粉々にしてしまった。
「え!? 何が?」
「ミリオン張り手は一秒間に百万回の張り手を繰り出す七宝の必殺技だな」
思わず零れたレオの呟きに小早川が答えてくれる。とりあえず、レオが事態を理解できなかった原因は、七宝の張り手が早すぎたためということが分かった。
「というか、一秒に百万回って防げる奴はいるのか?」
「さあ? だが、使った後は身体に相当な負担が掛かる技らしいぞ」
またも零れた呟きを小早川は丁寧に拾ってくれる。
「それより呂剛虎も戻ってきたようだ。ここはパラサイトの本体がうろついている場所だ。早く離れるぞ」
そう言う小早川に従い、第三十四分隊は砲塔破壊という任務を見事達成して帰投を果たした。とはいっても、レオ自身は特に何をしたということもなく、なんとも不完全燃焼の一戦となった。
なお本作の七宝琢磨は改変の対象となっており原作とは別人となっています。