八月九日、地上の兵器の掃討とエアカーの整備が終了したのを見て、森崎雅樂駿の属する隊は内陸部への侵攻を開始した。再編成後のエアカー部隊は四個飛行大隊、総機数三十六機。搭乗する第二世代関本の数は百二十四機だ。
飛行隊長は郷田飛騨、一柳兵庫、森崎、名倉三郎。総隊長は前回と同じく郷田だ。森崎の搭乗機には、こちらも前回と同じくパラサイト明王が同乗し、指揮を支援してくれる。
今回は地上部隊に淡路守も加わっている。露払いを任された森崎たちの責任は重大だ。
すでに九島光宣に与する者たちは相当の被害を出している。イギリスを中心とした連合軍も、東海岸に上陸を開始している。そこから考えても光宣の側も戦力の底が見えてきたに違いない。必ず光宣の籠るロズウェルまで到達してみせる。
森崎だけでなく、郷田や一柳も闘志を滾らせている。関本たちも、これで司波達也の大きな驚異を取り除くことができると士気が高い。旺盛な戦意を持った精鋭部隊が、九島光宣までの道を切り開くために空に飛び立った。
高度二千メートルを一個大隊、九機単位で時速五百キロの巡航速度で東進する。飛行大隊が敵と遭遇したのは、進み始めて二時間ほど進んだところだった。立ち塞がる敵の魔法師たちの数は約七十名。
「総力戦だ、全機、敵に突入せよ!」
総隊長である郷田が指揮官も戦闘に参加することを指示した。九島光宣が自分の近くに配置した者たちだ。郷田は前回のように関本たちに任せきりでは、勝利は見込めないと考えたのだろう。
第一飛行大隊が右上から、第二飛行大隊が左上から、第四飛行大隊は左下から、そして森崎の第三飛行大隊は右下から敵に向かう。操縦士が速度を上げ、最高速度で接近する。
「射撃開始!」
防御に優れるのは敵魔法師の側だ。関本もエアカーも被弾には強くない。だから敵の間合いに入る前に先制攻撃を開始した。
約三十条の光の線が敵魔法師に向けて伸びていく。攻撃を避けるため敵魔法師たちが散開した。そこに、上方にいた郷田の第一飛行大隊が急降下攻撃をしかけていく。下降の速度も加えて時速千キロを超える速度で、敵の横腹を掠めるように通過しながら第一飛行大隊が射撃を加える。
共に近距離での撃ち合いだ。敵魔法師四人が落ちていったが、エアカーも三機が落とされてしまった。失った関本は十二機であるため、このままでは大きな損だ。
「全機、突撃! 我に続け!」
郷田が無茶な攻撃を仕掛けたのは、敵の陣形を乱す為だ。機を逃すことなく急上昇しながら攻撃を仕掛ける。森崎は得意としている現代魔法のエア・ブリットで、パラサイト明王は自身が憑依している関本エイトエッジの専用装備である背に取り付けられた八本の刀を念動力で射出する。その他の関本たちは専用ライフルからの射撃魔法と、一機だけだが孤立していた敵魔法師に高周波ブレードでの接近戦を挑んでいた。
「全機、離脱せよ!」
続いて一柳の第二飛行大隊が降下体勢に入っている。いつまでも敵と撃ち合いをしていては、かえって味方の邪魔になるため、森崎は一当たりしただけで大隊に敵から離れるように命じた。
第三飛行大隊に続くのは一柳隊の急降下攻撃と、名倉隊の上昇しながらの攻撃だ。それで四個大隊の攻撃が一巡したことになる。
現状、味方の損害はエアカーが八機、関本が三十四機。一方の敵方は魔法師十八名。当初に比べて損害の差が随分と縮んだ。加えて、波状攻撃を受けて残った魔法師も披露の色は隠せない。
とはいえ、こちらの関本たちも魔法力の消耗が激しい。一日の射撃可能数が多くない関本たちのライフルが打ち止めとなれば、戦況は敵に大きく傾いてしまう。
「次で決めるぞ、突撃!」
第三飛行大隊の残存七機の先頭に立って、森崎は敵魔法師部隊の左側を通過しての急降下攻撃を仕掛ける。敵も魔法力が心許なくなっているのだろう。森崎たちを十分に引き付けてから攻撃する構えのようだ。
「三号機、四号機、攻撃を開始!」
牽制の意味も込めて二機のエアカー上の関本たちに射撃を命じる。二機から攻撃を受けた魔法師たちは回避行動を、残る魔法師たちは反撃の態勢を取る。その反撃態勢を取った魔法師が使用したフリーズ・エア・ブリットが急降下する森崎の機に直撃した。操縦席にいた魔法師が即死し、機体のエンジンが火を噴くのが見えた。
「雅樂殿、脱出を!」
言いながら、パラサイト明王が機体のエイトエッジで森崎の足を固定していたベルトを断ち切る。同時に森崎は跳躍の魔法で機体から離れる。その直後、森崎の搭乗していた機体は空中で爆散した。
森崎のデバイスには飛行魔法は登録されていない。だが、重力制御なら登録されている。従って地上に激突する前には、何らかの対応をすることはできる。それよりも今は敵に一射でも仕掛けることを優先する。
友軍の支援目的で敵に向けて煙幕の術を放つ。敵はすぐに気流操作の魔法で煙を吹き飛ばしたが、僅かの時間だけでも攻撃魔法を使わせない効果はある。その間に第三飛行大隊の各機はライフルで攻撃を仕掛けている。
「雅樂殿、拙者の肩の上に」
一緒に落下していたパラサイト明王に言われ、森崎は重力制御魔法を使って明王の肩の上に降り立つ。
「エイトエッジ、展開」
次の瞬間、パラサイト明王は自身の背中の八本の刃を自らの足の下に展開した。念動力により操作された刃の上に乗っての疑似的な飛行魔法だ。
「雅樂、明王、こちらだ」
声の方を見ると、郷田飛騨の機が森崎たちに向かってくるのが見えた。
「感謝する、飛騨殿」
重力制御魔法を使った森崎の足元に郷田の搭乗する機体が滑り込んでくる。元々、郷田の機に乗っていた関本二機は、森崎が乗り移る直前に別の機に向かって飛び移っていた。
「第三飛行大隊、残存機、第一飛行大隊長機の周辺に集合せよ」
森崎の命に従い、第三飛行大隊の残存機五機が郷田機の周辺に集まってくる。郷田の第一飛行大隊の残存が六機なので、これで合計十一機だ。
敵魔法師部隊の方を見ると、名倉隊と一柳隊が森崎たちに続いて攻撃を仕掛け、そちらも一時離脱を行ったところだった。第二飛行大隊と第四飛行大隊の残存機は計十二機なので、味方の合計は二十三機だ。
一方の敵方の残人数は四十名ほど。当初に比べて半数ほどには減らせたが、味方はそろそろライフルの使用が厳しくなっている。
「飛騨殿、我らを上空より投下してくだされ」
そう言ったのは、郷田の機に搭乗していたパラサイト阿修羅だ。
「しかし、それでは其方らが危ないぞ」
ここはパラサイトが多く漂っている敵地だ。そのため野良パラサイトに使用されることを防ぐために器だけの機体は持ち込んでいない。そして、ここは他の味方から千キロ近く離れている。器を失ったパラサイトが帰還するには難しい距離だ。
「この戦いに従軍すると決まったときから覚悟は決めている」
郷田の言葉に答えたのはパラサイト明王だ。明王が言った覚悟とは、精神生命体としての活動の停止、即ち自死するということだ。いくら強い思いを持っていても、パラサイトである以上は周囲の影響は避けられない。敵に取り込まれる危険を冒すくらいなら、彼らは達也への思いを胸に死を選ぶ。
「分かった。其方らの覚悟に感謝する」
郷田が答えたことで方針は決まった。一柳隊と名倉隊にも連絡を取り、日本軍の飛行部隊は敵の上方、高度五千メートル付近で終結する。
「では、参りますぞ」
日本軍の攻撃隊の先鋒を務めるのは六機のパラサイト関本たち。パラサイト関本は、それぞれ専用の強化された関本を操る。そして、個々の念動力も量産型を凌駕する。最精鋭たる六機がエアカーを飛び降り、一団の先陣を切って敵に降下していく。
「パラサイトキャノン、発射!」
パラサイト阿修羅が駆る関本ブラッディカノンが専用装備である両肩の砲型デバイスからプラズマ砲を発射する。プラズマ砲は敵魔法師一人を呑み込み、地上へと叩き落す。即座に敵から放たれた反撃は、パラサイト金剛が駆る関本アイギスがパラサイトシールドで受け止めた。
落下しながら、パラサイト関本六機は四十名もの魔法師と激しい戦闘を繰り広げる。当初は善戦していたパラサイト関本たちも、やがて数の力で押され始める。そして、ついに関本たちの一機が頭部に被弾した。背部の八本の刀が特徴的なその機体は森崎の副官を務めていたパラサイト明王のものだ。
「達也様、愛しております!」
明王が叫び、その直後に機体は爆散。本来、機体から飛び出すはずの明王の本体が現れることはなかった。機体の破壊と同時に自死することを選んだのだろう。
「ときは来た。先陣を務めて散っていった者たちに報いるためにも、我らは全力で敵を打ち取る」
郷田が命じ、残存の二十三機のエアカーで敵へと突っ込む。ライフルによる射撃が可能な機体は射撃を行い、無理な機体はそのまま高周波ブレードでの近接戦闘に持ち込む。速度の遅いパラサイト関本の降下と攻撃で敵魔法師は陣形を乱されている。
森崎は急降下の最中、脇差を神速で抜刀して移動魔法を用いて射出した。続いて跳躍で敵に飛び掛かり、同じく鍛え上げた抜く手も見せぬ抜刀で敵魔法師一人を両断した。落下しながら、今度は胸の内に隠した拳銃型CADで、ドロウレスの技術を用いて魔法攻撃を行う。敵の反撃で左肩を負傷したが、致命傷ではない。遥か下方で味方のエアカーに拾われるまで森崎はひたすら魔法を撃ち続けた。
そうして、長い戦いは終わった。敵の魔法師は全滅だ。
味方のエアカーは十五機、第二世代関本は四十八機まで減り、第二飛行大隊の一柳兵庫、パラサイト不動とパラサイト明王が戦死する激しい戦闘だったが、森崎たちは勝った。
「淡路守様、後は頼みます」
さすがに、これ以上の継戦は難しい。地上を進んでいるはずの淡路守に呟き、森崎は疲れた体をエアカーの荷台に横たえた。
関本が四分の一まで数を減らしたため、これでエアカーのみで編成した部隊での戦闘は終わりとなります。