魔法科高校の劣等生と幻術士   作:孤藤海

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パラサイト戦争編 戦略級魔法の応酬

敵空母より発艦した艦載機が艦隊に向けて接近中。

 

ミサイル護衛艦、早月の艦内放送を聞いた一条将輝は、四日前と同様に艦橋の上に登る。

 

宮芝の魔法師を始め、主力の多くはすでに内陸部に移動をしている。四日前の戦闘以来、不気味な沈黙を守ってきた太平洋艦隊がこのタイミングで仕掛けてきたのは、彼らなりにパラサイトには思う所があったということだろう。それならそれで九島光宣を討ち取るまで黙っていてほしかったものだが、ままならないものだ。

 

「将輝、敵の航空機の数は約五十機ということだ」

 

「五十機? 随分と減ったな」

 

四日前の戦いでは百機以上の敵機が帰還をしていたはずだ。

 

「天牙部隊は空母一隻を撃沈して、もう一隻にも被害を与えたと聞いている。それで、あまり多くの機を収容できなかったんじゃないかな」

 

「それなら好都合だな」

 

現在の日本艦隊は四十六隻。それに空母艦載機が二十機ある。五十機程度の戦闘機による攻撃なら撃退できるはずだ。

 

「油断はしちゃ駄目だよ、将輝。敵も劣勢であることは知っているはずだ。それでも仕掛けてくるということは、何かあると思っていた方がいい。例えば、全滅覚悟で戦略級魔法師である将輝だけは葬っておくとか」

 

その理屈であれば、もう一人、USNAが狙ってきそうな相手がいる。いや、むしろ本命はそちらではないだろうか。

 

将輝が見つめる先にあるのは、ミサイル護衛艦、綾瀬。そこにはマテリアル・バーストという戦略級魔法を使った司波達也がいる。海上でしか効力がない将輝の海爆と場所を選ばない達也の魔法のどちらが脅威かは、考えるまでもない。しかし、なぜか綾瀬は艦隊の外側に位置している。

 

「ジョージ、綾瀬の防備を固めるように進言した方がいいんじゃないか?」

 

「そのくらい、艦隊司令も考えているはずだよ。それでも艦隊の内側にいないということは何らかの理由があるはずだ」

 

言われてみれば、確かにそうだ。実際、綾瀬には小型艦が横付けされ、何やら物資の搬入がされているようだ。はっきり言って艦隊単位の運用となると将輝の手には余るのだ。結局、一兵卒にすぎない将輝としては、この場で海爆での敵艦の撃退に全力を尽くすしかないということだ。

 

やがて空の彼方に戦闘機の編隊が見えてくる。誘導性能を失った対空ミサイルは、まだ発射されない。そう敵航空機隊は考えていることだろう。だが、この四日間、何の対策もしないほど日本は愚かではない。

 

十発ほどの対空ミサイルが敵機に向けて発射される。直進していたミサイルは敵機の付近まで達すると急激に軌道を変える。敵機が緊急回避を行うが、二機が回避しきれずに打ち落とされた。

 

この攻撃はミサイルの先端にCADを括り付け、魔法により遠隔操作をしたものだ。それだけに実際の制御は非常に荒いが、初見の相手には有効だ。

 

迎撃が上手くいく気配に将輝の顔にも僅かに笑みが浮かぶ。しかし、その直後に予想外の方角から大きな魔法が使用された気配を察知した。それは、将輝たちが警戒している南側とは全く違う、北東方向からだった。

 

『我が軍は戦略級魔法、マテリアル・バーストを発動させ、ワシントンを壊滅させた』

 

マテリアル・バーストを使用するなら、敵艦隊に向けてだと考えていた。しかし、今回の攻撃はUSNA政府を、もはや信用ならないと断じて一掃することを狙ったものだ。

 

「随分と思い切ったことをするな」

 

「……おそらく、九島光宣が死ねばUSNAは講和を持ちかけてくるだろう。けれど、日本は今のUSNA政府は交渉相手とは考えていないんだろう」

 

日本の強硬姿勢には閉口せざるを得ないが、一方でUSNAの酷すぎる裏切りを見ると、もはやどのような交渉も行う気が起きないというのも理解できる。

 

「ともかく、今の攻撃は敵にも察知されたはずだ。今度こそ綾瀬に攻撃が集中するぞ」

 

吉祥寺も同意見なのか静かに頷いた。綾瀬周辺でも動きが慌ただしくなり、壮年の技術士官が綾瀬から小型艦に飛び移るのが見えた。

 

しかし、敵の航空機は意外なことに綾瀬にも、将輝のいる早月にも向かってこなかった。敵航空隊が向かっていったのは、ミサイル護衛艦、鳴瀬だ。敵航空機の最前線にいたわけではない鳴瀬が狙われる理由が分からず、将輝としては困惑するしかない。そんな中、吉祥寺は違った感想を口にした。

 

「拙い、あの艦には敵国の戦略級魔法を封印している魔法師がいる」

 

ここにきて、ようやく将輝も敵の狙いが読めた。おそらく、敵の狙いは将輝が考えた通りの戦略級魔法師の殺害。けれど、それを航空攻撃によって果たすのではなく、戦略級魔法によって果たすつもりなのだ。

 

艦隊司令も同じ結論に至ったのか、周囲の艦船が鳴瀬を守るために動きだす。だが、航空機と艦船では速度の差は明白だ。集結が鈍い友軍に対して敵航空機は編隊を組み、今にも鳴瀬に攻撃を開始しそうだった。

 

「将輝、鳴瀬のことを気にしていても仕方がない。僕たちは敵艦を攻撃するよ」

 

冷たいようだが、吉祥寺の言うことは正しい。将輝に高速の飛行物体を撃墜する能力がない以上、心配しながら見つめることしかできない。そんな暇があるのだったら、敵艦船からの攻撃を防ぐための先制攻撃に着手した方がいい。

 

「敵艦の座標は分かるのか?」

 

「正確には分からない。けれど、おおよその位置なら分かる。何隻を巻き込めるかは分からないけど、何もしないわけにはいかないだろう」

 

二隻……あるいは一隻だけでも沈めて見せる。吉祥寺が入力した座標に向けて将輝は戦略級魔法、海爆を発動させた。

 

将輝が海爆で攻撃を仕掛けていた間にも鳴瀬は敵の攻撃を受け続けていた。ミサイル護衛艦に付いている宮芝家の魔法師の幻影魔法は今回も有効に機能してはいる。しかし、敵も対策を練っていたようで、直撃ばかりを狙うのでなく複数機で艦の周辺に広くばら撒くという方法で追い詰めにかかっていた。艦の防衛役を務める十文字家の魔法師の障壁魔法が海上に展開されたのが分かる。それは、攻撃が当たっていることを意味していた。

 

周囲の艦船と、空母艦載機が迎撃を行っているが、今度の敵は死んでも任を果たせと言われているのか、僚機が落とされようとも構わず攻撃を続行している。そして、ついに艦の幻影魔法が解けた。そこには煙を上げる鳴瀬の姿があった。

 

幻影魔法が消えたのは、宮芝家の魔法師が死傷により魔法を維持できなくなったからだ。そして、攻撃を防げなかったという点で十文字家の魔法師に限界がきたのも分かった。手負いの艦に、もはや助かる道はない。ミサイルの集中攻撃を受けて鳴瀬で大きな爆発が起きる。鳴瀬の船体が、瞬く間に波間に消えていく。

 

残存の敵航空機は半数の二十五機ほど。それらは役目は果たしたとばかりに戦場から離脱していく。

 

そして、ついに恐れていた事態が起こった。海の彼方、敵艦隊のいる方向から強力な魔法発動の兆候が感じられる。事ここに至っては日本艦隊に妨害するための術はない。せいぜい一網打尽にされないように散開をするくらいだ。

 

僅かな悪足搔きの時間を経て、水平線の向こうに光が見えた。それは目で追うこともできない速度で綾瀬にぶつかり、障壁魔法を一瞬で貫いた。綾瀬の姿が光の渦に飲み込まれて見えなくなる。

 

数秒の後、USNAの戦略級魔法、ヘビィ・メタル・バーストの光が消える。その時には綾瀬の姿は艦橋の一部すら見えなくなっていた。あっけなく綾瀬は戦場から消えた。

 

「司波っ!」

 

叫んでみたところで、どうなるわけでもない。水平線の彼方を睨むが、それで何が起こるわけでもない。

 

『敵艦隊、後退を開始した模様。我が艦隊も負傷者を救助した後、この場を離脱する』

 

司令からの指示が聞こえてきたが、虚無感に包まれた将輝は、艦橋の上から動くことができなかった。

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