魔法科高校の劣等生と幻術士   作:孤藤海

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パラサイト戦争編 九島光宣の最後

八月十日、宮芝淡路守治夏はついに九島光宣の籠るロズウェルへと迫った。治夏の周囲を固めるのは僅かに二十名ではあるが、いずれも最精鋭の魔法師たちだ。

 

具体的には、側近三名の他、郷田飛騨守、松下隠岐守、森崎雅樂、呂剛虎、十文字克人、七草真由美、七草香澄、七草泉美、六塚温子、七宝琢磨、八代雷蔵、九島烈、九鬼鎮、九頭見玲、十山信夫、風間玄信、千葉修次だ。十師族の当主と次期当主、国防軍のエースで固められた面々は、壮観というよりない。

 

現在地は、ロズウェルまで十キロの地点。ここから先は徒歩で迫る。これは、どのような装甲車両よりも、この面々の障壁魔法の方が強力なためだ。

 

治夏は側近三名と克人、雅樂とともに一行の最前線に立ち、探査の術式を飛ばしていく。敵を探知したら、治夏は一歩下がり、飛騨守、隠岐守、呂剛虎、七草香澄、七草泉美の隊の中に隠れる。その後は前衛に七宝琢磨、八代雷蔵、十山信夫、風間玄信、千葉修次が立ち、後衛に七草真由美、六塚温子、九島烈、九鬼鎮、九頭見玲が控えるのが基本陣形だ。

 

そして今、治夏の探査に十名ばかりの魔法師の反応があった。敵魔法師にパラサイトはいないようだ。ならば、治夏の出番ではない。はっきり言って、この部隊の中では治夏の魔法力でやれることなど、なにもない。

 

治夏は後退すると、支援部隊と合流する。すぐに隠岐守が隠蔽魔法を行使して治夏の位置を敵から隠す。それと同時に迎撃部隊が敵を迎え撃つために動き始める。

 

「ミリオンダイブ」

 

敵を肉眼で確認するなり、七宝が散らした服に乗って飛翔する。先陣に立って突っ込んでくる七宝を迎撃しようとする敵を牽制するのは七草真由美だ。真由美の代名詞ともいえる『魔弾の射手』を使って、牽制と言うには些か強力過ぎる攻撃を仕掛ける。

 

真由美の魔弾の射手から降り注ぐドライアイスの弾丸に対処していた敵が、不意にぐらりと体制を崩した。九島烈が、『ノックス・アウト』という一酸化窒素を合成する魔法を、敵の頭部周辺のみに限定して発動させたものだ。

 

「ミリオンストライク」

 

急な味方の不調に動揺する敵兵に向かって、七宝が突撃する。直撃を受けた敵は哀れにも身体がバラバラになっていた。日本軍の魔法師のあまりの練度の高さに敵魔法師が恐慌状態に陥ったのが分かった。

 

はっきり言って今回、迎撃要員として連れてきた面々の実力はスターズの一等星級の隊員すら凌駕している。並みの一流魔法師では数分の足止めすら不可能だ。

 

「それにしても、そのつもりで最高の魔法師ばかり連れてきたとはいえ、さすがに敵が少し気の毒に思えてくるな」

 

今の後方から進み出てきた戦車に対して、八代雷蔵が部位ごとに異なる重力を与える得意魔法『八細壊』を発動させて粉々にしていた。あれでは中の乗員は遺体すら回収できないだろう。八代の魔法を逃れた戦車たちについても風間の魔法で存在を消した千葉修次の剣によって、気づかぬうちに車体を両断されている。

 

「十時方向、クリア」

 

「二時方向もクリア」

 

着々と妨害を排除して迎撃隊が侵攻を続ける。一応、苦戦するようなら呂剛虎と七草姉妹を援軍に出す用意があったのだが、その必要もないくらいの順調すぎる進撃だ。

 

「それにしても、パラサイトが一体もいないとはな」

 

「治夏様の存在を感じ取っているのではないでしょうか」

 

おそらく山中図書の言う通りなのだろう。だが、九島光宣にとって治夏の存在は死活問題のはず。近く治夏が本当にいるのか、それともいないのか、確定させにくるはずだ。

 

予想通り、前方からパラサイトの気配が漂ってきた。数は五人だ。

 

ただのパラサイトなら、呂剛虎や七宝が余裕で対処してきた。仮に素材がスターズの一等星級の隊員だったとしても、治夏の周囲にいる魔法師たちなら十分に対処可能だろう。それならば、いっそ治夏の存在を隠すために弦打の使用は見合わせるか。

 

少しの逡巡の後、治夏が出した結論は、予定通りの弦打を使用しての迅速なパラサイト排除だった。それは治夏がいると分かったところで、光宣に有効な対抗策はないという判断によるものだ。これまで最前線にいた迎撃部隊の前衛を下がらせる。

 

対光宣用に調整された大弓を持ち、治夏は最前線に立つ。迫るパラサイトたちを一瞥すらすることなく、感覚だけで距離を掴み、射程内に入ると同時に弓弦を引いた。右手の指の力を緩めると同時に破魔の波動が音色に乗って駆ける。それに捕らわれたパラサイトたちは一瞬だけ身体を痙攣させると、その場に倒れて動かなくなった。

 

何か策があるのかとも思ったが、何もなかったか。多少、拍子抜けした気持ちで前への歩みを再開させる。

 

「十文字くん、二時方向!」

 

突如叫んだのは、七草真由美だった。克人が即座に反応して展開した障壁魔法に雷撃がぶつかって消滅する。七草真由美のマルチスコープがなければ危うかったかもしれない。

 

「どこからだ!?」

 

「まだ先だ。九島光宣の気配は三キロは先だ」

 

「三キロ先から精密な魔法攻撃だと!?」

 

慌てて周囲を探る者たちに向けて治夏が叫ぶが、それは逆に味方を動揺させてしまう。

 

「慌てることはない。攻撃が来ると分かっていれば、我らならば十分に対処可能だ。個としての手数は光宣の方が上だが、我らは人数で上回る。我々が負けることはない」

 

九島烈がそう言うと、周囲の動揺が一気に治まった。この辺りの存在感はさすがと言うよりない。一度、落ち着けば、こちらは実力者揃いだ。

 

「六寿応穏」

 

治夏たちの周囲を光の輪が包み込む。光の輪は上空まで伸びて光の柱になり、空に六つ鱗の文様を描く。これは陸前の獅子の異名を持つ猛将であると共に部下と民を誰よりも大切にする六塚温子の固有魔法で、術者の許可しない温度変化の一切を禁じる。

 

光宣の放った熱風は微風に変わり、氷弾は溶けて水滴に変わる。続いて放たれた無数の空気弾は七宝琢磨がそれを上回る回数の張り手で叩き落した。九島光宣が得意のスパークに対しては、飛騨守の避雷針で無効化する。

 

どうやら弦打に対して九島光宣が考えた対抗策が、効果範囲外からの超長距離魔法攻撃だったようだ。確かに治夏だけが相手ならば有効な攻撃だっただろう。けれど、こちらには二十人もの一流の魔法師がいる。

 

「いや、一流は十五人くらいか」

 

思わず呟いてしまったのは、宮芝系の術士は一流と言うのは些か以上に頼りない魔法力しか持たないためだ。今までの信用から周囲を任せてはいるが、実力的には治夏の側近よりは二十八家に出させた人員を連れてきた方が良かったかもしれない。

 

ともかく、今の所は光宣の攻撃に脅威は感じない。断続的に続く攻撃を受け止めながら、光宣の気配まで二キロの距離にまで接近する。すると、俄かに攻撃の性質が変わった。

 

最初に見た感じでは、ただのスパークだった。光宣の得意魔法ではあるが、それだけに対策はしており、こちらに避雷針がある以上、最も効果の薄い魔法だ。けれど、治夏の予想に反して避雷針はスパークに反応しない。

 

訝しむ間もなく、治夏の右二十メートルの地点に落雷があった。これは治夏の鬼門遁甲に隠岐守の隠蔽魔法を重ねた防御魔法が発動したことを示している。つまり九島光宣は治夏に気づかれることなく攻撃を仕掛けてきた。

 

「パレードだ」

 

九島烈の言葉で、今の魔法の原理は分かった。だが、魔法自体にパレードを使うことができるなど、予想外もいいところだ。これでは、いつ、どこから攻撃を受けるか分からない。対抗できるとしたら、克人の全周囲障壁くらいだが、二キロの距離を駆ける間、展開を続けるのは厳しいはずだ。

 

ここが勝負所だ。治夏は一度、深呼吸をする。

 

「七宝、私と克人を飛ばせ!」

 

この戦は九島光宣を討てば、ほぼ勝利だ。ならば、治夏が乗り込んで光宣だけを討ってしまえばいい。

 

七宝がすぐに服を粉々に散らして足場を作る。克人は素早く治夏を抱えると、七宝の服の上に飛び乗った。何を仕掛けようとしているのか察したのか、光宣からの空気弾が治夏に向かって飛んでくる。

 

「せぇい!」

 

それを空中に跳び上がった森崎が切り裂いた。

 

「何処を狙ってくるかが分かれば、小官でも対処はできる!」

 

頼もしい言葉に笑みを送ると同時に、服の破片が飛翔を始める。上下左右から降り注ぐ光宣の魔法を克人が障壁魔法で受け止める。速度を上げる七宝の無数の服の欠片の上の克人の腕の中で治夏は大弓の弓弦を強く引く。

 

「宮芝ぁ!」

 

まだ遠間だと言うのに、怒りに歪んだ顔で光宣が叫んだのが分かった。醜いはずの憎悪の顔ですら美しいのは腹立たしいが、それこそが魔性の証なのだろう。

 

「終わりだよ、九島光宣」

 

強く引いた右手の力を弱め、弓弦を打ち鳴らす。九島光宣の身体がゆっくりと傾ぐ。もがくように動かされた光宣の腕は、何も掴むことはない。

 

たった一撃の、あっけない終わりだ。けれど、それは治夏にも言えたこと。回避の魔法を抜かれれば治夏に防御の術はなく、一撃での絶命は避けられなかった。

 

真逆でありながら、よく似た存在でもあった。だから光宣は宮芝を必要以上に憎んだのかもしれない。

 

ふと、そんなことを思った。




六塚温子、二つ目の固有魔法、第六天魔王、はさすがに自重。
勝手に色物にしてはいけませんからね。
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