魔法科高校の劣等生と幻術士   作:孤藤海

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パラサイト戦争編 掃討戦

八月十五日、吉田幹比古はテネシー州ナッシュビルの近郊でパラサイトの一隊を追跡していた。敵パラサイトは四体。それに対して、幹比古たちは一色俊義が率いる第三十八分隊に千葉修次が率いる第二十六分隊を加えた十人だ。

 

九島光宣を討っても、パラサイトとの戦いは終わらなかった。パラサイトは個別の身体を持ちながら、全員で一つの生き物であり、パラサイトたちの意思は一つであるという性質があるという。つまり、指導的立場にあった光宣が亡き後も残ったパラサイトたちは光宣の考えを受け継いで活動を続けたのだ。

 

その受け継いだ思いが、人が魔法力のみで評価される世を作ること。この何とも傍迷惑な思いの元に動きだしたパラサイトたちは非魔法師の有力者たちを殺害して回るという暴挙に出たのだ。

 

各地で州知事や市長が襲われ、それを守るための州軍と交戦を始め、USNAは全土が大混乱に陥った。そのパラサイトを倒す為、対パラサイト戦の装備を多く保有した日本軍は各地に散って残党の掃討をすることになったのだ。

 

もっとも、それは予定通りでもあるらしい。パラサイトが増殖することは前回の騒ぎのときに知っている。ならば一体でも放置して帰国することは危険すぎる。

 

追討戦にあたっては、直前まで活発だった反魔法師活動の影響が不安だった。が、蓋を開けてみるとパラサイトという、より差し迫った脅威があるせいか、むしろ歓迎をされることが多く、日本軍は次々とパラサイトを討ち取って消滅させている。

 

すでに大半のパラサイトを討ち取っており、今日中には全てのパラサイトの浄化完了を報告できそうという段になっている。幹比古たちの隊も、追っている四体を倒せば帰還の途に就く予定である。

 

「パラサイトとの戦いも今日で終わる。だが、最後の戦いの結果、棺に入って帰国などということになっては詰まらん。最後まで気を抜くな!」

 

分隊長の一色俊義が分隊に注意喚起を行う。心配せずとも、昨日も一名がパラサイトの逆襲にあって命を落としたことは今朝、聞いている。精鋭部隊はこれまでの戦いで失っているとはいえ、相手は腐ってもパラサイトだ。単体でも脅威度は、そこらの一流魔法師にも劣るものではない。味方が精鋭揃いで、人数が上でも必勝とはいかないと考えていた方がよい。

 

「沼田さん、敵パラサイトとの距離は?」

 

「我らから約七百メートル。前衛とは約六百メートルというところですな」

 

「なかなか距離が縮まらないですね」

 

走りっぱなしで疲れてきたのか、七草香澄がうんざりしたように言う。

 

「私たちとパラサイトじゃ、かけっこでは勝てる気がしません。どうするのですか?」

 

七草泉美も少し焦りを滲ませている。幹比古たちも魔法で身体能力を向上させているとはいえ、強力な治癒再生を持ったパラサイトに持久力勝負は無謀が過ぎる。このまま相手に逃げ続けられると、ほどなく振り切られてしまいそうだ。何か手はないか考え始めたところで前の部隊が足を止めたことに気がついた。

 

「諦めたのかな」

 

「まさか、そんな……」

 

香澄が訝しみ、泉美も驚きの声を上げている。

 

「千葉殿、どうされた?」

 

前衛に追いつくなり、一色が第二十六分隊長である千葉修次に尋ねる。

 

「我が隊の矢車侍郎が神行法という魔法を一度だけですが使えるというので、待っていました。準備がよければ使わせます」

 

千葉修次に言われて、一色が幹比古たちを見回す。幹比古が静かに頷き返したの見て一色が答えを返す。

 

「いいです、使ってください」

 

「では矢車、頼む」

 

「はい」

 

答えた矢車が懐から呪符を取り出した。

 

「万里一空、我らただ韋駄天となりて駆けん」

 

矢車が呪符に魔法力を注ぐと、風が幹比古たちの足元に渦を巻き、身体を持ち上げた。

 

「我らを彼の地へ」

 

その言葉と共に風は幹比古たちの背を押し、逃げるパラサイトたちを急速に追い上げる。このままなら、数分の後にはパラサイトに追いつけそうだ。

 

それにしても、ほんの四ヶ月前に矢車を魔法の不正利用で捕縛したとき、その実力は幹比古の足元にも及ばない程度だった。しかし、今の魔法行使は幹比古も舌を巻くほどのものだ。おそらく一点特化で強化したのだろうが、この辺りの宮芝の指導はさすがの一言だ。

 

追い上げてくる幹比古たちから逃れられないと悟ったのか、逃げていたパラサイトたちが足を止めた。迎撃の魔法を放とうとしているのが遠目にも分かった。今回の追撃隊には、障壁魔法を得意とする者はいない。行うべきは相手の魔法の性質を素早く読み取っての対抗魔法の構築だ。

 

「玻璃迷宮」

 

敵からの初手での熱風刃は沼田織部が攪乱魔法で軌道を逸らす。続いての氷の弾丸による攻撃は七草泉美がドライ・ブリザードで迎撃した。

 

「蛇口水仙」

 

ようやく回ってきた反撃の機会に、口火を切ったのは一色俊義だった。毒素を含んだ水球をパラサイトたちに飛ばす。治癒再生能力を持つパラサイトといえど、短時間であれば動きを阻害することができるのは、これまでの戦いで実証済だ。

 

そして、動きが鈍ったところに千葉修次とエリカの兄妹が突入する。例えパラサイトが万全であったとしても、接近戦では修次には敵わない。ましてや、動きの鈍った状態では止められるはずがない。修次が繰り出した幻影の刃にパラサイトは全く反応ができず、一撃すら受けることなく討ち取られた。

 

「貴方の技、使わせてもらった」

 

一方のエリカについても、呟いた言葉の通り、倒した敵から学んだという手折花という技を使って一瞬で相手を斬り伏せていた。エリカはこの一週間ほどの実戦経験により随分と腕を上げたようだ。

 

残り二体のパラサイトには渡辺摩利が一体を牽制し、もう一体には桐原武明が正面で対峙し、矢車侍郎が援護するという態勢だ。このまま任せてしまっても、どちらも勝利を収められるだろう。けれど、黙って見ているだけというのも幹比古の性分ではない。

 

渡辺が三節構造の小型剣を振り下ろすのに合わせて、幹比古は封印術を込めた短刀を投擲する。敵パラサイトは幹比古の短刀こそ危険と判断し、渡辺の小型剣の攻撃を受けてでも投擲された刃を躱した。

 

その判断は間違ってはいない。けれど、正解でもない。

 

渡辺の小型剣から伸びた刃はパラサイトを切り裂くのではなく縛りつけた。捕らえられたパラサイトは慌てて拘束から逃れようとするが、遅い。二度目の短刀は今度こそ敵の身体に突き刺さり、中の本体を浄化する。

 

残った最後のパラサイトに目を向けると、それまで桐原の援護に徹していた矢車が、いつの間にか桐原の陰に潜んで接近し、短刀を敵の胸へと突き立てた所だった。矢車の短刀も宮芝家が封印の術式を込めたもの。短刀を受けたパラサイトは身体を痙攣させると、その場に崩れ落ちた。

 

これで敵パラサイトは全て無力化できた。後は幹比古が浄化まで終えた一体を除いた残りに対する封印を施すのみ。パラサイトの本体が修次とエリカが倒した二体から抜け出してくる。そこに沼田織部が光の網を投じる。

 

網に囚われてもがくように揺れるパラサイトを押さえつけるように、沼田は四隅を縫い付けるように短刀を投じた。そして、その後は網の中に一枚の呪符を投げ入れる。その一拍後には呪符が青白い炎を上げた。

 

炎に炙られたパラサイトの本体が動きを止める。沼田の呪符から噴き出た炎は魔を滅する浄化の炎だ。炎に包まれるたパラサイトの本体が灰へと変わる。これで残るは矢車が行動を封じた一体のみ。

 

幹比古は身動きの取れない最後の一体に浄化の短刀を投じる。宮芝の術に不備があるとは思えないが、それでも油断して接近したりはしない。万全を期して最後の一体の浄化を終えた。

 

「終わったのね」

 

「うん、そうだね」

 

エリカのほっとした声に幹比古も心からの頷きを返す。これで何もかもが上手くいくとは思わないが、それでもパラサイトとの戦は終わったはずだ。

 

願わくば、これから先の世が少しは平和になりますように。そう願いながら幹比古は帰還の準備を始めた。




これで本編は終了。
残りは後日談的な二話のみです。
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