魔法科高校の劣等生と幻術士   作:孤藤海

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後日談編
後日談編 戦争終結二ヶ月後


十月十五日、宮芝淡路守治夏は宮芝家の本宅で慌ただしい時を過ごしていた。八月に終結したパラサイトとの戦争から帰国後、治夏は程なく第一高校を中退した。すでに宮芝の魔法への現代魔法の最新知識の取り込みという目的は達成しており、第一高校に通い続ける異議を見いだせなかったのだ。

 

では、今は何を行っているのかというと、来年の一月に予定されている十文字克人との婚儀の準備だ。すでに治夏は宮芝家への多大な貢献が認められており、それをもって和泉守より克人との婚姻が許可されたのだ。

 

「しかし、いくら忙しいと言っても俺まで引っ張り出すとはな」

 

そう言ってきたのは八月に雇い入れた立花歩という男だ。

 

「どうせ暇だろう?」

 

「今は恒星炉プラント稼働前の最終段階だぞ。暇なわけがないだろう」

 

歩が司波達也だった頃の仕事を持ち出し、渋い顔をする。パラサイト戦争の終盤、達也はリーナの戦略級魔法で死亡したことになっている。けれど、実際は背格好が酷似している宮芝の術士の顔を整形でそっくりに顔を変えた偽物と入れ替わっていたのだ。そうして今度は達也の方を、身代わりとなった立花歩そっくりに顔を変えさせたのだ。

 

こうして表舞台から完全に姿を消した達也は、今は宮芝家と四葉家の隠れ家を行き来する生活を送っている。厳しい情報制限により、今の所は諸外国に達也の生存を気づかれた様子はない。今、達也は久方ぶりの平穏な日々を送っている。

 

もっとも、最近はそれも必要なかったことではないかと思い始めている。達也の存在に最も警戒心を燃やしていたUSNAが崩壊を迎えようとしているからだ。

 

USNAに渡った九島光宣はスターズを掌握すると、その圧倒的な武力を背景に政府との交渉を行った。そうして得られた自らの勢力圏で、非魔法師に対して随分と差別的な対応を行っていたらしい。

 

魔法力だけに価値を見出し、魔法力以外を軽視した光宣らしい行動ではあったが、そのせいで反魔法師活動を活発化させてしまった。同時に魔法師も自らの排除を望む非魔法師に対する反感を高めてしまい、治夏が光宣を消したときには、両者の溝はどうしようもなく広がってしまっていたのだ。

 

結局、パラサイト戦争で多くの犠牲を出した州を中心に非魔法師による魔法師に対する報復が横行することになった。多くの有力な魔法師が戦死したUSNAでは、それを抑える術もなく、生き残った多くの魔法師は他国に亡命をすることになった。ちなみに、リーナもそのときに日本への亡命を決めて、今は四葉の元にいる。

 

そして、魔法師が極端に減少したUSNAは今や完全な魔法後進国になった。加えて通常戦力についてもパラサイト戦と日本軍との戦いで数を大幅に減らしている。特に日本に沈められた空母三隻は弱ったUSNAには痛すぎる損害だ。

 

そのような経緯で、USNA内で達也を敵視していた魔法師たちは今はいない。それでも、せっかく偽装工作をしたのだから念のために死んだことにしているのだ。

 

「それで、恒星炉プラントは上手くいきそうなのか?」

 

「ああ、今の所は順調だ」

 

周囲のUSNA、新ソ連、大亜連合は戦争により魔法師の数を大幅に減らしている。それに対して日本だけはUSNAからの亡命者の受け入れもあり、魔法師の数を増やした。そうした追い風があり、国防に就く魔法師を減らしてしまうという欠点を持っていた達也の恒星炉プラントは実現に大きく前進をしたのだ。

 

「しばらくは魔法力にも多少の余裕がある。その間に、なんとか効率化も果たしてもらいたいものだな」

 

治夏が言った、しばらくの間というのは、具体的には達也が死ぬまでとなる。今の日本の国防の主力は再生産を行っている第二世代関本たちだ。その彼らだが根はパラサイトであることは変わらない。

 

関本たちが治夏たちの命令に実直で、日本の為に命を惜しまないのは、パラサイトたちの元となった光井ほのかの影響が大きい。そして、ほのかの一番の願いが達也の役に立つこと。だから、達也の死とともに全ての関本は殉死するようプログラムしてあるのだ。

 

或いは達也の子孫を守るという指令を与えることで長く日本が関本たちを行使できる可能性はあった。しかし、達也の子孫が妙な野心を持たぬとも限らないし、やはり妖魔は人の理とは異なる次元で生きる物だ。あまり長く使役するのは避けた方がいいと考えたのだ。

 

「効率化はおいおい果たすつもりだが、その前にいつになったら淡路の結婚式の招待状は俺に届くんだ?」

 

「は? 歩は私の結婚式には招待などしないけど?」

 

「ちょっと待て。今、散々に手伝わせておいて俺は招待されないのか?」

 

「結婚式には深雪を招待しているからな。君がいては、深雪の態度から君の正体に気づく者がでかねないと思わないか?」

 

毎週末、兄に会うことを主目的に本家に帰るようになったとはいえ、同居していた頃と比べれば深雪が接する時間は減っている。その状態で深雪の前に出して、ほとんど知らぬ他人のような態度を取ることができるか。検討した歩は治夏と同じ結論に至ったらしく、苦い顔で言を翻した。

 

「それにしても、このようなことになるとは、去年の今頃は想像もしていなかったな」

 

去年の今頃というと、京都で伝統派と戦っていた頃だ。その頃の歩はまだ四葉の関係者であることも公表していなかった。そしてトーラス・シルバーの正体が公表されたのが今から五か月前だ。そう考えると、トーラス・シルバーの正体の公表から僅か三か月の間に坂道を転がるように戦争に突入していったことになる。

 

「本当に君の影響力は恐ろしすぎるな。やはり名を捨てさせて正解だったな」

 

「どういう思考で、その答えにいきついたのか……いや、いい。聞かないでおく」

 

口に出させると歩にとって不都合な言葉がでてくること。そして、それが否定できないことを察したのだろう。さすがに勘が良い。

 

「ところで新ソ連と大亜連合の講和はどうなりそうなんだ?」

 

話を変えるためか歩が聞いてきたのは、開戦から三か月を超えて疲弊した新ソ連と大亜連合との講和交渉の推移だ。当初こそ日本の援護もあり破竹の勢いで進軍した大亜連合軍だったが、日本がUSNAとの戦争に突入すると、その勢いは止まることになった。そして、その後は徐々に戦線を後退させていた。

 

「大亜連合側に一部の領土を割譲するという形で新ソ連側が折れるようだな」

 

新ソ連が警戒しているのは、再び日本が参戦してくる可能性だろう。すでに戦力の三割を失っている新ソ連は、これ以上の疲弊は避けたい。一方、より被害の大きい大亜連合側は戦力の五割近くを失っており、新ソ連以上の窮状にある。ある程度、面目が立てばすぐにも講和したい以上、この条件なら飛びつくはずだ。

 

結局、今回の大戦で最も被害が大きかったのがUSNA。次いで大亜連合。その次が新ソ連ということになる。ちなみに日本もUSNAと新ソ連との戦いで大小合わせて二十三隻もの艦船を失っており、その被害は海軍戦力の二割にも達する。けれど、魔法師の被害が比較的少ないということ、周辺国はそれ以上の被害を出しているという点で相対的な軍事力では、戦前以上と言える状態である。

 

そういうわけで、しばらくの間は平穏が訪れそうである。けれど、油断はできない。内戦の傷以上に内部に深刻な対立を抱えたUSNAはともかく、新ソ連はやがて国力を回復してくるだろう。宮芝はそのときに備えなければならないのだ。

 

「さあ、まだまだ忙しくなるぞ。頑張って働いてくれよ、立花歩」

 

「御免蒙ると言いたいところだが、淡路には借りもある。できることはやらせてもらう」

 

そう言って微笑む歩と治夏は和やかに握手を交わした。




マテリアル・バースト発動後、綾瀬から小型船に移った壮年の技術士官が立花歩に扮した達也です。
ちなみに本物の立花歩は達也の身代りとして戦死しています。
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