魔法科高校の劣等生と幻術士   作:孤藤海

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入学編 入学式前・会場

達也が講堂に入ったときには、すでに席は七割ほどが埋まっていた。開場の遥か前に到着していながらこの順番となったのは、言うまでもなく生徒会長と、隣にいる女子生徒の責任である。

 

入学式には座席の指定はない。つまり、どこに座っても構わないのだが、新入生は前半に一科生、後半に二科生と綺麗に分かれている。

 

最も差別を意識が強いのは、差別を受けている者である。

 

自然と、そんな言葉が浮かんできた。そして、そういうことならば、達也にはやらねばならぬことがある。

 

「和泉、ここが空いてる。ここに座ろう」

 

「君はここに座るといい。私が座るべきは別の場所だ」

 

「いいから、ここに座ろう。生徒会長にも言われただろう。俺にエスコートさせてくれ」

 

重ねて言うと、和泉は渋々といった様子ながら達也の後に続いてくれた。

 

達也が強引に和泉の座る場所を指定したのは、講堂に入る前に和泉の制服に刺繍された水色桔梗紋について聞いていたからだ。

 

和泉に聞いたところによると、宮芝の家紋は単なる桔梗紋ということだった。しかし、和泉は第一高校に進学するに当たり、敢えて桔梗紋を水色に仕立てたという。

 

水色桔梗紋は織田信長を謀反により殺害した明智光秀の家紋だ。実際は地色が水色で桔梗自体は白抜きだったようだが、地色を水色にはできないので桔梗自体を水色にしたのであろう。

 

ともかく、わざわざ明智光秀で有名な色に変えたという意味は、下剋上あるいは寝首を掻くという宣言か。いずれにしても不穏なことこの上ない。

 

和泉とは今日初めて会ったばかりだ。下剋上の宣言をして反感を浴びようが、達也としてはどうでもいいことだ。けれど、この場でトラブルを起こすことは避けてほしい。

 

何と言っても、今日は達也にとって何よりも大切な妹の晴れ舞台なのだ。式の始まる前に無用な争いで場の空気を乱すようなことは許容できないことだった。

 

「あの、お隣は空いていますか?」

 

とりあえず席に腰を下ろして一息ついていると、頭上から声がかけられた。

 

「どうぞ」

 

達也が愛想よく頷くと、声を掛けてきた少女に続いて三人の少女が腰を下ろしてきた。

 

「え?」

 

そして、達也の隣に腰を下ろした少女が、達也の隣に座る和泉のことを何気なく見て、思わず困惑の声を漏らした。

 

それも無理なからぬことだ。第一高校には八枚花弁の一科生と無地の二科生がいるということは、これから通学を始める一年生であっても常識として知っていることだ。その常識があればこそ、水色桔梗紋などという見知らぬエンブレムを纏った生徒がいれば戸惑ってしまう。

 

「二科生の宮芝和泉だ。気軽に和泉と呼んでくれ」

 

視線に気が付いたか、和泉が先に少女に話しかける。

 

「あ……私は柴田美月っていいます。よろしくお願いします」

 

「司波達也です。よろしく」

 

自分を挟んで自己紹介をしあっているのに、無視するわけにもいかない。達也もなるべく柔らかな態度で自己紹介を返す。

 

「あたしは千葉エリカ。よろしくね、和泉、司波くん」

 

続いて声をかけてきたのは美月の奥に座った少女のものだ。

 

「千葉というと、剣術で著名な千葉家かな」

 

「うん、そうだよ。そういう和泉は、噂の宮芝さん?」

 

「どういう噂かは知らないが、君の思った宮芝と同じだと思うよ。しかし、さすがは千葉家だな。現代魔法師は往々にして古式の知識に疎いものだが、私の一族を知っているとはな。うむ、見上げた心がけだ」

 

「いや、うちは古式全般に詳しいわけじゃないよ。私はたまたま古式に知り合いがいるから知ってたというだけ」

 

達也と美月、二人を挟んで二人は会話を続ける。そして、二人には相手が何を知っているのかを探り合うような雰囲気があった。そんな二人に挟まれた二人としては居心地が悪いことこの上ない。

 

「ところで、和泉のそのエンブレムは何なの?」

 

ここでエリカが和泉の水色桔梗紋のことを質問した。

 

「これは宮芝の家紋、桔梗紋だ。水色にしたのは明智光秀にかけたものだな」

 

「明智光秀って?」

 

どうやらエリカは歴史にはあまり詳しくないようだ。

 

「簡単に言うと、謀反人だな。自らの主君を殺し、下剋上を成そうとした人物だ。まあ、私は一科生に上がるという決意を示したものだと思ってくれ?」

 

和泉はさらりと、とんでもないことを言った。達也はこのときだけは一科生と二科生が別れていることを、ありがたいと思った。

 

「一科生に上がるって、入れ替え制なんてあったっけ?」

 

「一科生に欠員を出せばよいというだけだろう?」

 

和泉はさらりと、さらにとんでもないことを言う。和泉は欠員が出たときのためとは言わなかった。欠員を出すと言ったのだ。言葉だけでも、どう考えても不穏な行動しか想像できない上に、相手は宮芝なのだ。

 

「和泉、一科生には俺の妹がいる。頼むから妹だけは巻き込んでくれるな」

 

「司波くん、妹さんがいらっしゃるんですか?」

 

「妹なのに同学年ってことは双子?」

 

発言は、前者が美月で、後者がエリカだ。

 

「俺が四月生まれで、妹が三月生まれなんだ。だから、双子じゃない」

 

「君の妹か。それはさぞかし優秀なのだろうな」

 

そして和泉は達也の返答とはまるで関係のない感想を漏らしていた。

 

「なぜ二科生の俺の妹なら優秀だという結論になるのか分からないな」

 

「君、君も千葉君も優秀なのは見れば分かる。何より私はこの場にいる誰よりも優秀だ。それだけを見ても優秀であるか否かということと、一科生であるか二科生に関連性はないと分かるというものだろう?」

 

「……その自信はたいしたものだな」

 

あまりにも自信に満ち溢れた発言に思ったことが口をついてしまった。しかし、その感想は和泉と逆方向に並ぶ四人も同じであったようで、皆、一様に乾いた笑みを浮かべていた。

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