魔法科高校の劣等生と幻術士   作:孤藤海

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入学編 変わった態度と変わらぬ態度

翌日、司波達也は深雪と共にいつもより早めに家を出た。そして、いつもより早く駅に着いた。すると、そこで待っていた先客に声をかけられた。

 

「あ、達也くん、今日は早いんだね」

 

ごく平凡な内容の挨拶だ。しかし、その言葉を発した相手が意外過ぎて、達也は顔をまじまじと見つめてしまった。

 

「えっと、そんなにまじまじと見つめられると照れるんだけど」

 

まるで普通の女子生徒のように顔を逸らしながら言ってきたのは、和泉だった。

 

「あ、いや、悪かった。口調がいつもと違ったからな」

 

「昨日、あれだけ泣かされた後で格好つけても、しょうがないでしょ」

 

「お兄様、どういうことですか?」

 

和泉にとっては甚だ不本意な話と思ったので、深雪に詳しく説明していなかったのが仇となったようだ。深雪は冷たい目で達也を見つめてくる。

 

「ああ、気にしないでくれ。達也は知らずに私のトラウマを抉ってしまっただけだ。それで私も少しばかり取り乱してしまってね。だからあまり兄上を責めないでやってくれ」

 

「お前、深雪には今まで通りの口調なんだな」

 

「だって、深雪さんにはまだ恥ずかしいところは見せていないからね。それに私にとって、今までの自分が偽りだったってわけじゃないから。ただ、達也だけは宮芝治夏にとって、少しだけ特別な相手になったってだけだよ」

 

達也だけ特別、という表現の個所で深雪の表情が変わった。その静かな怒りは和泉だけではなく達也にまで向けられているようだ。まさか和泉は、深雪がこういう反応をしてくるのを承知の上で、達也への意趣返しとして今のような態度に出ているのではなかろうか。

 

和泉の態度は虚構か実際のものか。測りかねていたところで目的の人物を見つけ、達也は思考を中断させた。

 

「会長、おはようございます」

 

「達也くん? 深雪さんに宮芝さんも、どうしたの?」

 

この三人組に待ち伏せをされるというのは真由美にとっても予想外だったようで、いつもの冗談めいた態度を作る余裕もなく、捻りも何もない平凡な反応を返した。

 

「昨日のことが気になりまして。あの後、放送室を占拠していた壬生先輩たちとの話し合いはどういう結論になったのか教えていただけませんか」

 

あの後、和泉と別れて放送室に向かった達也は、待ち合わせの為に教えられていたプライベートナンバーを使って紗耶香と交渉し、放送室の扉を開けさせたのだ。

 

その際に十文字克人会頭と真由美の決断によって放送室を占拠した生徒たちとの交渉の席が設けられることになったのだ。達也が質問したのは、その結果についてだ。

 

「ちょっと意外ね。達也くんにしても、宮芝さんにしても、他人のことに深入りするタイプにも見えないのに」

 

「他人事で済めば良いんですが、そうもいかないでしょうから」

 

「右に同じく」

 

「なるほど」

 

達也も和泉も風紀委員だ。無関係ではいられないと思ったのだろう。

 

「彼らの要求は一科生と二科生の平等な待遇。でも具体的に何をどうしたいのか、その辺りはよく考えていないみたい。むしろ、具体的なことは生徒会で考えろ、って感じだったわ」

 

「無能な働き者ほど厄介な存在はいないという典型例だな。そのような見下げ果てた輩と話をする必要もあるまい。その場で斬ってしまえばよかったのだ。そもそもが、一科生と同数のスペアなど置いておくから面倒なことになるのだ。この機に半分くらい退学にしたらどうだ?」

 

「いや、それだと和泉さんは退学枠に入る可能性があるんだけど」

 

「それはないな。その前に五十人の死体を積み上げるからな」

 

「……それはともかくとして」

 

真由美は和泉との問答を打ち切った。どう転んでも、ろくでもない方向にしか行きようがないので妥当な判断だ。

 

「それで押し問答みたいになってね。元々昨日は今後の交渉について話し合いましょう、という趣旨だったし、結局、明日の放課後、講堂で公開討論会を行うことになったの」

 

「随分急な展開ですね……」

 

達也としては「遂にそう来たか」という印象で意外感は薄かったが、深雪は予想を超えた急展開に目を丸くして声も出ない様子だった。

 

「ゲリラ活動をする相手に時間的な余裕を与えないという戦略思想は理解できますが、その分こちらも対策を練る時間が取れません。生徒会ではどなたが討論会に参加されるのですか?」

 

達也の質問に真由美は「良くできました」と言わんばかりの笑みを浮かべながら、自分の顔を指差した。

 

「まさか、会長お一人ですか?」

 

「はんぞーくんにも壇上に上がってもらうけど、話をするのは私一人よ。達也くんの言うとおり、打合せをするには時間が足りないからね。一人だったら、小さな食い違いから揚げ足を取られる心配も無いし。怖いのは印象操作で感情論に持ち込まれることだから」

 

「ロジカルな論争なら、負けることは無い、と?」

 

達也がそう言うと、真由美は自信ありげに頷いて見せた。

 

「それにね」

 

軽やかに続けた真由美の声は、何かを期待しているような響きを伴っていた。

 

「もしもあの子たちが私を言い負かすだけのしっかりした根拠を持っているのなら、これからの学校運営にそれを取り入れていけば良いだけなのよ」

 

「しかし、残念ながら、その期待は薄い。むしろ、言論で勝てぬ相手であるから暴力を用いてくることは十分に考えられる」

 

むしろ論破されることを期待しているような真由美に頭からかぶせる勢いで水を差したのは、やはりというか和泉であった。

 

「会長、暴力を用いてきた場合の備えはされているのかな?」

 

「風紀委員には全員、出動してもらう予定だけど」

 

「しかし、それでもいかにも戦力不足だ。戦というのは数がいなければ始まらない。ところで話は変わるが、我ら宮芝の傘下で造園業を営んでいる会社があるのだが、彼らが私の通う学校のためにと無償で木々の剪定を申し出てくれたのだ。明日の放課後辺りに作業をしてくれるというので、入校のための手続きを取っておいてくれるかな?」

 

「それ、絶対に造園が専門の人たちじゃないわよね」

 

「別に損になる話でもあるまい。何もなければ何も起きない。ただ、十人に満たない風紀委員で講堂と広い校舎の全体を守ることは不可能だ。そうなれば、手の回らない個所で重大な事態に陥る生徒が出る可能性があるのではないか。仮に本懐は遂げられずとも生徒を五人も殺せればテロとしては成功だ。宮芝としてもそれは避けたい。それだけの話だ」

 

言われて、真由美はしばらく迷っている様子だった。

 

「分かりました。木々の剪定をお願いします」

 

が、結局は首を縦に振ることになった。事実として風紀委員は講堂に集中配備せねばならない以上、校内の他の個所が手薄になるのは避けられないためだ。

 

「分かった。悪いようにはしないと約束しよう」

 

そう言った和泉の顔は嗜虐的な笑みに染まっていた。

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