魔法科高校の劣等生と幻術士   作:孤藤海

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入学編 戦闘開始

公開討論会当日、全校生徒の半数が講堂に集まる中、皆川掃部は宮芝家当主である宮芝和泉守治夏、宮芝の諜報部隊の山中図書と共に風紀委員長室で待機していた。

 

和泉は制服の上から水色地に白抜きの水色桔梗紋で染め抜かれた陣羽織を羽織って準備万端。室内にも近代的な通信機や古式な呪符など、あらゆる道具類が置かれている。そして、校内には戦支度を整えた郷田飛騨守が率いる宮芝の術士一個小隊十六名が四個の分隊に分かれて四方の守りに就いている。加えて、それとは別に校内の部隊をサポートするために一個分隊四名が第一高校周辺に潜伏している。

 

「和泉守様、現在、講堂では生徒会長優勢で議論が進んでおります。なお、主犯格と見られる剣道部主将の司甲、壬生紗耶香の姿は未だ確認出来ておりません」

 

「報告ご苦労、森崎は引き続き講堂の守りにつけ。なお、事が起こったときには生徒はできるだけ捕獲。外部の者は速やかに抹殺せよ」

 

「はっ、承知つかまつりました」

 

風紀委員長指揮下で講堂にて警戒に当たっている森崎からの通信が切れたところで、和泉が山中を振り返った。

 

「どうだ、図書。森崎は躊躇わずに敵を殺せるか?」

 

「はっ、問題なく実行できると確信しております」

 

「そうか。始めはどうにもならぬ輩かと思ったが、どうして使える手駒となるものだな。これも図書の調整の手腕の成せる業といったところか」

 

「はっ、もったいなきお言葉です」

 

和泉と図書が軽口を交わしているところで、現場指揮官の郷田飛騨守から通信が入る。

 

「和泉守様、敵部隊です」

 

「来たか。手筈通り、敷地外にいる間の攻撃魔法は控えろ。第一高校から三キロ手前の地点にて中央付近で敵を前後に分断する。後続部隊はしばらく足止め。前衛部隊は高校の敷地内に入り、分散してから攻撃を開始せよ」

 

「承知つかまつりました」

 

飛騨守からの通信が切れる。同時に、和泉は自らが放っている式神から送られてくる映像を中央のモニタに映し出した。

 

「さて、戦争を始めるとしようか」

 

隠蔽は宮芝の戦いにとって不可欠なもの。すでに戦闘配備に就いている各員はすべての通信を切断しており、答える者はない。

 

前線の部隊は戦闘の全容を知ることができない。他の部隊の情報についても同様。

 

悪くすれば、知らぬ間に急襲で本部が壊滅していたり、或いは自分たちの隊を残して全滅している可能性すらある。それでも、前時代的な個別での作戦を宮芝は推奨していた。

 

それは、全力で隠蔽に力を注ぎさえすれば、敵に自己の存在を気づかれることはないという自信の現れ。敵に直接のダメージを与えるよりも、戦闘能力を奪うことに特化した古式の粋を尽くした術の数々がブランシュの部隊に襲い掛かる。

 

初手は濃霧の発生から。それにより、中団より後方の車列の運転手に自然とスピードを緩めさせて前との差をつけさせる。続いて周辺に雷術を用いた通信妨害を敷くことにより車両間での情報の交信を遮断する。

 

三人目が用いたのは幻術。霧の中に幻の車体を浮かび上がらせる。幻の車体は徐々に速度を落としていき、やがては完全に停止する。それを見て、後続の車両も次々と停止した。

 

車両間の通信は封じられている。停止した車両の者たちは、前の車がなぜ停止をしたのか把握できていない。だが、自然には発生しえない濃霧と明確な通信妨害から、何者かから攻撃を受けていることは明らかだ。それだけに車を降りて周辺の状況を確認するということは、容易には実行に移せない。

 

しかし、このまま時を浪費して討論会が終わってしまえば好機を逸することになる。やがて中の一人が車を降りて前の車両に状況の確認に行く。

 

「おい、一体どうなっているんだ?」

 

前の車の乗員に状況を聞きながら徐々に前に。そして、その質問は幻術によって作られた車体に向けられた。

 

「分からない。前が停止したから止まったが、状況は分からない」

 

幻術で作られた車体には当然に乗員などいない。返答を行ったように見えたのは幻術で作られた影であり、返答の内容は四人目の術士が送った音声である。

 

聞いた者は車体が幻術によって作られたものであることも、返答が術によって再生されたものであることにも気づかなかった。だから、更に前の車両へと状況を確認しにいく。

 

その男がおかしいと気づいたのは五台目を過ぎた辺りだった。前の車両の乗員たちは揃って状況を見守るばかり。それに、緊急時と思って見過ごしてしまったが、自分を知る者が一人もいないのは変だ。そう思ったのだろう。

 

「姓名と所属を答えろ」

 

男は前の車両の乗員に向けて銃を突き付けて、そう言った。

 

「ようやく気付いたようですね。間抜けなブランシュさん」

 

そして乗員の回答は急に女声に変わった。同時に霧が急速に薄まっていく。霧が晴れた後、そこには道路があるのみ。車列は綺麗になくなっていた。慌てて周囲を見回して、男は後方に停車している車両を見つける。

 

そこにいるのは当初の戦力の半数。それをもって男は自分たちが分断されたことに気づいたようだった。

 

「できれば、あと少し時を稼いでほしかったがな」

 

その光景を式神の映像を通して見ていた和泉は、掃部を振り返って言った。

 

「あのまま銃を撃たれてしまっては流れ弾で周辺の民家に被害が発生する可能性があります。現場はなかなか良い判断を下したかと」

 

「それは分かっている。だから判断には文句をつけるつもりはない」

 

現場を庇うつもりで言った掃部だったが、和泉相手には無用な気遣いだったようだ。

 

「はっ、出過ぎたことを申しました」

 

「よい、それより校内の戦況はどうなっているかな」

 

そう言いながら和泉は映像を切り替える。そこでは、ブランシュの前衛部隊が後続のないのに不審な様子を見せながらも校内の各所に散っているところだった。この間、宮芝の術士たちによる妨害は行われていない。

 

敵の進行を完全に防ぐなら、水際作戦が有効だ。しかし、そもそも宮芝の術士たちはそういった正面からの戦闘には長けていない。ゆえに、ここでも選択は搦め手からの攻撃。

 

仕掛けたのは、最後尾より二つ前の車両だ。その乗員が車両を降りて振り返ると、いつの間にか接近していた軍の車両が見える。乗員たちは慌てた様子で軍の車両をめがけて発砲。しかし、それは宮芝の術士により偽装された友軍だ。

 

後方の車両の乗員たちは急な事態に戸惑った様子だ。とはいえ、撃ってくる相手を無視はできない。事態を把握できないまま前衛部隊の最後方では壮絶な同士討ちが展開される。

 

一方、実技棟に進んでいた隊は、敵の発見の報を受けて待ち伏せをしていた郷田飛騨守の奇襲攻撃を受けていた。その方法は、空中に糸を張って吊るしておいた大量の手榴弾を、術で隠蔽しておき、ブランシュのメンバーが下を通るところで、一斉に頭上に落とすという単純なもの。しかし、破壊力は抜群で、更には轟音が周辺に異変を知らせることができるという効果もある。実際、これで第一高校の教員たちが異変に気付いた。

 

「さあ、全面戦争の始まりだ。ブランシュ諸君の戦闘への対応力は如何程か、とくと見せてもらおうではないか」

 

和泉は勝利を確信した様子で、笑みさえ浮かべている。その様子を見て、掃部は頼もしさと同時に微かに寒いものを覚えていた。

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