魔法科高校の劣等生と幻術士   作:孤藤海

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入学編 宮芝配下の森崎

突如、轟音が講堂の窓を震わせ、真由美の演説に対する満場の拍手という一体行動の陶酔に身を委ねていた生徒たちの酔いが醒めた。

 

動員されていた風紀委員が一斉に動いた。

 

普段、まともに訓練など行っていないとは信じられない、統率の取れた動きで、各々マークしていた生徒を拘束する。

 

窓が破られ、紡錘形の物体が飛び込んで来た。

 

床に落ちると同時に白い煙を吐き出し始めた榴弾は、白煙を拡散させずに、ビデオディスクの逆回し再生を見ているような動きで煙もろとも窓の外に消えた。

 

司波達也が賞賛を込めて視線を向けると、服部は不機嫌そうに顔を逸らした。

 

摩利が出入り口に向けて、腕を差し伸べている。

 

突入してきた防毒マスクを被った数名の闖入者が、段差に躓いたかのように一斉に倒れて、そのまま動きを止めた。

 

そこに、連続した発砲音が響く。戦闘能力を失っていた闖入者たちが血の海に沈む。

 

全員が驚いて視線を向けた先には、銃口から薄く煙を吐く突撃銃を右手に持つ風紀委員、森崎駿の姿があった。普通、突撃銃は片手で扱えるものではない。しかし、森崎は左手に持ったCADで硬化魔法を用いることで銃の反動を抑え、片手での銃器の扱いを可能としている。魔法を補助に銃器で戦闘を行う。それは、以前の森崎とは明らかに異なっていた。

 

「おい、森崎! 戦闘能力を失った相手を、なぜ虐殺した! そもそも、そんな危険な銃器をどこに隠し持っていた!」

 

「生徒は拘束。それ以外は殺害せよというのが、和泉守様の御命令でございますので。それでは、仕事が残っておりますので」

 

「おい、森崎!」

 

摩利の制止も聞く耳もたずという様子で森崎は右手に突撃銃、左手に愛用のCADという装備で外に飛び出していく。

 

「お兄様、あれは本当に森崎さんなのでしょうか?」

 

深雪が怯えを含んだ声で達也に問うてくる。

 

「あれは間違いなく森崎駿だ」

 

それは間違いがない。だが、達也の記憶にある森崎とは別人であるのも確かだ。

 

森崎は妙なプライドを肥大化させた結果、些細な言い争いの場でCADを抜くという愚挙を犯した。だが、熱くなりやすい性格ではあっても、無表情で殺人を行えるほど踏み外した人間ではなかったはずだ。

 

しかし、先ほどの森崎は殺害した者たちに何の感慨も抱いていなかった。何より、和泉の命令を絶対のものとしていた。あれは明らかに異常だった。

 

そうしている間にも外では複数の銃声が響いている。達也はすでに校内に侵入した者たちが狙撃銃により倒されている様子を知覚していた。それと同時に、異様な動きをする機械が校内を蠢いていることも。

 

「俺は、実技棟の様子を見てきます」

 

「お兄様、お供します!」

 

「気をつけろよ」

 

摩利の声に送り出されて、達也たち兄妹は実技棟の方角へと駆け出す。

 

達也が向かったのは轟音が聞こえた方向とは少し離れた区画だ。轟音が聞こえた区画では負傷して満足に戦えない者たちへの凄惨な殺戮行為が行われている。多少の血で動揺する妹ではないが、やはり深雪には見せたくない光景だった。

 

そうして向かった先では、壁面に付着して燃え続けている焼夷剤に、教師が二人がかりで消火に当たり、その教師たちをガードするようにレオが大立ち回りを演じていた。レオを取り囲んでいる男の数は三人。

 

男たちは電気工事の作業員のような恰好をしている。明らかに生徒でも職員でもない。

 

深雪の指が、片手で操る携帯端末形態のCADの上をしなやかに踊る。それで男たちは一斉に吹き飛んだ。

 

「何の騒ぎだ、こりゃあ?」

 

「テロリストが学内に侵入した」

 

訊ねて来たレオに、達也は詳細を一切端折って事態を説明する。

 

「ぶっそうだな、おい」

 

レオはそれだけで納得する。納得できる性質だと、分かっていたからだ。

 

「レオ、ホウキ! ……っと、援軍が到着してたか」

 

その時、反対側、事務室方向からエリカが姿を見せる。達也たちの姿を認めて、エリカは走ってきた足を緩めた。

 

「これ、達也くん? それとも深雪?」

 

レオにCADを投げ渡したエリカは、呻き声をあげて緩慢に這いずる侵入者を同情の欠片もない眼で眺めながら簡潔に問うてきた。

 

「深雪だ。俺ではこうも手際良くは行かない」

 

「わたしよ。この程度の雑魚に、お兄様の手を煩わせるわけには行かないわ」

 

達也と隣に来ていた深雪の回答は、全くの同時だった。

 

「それでこいつらは、問答無用で打っ飛ばしても良い相手なのね?」

 

「生徒でなければ手加減無用だ」

 

「その言葉を聞いて安心しました」

 

声の方を向くと、全身を返り血で真っ赤に染めた森崎駿が立っていた。

 

「その者たちの身柄は我々が預かりましょう」

 

「預かってどうする気だ?」

 

「脳に呪符を埋め込んで、和泉守様の人形になっていただきます」

 

森崎の答えは、いつぞやの和泉の発言とそっくりだった。

 

「お前も、呪符を埋め込まれたのか?」

 

「いいえ、私は和泉守様に教育をしていただいただけです」

 

「その割には、以前とは別人になってしまったようだが?」

 

「以前の私が愚かだっただけでございます」

 

これ以上、何を言っても無駄のようだ。そして、行為自体は気に入らないが、生徒は殺害も拉致もしないということは、和泉なりに譲歩はしてくれているということ。そして、達也は宮芝と対立するというリスクを冒してまで、侵入者を庇うつもりはなかった。

 

事務室の方から、小型列車のようにコンテナを連ねた機械が走ってくる。森崎はコンテナを開けると、気絶させた侵入者たちを放り込んでいく。

 

その間に、校舎の陰から作業着姿のテロリスト一名が現れたが、その相手は音もなく飛来した弾丸に胸を貫かれて絶命した。銃弾は宮芝の術士が放ったもので、純粋な銃器によるものだった。

 

敵を撃った宮芝の術士は、迷彩に防音と術を全て自らの隠匿に用い、攻撃には狙撃銃を用いているようだ。その腕は達也でさえ、放たれた銃弾を知覚して初めて術士が隠れていることに気づくというレベル。

 

いかに高レベルの魔法師でも、常時、防御魔法を展開している訳ではない。例えば相手が真由美のように超一流の力を持った魔法師であったとしても、今の宮芝の狙撃手の腕前ならば倒せる可能性は高いだろう。

 

そして、それは真由美を深雪に置き換えたときにも該当しそうなのが怖い。やはり宮芝には最大限の警戒をもって当たらなければならないようだ。

 

「他に侵入者を見なかったか?」

 

森崎がコンテナを引く機械を連れて次の獲物を探しに行くのを見送ると、達也は意識を切り替えて訊ねた。

 

「反対側を先生たちが守っていたけど、さすがね、もうほとんど制圧してた」

 

「オレが言うのも何だが、あいつら、魔法師としては三流だったな。三対一で魔法を練れないんだからよ」

 

レオは何でもないことのように言うが、そもそも三人を同時に相手取ること自体、容易ではない。このクラスメイトは思った以上にやれるようだ。

 

「エリカ、事務室の方は無事なのかしら?」

 

深雪の問いかけに、エリカが頷く。

 

「あっちの方が対応は早かったみたい。あたしが到着した時には、先生たちが侵入者を縛り上げていたよ」

 

エリカの言葉に、達也は引っ掛かりを覚えた。

 

事務室には多くの貴重品が保管されているから、襲撃の対象となるのは分かる。だが、実技棟には型遅れのCADが置かれているだけで襲撃する価値は低い。

 

他に、破壊活動によって学校の運営に支障を来す場所はどこだ。

 

「……実験棟と図書館か!」

 

「では、こちらは陽動? もしかして、討論会へ結びつく抗議行動自体も?」

 

「いや、あれはあれで本気だったと思う。彼らも利用されていただけじゃないかな」

 

気の毒な、とまでは言わなかったのは、本気で差別の排除を叫んだ者に対する侮辱になると考えたためだ。

 

「それより、これからどうするか、だが」

 

「彼らの狙いは図書館よ」

 

情報をもたらしてくれたのは、学園のカウンセラーである小野遥だった。実技棟の中から現れた彼女は、防弾・防刃効果を重視した金属繊維のセーターを身に纏っている。

 

「向こうの主力は、既に館内に侵入しています。壬生さんもそっちにいるわ」

 

ただの学園のカウンセラーが、そんな情報を持っているはずがない。一方で、遥は自信を持って発言をしている。

 

「後ほど、ご説明をいただいてもよろしいでしょうか」

 

「却下します、と言いたいところだけど、そうもいかないでしょうね。その代わり、一つお願いしても良いかしら?」

 

「何でしょう」

 

「カウンセラーの立場としてお願いします。壬生さんに機会を与えてあげて欲しいの」

 

「甘いですね」

 

遥の依頼を達也は容赦なく切り捨てた。

 

「余計な情けで怪我をするのは、自分だけじゃない」

 

同じ学園の生徒を切り捨てることに戸惑いを覚えている友人たちにアドバイスを残し、達也は図書館へと走り出した。

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