魔法科高校の劣等生と幻術士   作:孤藤海

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入学編 ブランシュ壊滅戦

茜色に染め上げられた世界の中、夕陽を弾いて疾走する大型のオフローダーが、閉鎖された工場の門扉を突き破った。時速百キロ超で衝突した大型車の衝撃は相当なもの。しかし、門扉の破壊音は工場に届くことはなかった。

 

「レオ、ご苦労さん」

 

「……何の。チョロイぜ」

 

「疲れてる疲れてる」

 

高速走行する大型車全体を衝突のタイミングで硬化するというハイレベルな魔法を使用したレオは集中力の多大な消費にかなりへばっている。それでも懸命に見せた明らかな強がりは、エリカのからかいの的になっていた。

 

「和泉も、ご苦労だったな」

 

「別に構わんよ」

 

今回の門扉突破の、もう一人の功労者である和泉は憮然とした表情をしていた。

 

「司波、お前が考えた作戦だ。お前が指示を出せ」

 

克人に権限を委ねられた司波達也は、尻込みすることなく頷くと、一行を見渡した。

 

達也の現在地は街外れの丘陵地帯に建てられた、バイオ燃料の廃工場。ブランシュの拠点となっている場所だ。

 

そこに和泉が得意とする隠密の術と、レオの硬化魔法で強襲をかけたところだ。強襲部隊のメンバーは、達也と深雪に、克人、桐原武明、レオ、エリカに和泉の七人。このうち多くは志願者だが、和泉だけは別枠だ。

 

和泉が率いた宮芝の術士は、なるべく穏便に済まそうとした風紀委員の意向を無視して三十名もの屍を築いた。おかげで秘密裏に処理というのは大変難しくなり、こうなった以上は最後まで責任を持てということである。

 

さて、その七人をどう配置するか。

 

「レオはここで退路の確保。エリカはレオのアシストと、逃げ出そうとするヤツの始末」

 

「……捕まえなくていいの?」

 

「余計なリスクを負う必要は無い。安全確実に、始末しろ。会頭は桐原先輩と左手を迂回して裏口に回ってください。俺は深雪と和泉と、このまま踏み込みます」

 

「私は荒事を苦手としているというのに、どうして達也と一緒なのかい?」

 

全員が、こいつは何を言っているんだ、という表情で和泉を見た。その脳裏には屍の中を平然と歩く和泉の姿が思い浮かべられている。

 

「か弱い女子であるというのは噓偽りない事実だよ。なのに、この扱いはさすがに酷いのではないかな」

 

その視線を受け、さすがの和泉も居心地が悪かったのか、弁解になっていない弁解を行う。

 

「まあいい、裏口からの侵入、引き受けた」

 

「逃げ出すネズミは残らず斬り捨ててやるぜ」

 

克人が悠然と頷き、桐原が刃引きされた抜き身の刀を握る手に力を込める。

 

「達也、気をつけてな」

 

「深雪、無茶しちゃダメよ」

 

レオとエリカに見送られ、達也は深雪と和泉と共に薄暗い工場の中へと進む。そうして他のグループから離れたところで和泉が切り出してきた。

 

「どうして私を一緒のグループに指定してきたの? 戦力面での均衡という意味では私はレオたちと一緒の方がいいんじゃない?」

 

「和泉は俺と一緒の方がよかったんじゃないか?」

 

「それはそうだけど、でも教えてくれるわけじゃないんでしょ」

 

「そうだな」

 

和泉は図書館の特別閲覧室で達也の固有魔法である「分解」を目撃している。紗耶香はただ事象に驚くだけであったが、和泉は必ず分析をしていたはずだ。そう簡単に原理にまでは辿り着けないだろうが、達也が特別な魔法を使用できることは知られたと思っていい。それならば、ある程度は「分解」の脅威を見せつけて、迂闊に手を出すことは危険と思わせておいた方が、結果的に宮芝を遠ざけることができると考えたのだ。

 

「とりあえず、このまま進むとホール状の部屋で待ち伏せを受けることになるけど?」

 

そんなことを考えていたら、唐突に和泉が忠告をしてきた。

 

「分かるのか?」

 

存在を知覚する能力を有している達也は、和泉の言ったことが事実であることが分かる。しかし、和泉がどうやってそれを知ったのかが分からない。

 

「ブランシュの中には私の人形が混じっているからね」

 

すると、あっさりと理由を白状した。そう言われてみると、なんとなくエイドスがぼやけている人間がいる。どうやら意思の希薄さはエイドスにも表れるものらしい。

 

「それで、どうするの?」

 

「問題ない。このまま進む」

 

「あのね、達也はいいかもしれないけど、私は防御は得意じゃないの。待ち伏せの中に突入するなんて嫌だからね」

 

「じゃあ、後からついてくればいい」

 

そう言って深雪と二人で工場の中に歩を進める。

 

「女の子を無理やり戦場に連れ出して、挙句に放って先にいくなんて、いくらなんでも酷すぎるんじゃないかな」

 

何やら不平を言っている声は聞こえてきたが、和泉なら逃げに徹すれば、そう簡単に捕まることはないはずだ。無視をして敵の待ち構えるホールへと進む。

 

「ようこそ、はじめまして、司波達也くん! そしてそちらのお姫様は、妹さんの深雪くんかな?」

 

ホールでは二十名以上のブランシュのメンバーが銃器を手に待ち構えていた。声を発したのは、その中央に立つ三十歳前後の男だった。

 

「お前がブランシュのリーダーか?」

 

「おお、これは失敬。仰せのとおり、僕がブランシュ日本支部のリーダー、司一だ」

 

「その男を殺せ」

 

司一が名乗った瞬間、和泉の声が響く。それと同時に、司一の近くでサブマシンガンを構えていた男が銃口の向きを変える。余裕たっぷりの姿勢のまま、司一は至近距離からの連発により、あっけなく息絶えた。

 

「ブランシュを殲滅せよ」

 

撃った男は和泉が紛れ込ませていた操り人形だった。男は和泉から命じられるままに周囲の男たちに銃弾をばら撒き続ける。

 

「相変わらず、性急だな」

 

「敵を前におしゃべりに興じるなんて、二流どころか三流だよ。さて、目的は果たしたことだし、残党狩りは任せていいかい?」

 

「気乗りしないが、任されよう」

 

司一を殺した男はすでに残るブランシュのメンバーの反撃に合い、倒されている。その男が自らの死の間際にも何の感情も抱かず無表情のままであったことを、達也の感覚は認識していた。それは、正しく意思を持たぬただの人形だった。

 

男は魔法師ではない様子だった。和泉はいつぞや、魔法師は兵器にすぎないと言い放った。達也はそれを文字通り、魔法師を兵器として扱った前時代の思想を引き継ぐものとして理解した。

 

けれど、どうやらそれは誤りであったようだ。和泉は自ら以外の全てを道具として扱うことに何の抵抗感も抱いていない。

 

道具というものは上手く扱えてこそ。つまり扱いが難しい達也や深雪は宮芝に害される可能性は低くなったといえるだろう。

 

しかし、それを喜ぶことはできそうにない。複雑な思いに今は蓋をして、達也は残った男たちに拳銃型のCADを向けた。

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