魔法科高校の劣等生と幻術士   作:孤藤海

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九校戦編
九校戦編 宮芝治夏にとっての九校戦準備


正式には全国魔法科高校親善魔法競技大会という長い名を持つ九校戦は、日本に存在する魔法大学付属高校九校による交流戦である。

 

政府の他に一般企業から多くの研究者やスカウトを集める九校戦は、魔法大学付属高校の生徒にとっては、年に一度の晴れ舞台である。それと同時に、魔法を使えぬ一般の人々にとっても、魔法競技を目にできる数少ない舞台だ。また学校単位の競争であるため、当事者として他の八校と争う形になる各校にとっては学校の威信を掛けた場になる。

 

そのため、どの学校も九校戦の前は諸々の準備のため慌ただしい雰囲気に包まれることになる。それは、第一高校も例外ではない。

 

だが、宮芝和泉守治夏にとって、第一高校の威信などは興味の範囲外。治夏は競技の参加者でもなければ、スタッフにも名を連ねていない。つまり、普段通りの日々を過ごしていた。

 

治夏の予定では、九校戦が始まる前日にゆっくりと会場入りをし、若者たちの実力の程をじっくりと観客席から見せてもらうつもりであった。

 

気がかりなのは、国防軍から香港系の犯罪シンジケートである無頭竜らしき存在が会場近くで蠢いているという情報がもたらされたことで、それに対しては山中図書を派遣して調査をさせていた。この時点では治夏も事態を深刻なものとまでは認識していなかった。

 

だが、事態は予想を超えて動き始める。

 

そのとき、治夏は翌日からの会場入りに備えて荷造りをしている最中だった。第一高校の一員という意識の希薄な治夏は、大会期間中も全てを私服で賄うつもりでいる。しかも十日間に及ぶ大会期間中、一日たりとも同じ服は着用しないという気合の入れようである。

 

衣類は全てを持参するわけではなく、二日目までの衣類は予めホテルに送付しておき、その後は逐次で後続を送ってもらう手はずであるので、手荷物はない。けれど、それを実行するためには十日分の衣類の組み合わせを予め決めておかなければならない。

 

衣類に興味の薄い者の場合は、スタイリストやらに決めてもらうという手を取るだろう。けれど、質実剛健を旨とする宮芝では、そんな余分な人員はいないし、そもそも治夏は服を選ぶのが嫌いではない。

 

というわけで所有する衣類を部屋の中に所狭しと並べて、ああでもない、こうでもないと組み合わせの吟味を続けていた。普段の治夏は肌の露出を嫌うが、季節は夏。少しばかり冒険をしてみるのも悪くないかも、などと考えているとき、その電話はかかってきた。

 

「瑞希です。和泉守様、森崎殿からお電話が入っております」

 

「要件は?」

 

「森崎殿も加わっている第一高校の選手団が何者かの襲撃を受けたとのことです」

 

そう言われれば、嫌でも山中図書が調べている無頭竜が頭に浮かぶ。

 

「分かった、繋げろ」

 

「はっ、かしこまりました」

 

わずかの間の後、通話相手が森崎に切り替わる。

 

「森崎駿にございます。此度はお休み中にお手を煩わせて申し訳ございません」

 

「よい。それより、第一高校が受けた襲撃について、なるべく詳細に報告をいたせ」

 

「始まりは、対向車線で起きた車両事故にございました」

 

そう言って森崎が伝えたのは、急にスピンを始めてガード壁に激突した大型車が、宙返りをしながら第一高校生の乗るバスへと飛んできたという事実だった。

 

幸い、十文字克人と司波深雪の活躍により選手団に被害は出なかったらしい。しかし、事故に至る前の車両の動きと、事故後に微かに魔法の残滓を感じ取ったことから、ただの事故ではなく第一高校を狙った襲撃であると判断したようだ。

 

「分かった。引き続き警戒を厳にせよ」

 

「はっ、かしこまりました」

 

森崎からの通話が切れた後、治夏はすぐに杉内瑞希に電話を掛けなおし、山中図書を呼び出すよう伝える。そして、山中からの電話を待つ間に今後の対応を考える。

 

とりあえず、仕掛けてきた相手は無頭竜で間違いないだろう。犯罪シンジケートがなぜ高校生の死傷を狙うのかの理由は分からないが、タイミングから考えて無関係であるとは考えられない。

 

まずは早急に会場近くに現れたという無頭竜の構成員を捕らえる。そして、どのような手段を用いてでも、無頭竜の狙いの全てを吐かせる。

 

そこまで考えた所で、山中図書からの電話が入った。

 

「和泉守様、山中図書にございます」

 

「図書、命じていた無頭竜について何か判明したか?」

 

「いえ、現在は……」

 

「何をモタモタしているか!」

 

急に落ちた雷に山中図書が身を竦ませた気配がした。しかし、今の治夏は確かな怒りを覚えている。叱責をやめるつもりはなかった。

 

「今日、第一高校の選手団が襲撃を受けた。相手は十中八九、無頭竜だ。お前はその兆候を何も掴んでいないのか?」

 

「申し訳ございません」

 

「人数を追加しても構わん。怪しい者は術だけでなく薬も使って全て吐かせろ!」

 

「はっ、至急、取り掛かります」

 

山中図書との電話を切ると、瑞希がお茶を持って入室してきた。

 

「ご機嫌斜めのようですね」

 

「そうだな」

 

「大亜連合が絡む案件だからですか?」

 

「まあ、そうだな。大亜のゴキブリどもがまたも日本に手を出してきたと考えれば、機嫌も悪くなろう」

 

そう言うと、瑞希が呆れたように溜息をついた。

 

「和泉守様は本当に大亜連合が嫌いなのですね」

 

「大亜連合だけではない。新ソ連の生ゴミどもも同じくらい嫌いだな」

 

「まあ、和泉守様にしてみれば、仕方がないのかもしれませんけどね」

 

長い歴史を刻んできた宮芝にとって、魔法が正式に成立した百年前であっても、ちょっと前くらいの認識になる。そして、その百年の間に何度も日本にちょっかいを出してきている大亜連合と新ソ連は宮芝にしてみれば、ちょっとの間に何度となく攻撃を仕掛けてきた相手ということになる。加えるなら、それらの攻撃では少なくない宮芝の術士たちが命を落としているのだ。許し難いと考えてしまうのも仕方のないことではないだろうか。

 

「ともかく私も現地入りを早めることにしよう。瑞希、今日から宿泊ができるようホテルに連絡を頼む」

 

「かしこまりました」

 

「その間に私は一日分、余分となった服を選んでおく」

 

「そこは妥協なされないのですね」

 

「私とて花も恥じらう乙女だぞ。少しくらい楽しんでもいいじゃないか」

 

治夏の言はあまり瑞希の心には響かなかったらしく、芳しい反応は帰ってこない。年頃の少女であるということと、冷酷な宮芝の当主であるということは相反することではないはずだ。しかし、これも言っても理解はされないだろうと、治夏は黙って準備を続けることを選択した。






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