魔法科高校の劣等生と幻術士   作:孤藤海

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入学編 入学式後・会場

達也の期待以上に、妹の深雪の答辞は見事であった。「皆等しく」や「魔法以外にも」といった際どいフレーズも上手く棘を隠して使用していた。

 

それに比べて、この女は。

 

式の終了後、IDカードの交付のために列を作る段になると、宮芝和泉は早速とばかりに一科生の列に向かおうとしたのだ。しかも、ただ並ぶだけでも悪目立ちを通り越して、敵意をぶつけられることは確実であろうに、あろうことか順番抜かしまでしようとしたのだ。

 

おそらく和泉の狙いは、適当に挑発して相手に先に手を出させ、それをもって退学に追い込むという手だろう。達也はこの短い時間で、一科生の中には無駄にプライドばかりが高い者いることに気づいていた。

 

魔法の能力が全てという実力主義は、魔法科高校の中においてのみ有効な概念だ。学校の敷地を一歩外に出れば、個人の魔法の能力などというものは権力や財力、組織的な武力の前では何の意味もなさない。

 

最強の現代魔法師の一族と言われている十師族の中には四葉家という家がある。四葉家は歴史の表舞台には、ほとんど顔を出さない。けれど、保有している武力、権力との繋がり、いずれもかなりのものだ。

 

達也の妹の深雪は、一人の魔法師としては世界屈指の実力者だが、それでも四葉家と敵対などということは、可能性を考えることすらしない。

 

噂の内容による判断しかできないが、宮芝は四葉とよく似ている。仮に四葉と同等の影響力があるとすれば、いや、四葉ほどの影響力がなくとも一科生一人くらいなら退学に追い込むことは容易いだろう。

 

何せ、世間の常識では口喧嘩で女性に手を出すというのは圧倒的に悪。多少の力があれば外からの圧力という方法を取ることができる。

 

和泉の手段は積極的に同調できるものではない。とはいえ、普段の達也なら勝手にやる分には放置したことだろう。

 

けれど、今は妹が答辞を終えた直後。これでは妹の答辞が悪い影響を与えてしまったと取られかねない。

 

「すみません。この子はちょっと貧血で意識が朦朧としているようで」

 

仕方なく、達也は割り込みをしようとしている和泉の腕を取り、強引に外へと連れだした。

 

「君、なぜ邪魔をするのだ?」

 

「さっき、妹だけは巻き込んでくれるなと言っただろう。俺の妹は総代を務めた女子生徒だ。和泉に今、問題を起こされると総代の顔に泥を塗ることになるとは思わないか?」

 

「む、それは確かにそうだな。分かった、今日は大人しくしていよう」

 

それは明日からでも暴れるという宣言ということだろうか。それはそれで不穏であるが、とりあえずは今日を乗り切ることを考えよう。

 

「何、まさか本当に仕掛ける気だったの?」

 

和泉を二科生の列に連れ戻すと、エリカに冷たい目で言われてしまった。

 

「当然であろう。魔法技能を向上させるという点において、指導教員がいるのといないのでは大きな違いだ。一科生にあがるのは早い方がいい」

 

達也も含めて多くの二科生は、試験の結果であるから仕方がないと、二科生であるということを受け入れている。それに比べて和泉は、磨かれた刃もかくやというレベルでぎらついている。

 

「ほんの少しだけなら、その姿勢も見習うべきなのかもしれないけどね」

 

エリカの言う、ほんの少しというのは、本当に少し、おそらく一割程度くらいだろう。確かに入学式の段階から自分は一科生とは違うと列の後ろに向かうのは、向上心に欠けると思わなくもない。けれど、全員が和泉だったら、魔法科高校は辻斬り闇討ちが横行する無法地帯になっている。

 

何はともあれ和泉を連れて二科生の列に並んでIDカードを受け取る。

 

「司波くん、何組?」

 

聞いてきたのはワクワク感を隠し切れないエリカだ。

 

「E組だ」

 

「やたっ! 同じクラスね」

 

エリカは飛び跳ねて喜びを示す。

 

「私も同じクラスです」

 

アクションは伴わないものの、美月も表情で喜びを示していた。

 

「おや、奇遇だな、私もだ。短い間となるが、よろしく頼む」

 

一方、和泉はというと、単純に偶然を面白がっているだけの様子だった。和泉の言う、短い間というのは、それこそ最短では明日までというくらいの気持ちだろう。

 

旧時代と違い、クラスはあくまで実技や授業の単位のために定められているにすぎない。仮にクラスの中で問題が発生したとしても、それによって他の生徒にまで責任が及ぶということはない。

 

けれど、同じクラスということは必然的に視界内に入ることは多くなる。そして、和泉は誰かが巻き込まれそうだということで行動を自粛するようなことはないだろう。つまり、達也が和泉の起こす事件に巻き込まれる確率は、確実に増したということだ。

 

「どうする、ホームルームに行ってみる?」

 

落胆を隠せない達也の顔を見上げながら、エリカが尋ねてくる。

 

「悪い。妹と待ち合わせているんだ」

 

友人を作るならホームルームに向かった方がいいのだろう。しかし、達也にとっては友人作りよりも妹の約束の方が大事だ。

 

「ほう、君の妹と言うと、総代を務めていた彼女だな。初めて見たが、あれには確かな才気を感じた。それは是非とも面識を持っておきたいな、同行しよう」

 

「え、和泉も行くの? それならあたしも行こうかな」

 

「でしたら、私も」

 

「エリカと美月はともかく、和泉だけはお断りさせてほしい」

 

嘘偽りのない本心で、達也は和泉に言ってみる。

 

「堅いことを言うな。なに、別に取って食いも、喧嘩を仕掛けも、脳に呪符を仕込みもしないから安心したまえ」

 

前の二つはともかく、残りの一つは完全にアウトだ。けれど、わざわざ言ったからにはできるということなのだろうか。

 

或いは、深雪の敵となるのであれば。

 

達也が僅かに拳を握ると、和泉は愉快そうに右の口角を持ち上げて見せた。

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