魔法科高校の劣等生と幻術士   作:孤藤海

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九校戦編 新人戦・男子スピード・シューティング決勝

九校戦四日目、第三高校一年の吉祥寺真紅郎はスピード・シューティングにおいて優勝を絶対の使命として自らに課していた。課していた、といってもその使命を課したのは今日になってからだ。

 

真紅郎の名が最も轟いているのは魔法式の原理論の研究者として。しかし、魔法師の世界においては実技ができなければ理論も理解できないと言われるように、学問面のみでなく実践の面でも優秀であると自負していた。

 

そのため、無論のこと今大会でも当初から優勝は狙っていた。けれど、それを絶対という域にまで高めざるをえなかったのは、第一高校の女子スピード・シューティングでの大躍進があったためだ。

 

女子スピード・シューティングの決勝戦は、すでに第一高校生同士で行われることが確定しており、更に三位決定戦にも進出している。これで女子スピード・シューティングだけで最低でも三十五点も差をつけられることになる。

 

ここで真紅郎が第一高校の森崎駿に敗北すれば、点差は縮まらないどころか、広がることになる可能性が高い。上級生たちのためにも、それは許されない。何としても負けられないと考えるようになるのも当然だろう。

 

名を呼ばれ、会場に入る。

 

夏の日差しに、大勢の観客の歓声。前から真紅郎のことを知っているのか、熱の籠った声で名を呼び掛けてくれる声が聞こえる。

 

まだ一年生の真紅郎にとって今大会がデビュー戦だ。少ない機会で自分のことを知ってもらえ、応援してくれるというのはありがたいことだ。

 

期待は裏切れない。

 

決意を込めて射撃位置につき、開始を待つ。ちらと視界の端に収めた森崎は、憎らしいほどの自信に満ちている様子だ。事前に映像で確認した限り、森崎の実力は真紅郎に及ばない。それなのに、あの自信は何だろう。

 

何か、隠し玉があるのだろうか。いや、それを考えすぎても仕方ない。

 

下手に対策を考えすぎるより、自分の力を出し切ることの方が大切だ。真紅郎のクレーは名前にも入っている紅色。縁起がいいと考えよう。

 

構えの合図がかかる。スタートのランプが点り始めた。ランプが全て点る。

 

次の瞬間、クレーが空中に飛び出してきた。

 

初手を取ったのは森崎。得点有効エリアに飛び込んだ瞬間、粉々に粉砕される。

 

森崎が早撃ちを得意としていることは知っている。ゆえに最初の得点を許すことは計画通り。要はその後で取り返せばいいのだ。

 

真紅郎はエリアに侵入したクレー二つを、セオリー通りに衝突させて破壊させる。これで一気に二点、のはずだった。

 

だが、会場に広がったのは歓声でなく、ざわめきだった。機械の誤動作ではないか、という声が聞こえてくる。

 

どういうことかとモニターを見ると、森崎が二点。真紅郎は一点となっている。

 

一瞬、観客の声のように機械の誤作動ということを考えた。しかし、それならばすぐに本部から静止がかかるはずだ。それがないということは、機械は正常と判断されているということ。となると、残るは人間の目の不具合。

 

原因に当たりをつけた真紅郎は、すぐに幻影魔法への対抗魔法を発動させる。すると、砕けたクレーの破片の一方は、確かに白色だった。森崎は幻影魔法を使うことで、自身の白色のクレーを紅色に着色していたのだ。同時に、それまで白色のクレーに見えていたため注意を払っていなかった一枚が、実は紅色であったことが判明する。

 

「くっ……」

 

すでにクレーは得点有効エリアの外に出ようとしている。今から魔法を構築したのでは、早撃ちに特化した森崎であっても間に合わない。遺憾だが、このクレーでの得点は諦めて見逃すよりない。

 

逃したのは、たった一点だ。まだ何の問題もない。

 

そう思おうとしたが、同時に、この試合は容易には勝てないとも考え直していた。森崎の戦術は準決勝までに見せていたものと全く異なる。おそらくは相当の準備をして臨んできていると考えた方がいい。

 

今度は騙されないようにと油断なく会場を見つめる真紅郎の視界が、不意に白く霞んでいく。今度は考えるまでもなく、魔法による妨害。しかし、真紅郎の衝撃は幻影魔法を使われたときを超えていた。

 

「これは……古式の魔法!?」

 

森崎は現代魔法を使う魔法師のはずだ。それがなぜ、古式の魔法を使えるのか。焦りを隠して発散系の魔法を使用して霧を散らせる。すると、得点有効エリアから外れようとしている紅のクレーが目に入った。自身の魔法の中で最速で使用できるエア・ブリットを用いて、得点有効エリア外まで三十センチほどのぎりぎりの位置で破壊する。

 

しかし、得点が入ったのは森崎の側。霧の解除後なだけに焦って魔法を使うと読んで、再び幻影魔法を使っていたようだ。となると、おそらくエリア外に消えた白色のクレーが本来の真紅郎の狙うべきクレーか。

 

挽回を期す真紅郎に対し、今度は地面からせり出してきた土壁が視界を遮ってくる。この壁は加重系魔法により破壊する。すると、今度は巨大な風船が現れた。この程度ならと弱い魔法で破壊すると、中からは大量の白い煙が吐き出されてきた。霧への対処と同様に発散系の魔法で吹き散らす。

 

その次は小さな火の玉だった。会場の中心をゆらゆらと揺らめいている。放置するのは危険と判断して先んじて消し去ろうとすると、急に眩い閃光を発してきた。威力が調整されているのか咄嗟に目を逸らすという程度だったが、それでもロスはロスだ。

 

そして、前を向き直した真紅郎が目にしたのは紅のクレー二枚が有効得点エリアの外に出ようとしている光景だった。

 

幻影を消す魔法と、クレーを落とす魔法の両方を使用する時間はない。幻影に騙された反省を生かして放置するか、一か八かで移動系魔法で両者を破壊してみるか。

 

真紅郎は罠と判断し、その二枚を見送った。ここまで徹底して罠を張り続ける相手が、今度は何もしていないと期待して行動するのは危険と判断したためだ。その代わりとして、横目で森崎の様子を窺う。そして、その瞬間、真紅郎は驚愕した。

 

最初は上着を纏っていたため、気づかなかった。だが、上着を脱ぎ棄てた森崎は全身に特化型のCADを身に付けていた。そして、それを引き抜いて使っては、足元に捨てるという行動を繰り返している。

 

相手は予め用意しておいた、一つだけの魔法に特化した調整を行ったCADに設定された魔法を順に使用するだけ。それに対して真紅郎は森崎の魔法を見て、対抗魔法を選択しなければならない。これでは遅れをとって当然だ。

 

それにしても、すでに地面に転がっているものも合わせると森崎はCADを二十以上も持ち込んでいることになる。こういうのも、金に飽かせてというのだろうか。

 

CADを抜いて魔法を発動させては地面に落とすという行為の異様さと、競技者の一方はひたすら相手の妨害に終始するという、あまりにも通常と異なる競技方法に会場全体がざわめいている。すでに制限時間五分のうち三分を過ぎて、得点は十対五。決勝はおろか予選でもありえないロースコアの戦いだ。

 

残り時間は二分弱。けれど、点差は僅かに五点。逆転できない差ではない。

 

直接的な効果を狙う魔法が主である現代魔法と違う、事象を発生させることに特化した古式魔法による妨害がこれほど厄介だとは思わなかった。けれど、妨害を主としているということは直接的な点の取り合いでは森崎は真紅郎に勝つ自信がないということでもある。隙をついて一点ずつでも得点を得ていけば逆転は可能なはず。

 

再度の霧での妨害を吹き飛ばし、次の妨害が来る前に紅のクレーに狙いをつける。幻影魔法への対抗魔法を使い、刹那の間も置かずエア・ブリットで仕留める。が、その前にぐらりと視界が揺らいだ。

 

幻影魔法でなく、古式の幻覚の魔法。それをクレーにかけていたか。

 

理解したが、すでに遅い。真紅郎が態勢を立て直している間に森崎は二枚のクレーを仕留めていた。そして、今度は視界一面に白い鳥が舞い始めている。

 

最初から今まで、完全に相手のプラン通りに進んでいる。それを察した瞬間、真紅郎は残りの時間では逆転が不可能であることを理解した。

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