魔法科高校の劣等生と幻術士   作:孤藤海

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九校戦編 不正行為

九校戦四日目が終わった夜、司波達也は到着初日に侵入者を捕らえた場所に立っていた。目的は、ある人物に確認をしておきたいことがあったためだ。その目的の相手は、約束の時間ちょうどに現れた。

 

「ねえ、達也くん。仮にも女子を、夜中に人通りのない場所に呼び出すのは、問題があると思うよ」

 

そして、呼び出した相手、宮芝和泉は開口一番、そう言って抗議してきた。

 

「和泉にとっても聞かれたくない話だと思ったから、ここにしたんだが」

 

「それは穏やかじゃない話みたいだね。けど、その前にせっかく着替えてきたっていうのに何も言ってくれないの?」

 

そう言ってきた和泉は、昼間に見た水色のブラウスの上に、白いカーディガンを羽織っている。そして、スカートは白の膝丈のスカートから、黒の膝下まで覆うものに履き替えられていた。昼間に見たときの第一印象は、本当に水色が好きなんだな、というものだったが、この感想が怒られることは容易に想像がつくので言っていない。

 

「似合っていると思うぞ」

 

「なんか、前も同じような調子で全く同じ言葉を言われたような気がするんだけど、本当にそう思ってる?」

 

「語彙がないだけで、本心だ」

 

「なら、いいんだけど。それで、要件は?」

 

かなり疑いの目で見られたが、達也は嘘を言ったつもりはない。和泉は深雪と比べさえしなければ文句なしに美少女だと思う。ただ、それと適切な賛辞がするすると口から出るというのとは別問題だ。

 

ともかく達也は本題を確認することにした。

 

「単刀直入に言おう。吉祥寺に勝ったのは、本当に森崎の実力か?」

 

「宮芝も全力でサポートはしたよ。それは使用した魔法からも分かったんじゃない?」

 

「そういう裏方の面のことを言ってるんじゃない。はっきりと言わないと答えないか?」

 

強く言うと、和泉は観念したように大きく息を吐いた。

 

「達也は女子の試合にかかりきりで、せいぜい映像で見たくらいでしょ。何でそこまで分かるのかな」

 

「入学当初の森崎と、普段の和泉の魔法を見ていれば誰でも気づく。古式魔法はそんなに簡単なものではないだろう?」

 

「そうだね。そっか、三か月ちょっと期間であのレベルまで到達するのは、さすがに少し無理があったかもね」

 

達也が聞いたのは、スピード・シューティング決勝で森崎が吉祥寺に向けて使った魔法は観客席から和泉が放ったものではないのかということだ。そして、和泉はそれを肯定した。森崎も一応は魔法を使用していたようだが、本来は出力が全く足りないのだろう。それを、森崎に合わせて、和泉が完璧な隠蔽の上で同じ魔法を使うことでカバーした。

 

無論のこと大会委員も外部から何らかの援助または妨害がされることを危惧し、各種の方法で監視を行っている。だが、和泉の隠蔽魔法がそう簡単に感知できるものでないことは、達也も身をもって知っている。

 

「けど、疑いは持っても確証まではいかないんじゃない?」

 

「そこは幹比古もいるからな」

 

「そっか、吉田ならそれぞれの術の習得にどのくらいの期間が必要なのかは分かるか」

 

つまらなそうに言った和泉は、不意に笑顔を浮かべた。

 

「それで、達也くんはこの不正をどうするつもりなの?」

 

「どうもしない」

 

「不正は許せないってわけじゃないんだ」

 

「俺がそういうタイプに見えるか?」

 

和泉は笑みを深めることで、見えない、という答えに代える。

 

「じゃあ、達也くんは何で私に確かめようと思ったの?」

 

「本当に森崎が古式魔法を習得したのか、幹比古が気にしていたからな」

 

「宮芝なら裏技を知っているかもしれないって? そんな訳ないでしょ」

 

「まあ、俺もそうだと思ったんだがな」

 

ここまでは予想通り。達也が確認したかったのは、この後だ。

 

「ところで、なぜ和泉は不正をしてまで森崎を助けようとしたんだ?」

 

これが一番、気になったことだ。和泉が森崎にそこまで入れ込むとは考えられない。

 

「それは勿論、古式の優秀な部分を再評価させるためだね。今はとにかく強力な魔法にばかり目を奪われて、いかに相手に力を出させないかという点が過小評価されているから。徹底的に相手の長所を潰すという戦略も時には有効ということを今回は示したかった」

 

「横やりはそもそも戦略も何もない単なる不正だろう」

 

「それはそれ、ということで」

 

和泉が第一高校や森崎のために、そこまで力を尽くすとなると裏があると勘繰らざるをえないが、古式の利益ということなら頷けなくはない。宮芝が最終的に目指すのは国家の利益のようで、そこが達也の実家とは大きく異なる所だ。

 

しかし、だからといって油断はできない。最終的に目指すものが大きければ大きいほど、それを成すために許容される犠牲も大きなものになるからだ。

 

ともかく和泉の答えを聞いて安心した。観客席から和泉が魔法を使用したのなら、たいした問題ではない。もう一つの可能性としてあった外道な方法でないのなら、達也が口を出すことではない。これで、確認しておきたいことは残り一つだけだ。

 

「宮芝は、今回の大会の裏で何が起こっているか把握しているのか?」

 

「調査中だね」

 

「相手が誰かも分かっていないのか?」

 

「誰かってのは概ね分かっているかな。分からないのは、なぜってことかな」

 

つまり宮芝も相手が無頭竜であることは分かっているということか。そして、なぜ国際犯罪シンジケートが九校戦で、しかも第一高校を標的にしていると考えられる攻撃を行っているのか、という目的までは分からない。それは達也が軍の伝手から聞いている情報と同じであり、それゆえに宮芝も軍にパイプがあることをうかがわせるものだった。

 

「和泉はまだ、攻撃は続くと思うか」

 

「愚問だね。この程度で終わりなら、それこそ児戯のようなものでしょ」

 

「確かにな」

 

互いに微かに笑い合う。

 

「さて、用は済んだ。俺は部屋に戻るよ」

 

「なに、自分の用が済んだらポイ捨て? せめて部屋まで送ってくれるとかないの?」

 

何か言っているが、迂闊に話に乗っては余計な厄介事を背負うことになりかねない。ここは無視をするのが一番だ。

 

「本当に冷たいなぁ」

 

そんな呟きが聞こえてきたが、達也は歩みを止めることはなかった。

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