魔法科高校の劣等生と幻術士   作:孤藤海

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入学編 入学式後・会場出口

「お兄様、お待たせ致しました」

 

待ち人の声に振り返った司波達也が目にしたのは、妹の深雪の背後に続いている予定外の同行者の姿だった。

 

「こんにちは、司波くん。また会いましたね」

 

同行者は七草真由美であった。真由美の人懐こい笑顔に、達也は少しだけ和泉の方を見た後、無言で頭を下げるのみという対応で答えた。

 

それを受けた真由美は無反応。その微笑みは少しも崩れることはない。

 

また会った、ということなら達也の隣にいる宮芝和泉も該当するはずだ。だから、声をかけるよう促したが、それでも真由美は声をかけるということをしなかった。おそらく、関わり合いたくないのだろう。

 

一方の深雪はというと、兄と生徒会長の駆け引きよりも、兄の傍らに親しげに寄り添う少女たちに目を向けていた。

 

「お兄様、その方たちは……?」

 

「こちらが柴田美月さん。そしてこちらが千葉エリカさん。同じクラスなんだ」

 

達也が和泉のことを紹介しなかったのは、深雪と関わり合いを持たせたくなかったからだ。しかし、和泉がそれを見逃してくれるはずもなかった。

 

「冷たいな、達也は。なぜ私との関係は妹さんに隠そうとするのかな?」

 

和泉は自分のことを紹介をしなかったという敵失に対して最大の攻撃力で仕掛けてきた。一瞬、これも一科生を追い落とす策の一環かと思ったが、視線を向けた先にいたのは単純ないたずらを楽しむ少女であった。どうやら、今回は単なる冗談であったらしい。

 

「そうですか……早速、クラスメイトやそちらの女性とデートですか」

 

可愛らしく小首を傾げ、唇には淑女の微笑みを浮かべているが、目は笑っておらず、心なしか周囲の気温が下がっている気がする。

 

「そんなわけないだろ、深雪。お前を待っている間、話をしていただけだ。そういう言い方は二人に失礼だよ。そして、最後の一人は深雪の魔法力が目当てのようだから、深雪のために関わらせない方がいいと判断したまでだ」

 

このままでは周囲に冷害を起こしてしまいかねない。達也が慌てて静止をかける。

 

「おやおや、これは随分な言われようだな」

 

「そうですか。私のため、なのですね」

 

和泉はまだ何かを言っていたが、達也の視線と言葉の効果は絶大であり、深雪の機嫌は劇的に回復した。

 

「はじめまして、柴田さん、千葉さん。司波深雪です。わたしも新入生ですので、お兄様同様、よろしくお願いしますね」

 

達也の、関わらない方がいいという言葉を忠実に守ってか、或いは単純に和泉が名乗っていないためか、深雪は和泉を除いた二人の名だけを呼ぶ。そのことに対して、和泉はすぐには反応を返さなかった。

 

危険人物がいよいよ、その食指を伸ばしてきたのは、深雪に対して美月とエリカが改めて自己紹介をした後だった。

 

「なんだか私の扱いが悪いのが気になるが、私の名は宮芝和泉だ」

 

「宮芝っ……」

 

宮芝の名に、深雪は思わず驚いた様子を見せてしまった。しかし、これはあまり好ましい反応ではない。

 

百家であり、古式に知り合いのいるエリカは宮芝家のことを知っていた。一方、美月は宮芝という名を聞いても反応しなかった。

 

悪名も高い宮芝家であるが、仮にも十師族として名を連ねる四葉家と違い、表舞台に全く姿を現さないことから現代魔法師の間ではそれほど知られた存在ではない。そして、司波家は名門でもなければ、古式魔法にも通じた家でもない。多くの人の前では、あまり見せてほしくない表情だった。

 

さすがに深雪は心得たもので、驚きの表情は一瞬で消した。が、今の間で誰か気付いた者がいないとも限らない。

 

達也は素早く視線を左右に走らせたが、深雪が和泉の方を見ていたこともあり、幸いにも表情の変化に気づいた者はいないようだった。

 

「深雪、生徒会の方々の用は済んだのか? まだだったら、適当に時間を潰しているぞ?」

 

一安心したところで、深雪と和泉の会話を切りにかかる。

 

「大丈夫ですよ」

 

達也の問いに答えたのは真由美であった。

 

「深雪さん、詳しいお話はまた、日を改めて」

 

真由美は笑顔で軽く会釈してそのまま講堂を出ていこうとした。だが、すぐ後ろにいた男子生徒が真由美を呼び止めた。その胸には当然のように八枚花弁のエンブレムが咲き誇る。

 

「しかし会長、それでは予定が……」

 

「予めお約束していたものではありませんから。別に予定があるなら、そちらを優先すべきでしょう?」

 

そう言った真由美に続けて割って入る声があった。

 

「そうだぞ、少年。人にはそれぞれ都合があるのだ。君の不調法は、そのまま会長の評判を落とすものになる。くれぐれも言動には注意することだ」

 

ああ、また始まったか。和泉と自分たちが友人ではないことは、今までの遣り取りで理解してもらえるはずだ。達也は諦観をもって、それを見守ることにした。

 

挑発された男子生徒が、和泉に目を向ける。

 

「そこの生徒、その制服は何だ!」

 

「やれやれ、君の不調法はそのまま会長の評判を落とすものになると、今言ったばかりではないかね? この制服のことはすでに会長もご存じというに、なぜそれを確認しない?」

 

「な、何!?」

 

和泉に反論され、男子生徒は見事に言葉に詰まった。ちなみに和泉は嘘は言っていない。けれど、正しい言い方では断じてない。

 

今日の入学式前、確かに和泉は制服にあしらわれた水色桔梗紋の由来を話した。だから真由美も当然に知っている。けれど、それだけだ。それを和泉は、会長から許可をもらっているかのような言い方で伝えた。

 

一方、急に登壇させられた形の真由美は困惑を露にしていた。許可をしていないと伝えることは簡単だ。けれど、それをしたら先の時間には注意をできなかったことを告白の上、名前を書いているのも同じという和泉の言い訳に対して反論を返さなければならなくなる。

 

一度に二人の人間を煙に巻いたことを感心するべきか、呆れるべきか。そうこうしているうちに和泉は次の行動に移っていた。

 

「では、私はこれで失礼するよ。また会おう、生徒会諸君」

 

お前は一体、どういう立場の人間だ。その言葉は、当然のことながら胸の内に留める。

 

「……さて、帰ろうか」

 

そうして和泉が遠ざかるのを待ってから、深雪たちを促して帰路につくことにした。約束通り、今日は大きな問題は起こさなかった和泉だが、明日は同じようにはいかないかもしれない。

 

帰り際に皆の表情を見回すと、真由美や生徒会所属の男子生徒を含めた全員が、一様に疲れた顔を見せていたのが印象的だった。

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