魔法科高校の劣等生と幻術士   作:孤藤海

42 / 198
幕間編 司波達也の危機

司波達也は、かつてない危機の中にいた。

 

達也を追い詰めているのは、最愛の妹である深雪。そして、エリカ。更には美月と深雪の友人の北山雫と光井ほのかまでが冷たい視線を送っている。

 

なぜ、こんなことになったのかというと、話は少し前に遡る。

 

この日、生徒会長選挙に自身が出馬するという、根も葉もない噂に悩まされていた達也は、一つの解決策を提示でき、気分が高揚していた。それは、現生徒会書記の中条あずさに立候補をさせるというものだった。

 

解決策という割には誰にでも思いつく本命中の本命であるのだが、問題となったのは彼女の引っ込み思案な性格である。あずさは明らかに人の上に立つには向いていない。そして、そのことは本人も自覚をしている。だから、あずさは生徒会長選への出馬を拒否していた。

 

そのことは現生徒会長の七草真由美も十分に理解していること。だから、真由美は当初、深雪を次期生徒会長へと推そうとしていた。けれど、それは達也が望むことではない。そのため、あずさの説得を買って出たのだ。しかし、その説得の方法はというと、けして褒められた方法ではなかった。

 

第一高校では四年前、自由な選挙を標榜した当時の生徒会の方針で候補者が乱立し、更にはその候補者たちが争い合うことによって二桁に達する重傷者を出すという苦い経験をしている。達也はその過去を持ち出して、あずさが頑なに出馬を拒否するならば、結果的にそのときと同じことが起きるかもしれないと脅したのだ。

 

あずさは自分に自信はない。しかし、責任感がない訳ではない。自身が出馬を拒否し続けたことで起きる事態を想像して、身体ごとブルブルと震え出した。

 

そこに深雪が優しい言葉をかけた。あずさなら、きっと上手くやれると言ったのだ。直前まで達也に脅されていただけに、あずさの眼差しはそれだけで大いに揺らいだ。

 

ここまでなら、一般的な説得の範囲だったかもしれない。問題は、その後だ。

 

達也はデバイスオタクとも呼ばれているあずさに対して、再来週発売の飛行デバイスのモニター品が手に入ったと語りかけたのだ。そうなれば、当然にあずさは入手を望むはずという読みをもって。

 

そして思惑通り、あずさはデバイスの入手を望んだ。実際に口に出したわけではないが、眼差しが雄弁に気持ちを物語っていた。

 

そこで、あずさには深雪がお世話なっているからという建前のもと、新生徒会長に就任した暁には、お祝いとして贈呈すると語ったのだ。その効果は覿面だった。あずさは歓声をあげて立ち上がり、誰が相手でも負けない、絶対に生徒会長に当選してみせる、そう力強く断言したのだ。

 

ここまでが前半戦である。この時点までは面白いように事が運んだと言っていい。問題は、その後で起きた。

 

達也が出馬するという噂を否定するため、新しい生徒会長は中条あずさに決まりそうだという情報を持って、いつものメンバーと喫茶店を訪れた。

 

ただし、いつもと異なることもあった。それは、同行メンバーとして和泉がいたことだ。

 

そして、その和泉が、あずさに生徒会長選に立候補をさせることに成功したと話したとき、自分が対抗馬として出馬すると言い出したのだ。立候補の理由を聞けば、答えは単純に権力がほしいから、と言う。

 

あずさと和泉が選挙戦を争うことになれば、和泉からの様々な圧力であずさが途中で脱落してしまうことも考えられる。和泉が生徒会長として深雪の上に立つ。それは、悪夢以外の何物でもない。

 

「では、早速、根回しに動くとしよう」

 

「ちょっと待て」

 

立ち上がりかけた和泉に対し、達也は千代田花音に対して効果を発揮した方法を試みた。それは、達也の師匠である九重八雲直伝の技である、背中にある「快感のツボ」、『快楽点』を突くというものだ。

 

「ひあぁっ」

 

効果は抜群だった。和泉は聞いたことがない声を上げて、その場にへたり込んだ。

 

ここまでは花音のときと同様。違ったのは、その後だった。

 

「うっ……ぐすっ……」

 

そのまま和泉はすすり泣きを始めた。

 

「お兄様、和泉に何をなさったのですか?」

 

「いや、背中にある『快感のツボ』を押しただけなんだが……」

 

その間にエリカ、美月、ほのか、雫の女性陣はへたり込んだままの和泉の周囲に集まっている。対して、レオと幹比古は達也の加勢はしてくれないようで傍観に徹しているが、このような状況であれば、達也も同じ行動を取るはずなので、これは責められない。

 

和泉がエリカたちに話す内容が、微かに漏れ聞こえてくる。それによると、達也が快楽点を突いたことで、和泉は軽く達してしまったらしい。人前で……とりわけ男の手によりそのようになってしまったことが、堪らなく恥ずかしい。つまるところ、それが和泉の泣いている理由のようだ。そして、その言葉を聞いた瞬間、女性陣の顔つきが変わった。

 

そして、冒頭に至った、というわけである。

 

思い返してみれば、和泉は九校戦のパーティーの折にも、短いスカートに頑なに抵抗したことがあった。普段の過激な言動で忘れがちだが、和泉は意外と羞恥心が強い。それを忘れていたのは大きな失策だった。

 

「お兄様、ご自分が何をされたか分かっていらっしゃるのですか?」

 

深雪の怒りは烈火の如く。それが吹雪となって達也の身に打ち付ける。

 

「達也くん、さすがにやっていいことと悪いことがあることは分からない?」

 

エリカもまた、怒り心頭といった様子である。

 

「私も、今回はやりすぎだと思います」

 

「今回は達也さんが悪い」

 

「あの……私も和泉さんに謝った方がいいと思います」

 

異性の前で恥ずかしい思いをさせられるということに対しては、女性陣の共感は和泉の方に向かってしまう。これでは達也には太刀打ちできない。いや、そもそも深雪が和泉の側に付いた時点で達也の負けは決まっている。それは、たとえ俯いた和泉の口角があがっていようと変わらない。

 

おそらく、泣いたところまでは本当なのだろう。けれど、その後は泣かされた腹いせとして達也に反撃を行うための計算された行動だ。とはいえ、泣かせたことまで本当であれば、負けは確定的だ。

 

「和泉、すまなかった」

 

自らの負けを認め、達也は和泉に謝罪する。泣かせたことは悪いと思う気持ちはあるため、声に不満の色は出ていないはずだ。和泉は無言のまま頷くと、エリカと美月に支えられ、涙を拭って立ち上がる。

 

「今日は、もう帰るね」

 

和泉はそう言って、喫茶店を出て行く。今度は、達也も引き留めることはできない。

 

とはいえ、和泉も興が醒めた様子であったため、今後は生徒会長選に立候補するというようなことは言い出さないだろう。

 

それにしても、今日のことにせよ、以前のことにせよ、和泉の防御が弱いというのは本当のことのようだ。それが分かったというだけでも、今日の達也の行動は意味があったといえるだろう。

 

ただ、一つだけ困ったことを挙げるとすれば……。

 

「お兄様、その技、今後は二度と使わないでくださいね」

 

達也が言うと、深雪だけでなくエリカや美月までが頷いていた。

 

「ああ、二度と使わない」

 

深雪が和泉に同情的になってしまったことだろうか。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。