魔法科高校の劣等生と幻術士   作:孤藤海

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横浜騒乱編 敵と通じた女子生徒

九校戦代表チーム五十二名に対し、論文コンペは三名。比較するのが最初から無意味に思えるほど規模が違う。それにも関わらず、論文コンペは九校戦に匹敵する重要行事と見做されている。

 

その理由としては、この催し物が実質的に魔法科高校九校間で優劣を競う場であること。そして、論文コンペは代表に選ばれた三名だけでなく多くの生徒が直接関わることができるという性質が挙げられるだろう。

 

非魔法科高校を対象とした弁論大会や研究発表会と「全国高校生魔法学論文コンペティション」の最大の違いは発表内容の実演がプレゼンテーションに含まれるという点だ。

 

つまり論文の発表には、魔法装置を作って壇上で魔法を実演することが含まれる。発表用の模型といっても、張りぼてでは評価されない。実際に作動するか、実際の動作をシミュレートするものでなければならない。

 

その為の魔法装置の設計から術式補助システムの製作、それを制御するためのソフト、搭載するためのボディ、ターゲットが必要な場合の作成等の多様な作業に技術系クラブ、美術系クラブはもちろんのこと、純理論系のクラブや実技の成績上位者まで総動員される。

 

本番が次の次の日曜日に迫り、今も校庭では多くの生徒が忙しく準備を行っている。

 

そんな中、校舎の屋上に陣取った宮芝和泉守治夏は他の勢力のスパイ活動を防ぐためという名目で、式を用いて作成した水色の鳥に多数の機器を乗せ、上空を飛び回らせていた。

 

言うまでもなく、治夏の式神の鳥の目的は名目通りの国外勢力に対する防諜だ。しかし、監視を行っている対象は名目とは異なっている。治夏が入念に監視をしているのは、第一高校の生徒たちであった。

 

魔法という特別な力を扱えるという自信がそうさせてしまうのだろうか。魔法科高校の生徒の中には自己肯定が強い人間が多い傾向がある。そこを突けば、第一高校の生徒の中に内通者を作ることは難しいことではない。

 

実際、春先には壬生紗耶香がブランシュの手先にされた。そして、治夏も森崎の自信を一度は完膚なきまでに圧し折った後で、新たな道を与えることで自らの手駒とした。今回も同じことが行われないと考える方が危うい。

 

加えて、式神たちの行っている諜報活動には治夏の第二の目的を果たすためのものも含まれている。それが今回の副次的な目的である、校内で使用されている数々の魔法の解析である。

 

治夏が第一高校に入学したのは、宮芝の魔法を発展させるため。理論より実践を重視する治夏であるが、理論に興味がないわけではない。少しの情報も漏らさず、自らはしっかりと情報を得る。そのために万端の態勢を整えていた治夏を出し抜くのは容易ではない。

 

「うん?」

 

警戒中の治夏が見つけたのは一人の女生徒。その手にあるのはパスワードブレーカーと呼ばれる携帯端末だった。パスワードブレーカーは、その名の通り認証システムを無効化して情報ファイルを盗み出す機械だ。その用途は犯罪目的以外ありえない。

 

二科生の治夏だが、自らの体の落下の勢いを殺すことくらいなら問題なく行える。屋上から軽やかに飛び降りると、パスワードブレーカーを持っていた女生徒を追う。

 

芝生の敷き詰められた中庭で、治夏は女生徒に追いついた。そのとき女生徒は壬生紗耶香と対峙していた。どうやら壬生も彼女の持っていた物に気づいて追いかけていたようだ。

 

二人とも視線は相手に固定されている。これなら認識を偽ることは容易い。治夏は得意の認識阻害魔法を使用した上で茂みの陰から様子を窺う。

 

「マフィアやテロリストが利用する相手のことを考えていないなんて当然じゃないですか。先輩はそんなことも分からずに手を組んでいたんですか? 失礼とは思いますけど、先輩は随分と子供だったんですね」

 

なんとか思いとどまるように説得する壬生を女生徒は嘲笑う。その内容は、治夏としては到底、容認できるものではなかった。

 

「自棄になったって、何も手に入らないし、何も残らないのよ!?」

 

「先輩には分かりませんよ。あたしは別に、何かが欲しくてアイツらと手を組んだんじゃないんですから」

 

拒絶の声を聴きながら、治夏はこっそりと女子生徒の背後に忍び寄る。

 

「愚かな娘だな」

 

言いながら、背から刃を貫通させる。いつぞやのように幻術ではなく、実体の刃だ。

 

「え?」

 

女子生徒が呆けたような声で自らの腹より突き出た刃を見下ろす。

 

「どうした? お前はテロリストを支援した。それは自分の目的のためなら他人がどれだけ死のうとも構わないと言ったも同然だ。それなのに、まさか自分は傷つけられないなどと思っていたわけではあるまいな」

 

「あ……うっ……」

 

「急所は外している。貴様にはまだ聞きたいことがあるからな。とりあえずは保健室へと行くとしようか」

 

「ちょっと、和泉!」

 

声の方を向くと、千葉エリカ、西城レオンハルト、二年生の桐原武明がいた。声を発したのは、エリカだ。

 

「どうしたかな、エリカ君」

 

「……その子を、どうするつもり?」

 

「とりあえずは保健室に連れて行くよ。とりあえずはね」

 

「その後は?」

 

「尋問の後で決めることになるが、まあ死に方が変わるくらいかな」

 

あっさりと言った治夏に壬生が目を剥いた。

 

「彼女は利用されているだけなのよ!」

 

「彼女の答えをよく思い出すがいい。果たして、そうだったか?」

 

単に利用されただけか否か、壬生の中でも答えは否であるという印象程度は持っていたのだろう。唇を噛むと切り口を変えてくる。

 

「でも、殺すなんて、貴女にそんな権利があるって言うの!」

 

「では君はどんな権利があって、彼女を見逃したせいで誰かが命を落とすという結果を容認するというのかね」

 

「でも、絶対にそうなると決まったわけじゃない」

 

「そうならないという保証もないだろう。君は彼女が手を貸したことで命を落とした誰かの遺族の前で、同じことを言えるのか?」

 

納得をしたわけではないだろうが、治夏の決意を翻すこともできないと悟ったのだろう。壬生から、それ以上の反論はなかった。

 

「とりあえず、早く保健室に行った方がいいわね。レオ、背負いなさい」

 

「お……おう」

 

エリカに言われ、レオが女子生徒を背負う。その女子生徒はというと、さっきまでの威勢はどこに行ったのか、されるがままだ。

 

現時点での治夏の女子生徒の評価は、考えなしに行動する完全な小者。後はどう役立ってもらうか、というレベルだ。要は生かして使う方が有益という事情がなければ、殺害するのが既定路線だ。

 

「さて、彼女の運命はどうなるのかな」

 

「おい、宮芝。お前のその考えはどうにかならないのか?」

 

かつては壬生も殺害しようと考えていたことに加え、先ほども対立していたこともあり、桐原が治夏に向ける視線は剣呑だ。

 

「どうにもならないな。それに例の一件を知っている君だからこそ、身勝手な考えは僅かの運命の悪戯で多数の人間を死に追いやることになると知っているのではないか?」

 

「だとしても……」

 

「春の一件、敵の狙いが情報の盗取でなくテロ行為であったら、どれだけの生徒の命が奪われることになったと思う? あのとき講堂にいた中に、通信機と偽って爆弾を持たされた者が混じっていた場合は?」

 

生徒会長の挨拶に熱狂する講堂の中で爆発が起きた場合。突入した敵が無差別に銃を乱射した場合。多くの生徒がCADを持たない中では、一体どれだけの被害となるかは想像もできない。

 

結局はリスクを承知で利用された者の更生を試みるか、リスクを避けるために利用された者を切り捨てるかの決断に常に正しい答えはない。更生が叶えば最善だろうが、叶わず多くの生徒が亡くなった場合に責任を取れる者などいないのだ。

 

桐原も納得はできないようだが、治夏を翻意させる方法はないと悟ったようだ。そこから先は何も言わず、五人は背負われた女子生徒と共に保健室へと歩いた。

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