司波達也たち一行は会場正面出入口前の敵を掃討後、会場内のVIP会議室で情報収集を行った。その後、デモ機のデータを処分するため十文字克人とステージ裏へと戻ると、そこには予想以上に多くの人がいた。
「何をしてるんですか」
「データの消去です」
答えた鈴音の他に五十里、真由美、摩利、花音、桐原、紗耶香。それに加えて和泉に森崎、平河千秋や九校戦以後は体調を崩していたはずの平河小春や小早川もいる。更には隅には水色桔梗紋の揃いの衣服を着た四人の男がいた。
「なぜ、彼がここにいるんですか?」
その中の一人の顔を見て、思わず達也は問うてしまった。そして、問われた真由美はというと、ただ苦い顔をするだけで何も答えてくれない。
「和泉、どういうことだ?」
「図書、彼とともに少し席を外せ」
「はっ、ついてこい、関本」
「了解しマシた」
関本はまるで機械のように平坦な声音で答えると、達也たちの方をちらりとも見ることなく、ステージ裏を出ていく。
「和泉、関本に何をした?」
「分かっていることを聞くというのは、あまり感心しないな」
否定をしなかったということが答え。おそらく、関本はジェネレーターにされてしまったのだろう。
「なぜだ?」
「貴重な戦力を遊ばせておく手はなかろう。能力は確かなのだ。ならば、腐りきった頭を取り換えれば、有益な戦力となる」
「また君たち宮芝はそうやって……」
苦々しげに言ったのは幹比古だ。一時の犬猿の仲から、最近は少し雪解けの気配を見せていたが、今回の件で悪化してしまったようだ。その和泉はというと、幹比古には視線を向けることなく達也に向けて話しかけてくる。
「さて、達也もデモ機の破棄に来たのだろう。余計なことに気を回している暇があったら、作業に取り掛かったらどうだ」
「……そうさせてもらおう」
今は内輪揉めをしている場合ではない。達也は当初の予定であるデータの処分に動くことにする。
「ここは僕たちがやっておくから、司波君は控え室に残っている機器の方を頼めるかな」
「もし可能なら、他校が残した機材も壊してちょうだい」
「こっちが終わったらあたしたちも控え室に向かう。そこで今後の方針を決めよう」
五十里、花音、摩利からの立て続けの依頼を受けて、達也は深雪と控え室に向かう。
「お兄様、関本先輩は……」
和泉たちから離れてすぐ、深雪は関本の状態を聞いてくる。
「外科手術で脳の機能を制限した上で、魔法力を強引に上昇させるために複数の薬物も使用しているようだ。体も多くの部分が機械に置き換えられている。もっとも、関本としてはすでにそれさえも、どうでもいいことなのだろうけどな」
「では、森崎君や小早川先輩たちは?」
「森崎や小早川先輩、平河姉妹は特に危険な状態ではないようだ。……多少の洗脳のようなことは行われているようだがな」
本来なら、もっと嫌悪感を覚えるのかもしれないが、関本の様子を見た後では、その程度ならかわいく思える。
「ともかく今はこの場を切り抜けることを考えよう」
深雪にそう言うと、達也は控え室を回って他校の機材に対して固有魔法を使用。機械の情報だけを破壊してストレージを空にする。これで、通常の手順に比べて大幅な時間の短縮となったはずだ。
「おや、早かったね」
作業を終えて第一高校の面々が集まったステージ裏に戻ると、真っ先に声をかけてきたのは和泉だった。
「どのような手段を用いたのか、是非とも教えてもらいたくなったな」
「教えるわけがないだろ」
「それは残念」
「司波君、首尾は?」
続いて聞いてきたのは五十里だ。
「残っていた機器は全てデータを破壊しておきました」
予想はしていたようだが、五十里は驚きを隠せない様子だった。だが、和泉のように方法について聞いてくることはなかった。
「さて、これからどうするか、だが」
口火を切った摩利は、その後、真由美へと目を向ける。
「港内に侵入した敵艦は一隻。東京湾に他の敵艦は見当たらないようよ。上陸した兵力の具体的な規模は分からないけど、海岸近くはほとんど敵に制圧されちゃってるみたいね。陸上交通網は完全に麻痺。こっちはゲリラの仕業じゃないかしら」
「彼らの目的は何でしょうか?」
五十里の提示した疑問に答えたのも真由美だった。
「横浜を狙ったということは、横浜にしか無いものが目的だったんじゃないかしら。厳密に言えば京都にもあるけど」
「魔法協会支部ですか」
答えを最後まで待たず、花音が口を挿む。
「風紀長殿、さすがにもう少しだけ頭を使ってから発言してはいかがかな?」
そこに、更に口を挿んだのは和泉だった。
「魔法協会のメインデータバンクには重要なデータが管理されている。それを狙ってきたと考えるべきだろうな」
和泉の言葉に憮然とする花音を気にせず、摩利が再び口を開く。
「避難船はいつ到着する?」
「沿岸防衛隊の輸送船はあと十分ほどで到着するそうよ。でも避難に集まった人数に対して収容力が十分とは言えないみたい」
「状況は聞いてもらったとおりだ。シェルターの方はどの程度余裕があるのか分からないが、船の方はあいにくと乗れそうにない。こうなればシェルターに向かうしかない、とあたしは思うんだが、皆はどう思う?」
真由美、摩利、鈴音。
五十里、花音、紗耶香。
達也、深雪、エリカ、レオ、幹比古、美月、ほのか、雫。
和泉、森崎、小早川、平河小春、平河千秋。
関本勲、そして宮芝の術士が三人。
これに逃げ遅れた者がいないかどうか確認中の克人と桐原。
総計では二十五人の大所帯だ。逃げるとなると行ける先は限られてしまうだろう。
「……あたしも、摩利さんの意見に賛成です」
花音たち二年生も、他に選択の余地は無いと考えている様子だった。
「シェルターに向かうというのは賛成できないな。ここは、敵中を抜いて魔法協会に向かうべきだろうな」
それに真っ向から反対したのは和泉だった。
「何を言っているんだ、私たちは高校生……」
「考えてもみよ、前風紀長殿。ここには十師族の直系が二人に、九校戦の競技優勝者が十人もいる。これだけの巨大戦力がただ逃げるだけという手はあるまい」
摩利の言葉は和泉の強い口調の言葉によって切られる。確かに和泉の言う通り、ここにいるメンバーを純粋な戦闘能力という面でのみ評価したなら、倍の人数の敵だろうと完勝することもできるだろう。
ただし、それは何の問題も発生しなかったら、という前提にある。現実的に見れば、ほのかや美月、雫に人間を躊躇わずに殺傷できるとは思えない。
けれど、そういった不安の残るメンバーを除外しても、真由美に克人に加えて摩利に桐原、エリカに幹比古、和泉たち宮芝の術士たちという戦力として計算ができる面々がいる。特に真由美と克人と摩利、そして深雪を相手に勝利を収めるのは、軍の精鋭部隊であっても相当に難しいだろう。
理屈としては分からなくはない。だが、達也としては深雪を危険に晒すような選択肢を採ることはできない。
しかし、達也が和泉への反対意見を口にすることはなかった。壁の向こうに装甲板で鎧われた大型トラックが迫っていることを感知したためだ。
大型トラックの突入を、達也は固有魔法を使って阻止。しかし、続いて小型ミサイルの群れが飛来してくる。
けれど今回は、達也が手を出す必要は無かった。
ミサイルは着弾する前に、横合いから撃ち込まれたソニック・ムーブによりことごとく空中で爆発したためだ。
「お待たせ」
急に外から掛けられた声に、達也は壁の向こうに向けていた「精霊の眼」による視点を肉眼に戻す。
「えっ? えっ? もしかして、響子さん?」
声をかけてきた女性は、藤林響子。古式魔法の名門、藤林家の令嬢。そして同時に、日本魔法師界の長老である九島烈の孫娘でもある。更には達也とも関係のある人物だが、幸いにして、真由美と、たぶん黙っているが和泉も藤林と面識があるはずなので、達也が彼女を紹介する必要はなさそうだ。
そう考えて、達也はしばし傍観に徹することにした。
横浜編、脱稿。
思ったより長丁場になりましたが、年内には校閲して投稿にもっていける予定です。