藤林の隊はオフロード車両二台に藤林を含めても、分隊規模にも及ばない小規模の集団だった。しかし、全員が相当な手練れであると思わせる雰囲気を纏っている。
宮芝和泉守治夏にとっても、人員的には何の不満はなかった。しかし、車両の少なさが問題であった。
治夏は最低でも治夏本人に加えて村山右京、山中図書、皆川掃部に護衛が二人はいないと真価を発揮できない。治夏にしてみれば部下に戦闘を任せて避難とはいかないため、激戦地である魔法協会の関東支部に向かう予定だ。そうなると車両を二台とも譲ってもらわねばならない。
それでは、さすがに反発の量が尋常でないものになるだろう。そこまで厚顔無恥となることはできない。つまりは、治夏たちは車両を使わずに徒歩で移動しなければならないということだ。
「真由美さん、残念ですけど……全員は乗れません」
いや、そのくらい見れば分かるだろ。という言葉はさすがに飲み込む。
「えっ、いえ、最初から徒歩で避難するつもりでしたから……」
「そうですか。しかしそれでは余り長距離は進めません。何処へ避難しますか?」
「その前に現状は?」
こと軍事となれば七草は少々頼りない。代わりに治夏が質問を投げかける。
「保土ヶ谷の部隊は野毛山を本陣とし、小隊単位でゲリラの掃討に当たっています。山下埠頭の敵の偽装艦には今のところ動きは見られませんが、じきに機動部隊を上陸させて来るでしょう。そうなれば海岸地区は戦火の真っ直中に置かれることになりますから、やはり内陸へ避難した方がよいでしょうね」
「えっと……予定どおり、駅のシェルターに避難した方が良いと思うんだけど」
迷いが拭えぬ口調で、七草が十文字に目を向けた。
「そうだな。それが良いだろう」
「では前と後ろを車で固めますから、ついて来てください。ゆっくり走りますから大丈夫ですよ」
「藤林少尉殿、まことに勝手ではありますが車を一台、貸していただけませんか」
「む……」
ずるい、という言葉は辛うじて飲み込んだ。十文字が何をしたいかは分かる。その有用性についても。けれど先程、治夏は我慢せざるを得なかったのだ。その責任は主には単独では力を発揮できない治夏にあるのだが、だからといって納得できるものではない。
「何処へ行かれるのですか?」
「魔法協会支部へ。私は、代理とはいえ師族会議の一員として、魔法協会の職員に対する責任を果たさなければならない」
「わかりました」
やはり予想した通りだ。
「少尉、我ら宮芝家も魔法協会支部に向かうつもりだ」
「和泉守殿も、ですか?」
敵中を突破するような強行策は宮芝には似合わないと思っているのだろう。藤林が怪訝そうに聞いてくる。
「ああ、どうやら魔法協会防衛に当たっている部隊は苦戦しているようなのでな。加勢に向かうつもりだ。が、その前に頼み事があるのだが、よいか?」
「何でしょうか?」
「こちらにいる、平河小春、平河千秋の二名は現状況下では戦力として心許ない。そちらに預けたいと思うのだが」
これは二人のことを思ってのためだけではない。なるべく隠密行動を行いたいときに足手纏いがいるのは治夏にとってもマイナスでしかない。
「分かりました。お預かりします」
「頼む」
「しかし、車一台では、十文字さんを合わせると八人は多くありませんか?」
「心配ご無用。我らは徒歩で向かいます」
十文字と違って、治夏は突出した戦士というわけでも、優れた指揮官というわけでもない。一人だけで向かったところで、大して役にはたたない。
「そうですか。ならば楯岡軍曹、音羽伍長。十文字さんを魔法協会関東支部まで護衛なさい」
二人の部下と車両一台を貸し与えた藤林は、もう一台の車の荷台に立ち、七草たちへと呼び掛ける。
「さあ、行きましょう。無駄にできる時間はありませんよ」
藤林たちが駅のシェルターに向けて出立する。
「では、我らも行きましょう。宮芝、悪いが先に行くぞ」
「我らのことは気にせず。まあ、どうしても気になるなら、敵をなるべく叩いておいてくれると助かるな」
「善処しよう」
十文字たちも魔法協会関東支部に向けて出立していく。そうして、この場には治夏たち七人だけが残される。
「さて、ここにいるのは私、右京、図書、掃部に、森崎、小早川、関本だ。さて、この戦力で如何にして魔法協会関東支部を目指す?」
「手は二通りございましょう。一つは隠蔽術式を用いて戦闘をなるべく避けて関東支部を目指す方法、もう一つは周辺の二番隊または三番隊と合流して戦闘力を増強した上で関東支部を目指す方法です」
「右京、後者は却下だ。二番隊は優勢とはいえ戦闘中。下手な戦力の引き抜きは重要拠点である桜木町付近の防衛力を低下させる。また、三番隊の引き抜きも副次目的の中華街の粛清の妨げになる。我らは、この七名で魔法協会関東支部を目指す」
「ならば我々が考えるべきは、どのような経路にて関東支部を目指すか、ということでございますか?」
「そういうことだ」
治夏の指示を受けて、右京、図書、掃部の三人が考え込む。その間、森崎、小早川と思考能力が奪われている関本は周囲の警戒だ。
「我らの技能を考えれば、海岸近くを行く方がよいのではないでしょうか?」
進言してきたのは図書だ。確かに、認識阻害の術は、そこに敵はいないだろう、という思いがある方が掛かりやすい。
「それも得策ではないな。大亜連合には古式に通じた術士も多い。発覚をした場合に重大な危機に陥る道は避けるべきだ」
「では、時間は掛かりますが外周部を行くということですか?」
「他に案がなければ、そうなるが……掃部はどう思う?」
話を向けた掃部は少し考えてから切り出してきた。
「或いは後で非難の対象とされる可能性がある手段でもよろしいですか?」
「構わん」
「敵兵を使うという方法はいかがでしょうか?」
「面白いな」
治夏が笑みを浮かべながら評すると、すぐに三人が方針は決まったと動き出す。
「図書、意識のない敵兵はいるか?」
「いや、この辺りにはいない」
「ならば調達する必要があるか」
「では、我らで行くか。右京は和泉守様の護衛を任せてよいか?」
「心得た」
役割分担は迅速に進み、掃部と図書が中心となってゲリラの姿を求めて、治夏たちから離れていく。
「関本、前衛に立て」
森崎、小早川と治夏を中心に三角形を作るように立ちながら、右京が命じる。使い捨ての関本が立つのは、当然ながら敵が来る可能性が高い東側だ。果たして、想定通りの方角に敵兵の姿が見えてきた。
「関本、殲滅せよ」
右京が命じるのと同時に、関本が疾風のように敵に駆ける。関本は駆けながら抜刀すると刃に高周波ブレードを纏わせる。
「キイィイイィー!」
奇声を発しながら関本が振るった刃を、敵は自身も高周波ブレードを纏った刃で受け止めた。どうやら、敵も近接戦闘を得意とする魔法師のようだ。だが、関本を相手に接近戦は正しくない。
直後、関本の奇声に発砲音が混じった。同時に敵兵が崩れ落ちる。発砲音は関本が胸部に仕込んだ機銃を撃ったものだ。
「胸に銃を仕込んでいるとは思わない、という意味では奇襲効果が高い攻撃だが、一度でも撃ってしまうと服に穴が空いてバレバレなのは何とかならんのか?」
「こればかりは……服に再生機能でもなければ難しいのではありませんか?」
「イキキキ、イキキキキ」
この間に関本は敵の後続に剣戟と射撃、魔法を駆使して襲い掛かっている。
「なあ、やはり言語機能はもう少し高めた方がいいのではないか? あれでは狂戦士とすら呼べん」
「……さすがに、改善した方がよろしいでしょうな」
この間に関本は何発か銃弾を受けていたようだが、きちんと頭部への打撃は避けているようだ。首から下は機械への交換が進んでいるので、今の関本ならハイパワーライフルくらいでなければ効果は薄い。
自分にとって脅威となる攻撃を見極めているあたり、戦闘に関する機能は正常に働いているようだ。しかし、あの奇声はいただけない。
「まだまだ研究が必要だな」
無様ながらも敵兵の集団を圧倒する戦闘を続ける関本を見て、治夏はぽつりと呟いた。
ストックに余裕があるため、臨時投稿します。